3-6 学校にて
昨日リクコからの紹介で若い狩人から素材と加工の依頼を受けた。
俺たちの店じゃ武器も防具も厨房道具も土木道具も農耕具も金属製品なら一通り作る。狩人が依頼してきたのは巨蟲由来の素材を使った胸当てと四角くて大きめの平たい底をした鍋だった。
変わった鍋とその内側に重ねて使う網のような格子の籠みたいなものがセットとのこと。話だけ聞くと作ったことがない調理器具だったが狩人は絵心があるようで分かりやすい絵を描いてもらったので助かった。
特に特殊な金属は使わなくていいとのことだったので銅を使うことにする。
一般的な鍋板の大きさに合わせて底を決めてから素材の銅を鍋の厚みになるよう平たい板に成型。さらに同じ厚みにした銅板を前後左右に立ててそれぞれの板の接着面を異法を馴染ませて作る。
こんなにデカイと柄よりも左右に取っ手をつける方が持ちやすいだろうから銅を左右に追加して縁と馴染ませて取っ手として形を整える。
後は同じく銅を0.2モイト程度の直径の細い棒にして格子を組んでっと・
格子が重なるところは異法で金属を同化させて、重ねて余った部分は伸ばして均等な厚さになるように異法で形を整える。
これを先に作った鍋の底にいれて深さを合わせるように調節してから取っ手を正面に付けて出来上がり。
簡単に出来あがったがこれは土の異法が使えるものなら誰でも出来るわけではない。
画用紙と筆を渡されて目の前の風景を描いてみろと言われてその通り描けるか?というのと同じだ。 もちろん上手く描けるものもいれば遠近感すら表現できない人だっている。目を通して得た情報を指を通して絵で出力ができるかどうかは個人次第、同じように目で見た情報をそっくりそのまま異法で再現することができるかどうかは個人の資質、そして修練次第なのである。
現代日本じゃ3Dプリンターなんてものが現実化、いや流通しつつあるが。
しかしそこは店を構える異法士。材料さえあれば一時間もかからない。
確かに土の異法でも金属は堅くて扱いは土や砂で形を作るより難しくて源力の消費も大きい。だが鍋に使う厚さの金属の板に伸ばしたものを準備していればさほど労力は掛からない。
そもそも料理器具に使われてる金属製品をを曲げるくらいはどうってことはない(岩石とは違って金属組成が均一ってこともあるが)、異法どころか力自慢な男はフライパンを素手で曲げるような奴もいる。
因みにギネスブックでも制限時間にいくつフライパンを曲げたかなんてものもある。
こういった金属を扱う鍛冶屋は土の異法士だけで成り立つかというとそうでもない。
土の異法士がいくら金属の形を変えることに長けているといってもそれは外観だけだ。
陸上競技で使う砲丸が形だけ全部同じでもそれぞれ重心が微妙に異なっており、日本の職人がつくる重心がぴたりと来ているものがオリンピックで使われているように異法での形成が長けていても所詮は形だけだ。
調理具は異法だけで作成してもいい、だが土を掘る農耕具や身を守る防具、狩人が使うブッシュを払い、皮を剥ぐナガサなどの刃物は異法では作らない。
今もなお金属を叩き、焼き、冷やし、火と付き合いながら作ってる。
異法では鍛冶のような金属を締めるといったことができないのだ。金属分子や種類、構造が見て理解できるものでない以上は同じ物が異法で出来るわけもない。だが歪みなどの微調整には便利であるので異法ももちろん鍛冶場では便利な技術ではある。だが鍛冶職人には土の異法は必須とはされていないのが現状だ。
精製も異法で行うことがあるがそもそも異法士が鉄が何なのかを理解した上でないと取りだすことすらできない。水の異法士が汚れた水を「飲めるほどの飲料水とそれ以外」に分けるのとはわけが違う。それにそういった異法は源力を大量に消費するため一日の作業としてはやはり普通に溶かして精製していくほうが量が扱える。
銅を叩いて延ばして防具を作る職人は必然的に銅に対して理解が深まるので異法での精製や変形も銅が得意になっていく。なので鍛冶職人の異法士は金属毎に得意な異法士が存在している。
「さて、鍋はこんなもんでいいか。しかし内側にこんなもんいれてどうすんだろう?茹でた野菜でも持ち上げるのか?そのままスープにすればいいと思うんだが。」
彼は中央地区に店を構える鍛冶職人なのでまだまだ一部ローカルで人気程度の唐揚げの存在は知らない。
「あとは防具だが、まずは素材の防腐と強化処理をしねえとな。」
巨蟲由来の素材を扱う場合、初めての持ち込み素材の場合はどうやって処理をするか未知の時は断るしかない。都市の素材を扱う課に持ち込んで調べてもらわないと自分たちでは無理だ。
だが今回のクロガニは既知の素材だったため、処理と強化に使う薬剤を調達してからとなる。
巨獣が持つ素材は金属を取り込んでるだけで金属そのものじゃない。金属として取り出すなら一度燃やして溶けた金属として取り出す必要があるのだが素材の状態の方が軽さと強度のバランスがいい。
なのでそれを生かすために素材に防腐処理をしたり、加工しやすいような処置を加えることになる。
狩人それぞれが持ち込んだ素材を受け取る際に採寸したが「蛇腹」構造なぁ。作るのが邪魔くさそうだが布の上に張り付けるか、あるいは素材を輪っかで繋げてつくるか……いずれにしても別の素材で試作をしてからだな。
依頼者が持ち込んだ絵を参考にしながら頭の中でこれまでよりもパーツがやたらと多くなるだろう胸当ての作成過程を立てて見る。
年輪都市での防具はせいぜい胸当て、手甲、すね当てくらいだ。
都市間での抗争、戦争がないということと、防具の目的が大森林での狩りということでそれくらいで十分なのだ。全身を覆うプレートメイルなんて作っても大森林にそんな格好で入るわけにもいかないため使用するものはいない。
巨獣から距離を置いてボウガンでの攻撃が主流であるため、大森林での動きやすさを重視した今の防具からあまり変化が見られることはなかった。
武器にしても使用の用途が狩りであることと大森林の中では剣、槍は使いにくいため発達してこなかった。その代わりブッシュナイフの類は他の都市に比べて発達している。
これまで大きく依頼内容が変わることがなかったため新たに持ち込まれた作成依頼に頭をひねりつつ、もう一つの依頼を考えていた。
鉋のように削る刃を付けた調理具? それも上から押し付けるための板とそれを回転させるための取っ手。
なんだこりゃ? 野菜を薄切りにでもするのか?
カイルは心術のトレーニングにより自分の源力を相手に馴染ませればイメージを伝えることができるので職人に伝えれば早いのだが心術士の力があることがばれるとまず都市から接触されて能力の判定とそれによっては能力制限、行動の自由の制限もありえるので絵と説明で伝えるしかなかった。
そのため家庭用の電気を使わずに取っ手を手動で回す氷製造器はうまく伝わっていなかったので職人の頭を悩ますことになっていた。なお大量に注文が来た場合、取っ手を力で抑えつけながら回すのは力がいるため昔のかき氷屋にあったような金属の大きな輪っかが取っ手と氷を押すおもりを兼ねたでっかい奴である。
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年輪都市中央地区には都市の庁舎があるほかに富裕層が居を構えている。
富裕層がいるのは都市中央地区は家の値段が高いため、そして値段が高いのは外壁を破壊して侵入してきた巨獣がいても中央地区に到達する心配が少ないためとなっている。
中央に近いほど年輪都市の再興時期から人が住んでいた場所となるので古く続く家も多い。永く住んでいるから名士とは限らないが。
そういった富裕層、都市中央庁舎に努める職員などの子供が通ういくつかある学校。
通常11歳から14歳までの4年間が修学期間となり、卒業時に都市の祝福を受けて市民としてカードを持ち、その後は2年間の職業訓練期間(あるいはパートナーを見つけるための自由恋愛期間とも)を経て正式な職に付く。
11歳からなのは就学年齢を高くすることで授業の内容の習得にばらつきがでないようにする意味がある。とはいえ読み書きに関しては就学前に一通り家庭で教えておくのが一般的でそれを踏まえての授業が最初からされている。
生活に必要な実学が主な他、誰に発現するかわからないので異法の基本的な説明がされたり、体力を作る意味での体育のほか卒業後の進路を探るために衛星都市へ仕事の体験をするために出かけたりもする。
そんなありふれた学校だが中央都市の学校では時に変わった生徒が入学したり転入してきたりする。
11歳未満の年齢で空間操作異法士としての力が発現した者、あるいは修学中に発現した子供たちだ。
その力を制御、管理、保護するために都市中央のある地区に住まわされている「角付き」こと空間異法士たち。子供であってもその力を発現したものは親元から離され同じ空間異法士たちと暮らすことが決められている。
しかし人格形成期の子供のうちは普通の学校に生徒として通う。重要な能力者で都市の生活に必要な存在ではあるが選民意識を持つような偏った人格になることを防ぐためでもあるのと唯でさえ「都市の祝福」を待たずに異法を発現するものは少ないのにその中でも空間能力者を発現するものは少ないため、専用の学校や教育者を付けるのは意味がない。
将来力と引き換えに何不自由がない生活が保障されていることをやっかむ生徒が中央地区の学校に通う生徒なら親の職業上少ないということもあるようだ。
空間異法士は他の異法士のような爪や髪への特徴発現とは違い、肌の一部が堅くなって変質するという特徴がある。その見た目から「角付き」と呼ばれるのだがその場所や大きさは人により様々。
この学校に通い始めたその少女は眉間という目立つ場所に角が付いていた。幼い頃は丸く盛り上がった塊のようだったが成長と異法の訓練のせいで徐々に大きくなり、鋭角ではないもののまさしく「角」となっていた。茶色の前髪はアップされておらず、ストレートに下ろしているがその角は隠れる大きさではなかった。
見た目そのまま「角付き」である彼女を羨む者、その先に自由がないことに憐れむ目を向けるものがいる中、年の割には落ちついてる雰囲気を纏ってゆっくりと校門をくぐる。
「ナージさん! おはよう。」
校舎の玄関前で待っていた金髪碧眼の少女が角付きの少女に声を掛ける。
「おはようございます。カコさん。」
ナージと呼ばれた黒色の髪と茶色の瞳を持つ少女は重そうな鞄の取っ手を両手でもって挨拶を返す。
「相変わらず図書館で借りた本多いね。」
ナージが持つ重そうな鞄を見るカコ。
「うん、私たちってあんまり外へ行けないから……」
あまり会話が得意ではないのか言葉数が少なく、明るい表情で快活なカコに比べると清閑といった印象を受けるがカコに釣られて見せる笑顔は寂しげなものではない。
二人一緒に校舎に入りながらカコからの会話は続く。
「その、いつも宿題みてもらってるから「お兄ちゃん」のお友達に頼んでペンダントを貰ったの。お礼に貰ってくれると嬉しいな。
出来れば宝石だけもらってあとは自分で形を考えて作ってもらいたかったんだけど他の都市との交渉が止まってるとかで仕方がないもんね。でも変わった色のが貰えたんだぁ。」
朝から図書室に本を返しに行く彼女に付き添って図書館に入ると鞄から布に包まれたペンダントを取りだす。
「ほら、黒い色の中に色んな光が出て夜空みたいで綺麗でしょ?」
ブラックオパールのような輝きをもつ宝石がドロップ形に加工されて金属の枠に嵌められている大きさはそれほどでもないが周りが銀色の金属なので黒が引き立っている。
「同じ色のを二個貰ったから一つは私がしてるの。ナージさんもかけてあげるね。」
特に抵抗もせずにカコの為すがままにペンダントが首に掛けられるのに抵抗しないナージ。
ボブカットの彼女の首の後ろの髪を上げて適当な長さで紐を縛る。
前に回ったカコは自分が掛けたペンダントを出して嬉しそうに笑う。
「ペンダントだから腕とかにつけてブレスレットとしても使えるけど学校じゃ邪魔になるからネックレスの方がいいよね?」
胸にある黒い宝石を持ち上げて見つめたあと
「ありがとう。カコさん。でもいいの?高価なものじゃないの?」
戸惑っているわけでもなく、あまり感情の抑揚がないように見えるナージだが友人から高価なものを受け取るのは恐縮しているようだ。
「大丈夫だよ、ちゃんと貰った人にお礼は伝えたし。それにこれは試験で作ったものだからお金は掛かってないから気にしないでいいって。」
「そう、私からもお礼を言った方がいいのかしら? 」
「じゃ、ニミヤお兄ちゃんにナージさんがお礼を言ってたって伝えとくね、あとキニダックさんにも。」
カコがそういうとナージは少し動きを止めたがその後はいつもと変わらなかった。
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年輪都市に住まう住民の衣服のために綿(に近いもの)を栽培する目的で作られた衛星都市がある。日本世界よりもやや乾燥した土を好むため川などが少ない地域に作られており、他に他都市から持ち込まれた乳牛なども飼育されている。
本体である年輪都市より数十ミイトも離れているが衛星都市ゆえに歪門で移動が可能なため移動の時間はかからない。
大きさも人口も年輪都市よりも少ないが同様に大森林の中にあるため巨獣の侵攻を防ぐために外壁で囲われている。
穀物などは年輪都市より運びこまれ、肉類は衛星都市にすむ狩人たちにより調達されている。もし手に負えない巨獣が襲ってきたなどの脅威が生じた場合は歪門を通って年輪都市へ避難することになっている。
他にも鉱物採取を目的に作られたものや木材採集を目的に作られた普段人が常駐していない小屋も含めて年輪都市の周りにはいくつかの衛星都市が作られている。
そんな衛星都市の一角に獣人族が多く住む場所がある。
中でも白と銀の体毛を持つ自らを「白銀」と自称する一族がいる。
この衛星都市の中でも入植が早かったことからこの都市職員ではないが住民の代表、まとめ役を行う者達だ。
彼らは家族でなくても同じ一族なら同じ家、敷地に住むことにしており、かなり大きな二階建の家が中庭を取り囲むように建っているのだが、それが個人の所有物であっても大きさに見合うだけの人数が住んでいるので都市からは何も文句はつけられていない。
その一角から男の怒鳴り声が聞こえていた。
「ならん! 一族の習慣とはいえお前はまだ子供だ! そもそも学校すら出とらんではないか!」
激昂する声に対して答える声は冷静。
「ですが掟は掟。そもそも父さんも以前から混血ではなくなっても習慣だけは繋いでいくように言っていたはずです。」
「だが男1人に妻3人だと? いくら一夫多妻制度が残ってるとはいえ、生活の基盤も定まっていない研修期間中というではないか。そんな状態で女3人に手を出すような男にお前をやれるか!」
「ですが既に一夜を共に過ごしましたので。」
「くっ!」
娘の返答はぐうの根も出ない結婚の条件である掟だ。幼少の頃より自分たちの風習を守るようにと言い聞かせてきたことが仇になるとは。
灰色に艶がかった銀に見える髪を短く刈った長身痩躯の男は口を噛みしめる。
「ですので私は学校を卒業後は年輪都市で夫と暮らしますので。」
そういって部屋を出る娘を苦虫を潰した様な顔のままで見つめていた。
カコ ニミヤの許嫁でナージのクラスメート
ナージ 南あわじ市からもじって ナージ・カイロク
リクコ 大店の問屋
1メイト=1m
1ミイト=1km
カコがカイルと出会ったときに渡した原石ではありません。
その後 ニミヤを通じてカイルから原石を分けてもらえないかと相談した後に『偏食』メンバーに渡した残りのペンダントを渡したもの。
『偏食』には赤、黄、青、緑、紫、の5つの色を渡して残りの一つの色がコレです。




