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あっちとこっち  作者: rurihari
3 売り物
83/142

3-25 9月終わり 北大門

 年輪都市に9月の終わりが訪れている。


日本あっちなら既に秋の訪れを実感できる時期ではあるが、年輪都市こっちは年中通して昼間が暑く、雨季がある程度で四季がないので9月が終わろうとしても雨が8月に比べて少なくなる以外にこれといって変化は感じられない。

 しかしそれは人の感想で大森林内ではそうではない。大森林に生息する多種の巨獣の中には毎年特定の時期に異変を来すものもいる。


 今、北大門の外の門に近いところだけで10頭以上の巨獣が雄たけびを上げて落ちつきなく動き回っている。その様子から興奮状態であることが分かる。夜行性の巨獣以外で日中の暑い時間帯に日光を遮るものがない緩衝地帯にまで来ているのは事情がある。

 巨獣は種ごとに異なる繁殖時期があり、種類によっては繁殖期の直前の短い間だけ凶暴化するものがある。その理由はメスを確保して番うためのオス同士の争いに備えてであったり、繁殖に向けて普段よりも栄養を取るためだったりと理由は異なっている。問題は凶暴化にして普段よりも手強い状態になったその上で、ヒトの肉を求めて匂いを辿り、狩人が行き来する都市内外を繋ぐ外門にまでやってきていることだ。


 この凶暴化が普段狩り慣れている狩人を不意の不幸に誘う。

大森林に入って糧を得ている職業狩人が年輪都市で最も死亡率が高いのは巨獣に襲われての死亡が原因だ。

原因はそれだけではなく、大森林由来の媒介生物による感染症や吸血蟲による被害もあるが主な死亡の原因は巨獣に抗いきれなかった、逃げ切れなかったことでの死。勝てない相手と出会った不遇の遭遇死といえばいいのだろうか? 巨獣を狩って糧を得ている狩人にとっては明らかに勝てない相手であり、その大きさのせいで接近が分かる一級や特級巨獣とは戦いを避けて生き残る為に逃走する。それが叶わないならば一縷の望みを掛けた反撃のあとに死を迎える。

そうして勝てない相手との遭遇以外での落命の一因が巨獣の変化なのだ。


 こういった毎年繰り返される巨獣の凶暴化と強化状態になると普段対処に慣れている3級巨獣相手ですら思いもかけない反撃に遭う、2級ならなおのことだ。それが元で土の異法士が負傷するとパーティーが総崩れすることとなる。なんせ周りに同種の凶暴化した巨獣がいれば間違いなく殺到してくる。

 種類ごとの凶暴化情報や発生地区情報の収集を怠るとようやく1頭を仕留めたと思ったらその間に同種に巨獣複数に囲まれていたなんて事態になりかねない。こういった凶暴化が年中を通して複数種で頻繁に起きるなら狩人の死亡率はもっと高いものとなり、都市内に供給される大森林の食料は少なく、今の人口を維持できなかっただろう。


 北大門こと0番地区大門とその左右に伸びる外壁の上に狩人たちが陣取っている。


「先輩、今なら大森林まで行かなくてもここで構えていればあいつ等が勝手にやってくるんでしょ? 折角来てくれるんだからそのまま外に出て狩ればいいじゃないっすか?」


 8人ほどで構成されたパーティーの狩人が肩を並べて北大門の右側の城壁の上で会話をしている。

まだ狩人養成の異法士研修期間を終えて狩人パーティーに加入したばかりの一番若い少年がパーティーの年長者に尋ねる。


「それを狙って狩ることもあるな。だがこういう繁殖前に起こる凶暴化は普通と対処が違う。考えてるほど容易いもんじゃないぞ?」


「でも獲物の数が多いなら狩人こっちだって大人数で対処すれば余裕で狩れるんじゃないですか? それなら大森林に行くよりも見通しは遥かにいいし、やばくなったらすぐに都市に戻れるし楽なんじゃ?」


 先輩たちが見ているだけで目の前の飯の種を狩ろうとしないことに納得していないようで更に意見を言う。それにまた別のメンバーが答える。


「確かにそうだな。敵が多いならこっちも戦力を増やせば対処は可能だ。理屈ではな? 

 だが肝心の足止めの土の異法が問題さ。誰がどの土を支配してるかなんてのは気の合うパーティー内で、しかもいいとこ二人程度だから分かる。それが乱戦に近いような状態で即興で集まったパーティーでうまく異法をこなせるか? パニックを起こして安全のために自分の回りの土を広範囲で支配したもののそれだけで動かさないままでいたとする。当然それじゃ他の土の異法士は他人が源力を流している土は動かせないわな。つまり他の土の異法士はいないとの同じことになる。

それに担当を方向で分けたところで凶暴化してる状態じゃ素早さが上がるほかパワーも上がって足止めが失敗するってこともありえる。大森林と違って障害物もなく距離が稼げないここじゃ一気に詰められたら混戦が混乱を呼ぶ。

そうなったら俺たちがやつらの餌になるだけだ。俺たちは異法以外で使うのはブッシュナイフやボウガン、いくら水の異法士の水流剣でも接近してきた凶暴化巨獣が複数では役に立たんよ。 

俺たち狩人はあくまで巨獣一頭に対して複数で挑むから優位なんだ。」


「・・・。」

 

 先輩狩人の言葉の裏に実際に『そうなった』状況が過去にあったことを感じ取って黙る。


「複数パーティーで挑むなら的確な指示を出すリーダー、その指示を疑わずに冷静、確実にこなすメンバーが必要だ。例えばゴウトみたいなやつだな。

 自分の力を過信した奴は死ぬ。お前も俺たちのパーティーに入って巨獣の狩りを経験して思ったよりも脅威を感じなかったかもしれないがそれは油断でしかない。 慣れてきて大森林そとを舐めるようになったやつほど早死にするぞ? それができるほどの実力があるなら別だがな。

 お前が言ったように一々危険な大森林に入るより、ここにいて巨獣が来るのを待って狩れば楽だ、だがそれなのにここにいる狩人は誰も門外に出てないだろう? ベテランの狩人であっても外には出ない。いくらなんでも群がってくる奴らを狩り終えるまで異法を使う源力が持つはずがないからな。 加えてここまで来てるのは凶暴化が最高潮でトチ狂ってる奴だけでちょっと落ち着いてるのは大森林の縁でこっちを窺ってるのもいるぞ? 

楽して大儲けすることを狙って死ぬことはない。 凶暴化することは全地区で見ると多々あるがその期間は極短い。その間だけでもこうして異法の射程内に入ってきた巨獣を安全圏から狩れるだけでも楽なもんだと思え。」


「はい。」


新人の狩人はボウガンを構えて城壁の下に寄ってくる巨獣に狙いを付ける。


 城壁のすぐ下にまで近づいてきた巨獣を異法で止めてボウガンで仕留めようとする狩人。その後方には都市の防衛課と保安課が控えている。門の近くは城壁は高めに作られているが門から遠ざかると高さは4メイト程度。

巨獣の体当たりでの危険と場合によっては死体を足場にして乗り越えてくる危険に備えてである。


 今回のような凶暴化した巨獣襲来時は外に出る狩人はいない。大森林での狩りに比べて一歩門外に出ると「休ませてくれない」ような連闘となるためだ。


 ちなみに特級や1級が都市内へ入ってくる場合は『巨獣侵攻』と呼ばれるが今回のような狩人や保安課、防衛課で撃退可能な場合は巨獣襲来と呼ばれる。前回のゾウの場合は『生贄』が尽きてたのでいずれは巨獣侵攻になっていたかもしれないがカイル達により撃退されたので襲来扱いとなっている。


外に出ることがありえないはずの巨獣襲来の今、許可を得て外に出ようとする一団がいる。


 門の内側にいる都市防衛課の職員を二つに割って6人の男女が前に進む。

それぞれ艶消しの黒で多くの節があり、柔軟性を持たせた鎧を身に付けている。


「じゃいいな? 都市へ侵入される危険を考慮して門を開けるのはお前たちが出ていく時と帰って来る時の2度だけだ。 例え巨獣に囲まれても俺たちは助けに出ることはない。」


「ええで。今月最後の仕事で狩っておきたいだけやし。2回開けてもらうだけでもええわ。」


 長身の女がそう言うと門が開けられて6人は外に出る。普通と違うのは水の異法士だろう。運河から水を引っ張ってきてるのか大量の水を身の回りに展開させている状態で先陣を切って出ていく。


大男は前方に水の渦を盾に展開、そして巨大な水の棒を発射し門が開いたことろへ突っ込んできた巨獣を押し返す。それと同時に地面の土煙を巻き上げる突風が巻き起こり、周りの巨獣が怯んだ隙に6人は外に出て門が閉じられる。



「へえ! 『あいつら』は外に出るのか。 どうやって奴らがあれほどの猟果を上げられたのかじっくり見させてもらおう。」


 外壁上の狩人達の中に外に出た6人の男女に注視を向けるものがいる。とは言ってもこの状況で外に出た彼らに視線を向けていない者はいない。

彼らの事を知らない者は無謀な行動の果ての生死の行方を、彼らの渾名を知ってるものはこれから行われるであろう狩りの手法に。



-*-



「何なんすか? あの人たち! あんなことがあの年で可能なんですか!?」


 若い狩人は自分と比べてさほど変わらない年に思える狩人ばかりのパーティーが為した目の前の光景に視線を向けたままで左右の先輩狩人に尋ねる。


「無理だな。あの年どころかキャリア10年を超える俺だって不可能だ。」


 彼ら『遠慮』の狩りの様子は目にすることができた。



 まず風の異法での土煙での眼つぶしが行われていたが門を背にして戦っていたので暴風が展開されていない後方からは彼らの狩りを見るのに問題はなかった。

 風の異法での目くらましが行われた後、なんと目の前に土壁がせり上がる。背にした門を中心にして半円状に囲むように外壁よりも小さいが2.5-3メイトほどだ。今回凶暴化を起しているタテヅノイノシシはジャンプが不得意な巨獣なので超えるのは不可能かどうかギリギリの高さだ。驚くのは作られたその壁の範囲だ。なんと半円の直径は30メイトはある。こんな壁なんてありったけ全ての源力を放出してもこの速度で、この距離で、この高さの壁を自分でも作れると思った土の異法士はいない。

 しかし大したものではあったが上の視点から見えるその壁は10モイト有る無し。そんな厚みではタテヅノイノシシの突進は止められないだろう。そう思っていたのだが風の異法での土煙が終わったあと現れた壁に向かっての突進を難なく跳ね返している。あれだけの広範囲で行いながらそれほどの強度で硬化を掛けているのか。いくら『遠慮』の土の異法士が優秀であってもおそらくこれで今日の異法は打ち止めと思われる。


そして出現した半円内に取り残されたタテヅノイノシシは狩人に殺到しているはず、この距離ではいくらボウガンを打ちこんでも絶命させるには間に合わない。そう思っていたのだが狩人に到達する前に下から持ち上がった土により墓標のように土壁に塗りこめられていた。


その数7つ。


 先ほどの土壁を作った異法士はおそらく源力が切れているはずだ。この土壁を作り出したのは別の土の異法士と思われる。 それにしても巨獣の巨体を塗り込めるほどの質量、動きを取れなくするほどの硬化、そんなものを7つだ。もうこれで二人目の異法士も源力を切らしただろう。

折角これほどの硬質化をして動きを止めたのなら源力を土に留めたままにしてこれからボウガンを刺して明日まで放置、死んだところを回収するんだろう。うまくいけば明日は凶暴化は終わってるかもしれないので回収も楽に出来るとすれば悪くない方法だ。


 そう思っていたのだが狩人たちは背にあるボウガンは使わない。大男が展開する水の大渦、がっちりした男が展開する大きめの水流剣が固定されたタテヅノイノシシの首を折り、動脈を断つ。 そこで都市内へ帰ってくると思いきや、なんと巨獣を塗り込めた異法が解除される。まだそんな操作をできるほどの源力の余裕があるのか。


 風の異法士とポーターらしい男が手分けして巨体にロープを掛けている。今日のうちに都市内に持ち込むようだ。


すると周りで見守っていた狩人から声が上がる。半円状に取り囲んでいた壁が一気に崩れたからだ。

その外側にいたタテヅノイノシシの集団が一気に狩人たちに殺到する。動きを止めるための土の異法士は既に力が尽きているはず・・・ そう思った狩人がほとんどだったが黒揃えの鎧を付けた一団はまったく焦ることもない。

殺到した9頭のタテヅノイノシシは瞬間に先ほどと同じ土壁に塗りこまれており、同時に再度半円状に取り囲む土壁がせり上がっている。


髪の色からして土の異法士は二人のはず、異法士の常識から離れたその力に感嘆する間にも先ほどと同じように獲物は確実に、安全に彼らの猟果へと変わっていく。これは多数で向かってくる凶暴化巨獣を安全に数頭ずつ狩るための方法だったわけだ。

 

 その行動をあともう一度行って合計3回の小分けの狩りを行った『遠慮』のメンバーは21頭のタテヅノイノシシを狩り終えてから門をくぐる。3度目に展開した半円状の壁はそのままでタテヅノイノシシの侵入を防いだまま、ポーターの男はたった一人で次々に獲物を引きずって都市内に引き入れる。

 一時間も経っていない。

なのに門の内側には広範囲に並ぶタテヅノイノシシの群れ。 それを外壁の上から眺める一般狩人たちには言葉がない。

 


「これが『遠慮』の狩りか。ボウガンは背負ってはいるが足止めも含めて攻撃も全て異法。理屈は分かるがあんな使い方をしたら水の異法も土の異法も源力が持つはずがない。どうやっても俺たちには無理だ。」


「見たところ若い人ばっかりですけどキャリアが長い分、源力総量が高い先輩達はは出来ないんですか?」


「無理無理、俺たちじゃ巨獣を塗り込めてた精度で土壁を4-5個も作ったら源力がどれくらい残ってることやら。 簡単そうに見えるがあれほどの質量の土を操ったうえ、まして暴れる巨獣を押し止めてる。 ボウガンでの攻撃の間に足だけを抑えるのとはわけが違うぞ? あれが簡単そうに見えたなら修練場でやってみるといい。」


 同じような会話がそこかしこでされているのだろう。外壁上の通路では交わされる会話のざわめきは収まらない。


自分たちとは違い、あまりに容易く巨獣を制し、わずかな時間で1か月に相当するような猟果を上げた『遠慮』の様子に興奮しながらパーティーの年長たちに相談している様子が見える。


すると21頭も狩り終えてまだまだ余力を残している様に見えるパーティーメンバーはのんびりと歩いて門をくぐって帰ってくる。


「こんなもんでええやろ。 折角 大森林の移動の手間が無いんやし、無理に昼まで粘る必要もないやろ?」


「だな。実働1時間で狩れるなら文句も無い。」


「血抜きもここで出来る。頭数が多いけどな。」


 一般狩人がタテヅノイノシシを狩るとすれば凶暴化をしていなくても安全も考えて1日に1頭か2頭で帰るのが精々。この短時間でこの成果を上げながら事もなげに雑談している『遠慮』メンバーだが周りの狩人はその様子を黙って見つめ、言葉が出ないのも当然といえる。


「それにしても大森林へ入る前に凶暴化しとる巨獣がおって良かったわ。こんなにはよう終われたし。」


「でも修練はできなかったじゃない。それに獲物はどうするの?ここから指輪リングを開いて中央に行く?血抜きをしてからだけど。」


 メンバーの女性たちは何の疲れも見えず、あまつさえ楽で良かったと先ほどの狩りを評している。それを聞いた狩人は更に言葉を失くす。


「最後だし今日くらい0番地区の買取課に引き取ってもらうか。だがいいのか? 門外にいるやつ全部イケるだろ?」


「そこまで欲張る必要もないだろ。これだけでも十分だ。誰が血抜きすると思ってんだよ?」


「その前に誰がこれ全部引きずって来たと思ってんだ? 歪門に投げる方が楽だぞ?」


「ここからは、詰所から台車を借りればいい。 乗せてくれれば、俺たちも手伝う。」


そう言いながら作業に散っていく『遠慮』メンバー。年若い新人狩人は憧れの目を黒い胸当てを付けた一団に向け、外壁上から地上に移動する。


 そして彼らを北大門の内側で迎え入れた防衛課や保安課の面々は『遠慮』の余裕ぶりに肩を竦めて各々の持ち場に戻る。外には新たに巨獣が集まっているがいつのまにか門への近接を防いでいた土の壁は大地に戻っていた。



「あのぉ、『遠慮』の人たちでしょうか?』


「そうだけど?」


「あのっ! どうやったらこんなに狩れるんでしょうか? 」


「それは他と変わらへんで。 結局、異法で足止めでその間に仕留めるっちゅうのはおんなじやったやろ? 単にボウガンを使って弱らせるよりも異法を使って仕留める方が早いからそうしてるだけやし。

うちらみたいな使用法で源力が持たへんっていうんやったらその分 多人数で構成して交代しながらやれば同じことができるやろし。」


 そう言ってから0番大門付属の狩人詰所に台車を借りに行くのを見送る。『遠慮』の異法士たちと同じ10代の駆け出しから20代の狩人達は水の異法士のその力に羨望を、体のラインが見える鎧を付けた二人の美しい土の異法士に憧憬を向けていた。


『遠慮』はその狩りを実際に目にした狩人から話題が広がり、更にその渾名を広めることになった。




ゴウト 複数パーティーを指揮して1級巨獣を狩った狩人

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