3-23 単なる閑話 (物語と)関係がない男達
「では失礼します。 カキ氷の食器はサンタシさんかタンジーさんに預けて頂ければ買取のついでに持って帰りますのでお願い致します。」
そう言って荷物を背負って男は退出していった。
何故かドアを出る前に頭を下げていったが彼は誰に対して何を謝っていたのだろうか?
氷の作成者でここにいる男達を感嘆させた活発そうな少女は先に帰っている。結婚相手に引き寄せられて気の強そうな彼女が恥ずかしそうにしていたのは微笑ましいものだった。
既にああいった反応を当事者として楽しめるには年を取り過ぎている俺たちには眩しく映った。
既婚者から言わせてもらうと「これからが大変」なのだがそれは身を持って知るだろう。
彼が退出すると中央買取広場の店を任せられている会合の代理出席者たちが足早に去っていった。
たぶん自分達の部下に火の異法士がいるか?あるいは自分の地区で有望な火の異法士がいるかを探すためか、あるいはその指示を出すためか。
扱うことになる氷の値段が高額でないといってもそれが大量に売れるものならば話は違う。なんせ元がタダ同然の水なわけだからな。
需要が多いことが見込めるなら手を打っておくのが当たり前だ。
今は彼らの専売が認められても既得権が消える2年後には一般化するのだから準備はしておかなくてはならない。
彼女の店のように氷そのものを売るほうがいいのか、あるいは氷を作成出来る異法士を育成して派遣したほうがいいのか、いずれにしても火の異法士に試させてみてからだな。できれば広く募集したいがそうなると人の噂で氷の作成が漏れる、すると都市内の火の異法士が氷の作成に成功したならば勝手に売り始めるか地下で売るかもしれない。そうなればこちらにも彼らの優先権を阻害したということでペナルティが課される恐れがある。まずは自分達の店や系列のものから異法士を選び出すことから始めよう。
会議室に残ってる関係者は『中央』『3番』『4番』『5番』、そして都市買取課のサンタシ、『8番』の俺の6人か。
会合は必ずオーナーが出るものではなく、その大店の誰が出席するかは時々でことなるので個人名でなく担当地区の番号で呼ぶのが習わしだが今残ってるのは顔見知りばかりだな。
「流石に嫁さんをいっぺんに4人も貰おうって奴は変わっとるというかなんというか。
儂らのような大店を構えるものの中には妾を持つ者はおるが正式に一夫多妻制度を利用するものはおらん。妾は金で別れては、また新しい妾を持つもんだからな。
それに今更 異法に別の力があることを見せつけられるとは思わなんだわ。老人はたくさんの道を知っていても新しい道を見つけるのはいつも若もんってことかのぉ。」
「『3番』さんよ。あの小僧に驚かされたのはこれが初めてじゃねえだろ。
ここにいる問屋は全員 『偏食』と『遠慮』の猟果の競争でありえないもんを見せつけられたろ? あれから全員『遠慮』を調べてあいつに行きついたんじゃないのか?」
「そうだな『8番』、惜しむらくは縁続きで『中央』に既に取引相手として取られてたってことだな。だがあの馬鹿らしいほどの猟果をもらした原因が彼に有ると見ているのなら『小僧』と呼ぶのは不適だな。どんなベテランでもあの人数のパーティーで一日で狩れるようなもんじゃなかった。」
「『4番』さんのおっしゃる通りですよ。 あの日の猟果の異常さのインパクトで隠れてますけど今も毎日狩ってくる内容だって十分馬鹿げてるんですから。
おかげで担当地区からの調達依頼をこなすのに馴染みの狩人に声を掛けるよりも『中央』さんから回してもらう方が早いくらいですもん。今のところ彼らは北大門が主な活動地域らしいですから巨獣タイプの肉や素材に関してですけどね。」
そういうのは『5番』。代表ではないが入り婿で買取窓口を任されている。
「ウチもここまでやってくれるとは思っていませんでしたよ。ですけれど一番美味しいのはサンタシさんでしょうね。」
『中央』は先ほどのカイルというポーターが所属する狩人パーティー『遠慮』からの買取を最も多く行っている。時折 高額での調達依頼が出ている素材はその地区へ回してくれるのは有りがたい。希少な素材ゆえの高額依頼品を融通し合えるのも同じ有力な大店同士での付き合いゆえだ。
今回『中央』と呼ばれているのは問屋リクコの代表代理として会議に出席していたタンジー。『遠慮』が取引をする中心の問屋であることから他の問屋から羨ましがられていたがそれが妬みに変わっても困るのでサンタシに話題を向けるために話を振った。そして『8番』もそれに乗っかってきた。
「サンタシさん、明らかにはされてないが宝石の原石を持ち込んでるのはあいつだろ?」
「さて? 原石については一年間の既得権が認められているので私たちにも守秘義務がありますのでなんとも。いずれは判明しますよ。」
サンタシは明言することはなかったが原石が高く売れるものだということを嗅ぎつけたものはその出所を調べているので薄々感づいてるものはいる。
実は既得権益として認められている内容に持ち込んだ人物の公表までは含まれていない。持ち込んでいる人物を認めると入手先を調べるためにあとをつけたり、脅したりするものが出る恐れがあるので口にすることはないのが普通だ。その代わり既得権の期限が過ぎれば入手場所などは大森林から採れる素材データとして公表される時に報告者としてその名前が開かされる。
「なんせ巨獣に比べて懐に入れて運べるものだからな。最初は誰が持ち込んでるのか分からんかった。 ありえない巨獣の猟果を上げてから彼らに注目が集まるようになってからは巨獣以外のものを大森林から持ち帰っていることに気付いてるものもいる。
どうせ他都市への交易品としてなら民間交易人へ売買しない限りこの都市では需要はないようだから構わんか。
そのうちどう変わっていくかはわからんがこの都市内ではそう短期間で価値あるものと認識されるようになるとは思わん。なったところで金を持っている者たちの間だけだろう。
他の都市の交易人たちもここでは産することがないものとして交易依頼品としてリストアップしてなかったのだからな。それなら他の都市に出向くこともない、大森林からの調達物や農作物の流通しか頭にない俺たち問屋がその価値に気付くわけもなかったか。」
「それが私にしても全く偶然だったんですよ。たまたま他都市の交易人が来ていたので相談してその価値を知った次第で。 持ち込まれたものをそのまま一笑に付さなくて良かったですよ。 もし他の問屋に持ち込まれて都市間交易でなく民間交易で原石を扱われることになってたら良くて左遷、ともすれば首が飛んでいたかもしれませんね。」
「お上もきっついねぇ。ってバラしてるじゃねえか。」
「いえいえ私は原石が持ち込まれたことを担当したことは明かしましたけどそれが「彼」とは言っておりませんよ? それを勝手に彼と結び付けているのはそちらですし。」
しれっと答えるサンタシ。
「相変わらず若いのに主任だけあって狡いですねぇ。」
そしてその返答を評したのは『5番』。
その様子を見ながら俺はスプーンでシャクシャクと果汁水の氷を崩しながら口に運ぶ。
「それにしてもこのかき氷ってのはいいな。寒いくらいに体が冷える。こんな時間でなくて暑い昼に出して欲しかったな。」
それには他の連中も同意見のようだ。
「しかし氷は単に冷やして飲むだけの使い道かと思ったらまだ何かありそうだったな。 あいつを見てるとほかにもやらかしてくれそうで面白そうだ。」
「今回の異法だけでなく彼は他にも持ってますよ? それについては言うわけにもいけませんがね。
先ほどの『3番』さんの身内絡みで赤髪亭に行ったんですが面白いものをごちそうになりましたよ? おそらくはそのメニューも彼が発案したものでしょうね。いずれ3番地区を中心に広まりそうですね。」
そう言ったサンタシだが後に大きく広まるのは3番地区と中央地区となる。
「人にない発想が出来て、稼ぎも多くて、料理も出来る。おまけに若いとあっちゃ女性にもてるのも当然でしょうか。
いくら一夫多妻制度が廃止にならなかったとはいえ4人も娶ることになるのも納得です。私もあやかりたいですねぇ。」
そうこぼす『5番』だが、こいつだって女に関しちゃヤンチャをやってたもんだ。
「何言ってやがる『5番』。おまえが狩人だった頃の悪行を忘れたとは言わせんぞ? 今のカミさんに捕まって問屋に入る前はとっかえひっかえ、何人泣かせたんだ? ん? それに比べりゃちゃんと責任取るだけあいつはマシだろ。」
「違いないですねぇ。」
結婚が決まってるくらいなのだから関係を持ってるのも当たり前だし、若い男なら色事に嵌ってるのも当然だと思っている。
カイルが今のところ手を出してないことを知ったら一気に評価が下がって女に押し切られた単なるヘタレと思われていたかもしれない。
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「それにしても今日のオブザーバーは変じゃなかったか?
いちいち会議に上級職員が出張ってくるなんて俺たち10店のどれかが入れ替えになる時くらいだ。いつもなら都市から職員は一般職員だし、人数もオブザーバーぐるみでの不正を防ぐために二人のはず。3人いるなんて初めてだろう?」
『4番』さんがそういった通りだ。報告を上げた際に上級職員の元に呼び出されていくつか明かされたことがあったので納得は出来るが普通こんな素材を扱う会議で上級職員が出張ることはない。
「3人目」がいる理由も聞かされたがそこまで警戒する必要はないと思うけれどな。
それにしてもカイルさんが彼に鍛えられたとはね。都市に移民してきた時の情報なら彼の息子といえるはずですが……何か事情があるのでしょうな。
先ほど『5番』さんが若くて稼ぎが良くて料理も出来るといいましたが更に『強い』のも間違いないようですね。私たちのような職員が実際に狩りの現場を見られるわけでもありませんけれど。
「しかし『3番』さんには悪いが先ほどのズマという男には呆れましたな。
彼が娶る妻の数まで調べておいて肝心の彼の周りで何が起こってるかを把握していないとは。彼に食ってかかった時に周りのものも一気に脱力しておりましたな。10番での騒動を知ってるなら彼に力で挑むのは無駄だと分かりそうなものですが。
あれでは『3番』さんが切るのも無理はない。
例え今回のようなことをしなくてもいずれは切ったんでしょう? あるいは周りに話題になるように切る機会をここにしましたか?下の者への引き締め目的ですかな? 」
「あれでも昔は出来が良かったのですがな。何もしなくても金が集まるようになれば努力も怠る。 特に人を殺めるようなことを指示したわけでもないから罰金か、あるいは短期の強制労働で済むだろう。あとは蓄えだけでもやっていけるので気に掛ける必要もないですな。」
甥であっても、いや身内がやらかしたからこそ厳しく対処するか。
こうでないと下の者は付いてこないんだろう。
うちの部下たちにも上司としてビシっと言ってやりたいが女ばかりでどうにもやりにくい。そもそもなんでうちの窓口はこうも女の比率が高いんだか。理由は分かりますが、中央窓口に入るには要求される能力は高いはずなんですけれどそうまでしてなりたいものですかね。
そう嘆くサンタシだが女からすると金回りが良くて、仕事は多忙で留守が多い、死ぬ危険もあるが金を残してくれるならそれでも良し、そんな男との出会いを目的にして一心に努力してくる。なので買取窓口勤務には女子の希望者が男に比べて圧倒的に多い。でなければカイルに対して軟禁なんて事態は起こらなかっただろう。
「ところでアケーシさん、今日あなたが来たのは彼を確認するためですか?」
私はこの会合のオブザーバーの内、まだこの場に留まって一人でゆっくりとかき氷を味わっている老翁に声を掛ける。
「いや、私は既に彼は知り合いでな。確認というよりは知己が関わっているから見届けに来てみた程度だ。思わぬ収穫があったし来てよかった。」
「氷はそこまで良いものでしたか?」
「それとは別のものだがな。都市絡みではない個人的なことだ。」
そこまでいうとまたゆっくりと凍った果汁を味わい始めた。
「ところでサンタシさんよ? まだあいつが何かあると言ってたけど何を掴んでる?」
「詳しくは話せません。というよりも彼が今やってることが結実するかは時間がかかるかもしれませんね。 なんにせよ狩人以外にやってることが多すぎる気がします。 私生活においても来年とはいえ複数の妻を得るわけでしょう?
すこし休んでもいいと思いますけれどねえ。」
輝虫の養殖に根のない薬草をキノコとして食用に転化、おそらくはそれに関すると思われる8番地区の試験用の土地利用。
そのうち大森林で倒れるんじゃないのかな、あの人。
「さて、では儂らも部下にいる火の異法士に声を掛けてみるとするかな。
そういえば彼女が氷を都合してくれるのはいつからなんじゃ?」
「来週から1週間に4回来てくれるそうです。但し彼女はまだ学校に行ってるので都合があるため来る日の指定は出来ないそうです。
ただカイルさんによるといずれ保存用の箱を作るそうですよ。それまでは提供された氷は詰所近くの酒場にしか提供できないでしょうね。解けてしまうのでそれまでに消費しないとダメですから。」
しかしアンジェがやってきた時に氷を大量にいれるための箱を氷で作るということを行ったため製氷皿で大量に作った氷もそれなりに解けずにいたことと、見た目が涼しげなことで酒場を喜ばせることになる。
氷を保存する保冷箱をカイルが持ってくるのはしばらく後のことだった。
単なるおっさんたちの会話でした。
年末になって多忙になりそうなんで話数だけでも稼いでおこうかなと。




