4-3 偏食
二番外門は東西南北の外門に比べて小さい。
だがその四大外門は四方に位置するので大きく作ってあるというだけで人通りが他の外門よりも多いから大きく作られているのではない。
先月まで『遠慮』が活動していた北大門こと0番大門など都市の12方向に設けられた外門の中で最も利用するものは少ない。
外門を通るのは外壁の補修の仕事をするものや先にある大森林へ向かう狩人なので外門の内側に住んでいる人口の過多は関係がない。なので四大外門よりも小さいとはいえ狩人が集まる広場や詰所、装具を預ける窓口は北大門と変わりない規模で作られている。そして詰所建物の奥には二番外門先で得られる巨獣の種類や生息地、素材の説明が纏められた簡素な資料室がある。
資料の量に比べて広く作られているのは狩人たちの会合に使えるようにすすためだ。とはいえ狩人の会合は当日の事に関しては出発前に詰め所の広場で、以後の予定に関しては酒場で行うことが多いのであまり人がいない。
ちなみにこの資料と同様のものが12箇所分揃えられている中央買取広場の資料室は図書館並に広い。しかしその騒がしさはその比ではないが。
こういった資料室を利用するのは当たり前だが新人狩人が多い。ベテランは口コミでの情報で動くことが多いし、独自の狩場を見つけ出しているものだ。
運良くベテランに見込まれてパーティーに拾ってもらえた新人狩人は大森林の知識を先輩からそのまま仕込まれるので偏りが生じる。それによって古いままの知見を鵜呑みにすると得るものが少ない場合もあるので都市としては資料室を利用して向学を勧めている。
その資料室の窓際の机を囲む男達7人と女性1人。
「待たせたな。先に荷物を預けに行っていたようで広場でなくて詰所にいたのを連れてきたぞ。」
先に入ったダーナが声をかけたことで全員が振り返ってこちらを向く。
俺達『遠慮』のメンバーの大男ホーヅ、細身でタレ目のニミヤ、筋肉で厚い体をしたアッシャー。
この3人の他に椅子に腰掛けて待っていたのはダーナがリーダーを務める『偏食』のメンバーが4人。ホーヅの防具を机の上においてなにやら意見を交わしていたようだ。
ダーナのパーティー、『偏食』のメンバーは依然ならハゲ、顔面ペイント、眉なし、目隠しと特徴で呼んだかもしれないがダーナへの説教が効いて無駄な個性を付けるのは止めたらしく、顔面に文字や模様を描いていた男と眉を落としていた男は既に止めている。
禿頭の男は元からそうだったのかあるいは続けるうちに気に入ってしまったのか変わっていない。ただ日に焼けると頭皮が痛いのか屋外に出るときは頭を覆っているようだ。眉を剃っていた男は普通に戻ったが結構眉のあるなしで印象が違ってる。眉を剃っていた時は視線が鋭い感じがしたが今の方が表情が柔らかく見える。
それぞれの名前は赤髪亭で揃って食事をした時に聞いている。
禿頭の男がグンジョー、以前顔にペイントをしていた男がノーッタ、眉を剃っていた男がアーオイ、 そしてダーナの父親からの依頼でダーナの監視、内密のお目付け役である前髪で目を隠した女性がルウミという。
「ではこれで揃ったから始めよう。『遠慮』からの申し出で2番地区の狩場の説明や獲物の注意点を説明することになった。その代わり共同で狩りを行って獲物は同数で分けることになる。共同で行うのは明日より7日間、今日はこの場でミーティングだけとする。『遠慮』、それでよかったかな?」
ダーナは俺達を見て確認を促し、ウチのリーダーのアマザが応える。
「よろしゅう。ウチらは全員2番地区は初めてなんやけどこの地区ってより東に行ったら大森林の植生が大きく変わるいうのを聞いたんで実際に経験者に話を聞いてからの方がええか思て『偏食』に共同狩りをお願いしたんやけど受けてもうて助かりましたわ。」
「なに、そちらのカイル殿には目を覚まさせてもらったしな。それにあれほどの猟果を上げるそちらの狩りの手法を実際に見られるのもありがたい。こちらにも得るものがあるだろう。」
それからはダーナたち『偏食』のメンバーから彼らが主に狩場としている2番地区の大森林について説明がなされる。
纏めると
・近接地域の大森林と注意は変わらないが起伏が少ないのが特徴。ただ起伏が少ないせいか雨のあとかなり水が残るので注意 そのおかげで水を多めに必要とする大木種が多いという植生特徴がある
それらの中には果物なども生るそうでそれを狙って活動している狩人もいる。
・東遠方に向かうと森林から様相を変えた地域が広がっており、その地域の突端へは数ミイト進めば辿り着ける。
・その平原には幹が大森林の大木のように太いが枝が最も高いところだけにある変わった木がところどころにある(バオバブみたいなものか?)。 ほかは肉厚の草が一面に広がっている
・草原部には大森林から巨獣がやってくるほか、草原そのもので生活してる巨竜種がおり、大森林で活動するものに比べて木が邪魔にならないためか大型種が多い。 偏食が2級を主に狩ってるのはそのため。
「ってところだな。だが草原についての質問は俺達にもよくわからんぜ? 全体の広さも含めて分からん部分が多い。」
アーオイがそう言ったことにニミヤが返す。
「年輪都市として調査がされていない。だろ?」
それにアーオイが頷く。
「そういうこと。草原に『到達できる』連中と情報を交換してるがそれだけじゃあな。」
2番地区のこの資料室でも遠方に草原があることは記されているがそれがどれくらいの広さなのか、更にその先がどうなってるのかは記されていない。都市が調査をしていないのだろう。これが南や西ならその先に衛星都市を作るために大人数のキャラバンで大森林を探索、進行してのでそのルート近隣だけではあるが情報が残されているが東には衛星都市がない。 なぜ大森林とはいえ起伏が少なく、他に比べて歩き易いはずの東方面に衛星都市を作ろうとしなかったのかは不明だが。
「少なくとも俺達が狩場にしてるのは草原部から都市に向けて飛び出てる突端くらいの部分さ。先に進むほど更に広大なのは見ただけで分かるがね。」
なるほど、こっちじゃ見渡す限り農業地区か住宅地域、外に出たら森林だからたまには違った景色が見られそうだ。
『偏食』メンバーの中でこちらへの説明に参加せずに口を閉じていた禿頭の男が不機嫌そうな荒い口調でしゃべりはじめる。
「邪魔くせぇな。いくらリーダー同士の取り決めで期間限定での共同で狩りをするっつっても俺たちと勝負にならないくらいの質と量を上げてきた連中だぜ? 一々こうして説明するよりも現地で体験すりゃいいじゃねぇか。年は初心者だが実績はベテラン以上なんだからよ。そこまで慎重になるこたぁねえだろ。」
俺が加入してからのパーティーの実績は確かにベテランを凌ぐだろうがだから未知の狩場で慢心して突っ込むほどバカじゃない。それが分かってるからこうして2番地区のみで活動している名付きのパーティーに協力を仰いでいるわけだ。
「まぁまぁ、グンジョー。勝負に完敗したからって突っかかることもあるまい。 それに彼らが我らより上ならば学び取って得るものもあるだろう。」
宥めるダーナだがグンジョーは続ける。
「リーダーのいうことだから行動を共にしての狩りには従う。だがそれには少なくとも相手を信頼をしてなければ無理だろう?
前の勝負でのあんたらの猟果から狩人として優秀なのは分かる。だが俺はあんたらの力を知らん。一週間とはいえ共に行動するならその前に実際に力を力を見せてみな。」
「相変わらず固いっつーか、このハゲは。どうすりゃいいんだよ?グンジョー。」
俺達のパーティーの中でも最も『偏食』と面識が長いアッシャーはズケズケとした物言いで禿頭の男に問う。ハゲといわれても怒らないのは言葉どおりハゲてるのかそれとも単に剃ってるだけの余裕かどっちなのだろうか?
アッシャーよりも年上のはずだが怒らないのは見た目や態度よりも落ちついた人物なのかもしれない。
俺がそのままでいいのかと『偏食』メンバーに言ったときはこの人からも特に反論はなかったな。
「俺達はリーダーと組んでから『偏食』の渾名を付けられたが別に目立つような奇抜な格好をしてたからだけじゃないぜ?
おまえらよりは年上ばかりで構成されちゃいるがそれでも2級巨竜をメインに狩って来れるくらいの力は持ってる。自分達のフィールドを開拓するまでは苦労もしたもんだ。
その苦労で得た知識を共同で狩りをするからハイ、どうぞっては悔しい。
まずはお前達だけで草原で草を刈ってきてくれねぇか? それなら俺も『遠慮』を認める。」
「やれやれ・・・・・・いらん苦労をしないためにミーティングなのにな。アマザ、どうする?」
ニミヤは異法の実力差が狩りの成果としてはっきりしたのに認めないグンジョーに特に異論を唱えない。どうするかはアマザに任せるようだ。
「その方が明日からの狩りがスムーズに行くんやったらそれでええで? そもそもダーナと話がつかへんかった場合は普通にウチらだけでいくつもりやったしな。じゃ狩りやないし平坦らしいから今からいこか。」
ダーナやアーオイは詰め所に移動中にグンジョーに小言を言っていたが俺達の力については心配してないようで特に初見の大森林地域について忠告や注意は受けなかった。
「私のパーティー内の意見を纏められなくて済まない。だがグンジョーが言ってる草を取ってくるというのには意味があるのだがな。まぁ『遠慮』ならば問題あるまい。」
「かまへんって。なぁなぁで腹に抱えたままよりも納得して組んでもろたほうがええしな。その方がこっちも都合がええかもしれんし。」
先に到着してたニミヤ、アッシャー、ホーヅも狩りの装備は既に預けていたようでメンバー全員で装備を付けて外門へ向かうが艶がない黒い防具を付けた俺たちへの視線は強い。巨獣由来の装備では巨竜の皮を使ったレザーメイルは珍しくないが巨蟲由来の素材となると防具に使えるほど大きなものが少ないせいで目立つ。
指輪を持たない新人の狩人が仕留め易いジバシリなど3級巨鳥を今日の獲物としうて持ち帰ってくるものがいる時間で逆にそんな時間から外に向かおうとしてるために余計に注目を集めていた。
特に第二地区の詰所の窓口担当の女子は俺以外の男3人に熱いまなざしを向けていたがポーターでしかない俺にまではそういう視線が来てない。
中央買取市場の窓口では既に俺が原石を持ち込んでることは女性職員に知られており、その情報が0番地区の受付にも出回っていた。だが軟禁に近いアプローチを受けたことでサンタシに連絡を入れたせいか、それとも情報が回った故に既に相手がいることがわかったせいなのだろうか。
ちょっと悔しい気もするがモテモテになるのは3人だけでいいや、ただでさえ俺には背負う荷物が多いわけだし。
『偏食』メンバーを伴って外門を出て大森林の前まで歩く。
既に午後2時を回ってるだろうか?いくら北大門の周りのような起伏がないからといって大森林の中を数ミイト先にある草原とやらを目指すにはちょっと厳しいかもだ。なんせ夜に掛かると大森林にナニが出るかわからない。
「指輪は持ってるんだろう? 大森林に入るには遅いが狩りをしてこいってわけじゃない。草原まで到達して草を狩って持ってくればいい。そうすりゃ俺たちの事も分かるだろ。」
そういうグンジョー。俺たちは「分かる」ってのはどういうことだろう?と思ったのだがダーナが口を開く。
「どうやらグンジョーは猟果での勝負では惨敗したが私たちは決してその辺の狩人ではないってことを分かってもらいたいようだ。済まないが彼の出した条件の通りこの先にある草原までその証明に草を刈って貰いたい。」
その言葉に俺たちは軽く頷いて先に進もうとする。
だが俺はアマザとダーナに確認を入れる。
「これがうまくいったら最低一ケ月はダーナ達が狩り場にしてる草原ってところで狩りをするんだろ?」
「そやで、0番地区でもそこそこの種類を狩ったけどダーナがいうには草原地域は独特の巨獣が獲れるらしいから経験にもなるしな。」
なるほどな。それじゃ・・・・・・
1ミイト=キロ
ダーナ 狩人パーティー『偏食』のリーダー
ルウミ 『偏食』のメンバー 神戸市垂水区をもじって
アーオイ 『偏食』のメンバー 相生市をもじって
ノーッタ 『偏食』のメンバー 竜野市をもじって
グンジョー 『偏食』のメンバー 上郡町をもじって




