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赤聖国で生まれた僕は  作者: 真灯出愼
第3章―選択―
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第14話

「…………純! ……純! 純!」

「ん?」

「もうすぐ家に着くぞ。起きろ」


 僕はすっかり眠ってしまっていたようだ。

先生に起こされるともう家の前に着いていた。

達樹くんも眠い目を擦りながら起きていた。


「お疲れ様。明日から3日間は塾も休みだから正月を思いっきり楽しんで来い」

「そうか、明日から新年か。感覚が分からなくなってたよ」

「寝ぼけてないで、さあ降りた降りた。忘れ物するなよ」

「はーい。先生、達樹くん、さようなら」


 先生と達樹くんはバスと共に去っていった。

家に入るとお母さんが待っていた。


「おかえりなさい。お疲れ様」

「ただいま」

「とりあえず、お風呂でも入ってきなさい」

「うん、そうする」


 湯船に浸かりながらこの1週間のことを振り返っていた。

また来年も行かないといけないんだろうか。

もう卓さんや優太さんには会えそうにないな。


 そんなことを考えていたらフッと思い出した。

涼さん。登美涼さんのことをお母さんに聞かないと。

どういう関係なのか。


 親は合宿のことは一切触れてこなかった。

お父さんもお母さんもスパイなのだろうか。

でもどちらもスパイの任務をしているなんて思えない。

いや、僕みたいな未熟者が見抜けるような任務の仕方はしないか。


 年が明ける前に確認しなければ。

決意した僕はお母さんに聞いた。


「お母さん、登美涼さんって知ってる?」

「!? なんで純が涼のことを知ってるの?」


 お母さんはかなり驚いた顔をしていた。


「やっぱり知り合いなんだ」

「どこでその名前を聞いたの?」

「合宿に行く前に会ったんだ、涼さんに」

「涼がこの近くに居たの?」

「うん。そして、この国のことを少し教えてくれたんだ」

「どこまで聞いたの?」


 驚きの顔から少し怖い顔になった。

涼さんが僕に余計な事を言ったんじゃないかと危惧したんだろう。


「この国がスパイを育ててて、強くなるのはいい事だけど国に洗脳されるな。って」

「そう……」

「ねえ、洗脳って何? 合宿でも僕の名前を聞いた先生が“あの人の子か”って言ったり、エリートだって何度も言われたんだ。お母さんが関係してるの?」

「……。話すしかないわね。お父さん呼んできて。一緒に話しましょう」


 僕はお母さんが迷いながらも真実を話す決意をしたように見えた。

お父さんを呼んできた僕はお母さんと3人でテーブルを囲んだ。


「純。あなたはこの合宿で何を学んだ?」

「スパイとしての技術向上と人の嘘を見抜く力」

「で、成績はどうだったの?」

「チームでは2位。個人で1位だったよ」


 お母さんは少し黙り込んだ。

お父さんはただ聞いているだけで話に入ってくる気配はない。


「やっぱりね。普通ではありえない成績よ」

「何で?」

「スパイというのは経験が物を言うの。でも、稀に居るのよ。生まれつき才能を持った人が」

「それが僕だっていうの?」

「そうね。あなたは確実にそう。でも、私もそうだったの」

「お母さんも!?」


 薄々気付いていたが、僕がエリートと呼ばれる理由はやはりお母さんにあったのだ。


 初めて眼鏡を貰った時に聞いたお母さんのポイント。

今では理解出来る。

たった10日で10,000pは異常だ。


「自分で言うのも何だけど、私は情報を集めるのが本当に上手くてね」


 そう言って話を始めた。

お母さんは小学校1年生の時には既にこの国がスパイの育成国だって気付いていたそうだ。

そして国に目を付けられないように過ごしてきた。


 しかし、いくら隠れても経験のない子供はど素人同然だ。

エリートを探し出すプロには叶うはずがない。


 小5の時に国の偉い人に呼びだされて、とある場所へ行ったらそれが罠だった。

それから1ヶ月も国に捕らわれたそうだ。


「1ヶ月……」


 僕は言葉が詰まった。

お父さんは冷静に聞いている。

流石に知っていたようだ。


「地獄の1ヶ月を耐え抜き、開放された頃には国に洗脳された兵器になってた。その時一緒に居たのが登美涼。あなたに声をかけた人だったの」

「涼さんも……」


 あの優しそうな涼さんも、国の兵器として働いていたなんて。

お母さんはまだまだ話を続けた。


 世界中を飛び回ってあらゆる国の情報を盗み出した。

他国は子供がスパイ行為をするとはこれっぽっちも思っていないからどんどん話してくれたそうだ。

嘘の情報か、正しい情報か、小学生にしてプロ中のプロになっていたお母さんにとって素人の嘘を見抜くのは簡単な事だった。


「もちろん何度も危険な目にあったわ。でも、それも承知の上で任務に専念した」


 こんな話を聞いていると、僕が知っている今までのお母さんとは別人のようだ。

どれが本当のお母さんなのか。

どうして兵器だった人物が今こうなったのか。

単純な疑問だった。


「そんなお母さんがどうして今普通の生活が出来てるの?」

「随分海外を飛び回ってて、知らない間に18歳になってた。ある日、久しぶりに赤聖国に帰ってきたら、涼は国の監視下から逃亡して指名手配されていたの。その涼を探すのが次の任務だった」

「涼さんは見つかったの?」

「今でも見つかってないわ。あなたが会ったって言うから本当にビックリして。今もその任務中といえば任務中。でも探している間にお父さんに出会ってね」


 あの時会った涼さんは、指名手配中だったということか。

だから先生に見つからないように気を張っていたのか。


 そして、やっとここでお父さんが口を開いた。


「自分を信じる力を付けなさい」

「お父さん…?」

「母さんは国の命令にただ従うだけの兵器になっていた。でも俺はそんな母さんを救ってやりたくて」


 口数の少ないお父さんは、ただお母さんを救いたいという一心だったそうだ。


 小5のあの日まで国に見つからないように暮らしてきた。

しかし捕らえられてから18歳まで国の思うように使われた。


「思い出しただけで恐ろしい8年間だったわ」


 それから国に志願したそうだ。

涼を見つけるまで他の任務には付きたくない。と。


「許してくれたの?」

「許すわけが無いわ。でも私もタダで頼むほど馬鹿じゃない。とある情報を突きつけてあげたの」

「とある情報?」


 お母さんも国を相手に強気に出たものだ。

そして、あまり知りたくなかった事実をお母さんは口にした。


「国の陰謀」

「……国の陰謀って?」

「純に危険が及ばないようにその情報を隠してきたんだけど、涼に会ったなら別」


 やはり涼さんが鍵を握る人物という事か。


「いい? 今度もし涼に会ったら伝えて。私は国の陰謀を止めるために自分を信じたと」

「会えるかな? 涼さんに」

「会えるわ、必ず」


 国の陰謀と指名手配中の涼さん。

ただならぬ真実を突き付けられたのは理解した。


「その陰謀って何なの?」

「それは涼に会ったら聞くといいわ。あの人の方が詳しいから。純、これだけは約束して。私達は危険な道を歩いていることを忘れないって」

「うん」


 お母さんが隠したがる気持ちも理解できる。

知ってはいけない事実を知った者は危険が及ぶのは当然の事。


 知った事を知られなければいいのだが、僕も国に目を付けられた人物だ。

そう簡単に国の監視下から逃げる事は出来ない。


「国の命令に従う方が安全なのは事実。でも、あなたもきっと国の陰謀を止める方に来ると思うの。私の子だから。その時は一人で突っ走らないで信用できる人を頼るのよ」

「わかった。僕も情報を集めて自分の信じる道を行くよ」

「この1週間で強くなったわね。頼もしいわ」


 僕も気になっていた。

ただスパイを育成するだけでそこまで儲かるはずがないと。


 でも、お母さんや涼さんが昔、国の兵器と呼ばれるほどのスパイだったにも関わらず、国を裏切るようなことをするなんて余程の事なんだろう。

涼さん、また会えるかな?


 この1週間で色んな事実を知った。

寝ている間に脳が情報を整理して、起きた頃にはすっきりした気分だった。


 僕の正月はごく普通の一般家庭と変わらない3日間だった。

明日からまた塾が始まる。

とりあえずこの話は家族内だけで止めておこう。


 再びあの塾へ通う日が始まった。

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