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4-14 竜の中の蛇 2

 全員が見つめる中、バレーボール(仮称)を風呂敷から取り出す。

コウサ師匠は自分が料理したもの以外にも自分が食べて判断する以外に分析や客観判断を求める意味で一部を都市に提供したと言っていた。しかしこの採取してきた状態そのものを見るのは初めてのようで一同は注目している。


 まず直に触ったり押したりして表面に弾力があることを見せる。

包丁は持ってないので中央買取課にある巨獣を捌くためにある刃物を借りて半分になるように刃を入れるが中ほどに進んだところで止まる。

コウサ師から中心辺りに異物が入っていたと聞いたのでこれがそうなのだろう。バレーボールを前に転がしつつ刃を動かして全体に切れ目が入ってから割る。桃の断面みたいな感じだ。

 それを並べて一同に説明する。


「以前に持ち帰ったこの球体はコウサ師へ渡したもの一つだけです。その結果を聞いた時に自分も料理されたものを口にしました。

都市での検査結果も問題はなかったとして持ち込み可能となったんで料理法を探るために持ち帰ってきました。

普通のキノコよりも巨大なので当然可食部が多くなります。大きいままで焼いたり小さく刻んで和えたり、一口大にして揚げたりと調理の自由度が高いですし。」


「うむ。この外側の白い部分については味はそれほど付いていない。そしてわずかな匂いがある程度。

 こちらの検査でも食材としては食物繊維が摂れるという以外ではあまり有益なものは含まれてなかった。その面では君らが新たに登録したほかのキノコに劣っていた。味をしみ込ませるような調理法には適していそうだな。

 それにしても話には聞いていたが君は狩人として外に出るだけでなく、キノコの知識どころか料理に関しても造詣が深いのか。専門バカの集まりの我らとは違うな。

 一度君が作った料理をごちそうになりたいものだ。」


 ナウガタは中心に入った球形の異物が入った半分側を手にとって眺める。


「コウサ、お前から見てこれはどう思うね? 」


「異物というには大きすぎるな。

それにこれで2つ目だが全ての白い玉にこれが内包されているのかが不明だ。

外側の白いところはキノコのような繊維質だがこの中心のものは堅いところが鞘と考えれば特殊な形態の種かと判断できるかもしれん。」


 コウサはすでに前日にナウガタからこれが何だったのか答えを聞いている。

だがナウガタはカイルがどう考えるかを知りたいので答えを知らないものとして振舞うようにしてくれとコウサに依頼し、口裏を合わせている。


「では、次に中心の外殻に覆われたものを調べて見てくれないか?」


 ナウガタに促されて作業に入ろうとしたらナウガタの横にいた職員から大きなニッパーのようなものとガラスのような透明のボウルを渡される。

中に液体が入ってるらしいことはあちらも知ってるらしい。


 これをあけてシュールストレミングのような異臭がするならこの部屋の中は地獄絵図になるなと思いつつ、ニッパーで一部を割いたが幸いに異臭はしない。

 いきなり未知のものに鼻を近づけてはいけない。理科の実験でならったように顔を近づけずに手で仰いで嗅いでみるがそれほど強い匂いではない。

臭い匂いではないがこれが生物の卵だとしたら強い臭気でないのは意外とは思ったが考えると生玉子って割っても匂いはしないな。

 内用液が溢れて邪魔にならないように半分以上の液体をボールに出してから外殻を割いていく。粘度はなく水のようにさらさらだ。


 大きく開ききって逆さに向けるとポチャンとボールの中に3モイト程の球形のものが出てきた。

 外が30モイトのキノコ状の繊維で中に8モイト程の堅い外殻を持つ球体、更に中に3モイトほどの球体か。マトリョーシカじゃあるまいし。

更に出てきた球体はやや半透明と言った感じ。この更に出てきた球体に面喰ったのだが、何故か周りの反応は薄い。覗きこんでくるしぐさがない。 着席したままナウガタが聞いてきた。


「更なる球体か。君はこれをどう思うかね?」


 これこそ種なのだろうか?

一番外の白い繊維が保護ため、更に覆っていたこの液体が乾燥を防ぐためと栄養を兼ねた胚乳か?

半透明なので何か見えないかとボウルを持ちあげて窓から入る外光に翳す。

 陽光に透けて映ってるのは折りたたまれた太めの管のようなもの。その端に外光を受けて赤く反射する鉱物のようなものが見える。

 赤い光?

確か現地修練中にニミヤが言っていたな。それに高所からニミヤに見てもらってバレーボール(仮称)を食べている巨竜がいることは分かっている。

 だったら……



「このバレーボール、ではなくて白い球体ですがその移動しやすい球体と表面の柔らかさから推察できることとしてはキノコでないとすれば高所にってから落ちる時の衝撃を和らげる緩衝材として繊維を纏った種というところです。

 ですが草原と大森林の境界ならともかく、大森林から離れてもっと奥で見つかる上に草原以外の大森林で見つかってないとしたらその線はありません。

 次にこれ自体が地面から育った植物である可能性ですが落ちていたところをパーティーメンバーに頼んで地面を掘り返してみましたが根はありませんでした。

植物でないならやはり土壌の菌類が地上に子実体を形成したものかと思いましたが……おそらく卵ではないかと。」


「どうしてだね? それに卵とすれば子はどこに?」


 出まかせに近い推察だけど卵だと思い立った経緯を説明する。


「私たちのパーティーメンバーは狩りの後、現地での修練としてギリギリまで源力を使い切ってから帰ることにしています。

 当然そうすると修練が終わるまで狩った獲物を置いたままなのでそのままだと匂いを嗅ぎつけて巨獣(草原ではほぼ巨竜だが)が集まってくることになります。

それを避けるために風の異法で匂いが拡散しないように調節するのですがその時に風の異法士が目撃したことがありまして。」


 さっきとは違って俺の推察の語りがやたらと注目されている。


「彼がいうには匂いの拡散を避けるために風を操作していたら異臭が混じって、その原因を見ると狩った2級巨竜の口から30モイト程の蛇が出てきたと。異臭は巨獣の消化液の匂いだったようです。巨獣と違って小さいことと捕まえても売り物にならない大きさなので捕まえなかったそうですがその頭部に赤く光る模様が見えたと言ってました。

 もう一つ この草原にて巨竜が白い球を食べているのを目撃しています。」


 視線を3モイトほどの球体に落としてから続ける。


「このことから内部にある外殻に包まれているものが卵、そして外殻を覆っているキノコのような繊維質は保護も兼ねているかもしれませんが巨獣にとって食欲を与える何がしかの匂いなり物質が含まれているのかもしれません。

 この卵はおそらく食べられることで巨獣の胃に届き、そこで安全に幼体期をを過ごす巨獣もしくは巨獣にカテゴライズされないほどの小さな爬虫類なのではないかと思います。」


「……ではこの一番中にあったものが卵として、その外にある液体はなんだと思うね?」


「わかりません。 ただ卵が孵化した後、あるいは孵化に至るまでの成長を促す栄養を与えているものだろうとは思います。」


「ふむ! なるほど。 」


 ナウガタは蛇の卵であることはコウサが持ち込んだ液体を除いた残りを解剖して分かっていた。

 しかしカイルがこの場でいきなり見た上に幼体の生息場所を巨竜の中に求めている爬虫類とまで推論を進めたことに驚き、現地で得る知識の重要さを認識した。

 カイルが唱えた内容を突飛なこととしてもよいが彼らが持ち込む2級巨竜を調べてみる価値はあると思った。 しかしそれは大森林素材課の仕事ではない。ナウガタはもう一人の上級職員を見た。


 上級職員専用の長袖の上着を腕まくりをした男が口を開く。


「面白いな。 君の推論にケチをつけるわけではないがそれが巨竜の幼体としたなら成体になってもこの赤いものがあるのではないか? 

 しかし今のところはそういった巨竜の捕獲報告はない。


「そうですね。 もちろん単に希な種なために捕獲が無かったことで新種登録されていなかったとするのが一番でしょうが、成体になっても巨竜ではない単なる爬虫類程度の大きさである可能性が高いと思っています。なので成体になっても巨竜の中で暮らしているかもしれませんね。」


 腕まくりをした男は腕を組んだままカイルに再度疑問をぶつける。


「しかし安全とはいえ巨竜の中で暮らしているとしたらどうやって雌雄が出会う? 無理があるのではないか?」


「さて…… ひょっとすると巨竜の胃の中で出会うかもしれません。

なんせ巨竜が食べる白い球体が一つだけとは限りませんし、それに単為生殖をしている可能性もあります。」


 腕組みをしていた男は解いて身を乗り出してくる。


「単為生殖とはなんだ?」


「え、知りません? オスを必要とせずに繁殖をする生殖形態のことですけど。

 ハチとかある種の昆虫なんかじゃ珍しくはないですけど。植物でも受粉しないで実を付けるのがありますし。」


 子供の頃に日本あっちの図鑑で読んだ中だとナナフシの仲間や飼えないために大いに興味があった外国のクワガタの中でもトレスノコギリクワガタも単為生殖の報告があったはずだ。


 何が意外だったのか、腕まくりしていた男は部下の職員らしき二人の男と視線を交わす。念話でもしているかもしれない。すると向き直って確認してくる。


「そんなことが巨竜でも起こりえると?」


「ありえると思いますよ。」


 確かコモドオオトカゲだって単為生殖をしているものがいると読んだ。同じ巨大爬虫類だってあり得るだろう。世界が違うとはいえ巨蟲として恐れられているスズメバチがいる。あれだって確か有性無性で産み分けをしてたはずだ。 こっちの爬虫類だって単為生殖してるものがいてもおかしくはない。

 

 単為生殖の話を聞いてやや興奮した男が大きく息を吐く。


「噂に聞くトンデモ都市の変成へんじょう都市ならともかく我らの周りでもこのようなことが起こっていたかもしれんとはな。面白い! 実に興味深い!!」


「おいおい、クワザイ。 こんなところで畜養課の生物バカを全開にしてどうする? 」


 スパンっと資料なのかメモ用なのか紙を丸めてクワザイと呼ばれた男の頭と叩く。


「それにしてもこの白い球体の謎解きだけで上級職員の方が出張るほどのことなのですか?」


 森林素材課の課長ってことは何か貴重な素材でも含まれていたのだろうか?


「ぅむ。問題はこの液体でな。

コウサが持ち込んだのは既に自分で取り出した後だったが内壁に残っていた。それを調べたところ特に危険な成分があるわけではなかったのだがな。

舐めてみるといい。」


 「うむ」とか「ふむ」とか「ぅむ」とか喋る前に頷くのが癖なのかなと感じながら指先に付けて舐めてみる。


「(味の素みたいな味だな。) 変な味ですね。不味い、とも言えるような言えないような。海藻や魚で取った出汁みたいだ。

 いや変だな。すごく唾液が出てくる。 

ものすごい後を惹かれる味ですね。」


「君もそう感じるか。(出汁とはなんだ?)

これに気付いたのはコウサなのだがあまりに後を引くとのことで相談されて、こちらでも調べたが特に麻薬のような多幸感や覚醒作用があるわけでない だがこの味には妙に惹かれる。

 君は知っているかどうかわからないが獣人族の種族によっては特定の肉をやけに好むことが知られていてな。

我ら人間にはそこまで食欲を誘因するものは知られていなかったがこれがそれに当たる可能性がある。

 もちろん違法なものではない。

だがこれがおおっぴらに出回るとそれを求めて価格が高騰する、あるいはこれを料理に混ぜるだけで人々が買い求めるようになるかもれん。」


「つまりヒトなら抗うことが難しいほど美味い調味料というわけですか。 ですが習慣性や依存性が無いならよいのでは?」


「確かにそうだが 採れるのはたったこれだけだ。

それに持ちこんでるのは君だけ。 宝石のようにな。 だがこれは金を持つもののステイタスとしての宝石ではない価値を持つかもしれん。 特に他都市に対してだ。」


「なるほど…… ですが宝石に関しては、」


「ここにいるものは守秘義務を理解しておるよ。 宝石だけなくて現時点でのコレもそうだ。 

 畜養課の者に来てもらったのは実は都市内で養殖してこれを大量に得るならばどうすればいいかを考えてもらうため、採集者の君から詳しい話を聞くためだったが手間が省けたな。」


 都市としては人を強烈に引き付ける新たな調味料は年輪都市の特産物として交易品になりえる。

それを狩人に頼る不安定な供給としないために養殖まで見据えていたわけか。 

 でもいくらなんでも話が早すぎる気がする。





クワザイ 加西市をもじって

畜養課 課長 生物の生態研究がメイン 但し課長補佐の方が実際に生き物の世話を行ってるために課内で権力がはある。課長補佐畜養メインの衛星都市で繁殖や養殖に勤しんでいる

他都市から持ち込んだ食肉動物は養殖、生態がはっきり判明していないものが多い大森林の巨獣は畜養している。


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