3-3 新メニューを生み出すために
「ない……。」
複数の厚い本を机の上に広げて目次を見るが目的の買取品目の項目はない。
ダーナの父との話し合いを終えて夕食を御馳走になり、何か手土産でも持ってくるべきだったかと後悔しながら辞した後、俺はその足で中央買取課の資料室にやってきた。
狩りの合間に何か拾って副収入になるものはないかと買取課に持ち込まれている大森林由来の素材を調べ、更に薬草関連の資料も読むようになっていたがその間に幻妖、そしてその大型種とされる巨妖に関する素材資料を見たことがない。
これまで俺が大森林に入ったのは0番(北)大門と10番大門の外だけだ。
それ以外の地域に幻妖、そしてその大型種といわれている巨妖がいるのならば中央買取課のこの資料室にはその資料があるかと思ったのだがない。
つまり狩人がそれを持ち込んだことも買取りした実績もないということ。
ならば幻妖の存在が眉唾説が強くなるが、完全草食動物のように人の活動域から逃げて暮らしている可能性もある。だが少なくとも完全草食動物みたいに捕獲は難しくても遭遇目撃情報はあってもおかしくないはずだ。
アケーシ翁の言い方だと知らぬ存ぜぬとして欲しいように思えたがそもそも幻妖ってどういう生物なのだろうか?
巨獣は体毛がある獣の大型種
巨竜は鱗を持つ爬虫類の大型種、大型両生類も含んでいる
巨鳥は大型の鳥類と飛翔能力を持つ爬虫類(といっていいのか?翼竜みたいなものだ)
巨蟲は大型昆虫そして甲殻類も含めた節足動物
日本には存在しない翼竜のような生物が存在しているものの哺乳類、爬虫類、鳥類、両生類、節足動物などひと通りの生物はカテゴライズされていると思うがこれに含まれないものかだろうか?
ひょっとして恐竜類?
人を襲ってきたってことなので肉食恐竜と考えれば巨竜だが二本足で立っている存在を別のカテゴリとして捉えられていそうだ。それに日本の世界でも恐竜は爬虫類じゃなくて別のカテゴリだしな。
結論は出ないし考えても仕方がないことか。
バダンっ!
厚い紙の上にハードカバー、新種は追補として挟み込むために紐で綴じられているぶっとい資料本を閉じる。
アケーシ翁の口ぶりからするといずれ遭遇することがわかってるように思えた。「驚いて」という言葉があったからおそらくは普段目にしないような生物なんだろう。
対処が分からない以上は遭遇したら逃げるようにメンバーに言っておこう。
資料を棚に戻してサンタシに幻妖について聞こうと思ったが既に宵の口を過ぎており、勤務を終えて帰宅しているようでわずかな夜間対応窓口しかいない。
借りているサンタシの自室に置いている輝虫の状態を確かめてから帰る。産卵しているかしていないか分からないがこいつらの成虫での寿命ってどのくらいなんだろう。すでに一ヶ月近くは経っているがまだ3頭とも生きている。金のなる木になればと思ったがこのままだと原石買取の方がはるかに儲かるなあ。養殖しないでさっさと売るほうがいいのかな?
すっかり暗くなって街灯の発光石が明るく照らす道を歩いて帰る。大森林の直中にある都市なので日本に比べて羽虫は光源にたくさん群がりそうなものだが意外に少ない。それがたった4メイトほどの外壁だが高い建物が少ないので発光石の光が遮られていることと城壁の下と上には忌避剤が散布されているためだ。
それにしても今日は蒸す。
いつもは夕暮れと共に涼しい風が大路を抜けて涼しくなるのだがその風が湿気をはらんだ温かいもので爽快には程遠い。
昨日の夜に手伝っていた時も思ったけどこのところ夜に気温が下がるのが遅くなってきている。
そろそろ雨季が近いか。
この年輪都市じゃ雨季は決まった時期に起こるのではないので予測がしづらい。
大体夜が熱帯夜のように暑くなる時期が来るとスコールのような激しい雨が半日続き、サッと上がる。それが一週間に複数回起きる時期を雨季と呼んでいる。
通常の時期でももちろん雨は降るのだがその激しさが問題で年を流れる川では土の異法士と水の異法士が出張って氾濫に備えることになる。
雨が上がってもその後の晴れ間のせいで染み込んだ雨水が蒸発し不快指数は増大。普段から日中は暑いが湿度の上昇のせいで発汗蒸発が妨げられて熱がこもり、バテるものが出るのもこの時期だ。
ちなみに狩人は湿気が多い大森林で普段から活動している為にこういった時期にも強い。
赤髪亭に帰ると今日の営業を終えているのに開け放たれた戸口からは強い光が漏れており、食堂のテーブルを囲んで座ってるマリアさんたちが俺に視線を向けてくる。
コーリンは実家がある衛星都市に一時帰宅しているのでこの場にはいない。
「カイル、ちょっと!」
声を掛けてきたアンジェはエプロンを外しポニーテイルも解いて赤い髪は肩に降りている。すでに銭湯で汗を流した後なのだろうか?
ヴェガは相変わらず口を結んで声を出さず、マリアさんは厨房のいるときのエプロン姿のままだ。
「どうしたんだ?」
「あのさ、今日はカイルが厨房に入ってないから唐揚はメニューにしてないじゃない? でもお客さんからリクエストされることが多いのよ。」
だからいい加減アンジェも菜箸を使えるように練習すればいいのに、
「マリアさんは菜箸使えるからマリアさんが唐揚げ担当で他のメニューをアンジェが担当でいいんじゃないのか? 注文取ったりメニューを出したりするのにヴェガだけだと用事がある日はダメだからコーリンが戻ってきてからだけど。」
「でも、母さんもあの長い棒はそれほどうまく使えないから掛かりっきりになるのよ。どうしてもつまみ上げるのが難しいらしくて。」
そんな難しいかな?
でも今みたいに注文量が多いと今の調理器具だと一度に揚げられる量が少ないってのは如何ともし難い。
「わかった。なら俺がいなくても大量に揚げられるようにフライヤーでも作ってもらおう。それがダメならせめて水切りかカス揚げでも作ってもらうことにする。」
「何それ?」
「揚げもの専門の調理具だな。
水切りとかカス揚げってのはお玉の先が網になってるやつだ。それなら菜箸がなくても油跳ねを避けて揚げものを取りだせるだろ。」
「そんなのがあるなら最初から用意しなさいよ!」
「いや、多分特注になるからすぐに用意できないぞ?
大体この辺でそういったものを作成してれる店ってあるかわからんないし。ひょっとすると他の地域では使われてるかもしれないから中央に行った時にでも探してみるよ。で?今みんなで相談してたのはそれだけ?」
そう言うとアンジェが悔しそうにしている。その理由はマリアさんが代わりに話してくれた。
「いやね、最近唐揚げ目当てでのお客さんが多いじゃない? だけどこれってカイルが作った料理だし、この子としては子供の頃から厨房に入ってるのに自分でお客さんを呼べるようなメニューが作れていないことが悔しいみたいのよ。
お風呂に浸かってリラックスしたらいきなり思い立ったみたいで帰ってくるなり何か新しいメニューの案はないか!ってね。」
なるほど。
でも元々唐揚げはこっちで食べたいための実験みたいなもんでメニューにしてもらう予定でも無かったんだが子供の頃から店を手伝っていたアンジェとしては素人の俺が作ったものがメニューになって客の目当てになるのは面白くないか。
「別にこれ以上のメニューはいらないと思いますけどね。別に唐揚げがメニューに入る前が客足が少なかったわけでもないし、奇をてらったメニューを思い付いても受け入れられないと注文も入りませんしね。」
「でも悔しいじゃない。
あんたが適当に作ったメニューが人気で前からある父さんのメニューが頼まれないなんて!」
それほど感情的にはなってないがアンジェとしては父親から受け継いだメニューの人気が落ちていると感じているようで納得いかないらしい。
マリアさんを見るとため息をついてこちらを見返してきた。
「今のところは新メニューのもの珍しさで頼んでる人が多いってだけだろ? これが通常のメニューになればいずれは落ち着くんじゃないか。親父さんが加えたメニューだって普通に人気があるし。大体唐揚げは若いやつ向けで年配の人には油分が多くてキツイしな。」
「それは分かるけど……」
「それと夜でもこの蒸し暑さだし、ぼちぼち雨季になるんじゃないか? バテる奴が出てくるだろうから唐揚げの人気も落ちてくるだろう。」
誰だってバテて胃腸が弱ってるのに揚げものは食べたくない。
「さっぱりしたメニューも欲しいけれど雨季が始まると食材が傷むのが早くなるから普通のメニューだけにした方がいいわね。」
マリアさんの言うように雨季は湿度が高くなるので食材の傷みが早い。仕入れた食材を使い切ることが多いとはいえ心配な季節だ。
この赤髪亭にも地下室はあるのだが卵定食で使う複数種の卵を置いてるくらいだ。卵は生の状態で置いている方が日持ちがするのはこちらでも知られている。
「暑さを熱さで暑気払いするメニューってのも有りかもしれませんけどね。」
「味を薄くしたスープとかかしら?」
「辛い物を食べて汗をかくことで冷やすって感じですかね。刺激がある味だから胃腸の活動を良くするって意味もあります。」
つまりカレーだ。
カレー粉自体はタミーから聞いた香辛料の取り扱い店でそれらしいものを混ぜてもらって出来あがっており、唐揚げの衣に時折まぶしたりしている。
このまま粉状態で使うか小麦粉や油脂を混ぜて固めてペーストにするか決めてないままだったのと、未だに米に変わる代用品が見つかってないのでカレーの試作は作っていないままだ。
「それってまたあの長い棒を使うの?」
「いや、別に油が撥ねるわけでもないし使う必要はないな。」
「またカイルのアイデアってのが気に食わないけど雨季になるとお客さんが少なくなるのは確かだしね。本格的に雨季になる前に試作してみてよ。」
じゃやっぱり小麦粉をダマにして米の代用にするしかないか。アマザかタミーに溝を付けた板を作ってもらうか。
それと赤髪亭の厨房には火の異法が込められた鍋板以外に竈があるからナンって手もあるな。日本のネットで作り方を見ておこう。
カレーの試作の手順を考えているとヴェガが横に来ていた。
「辛いの?」
喋った。ヴェガが? 肉声を聞いたのはいつ以来だろう?
驚いて固まっていると
「何 目ん玉ひらいてるの?」
「いや、ヴェガが喋ってるから。」
「何言ってんのよ 口数少ないけどヴェガは普通に喋るでしょ?」
ほとんど聞いたことないんだけど。ひょっとして嫌われてたんだろうか?
「辛くもできる。使う香辛料で調節ができるからな。
暑い時期に額に汗を浮かべながら食べるってのもオツなもんだぞ? それにトッピングで味を変えられるのもいいしな。提供する側にしたら注文取るのが面倒になるから考え物だけど。」
「楽しみ。」
ヴェガさんよ、カレーの辛み成分は唐辛子由来、あんまり辛くすると翌朝おシリが酷いことになるぞ?
「でもまたカイル頼りっていうのは気に食わないわね。でもあたしには新しいメニューなんて浮かばないし。カイルみたいに他の地区をうろついてれば思い浮かぶのかしら?」
「納得いかないならアンジェが自分でしか出来ないメニューを作ってみるのはどうだ?」
「あたしだけのメニューって嬉しいけどそんなのがぽんぽん浮かぶなら苦労しないし。」
「でも多分 アンジェが協力してくれるなら赤髪亭は更に独自の売り物ができるぞ?」
予てよりの懸案だった火の異法の使い方だ。
俺たちのパーティーには火の異法士はいないし、知り合いの狩人の中にも見かけることはなかったんで火の異法を使って物を冷やすことが可能かどうか試す機会がなかったのだがいい機会かもしれない。
「どうやるの?」
「わからん。」
「あ、ん、た、ねえ!! なら、なんで独自の売りものができるなんて言えるのよ!!」
柳眉を逆立ててご立腹だ。赤い髪にダークレッドの虹彩が怒りに燃えているようにみえる。
いきなり解無しの返答をしたのは悪いが、まずは火の異法が俺の思ってるような働きができるのかどうかを確かめないとどうしようもない。
成功したら異法士から軽んじられている火の異法の有用性が増すとは思うがやっぱり戦いよりも生活用なんだよなあ。
そもそも俺が思ってることができるなら他の火の異法士がこれまでに使っていただろうし、とりあえずアンジェに試してもらうしかない。
それに学校に行く前から発現していて異法士としてのキャリアも4年と十分、多分厨房で毎日使ってたなら源力総量も多いだろう。問題は加熱とは真逆の働きである冷却ってのを理解できるかどうかか?
「マリアさん、ヴェガ、戸口は全部締めてもらえます?」
一応周りに知られないように締めてもらってからアンジェに問いかける。
「アンジェ、火の異法を使う時ってどんな感じなんだ?」
「それがメニューに繋がるの?
私が異法を使う時は握った物の熱くしたいとこを凝視するって感じね。
なるべく早く熱くするなり温度を上げる時は強く握ったり睨んだりしてるけど実際にはそうしても関係がないみたい。それよりも源力を多く注ぐのが確実ね。」
「ふーん、聞きたいんだけど熱い鍋をすぐに洗いたい時にはどうしてる?」
「源力を鍋から戻すだけよ? 水を掛けるんだからどうせ冷えるし。」
つまり今は異法は温度を上げるためだけのものとしか認識してないのか。
冷えるとか冷たいってのは水の温度くらいでしかないのかな。この冬がないこの都市じゃ仕方がないのかもしれない。
コップに水を入れてアンジェの前に置く。
「火の異法ってのは触れてる場所じゃなくても温度を上げられるよな?」
「うん。そうでないと取っ手まで熱くなって火傷する。」
「このコップの水を湯にできるか?」
アンジェは両手をコップに近づけて数秒で俺に差し出した。沸騰はしないので口に含むとホットの缶コーヒーくらい熱くなっている。
それをもう一度アンジェの前に置く。
「じゃ次、この湯を異法で最初くらい冷たくできるか?」
「無理。暖めるのに使った源力は回収してるし後は冷めるのを待つしかないわ。もう一度源力を流してもまた温度が上がっていくだけよ?」
どうするかな……
「じゃアンジェ、このコップの中の湯にもう一度源力を流してくれ。」
そういうとコップを一瞥する。術士の力を持つ俺は源力の流れが見えるのでアンジェの右手からコップに源力が移動するのが解る。
「流したけど?」
「そのままで蛇口から出る水の温度になるように思い浮かべてくれるか?」
「……やってみたけど?」
特に念じているようにも見えず、ほんの数瞬で返事がきたので真面目に源力を操作したのかは分からないが源力が働いたのは感じられた。
俺はもう一度コップの水を口に含むが……温くなってるような、なっていないような。
やっぱり冷やす、冷えるのが分子運動っていうことが理解してないとできないのか。それともやはり火の異法は源力を流した物体の温度を上げるだけなのか?
いっそイメージで伝えるか?
じいさんから術士の医術、施術、工術、心術の基本トレーニングについてはどんなものか聞いている。
その中で心術によるトレーニングで相手の源力と自分の源力を繋げたままにして心情や表層を探る、あるいはこちらの意思を伝えるというものがあった。互いの源力を介して行う念話が更に深い状態になったものらしい。
「アンジェ、そのまま座ったままで両手を出してくれ。」
俺はアンジェの向かいに座ってアンジェの手を握る。別に他意はなく、心術の行使に必要なんでやったんだが頬を染めて互いの手を見るなり
「っ何すんのよ!」
いきなり右手を離していつぞやのように頬を打つ体制に入っていたが こいつの照れの行動はもう分かってる。さっさと自分の左腕を立てて防いだあとアンジェの右手を包む。
「まずは落ちつけ。目を閉じろ。」
俺が正面から睨むと不承不承アンジェは目を閉じる。
『ここからは直接 源力を介して念話だ。できるか?』
『っ? これも念話なの? いつもの念話とは違ってなんか……よく通るっていうか、響くっていうか、なんか変な感じ。』
ここからはアンジェはイメージを頭に浮かべやすくするために目を閉じてもらう。念話での会話なので見た目は無言だし、マリアさんも俺たちの様子を見てるだけ、ヴェガは元から無口だし、やたらに静かだ。
『いいか? 火の異法に限らず温度が上がる。ってことがどういうことなのかイメージを送る。それと冷えるってことがどういうことかもな。』
俺は化学の授業でみるようなイメージを送る。
カードの念話でなく心術士のような源力を直接流しこんでの念話の切り替えたのはイメージを送るためだ。
四角の枠の中にいくつかの点が跳ねながら動いており、その運動の激しさで温度が変わるってやつだ。
だがそれだけでは分かりにくいので運動の激しさと一緒に水と沸騰する様子、そして氷になるイメージを送り込んだ。
『何? この透明の堅そうなの。』
『コオリだ。水が冷えて更に冷たくなると形が変わる。逆に温度が高いとこれは溶けて沸騰して更に水蒸気になる。
いいか?
四角の中の点が激しく動くのは温度が上がること、火の異法で温めてるんだ。 でも逆にその動きを遅くすることも異法でできると思ってる。もしこれが出来るなら料理の幅も広がるぞ? それに暑い中、冷たい水を出すだけでも客を呼べる。試してみないか?』
『火の異法は、もっと便利になるの?』
『それは分からない。これが火の異法で為せることなのかどうかはアンジェ次第だ。』
『やってみる……』
俺はアンジェの手を離して異法の行使を促す。
『コップの中の水が固まるってイメージをする方がいいかもな。』
アンジェは俺を水にコップを両手で包みこみ、しばらく強く握って震えたり睨みつけたりしてるが変化はない。
目を閉じて集中してはいるが……ん?そういえば触覚で冷たいって感じはアンジェにはわからないのか?
後ろに回ってアンジェの両肩に手を置く。
『アンジェ、水が固まるくら冷たいってことはどういうことなのかを伝える。そうなるように源力を操ってみてくれ。』
俺は日本での氷のイメージと一緒に冷たいグラスを持った触覚で感じる冷たさを伝える。
そのついでに冷たい、寒いってことを伝えた方がいいのかと思い冬に感じる肌寒さを伝えるためにアンジェの全身を自分の源力を包むようにしてみた。
するとキンっという硬質な音と共に一瞬でコップの中の水が凍り、更にコップには周りの水蒸気を凍らせて霜が付きはじめた。
目を開けたアンジェは手を離してまじまじと氷を見ている。
ヴェガとマリアさんも水が一瞬で変化したことに驚いている。
「これが、コオリ?」
「そ、もし源力がコオリに残って使えるならもう戻しても大丈夫だろ。これを砕いて水に入れたり果汁水にいれると冷えてのど越しがいいぞ? 暑いとすぐに溶けちゃうけどな。」
「でもこれがどう料理に繋がるの?」
「それはこれからの工夫次第だな。
まず素材の加工ができる。たとえば肉をこれまでではありえないくらい薄く切ったりとかな。
それにこのコオリを削ることでかきコオリってのができる。たぶんそれだけで客を独占できるな。なんせ使うのは主に水だけなのとコオリが作れるのは火の異法だって気付かれないうちは独占できる。
それまではアンジェだけが作れるメニューってわけだ。」
「あたしだけ……」
「それ以外にも案はあるけどまずは冷却能力を加熱能力と同じくらいコントロール出来るように訓練することが先だな。」
これを工術で定着させれば冷蔵庫ができるかもしれない。
果汁水を使ったシャーベットとか。銭湯上がりに冷たいアイスが食べられる日が来るのかもな。
「ありがとう、カイル。でもね。」
そう言った後、いきなり俺の腹部に強い痛みが走る。
「はうっ!」
いきなり腹パンされてた。腹筋に力を入れてないところに突然やられたのでクる。
「あんた、さっき自分の源力をあたしの身体に流した後に体の表面の隅々に這わせたんでしょ? このド変態がっ!」
「アレはこの都市じゃ実感できない寒さを伝えるためで……」
「言い訳無用っ!」
「ふぐっ!」
二発目の腹パンを食らって体を前に折り曲げた俺にヴェガが御愁傷様とでも言うように手を合わせていた。
火の異法が源力を支配した物の分子運動を操るという仮定が正しかったのは嬉しかったがその嬉しさはノーガードからのボディブローにより霧消してしまった。




