4-8 雑談
指輪を貸与されるようになったものは獲物を中央買取場で処分したあとはその周りにある酒場で一息つくものが多い。だが毎回同じ場所で狩りを行うものはどうせ外門近くにある狩人詰所に装具を預けるのと活動場所が同じ狩人の方がより詳しい情報が雑談として上がるので彼らは今も二番地区狩人詰所近くの酒場を利用している。『遠慮』との初日の狩りの結果を受けた短めの会合を終えた『偏食』のメンバーが軽いつまみと果汁酒をテーブルに広げている。
だが最初に注文したそれらにはまだ手を付けていないままで狩りを労って気持ちよく酔うはずの時間は互いの意見を交わす議論の場になっていた。
「だからな、どう考えたって異常なんだよ。あれほどの異法を連続で使って源力が持つはずがない。どんなベテランだって無理だ。」
「それは分かるがそれこそが『遠慮』の狩りの秘密であろう?
我らと同様彼らの異法の手法も巨獣の足を止めて攻撃をするというオーソドックスな内容だった。違いはその力の強さというか持続というか。スケールが違っている感じはしたがな。」
一週間は『遠慮』と共同で狩りをしてみるとのことでまずは自分たちがいつもの狩りをしてみせた。
『偏食』は土に偏った異法士で構成されており、5人のうち4人が土の異法士だ。年齢が24歳で狩人歴も長いグンジョーは一番力が強く、続いてダーナとアーオイ、一番異法士として力が弱いのがノーッタの順だ。
草原での狩りは主に巨竜としており3級の場合はグンジョーが一人で誰かが補佐について足を止め、より巨大な2級の場合はダーナかアーオイのどっちかが外れて必ず3人で足止めをする。
通常なら土の異法士が二人で足を抑えれば源力切れを起こさない限りは狩りは成功するがこの草原をテリトリーにする巨竜は大森林にいるものと違って尻尾が長い。大森林だと邪魔になるのだが障害物がない草原では尻尾を振りまわして武器として使うことができる。
土の異法士が二人で前後の足を抑え、更にノーッタが用心で尻尾を抑える。
これでようやく近づいてボウガンを使用する。更に斧で足を斬りつけて異法から抜けだそうとするのを防ぐ。
ダーナかアーオイが残ってるのは狩りの最中に他の巨竜や巨獣が来た場合の用心やノーッタの力が及ばない場合のためだ。
巨竜を始めとした巨獣のカテゴライズの等級が大きさだけで決められているわけではないが2級巨竜なら最低でも7メイト以上、10メイトはざらにいて15メイト辺りまでが2級とされている。ただ1級巨竜が数が少ないように2級でも大物になるほどその数は少なく、12メイト辺りまでが普段目にする大きさとなる。
巨獣に比べて動きが遅いとはいえそんな大質量の存在が突進してくるのだから3人掛かりで足止めできるなら大したもので、更にボウガンで射て暴れるのを抑え、死ぬまで固定し続けるのだから1日1頭狩れるだけでも十分な力をもつ狩人と言える。
そのことを自分たちで分かっているからこそ実力を持つ狩人の証明として渾名が欲しくて奇異な格好をしていたのだが、それを注意してくれた男がいるパーティーの実力は馬鹿げていた。
「それに目の前であれほどの武威を見せられて興奮した。
慎重さを欠いた大味な戦い方にも見えるが彼らの成果とそれに対してかかった時間を考えればそんなことはどうでもいい。」
「いや、武威っつーかな。どっちかってーと怖畏だったろ。」
『遠慮』の狩りを間近で見たノーッタはそう言う。
アマザ達は巨獣の頭側にも回る尻尾を振り回す攻撃や口から毒を吐くタイプの物がいること、大森林を背にしてるので後方からの巨獣にも注意が必要と理解すると一気に『偏食』を後方に下がらせて散開、あとは円盤で宙に浮いたニミヤが高位置から見える範囲の巨竜を匂いで誘ってきた。
最初に到着したのは1頭だけだがそのうちに2頭、更にもう2頭と3級と2級が入り混じり、草を押しのけ地面をする音がそこかしこから聞こえてくるのを感じて思わず指輪を開こうとしたのだが『遠慮』は動じない。
いつのまにか巨竜が突進してくる地面をする音は止んでいるのだ。
当然狩られているからなのだがどう考えたって自分たちが狩りをするならそんな短時間に土の拘束を解けるほど早く絶命させることが出来ない。
『遠慮』はアマザとタミーが一人ずつ別の巨竜の足を止めている。それだけでも自分たちでは出来ないことだが違いはそれだけでなく仕留める時間が格段に早い。
ボウガンを刺して、弱ってから巨竜の生命力の強さから更に用心で斧を使って脚を封じる。
その自分たちの手法と違ってボウガンを使うように巨獣から距離を置いてるがアッシャーの水流が巨竜の首をいとも簡単に切り、3級巨竜に大質量の水を上空からぶつけて骨を折っているホーヅ、そしてカイルはいつの間に柄の長い斧など持ち出したのか異法を使わずに切断して回ってる。
形状は斧部分が大きなハルバードといった感じだが年輪都市では対人武器が発達していないため『偏食』のメンバーは見たことがなかった。
首が切られた時点で拘束など必要ない土の異法士はさっさと次の目標に拘束を変える。ダーナは同じ土の異法士であるアマザとタミーの手法を見ていたがともかく土の支配から拘束までが早い、そしてその拘束時間は水の異法士の活躍のおかげで驚くほど短い。
自分たちとは異法の、いや源力の流し方や支配のスピードが違うことに気付いていた。『偏食』は巨竜に特化していたことで長い時間強く固定することが重要になって早く捕捉するということに気が回っていなかったのだ。
通常の狩りは獲物を誘って行うために待ち構えて拘束するのが常で素早さは気にしていなかった。より突進や動きが早い巨獣相手ならそれも必要なのだが巨竜ばかりを相手にしていたことの弊害だ。
1時間ほどの間に10頭、2級は4頭だけだったがそれでも異常といえる大量の猟果だ。『遠慮』との勝負で狩りをした時、時間を掛けて源力に余裕を失くしてまで狩っても2級2頭と3級1頭だったことからするとどれだけ異常なことか分かる。誘ってくる巨竜がもっと近くにいたなら更に早く終わっていたのかもしれない。
『じゃ今日はこれくらいでええかな?』
疲れも見せず狩りの終了を促すアマザに『偏食』メンバーは戸惑いながら頷くだけだ。
中央買取課に行くと共同の狩りだから猟果の買取代金は全員で均等でよいと言う。こっちが狩ったのは2級を1頭だけなのだがそもそも草原に行くまでに『偏食』の忌避剤の力を借りているので構わないとのこと。有難くはあるがまるでこっちがベテランパーティーに混ぜてもらった新人のようだ。
「それに最後の一匹を逃したけどカイルってのは何モンだよ?」
「ああ、目を疑ったわ俺。」
狩りの最後にやってきた5メイトほどの3級巨竜は正面にいたカイルが担当したのだが何故か土の異法士は足止めをしない。その時いきなり巨体を反転させて尻尾で払ってきた。尻尾の長さから逃げられないと思っていたのだが予想に反してカイルは直撃を受けても立ち続け、それどころか斧を放り投げ、その場で尻尾を脇に挟んで固定したら振り回し始めた。
この様子には『遠慮』も含めて全員が呆気に取られたが巨竜は尻尾を自切して一気に走り去り、カイルは手に持っていたのたうつ尻尾を悲鳴と共に投げ捨てたのである。
「あれって施術でも使ってんのかね? 効果時間の関係からもし使ってるんならカイル自身が施術士ってことにあるが爪は一般人だったよな。」
「それも含めて彼らから信頼を受ければあの力の一端なりを教えてもらえるのであろう? 彼らの話からすると『遠慮』が持つ力のキーマンはカイル殿らしいが。」
ダーナは首に掛けたペンダントに付けられた宝石を見つめる。その様子を見てグンジョーが思い出す。
「中央買取課の知り合いに聞いたがその石って年輪都市の富裕層じゃいい値で求められているらしいな。それをいきなりポンと俺達全員に配ったことから金に困ってないのは確かだろうが分からんやつだ。ルウミを治してくれたことは感謝するがな。」
「そういや来年アマザやタミー達と結婚するのに誰にも手を付けてないって言ってたな。
どう?リーダー。
女らしい格好に戻ったことだしなんとか誑しこんで彼らの秘密を聞き出してくれない? 手を出してこないなら聞くだけ聞いてから身を引いても問題ないじゃん?」
ノーッタがそう言うといきなりダーナは赤面する。
「んんっ、そういうことは互いのパーティーを知ろうとしてる今の状況にふさわしい行動ではないであろ?
それに私には脈はない。
直接カイル殿から言われたしな……」
アルコールを含まない果汁酒を飲んでて顔が赤くなるのでダーナ側には脈があるようだがカイルからきっぱり言われていることを思い出して声が小さくなる。ダーナのバレバレの様子に他のメンバーから視線を向けられたノーッタは話題を変える。
「じゃあさ、ルウミはどう?
折角治してもらったことだしそれでフラグが立ったとか言って近づけば。」
ノーッタに言われたルウミは髪留めで前髪を止めて顔を出している。
歪門を開いて引き手がロープを引っ張る間にカイルに呼びとめられて両手で顔を覆われたと思ったら額に熱を感じて蒸れと痒みを感じたら瘡蓋か垢のようなものが出来ていた。
それを取ったら瞼を押していた傷口の盛り上がりは無くなっており、眉まで生えていた。ただうっすら残る傷痕を示す皮膚の色の違いはこれ以上治らないかもと言っていた。だが自信をもって俯かずに顔を上げられるのは久しぶりで気持ちがいい。
「そういえば驚いていたせいでまともにお礼を言ってなかったすね。明日にでもちゃんと言っておかないとダメっすね。」
「お? 惚れた?」
ノーッタは冗談で言ってるのだがダーナは落ちつかない様子でルウミを見ている。
「ノーッタには悪いですけどないっすね。
結婚まで話が進んで関係がないってのが本当なら女は受け入れてるけど女の気持を理解してないってことっすよ? なら苦労するのは女の方になるっすね。」
「もういいであろう? ノーッタも楽をしようとせずに明日以降もいつも通り我らの狩りをすればよい。 何を基準に彼らが信頼がおけるかを判断するのかはわからない以上我らはいつも通りにしかできぬわけだしな。」
あと少し酒宴は続いた。
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同じ日の夕方の異法修練場にホーヅ、アッシャー、ニミヤの3人はいた。
0番地区では狩りのあとに現地で修練をしていたので中央買取場に戻った後、装具を詰所においたら一度目の銭湯に入るのが常だった。二度目はそれぞれ夕食を終えて一日の終わりに入る。
草原もほかの狩人が少ないので狩りが終わった後に現場で自主練習をしても問題ないだろうが今は合同狩猟の期間中だ。狩りを終えてても源力に余裕があることは察しているだろうが居残って修練するところまで見せるのも付き合わせるわけにもいかない。
そのため仕事帰りの銭湯は後にして先に自主修練を行なっている。
「あっちでそのまま修練できないのは面倒だな。やっぱり実地でやるほうがためになる。もうこのまま『偏食』の連中に源力補充装具を渡せばいいんじゃないのか?」
アッシャーはしゃべりながら水流の輪を幾重にも展開している。すると噴水のようにいきなり水の環が上空に向かって飛び上がって飛散した。
「そういうな。 お前は前から飲み屋で会っていた知り合いかもしれんがカイルにとっちゃほとんど面識のない狩人だ。
源力補充に関して先はともかく今は守秘しておきたいそうだから仕方ないだろう? 狩人だけじゃなく異法士なら誰だってこの装具は欲しいさ。広まったらカイルは狩りに出るどころじゃなくなる。」
「いっそのこと源力補充だけでも食っていく手もあると思うがなあ。」
「それは、カイルの自由。」
ホーヅはいくつかの水球を浮かべている。
先ほどその質量で巨竜を潰していたが普通に落としても水球は形を変えてしまうので圧は分散して巨竜を潰すまでの圧力はない。
だがこの水球は単に水が集まってるのではなく、氷という固体に姿を変えないままで異法で中心に向かって集まるようにした高圧で固められた水球なのだ。なので見た目よりも重い。ホーヅの異法でも高圧状態での維持はあまりに源力の消費が高すぎるのですぐに体の源力は尽きてしまう。なので頻繁に枯渇と装具からの補給を繰り返している。
「カイルの指示通り俺たちは手を抜かずに狩りをした。後は残りの共同活動期間での『偏食』態度次第か。
俺たちの方が狩れる上に獲物の買取額は均等。これに胡坐をかいて狩りに手を抜いたり、すり寄ってくるようなら補充装具の提供はなしにするんだったな。
それにしてもカイルはなんだって素手で巨竜を振り回したんだ?」
ニミヤは何もしてないように見えるがホーヅが作った水球を空気固定で支持するように異法を使っている。空気固定の方がより源力を使うので枯渇を起すにはこちらの方が早い。
「カイルは毒を持ってるか、俺に確認してきた。俺たちが、異法の放出量を訓練で高めたように、カイルも力の上限を試しているようだ。」
だからといって実戦で生きてる巨竜を振り回すのはどうかとも思うが、巨竜が自切した尻尾に悲鳴を上げたのは笑った。確かに尻尾だけがビタビタと跳ねて動いてるのは気持ちが悪い。
「それに、彼女の傷を治してもいた。今頃は、必死で食べているだろう。」
カイルの秘密は既にパーティーメンバーに説明されているがそう便利なものでもない。
ホーヅは自身も治してもらった額に手を当ててからルウミの傷口を思い出し、カイルにもう一度感謝した。
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『で、どうなのですカイルさんとは?』
夕方の赤髪亭での手伝いとアンジェと銭湯を終えて自室に帰ると母のミモクから念話がきた。
『特に変わりはありません。』
『貴方がまだ学校に通う身である以上、生活に大きな変化がないのは分かります。女にしてもらったのですか?』
『いえ、相変わらず彼が私を抱きに来ることはありませんね。』
室内ではいつもの薄着ではなく上半身は素っ裸。
その理由は肩から首にかけての体毛を漉くためで、いくら背中が大きく開いたタンクトップでも柄の長いブラシで撫でつけるには邪魔になる。
机の上にはアンジェが作った氷が入った果汁水が置かれ、その横の鏡にはあられもない姿の自分の上半身が写っている。
『やれやれ……未だ男女の関係にもなっていないとは。
早く仕込めば早く授かるものでもありませんが私の後として早めに子供を産んで欲しいのだけれどね。 学校に通っているうちは市民ではない幼子ともいえるので手を出してこないことも分かりますが貴方からももっと近づいていきなさい。
それと学校も今年一杯だからあと3カ月、卒業してすぐにカイルさんと一緒に住むのか、しばらく赤髪亭の部屋を借りて住むのか他の方たちも含めてきちんと相談しておくように。
卒業時に都市の祝福を受けた場合、人とは違って獣人族の貴方は施術士としての力を得る可能性が高いわ。施術士となった場合は私が教えるので一時こちらに帰ることも考えておきなさいな。』
『分かりました母さん。ですがもし来年までに彼が私を求めてきて授かったのならどうします?』
『それはそれで構いません。妊娠したなら施術の訓練は避けるべきなのでそちらにいるもよし、身重になって不自由ならこちらを頼るもよし。
術の指導は後からでもできますが夫がいる貴方はまずは子作りを優先なさい。』
『カイルさんに任せようと忍んでみましたが結局手を出されてないのですが夫婦の秘め事はどうするものなのです? 』
『それはね、……』
その後 母親から色々と聞いたコーリンはアンジェにも話し、その内容にアンジェは赤面、姿を見せたカイルはアンジェの照れ隠しの暴力でとばっちりを受けることになる。
1メイト=1メートル
狩人パーティー『偏食』メンバー
ダーナ(女リーダー)
グンジョー(男)
ノーッタ(男)
アーオイ(男)
ルウミ(女)
ミモク 衛星都市に住むコーリンの母




