3-24 単なる閑話 (物語と)関係がある女達
赤髪亭が氷の販売の独占を期間限定で認められて数日経ったある日のこと。
3カ月の間 北大門こと0番大門の先に広がる大森林で活動していた狩人パーティー『遠慮』は10月に入って別の地区に移動していた。
その場所は2番大門先に広がる都市東方面の大森林だ。先月9月から北大門地域で探索の距離をより伸ばしていたわけだが2番地区の先に広がる大森林は高低差が少ない。そのため同じ時間を移動に費やせばより遠くへの探索と狩りの場を広げることとなっていた。
2番大門の地域を選んだのは理由があったのだがそれは後のほど。
その頃に行われていたある場所での会話。
「ふぅ……先月に比べて歩くのは楽になったけど距離はもっと増えたなぁ。」
湯船に浸かってため息を付いているのはアマザ。これは寂しい独り言ではなく、周りには同じ年若い女性達が3人同じ湯船に浸かっている。
こちらでも温泉は存在はするが都市内にはない。衛星都市には温泉があるところもあり、最初は硫黄を取るための場所だったが今は入浴施設も設けられている。暑い気候であったまる温泉があってもそれほど人気がなく、異法や燃料を使わなくても薄めればいい程度にしか思われていない。
だが銭湯では一般的な入浴目的で営業しているところ以外に塩を入れたり、ある種の木の実や果実を入れたりして匂いや精油での肌のなめらかさや艶を楽しんだり、サウナのようなものを集めた娯楽目的の施設もある。
日本でいうスパ施設のようなものに相当し、狩人たちが利用するような大門に付属した場所でなく、一般人向けであるために街中などに存在して市民の息抜きや数少ない娯楽となっている。
そこで使用した湯は通常の銭湯よりも不純物が多いので専属の水の異法士を雇って水を浄化してから廃棄している。
水の異法士の浄化能力から言うと再利用しても構わないのだがそこは心理的な問題だ。
「タミーはええなあ、これだけ大森林を歩き回っても全然変わってないやん。うちはまた足が硬うなった気がするなあ。」
そういって隣に並んで湯船に浸かっているタミーに声を掛ける。
タミーの白い肌が温まることで血行がよくなって赤みを帯びている。
親友で同じ女から見てもその肌はきめが細やかで同じ大森林に出て屋外での仕事をしてるとは思えない。
「アマザだってスタイルいいじゃない。そりゃ狩人やってるから筋肉はあるけど腰は引き締まってくびれてるし、胸は私よりも大きいし。」
「でもタミーと違って全体的に固そうっちゅうか、女らしいってことやとタミーの方が柔らかそうでカイルの好みなような……」
「あなたの胸だって十分柔らかいじゃない。乳房まで筋肉で出来てるわけじゃなし。」
アマザは自身をそう評するが別にボディビルダーのように筋肉が盛り上がり、腹筋がバッキバキに割れてるわけでもない。
地球世界の人間とは筋肉の質が違う。カイルが一樹と意識が通じた時に外壁修理で持てる材料の重さで感じたように力が出せる割に筋肉が太く発達しない。なのでアマザがマッチョと感じていても地球世界でみるとそれほどでもない。それでも都市内の一般女性に比べたら肩幅が広めだし筋肉質だ。それに只でさえ身長はカイルとそう変わらない。
ちなみに筋肉の質が違うのは何も人だけでなく巨獣も同じ、だからあっちの世界でも存在する大きさの野生動物でもこちらの方が格段に筋力が強く、そして人間を恐れずに逆に向かってくるので被害が大きい。
「もっと見た目可愛げがあったらええんやけどなぁ。」
「でもそんなだと狩人なんて出来なかったからアンジェやコーリンみたいな状況でない限りはカイルとは知り合えなかったわよ?」
「そうやねんけど。」
そこまで言って自分への話は止めてタミーに話題を移す。
「そういうたら街歩く時にまだ隠してるやん? オウノさんからは別に隠さんでも日に焼けにくいはずって言うてなかった?」
「ええ。 でも前の仕事のことを覚えてて声を掛けてくる男もいるから、それでカイルに嫌な思いをさせたくないし。」
「どっちかちゅーとカイルやったらその事を言うて来た男に追い込みかけそうやけど。」
「それも含めて迷惑を掛けたくないの。」
そこまで話したところで別の人物の声が混じる。
「ええ~~っと アマザさん、タミーさん。 呼び出されては来ましたけれどこれはどういうことなんでしょう?」
ここは娯楽浴場施設でも貸しきることが出来る少人数用の部屋。大衆浴場ではないので浴槽は大きくはない。2メイト四方の正方形で6人までくらいで利用するスペースだ。
会話に入ってきたのは並んだアマザとタミーの対面に座って浸かってるアンジェ、横にはコーリンが座っている。
「お話なら赤髪亭でも出来るのでは?」
そういうコーリンに対してアマザは二人を招集した理由を説明する。
「ほら、うちらと異法士になっとるアンジェは念話で会話も出来るけどコーリンはまだ学生で自分の市民カードを持ってないからウチらとは念話カードでしか念話出来ひんから全員一緒での念話が無理やん?」
工術士が作る念話カードは既に市民カードを持つ相手の源力を定着させて自分との念話を可能にするが出来るのは1対1で通常の市民カードのようにパーティー内などの任意のメンバーとグループで念話することは出来ない。
「それに同じ立場として話したいこともあるし。それにまあ、あなたたちがカイルの好みそうな『もの』を持ってるか敵情視察ね。 敵ではなくてなんというか義理の姉妹みたいものというか。家族になるわけだし。」
「で、聞きたいことやねんけどな。率直に聞くけどカイルがウチらとの結婚を了承してそっちで動きはあった?」
「どういうことでしょう?」
「ほら、その、皆が寝静まってから部屋に来て……とか。」
そういうとアンジェは顔を赤くするがコーリンは平然として答える。
「いえ、全く。 私としてはいいかげん夫としての責務を果たして頂きたいですけれど何も変わっていませんね。 本当に結婚するつもりがあるのですかと問い詰めたいところではあります。」
そう言って湯船から上がるコーリン。湯の中ではゆらゆらと水面に波打っていた白い体毛がぺたりと体について年齢よりもグラマーの身体が強調される。
やや広めの浴室に置かれた椅子に座って体を洗い始め、首から肩の体毛に大量に泡だってもこもこになっている。
「アンジェは?」
「あたしへは何も、それにあたしの部屋は母さんと横並びだし何かあったらすぐに分かりそうだし。」
「分かりそうって……そもそもアンジェを押したのはマリアさんって聞いたわよ? 自分が勧めているんだし結婚まで認めてるんだから夜に営みがあったところで何ともならないと思うけれど。」
「でも、その、恥ずかしいというか。」
「『アンタ、あたしの事、好きなの?嫌いなの?』
『じゃあ、コーリン達と同列でいいからあたしと結婚しなさい!』
って客のいる店の中で大声で怒鳴っておいて恥ずかしい言うのん?」
「あ、あれは告白だし、今の話はその、『夜』の話だし……」
などとアマザがアンジェと話している間、コーリンの隣に座ったタミーはコーリンを見ながら話しかける。
「コーリンの背中の体毛って割と長いんだけれど櫛で梳いたりするの?」
「はい、銭湯に行くのはヴェガやアンと一緒が多いのでその時に手が届かないところはやってもらってます。」
「ふぅん、じゃ今日は私がやってあげるわ。 アンジェはアマザに掴まってるみたいだし。」
「でもまだ洗ってる最中ですよ。」
「それでも手で梳いたり、体を洗ったりは出来るわよ?」
そういって首から背中の体毛部分の撫でて指で梳くタミー。しかしそのうちに体毛が生えている以外の背中部分を手で撫で始め、更に体を密着させて手を体の前に回す。
その間も頭を洗っているコーリンだがタミーが体の前をその手でまさぐってもそのまま気にせず洗い続けている。
「うーん、やっぱりアマザよりも大きいわね。カイルの色の好みには合ってるはずだけど本当に今まで何もないの?」
後ろから乳房を触られても別段気にした様子もないコーリンは少し気落ちした感じで返答する。
「あの人はヘタレですね。少なくとも男女の営みに関しては。」
そう断じてから頭から湯を浴びせて泡を落し始める。
「彼に掟のことを話した後に抱かれに部屋を訪れましたが追い返されました。その後にも忍び込んでベッドに潜り込みましたけれど何もしてきませんでしたね。」
カイルがアマザやタミーの告白を受けても動かなかった理由を聞いた時のことを漏らす。
「ちょっとコーリン!」「それ本当なん?」
アマザとアンジェはコーリンに確認するが当人は焦ることもなく至って普通に返す。
「本当ですよ? 別に行為に至ったわけではありませんが枕語りに聞かされたのが例の重複化の副作用の件でした。」
「ふぅん、コーリンのこの体を見せてもカイルは何もしてこなかったの……やっぱり学生の年齢には手を出さない、あるいは結婚するまでは手を出さないつもりなのかしら? でも体の相性も確かめてから結婚に至るものだけどカイルは気にしないのかしら。」
コーリンから体を離してタミーは長い髪を洗いに取りかかり始める。首を右に曲げて髪を片方に垂らして髪にお湯を掛ける。
「アマザさんやタミーさんは彼から何か『夜のアプローチ』はされてないのですか?」
「ウチにはなんも。っちゅうか二人が加わる前も狩りの終わりとか休みの日に会うとったけど『そう』なったことないもんな。なんせオウノさんとこと薬店の主人とこに通っとるから忙しそうにしとるし。」
「そうね、会うにしても夕方まででその後にあちらに行ってたし。女を抱きたいとは思わないのかしらね。」
「そんなことは無いと思いますよ? 手は出してきませんでしたけど態と肌蹴たように見せかけていたところ興味津々のようでしたし。抱かれに来たといった上でも手を出さず、かと言って無関心でもいられずというところでしょうか。」
「そうね、そういえば私がカイルに最初にお礼をしようと家に招いたときに全裸で彼の前に立った時にはそのまま関係結びそうになってたっけ?」
「タミー、カイルに迫ったってのは聞いたけどそんなことやっとたん?」
「でも裸になったせいで私の身体の秘密に気付いてくれたみたいで素っ裸でいる私に医術を試してたわ。なんかそっちの方が恥ずかしかったわね。」
「タミーもコーリンもカイルに全部見せたんか……」
それぞれの会話を聞きながらコーリンは体の泡を洗い流して再び湯船に入る。その時のしぐさで揺れたりお湯に浮く彼女の豊かな胸と比較、アンジェは視線を下に落として年相応の自分の胸に敗北感を感じつつ反撃に出る。とはいえ正面から見つめ合って争うようなものではない。コーリンと入れ替わりでアンジェが髪を洗うために湯船から出る。
「それほどの胸を持ってて相手にされてなくて御愁傷様、でもそれが悔しいのかもしれないけどちょっとカイルに事あるごとに子供とか夫の勤めとかっていうのははしたないんじゃあ?」
赤い髪はポニーテイルをほどくとそれなりに長い。とはいえタミーほどではないので洗髪するのに長くはかからない。
「うちらと違ってカイルと一緒んとこに住んでるから部屋に忍び込んだり、添い寝したり、直接的に求めたりって羨ましいような、悔しいような。」
「アン、あなたも興味がないわけでもないでしょう? 折角一緒に住んでるのだし同じように夜に忍び込んだらいいのです。
それとアマザさんももっと積極的にカイルを求めるべきだと思いますよ?」
「やっぱり結婚前に『試した』ほうがええかな? 今の距離感が気持ええっていうのもあるんやけど。」
「お忘れですか? カイルさんは狩人です。 同じパーティーのアマザさんとタミーさんも同じく大森林に入る以上はいつ死ぬことになってもおかしくはないんですよ?」
コーリンがそう言ったことで会話が止まる。
その通りなのだ。
カイルのせいで一般の狩人よりも成果もあげて異法士としての強さも同年代どころかベテランにも勝てるのでは思っている。いやカイルが作った源力の補充装具があれば勝てるだろう。なんせ普通の異法士からすると残りの源力総量が無視できるのは卑怯ともいえる優位性だ。
しかしその異法士が5人そろっても1級や特級と遭遇したら、それどころか普段軽んじている大森林の虫だが未知の病原菌や毒を持つものがいたら死ぬ可能性は否定できない。
「もちろん夫婦としての繋がりを持っておく目的もありますがカイルさんが狩人をしている以上は私は早めに子供を作っておくべきだと思っています。なのでその努力をしているというわけです。」
それを聞いてアンジェもアマザも思うところがあるようでしばし無言。
ところがその無言のせいで開けた小さな窓からなにやら声が聞こえてくる。その声が嬌声であることに気付いて4人は更に無言になる。
ここは4-6人用だがこの奥には2-3人とかのより小さな個室の貸切浴室がある。そこで行われている情事の声が漏れてきていると気付いて無言の上にお湯が原因とは違う赤面を浮かべる。
カイルと来年結婚後にどういう生活を送るつもりなんだろうかと相談するはずだったがそれは後日に回して4人はそそくさと貸切浴室を後にした。
前回同様で別に話が進むわけでもなく、年末で忙しいでとりあえず今回も話数稼ぎでした。
普通 体を洗ってから湯船に入るのはこの世界でも同じですが貸切のために使用後は湯を入れ替えるので先に浸かってました。




