2-33 弱点
「まぁ、掛けなさい。
それにしてもタミーちゃんだけでなく更に綺麗どころを2人も連れての婦女同伴とはの。 午前診察が終わったらすぐに会いたいとは何か困った事があったか? まさか痴情のもつれから全員を孕ませたのか?」
この爺さんは…・・・
とはいえタミーもアマザも表情は硬いからそう見えないこともないのか? コーリンは笑ってるわけではないが悲愴そうな雰囲気は漂っていない。
三人に言われるままに俺の重複化に伴う残余寿命の短縮が事実なのかを知る可能性がある人物としてオウノ爺さんの医術院の昼休みを待って面会を申し込んだ。
日本と繋がってからはどうせ死んでも四方堂一樹としての人生があるために死に対して恐怖が和らいだので確認しようとも思わなくなっていた。だが衛星都市から年輪都市に来た頃は自分の残り時間が本当に少ないのか相談できるものもおらず、またオウノ爺さんに確認して本当に10年しか先がないと言われたらと懊悩したものだった。
今では例え日本での人生が平行で存在する余裕がなかったとしても、妹を奪還するのを急かすためのオフクロの出任せだったんではと考えるようになり、10年目が訪れるまでは気にしないようにしていた。長い間悩みすぎて、答えが出ないことに馬鹿らしくなってしまったということもある。
今はポーターとはいえ、狩人と共に大森林に出るからにはもっと早く死ぬ可能性もあるわけなのだが。
オウノ爺さんとはタミーは前に一緒に来た時に会っただけだし他の2人は初対面。だから俺がオウノ爺さんに一番近い向かいの席に座って三人は後ろに座っている。
だが最初に声が出たのは後ろからだった
「率直にお聞きしたいのですがカイルさんの残り時間はどのくらいあるのですか?」
いきなり切り込んでくるねこの娘は。
今日は学校に行くときの服装でなく体に対して大きめで背中に幾つか縦に切れ目が入ってるシャツと七分丈のパンツを履いている。 学校に行くときは我慢しているようだがはやり普段は背中が暑いようで空気が抜ける、あるいは蒸れないように切れ目が入ってるものを着ている。
肩パットを入れたように少し両肩が盛り上がっているのは肩のに体毛が多いためだろう。
「綺麗な白い髪をしとるお嬢ちゃんじゃな。じゃがいきなりカイルの残余寿命とはどういうことじゃ? 別にこいつは大病を患っとるわけでもないが大森林に狩人として出ておる以上はいつそうなってもおかしくないともいえるが?
それとも何か厄介な寄生虫にでも刺されたか?虫避けを忘れて『百日殺し』にでも刺されたか?」
いきなり俺の残り時間を質問されてオウノ爺さんは病原菌を媒介する虫に刺されたとかの心配をしているようだ。
「いや。大森林でのトラブルではなくてな。重複化に関することなんだが…」
そういうとオウノ爺さんは後ろの三人に視線を遣ってから真面目な顔になる。
「それは後ろのお嬢さんたちにも聞かせてもいいのかの?」
「ああ、構わない。そもそもそれを説明したせいでオウノ爺さんに確認することになった。」
「うん? どういうことじゃ?」
「重複化能力を得るために遺失技術で作られた鉱物みたいなやつを背中に埋め込まれた。その時にお袋に言われたんだ。
これで力を得たものは長くても10年で死ぬってね。
当初は死に怯えたもんだしこっちに来てからじいさんに本当か聞こうか迷ったけど結局逃げてそのままだったんだ。
はっきり言ってあの時のお袋は正気でなかったし単に俺が憎いからそういったとも思ってた。
お袋の上司だったじいさんはそのことを知ってるのなら教えてほしい。」
日本の人生と繋がったから気楽になったこともあって年輪都市に来たときにように答えから逃げずに爺さんの顔を正面から見て尋ねる。
「そうか・・・・・・カーミンめ、そんなことをお前に言っておったのか。」
表情を曇らせ、年相応に刻まれた皺が眉の間に深い溝を作る。
「やっぱり、あんな力を持ってる以上いずれはカイルの体に異常が?」
「いや、おそらくは問題はないじゃろう。」
タミーの言葉にあっさりと問題ないと返答がされたが、「おそらく」と断定されていない。一見安心できそうだが何かあるのか?
「どうして『おそらく』なんだ?」
「それはこの重複化を施されたものはカーミンがお前に言った通り10年以内に全員死んでおるから確実に大丈夫とは誰にも言えんからじゃ。」
「じゃ、やっぱり10年で死ぬってことやん!」
「まあ落ち着いて聞きなさい。」
爺さんは席を立ってお茶を入れようとするがアマザとタミーがそれを手伝い、コーリンは3人の椅子を俺と同じく前に持ってくる。
茶請けに患者から貰ったお菓子を出して大きめの丸型のテーブルを全員で囲んで座る。
「そもそも遺失した技術を回収した資料からわかったことじゃが確かに10数名に施されて全員が寿命を全うせずに死んでおる。
ところが問題はその死因じゃよ。全員が源力過多供給で身体が持たなくなって死んだそうじゃ。
つまりはカイルが直接お主らの身体に源力を注ぎこんだら起きるオーバーチャージの酷い状態が恒常的なものとなり源力を留める体全体が炎症を起こしたということじゃ。」
「それが俺の身にもこれから起きると?」
「いや起きんじゃろうな。お前が年輪都市に来てワシに会いに来た時に助言したことを覚えておるか?」
「…・・・確か『アレ』は絶対に失くすな。持ち歩いて紛失する恐れがあるなら部屋に置いて決して人に見せるな、だったか。」
俺がいった『アレ』とは自室のベッドに置いている半透明の拳大くらいの弾力がある物質で堅い水風船と言った感じのものだ。アマザたちが全員で赤髪亭にきたときも隠していた。
「今もそれは守っておるな?」
「ああ、あれは俺がお袋によくわからん石を埋め込まれて丸三日拷問みたいな全身の痒みを掻き毟りながら耐えたら横に転がってたと思うんだがアレはなんだ?一応お袋からは持っておけとは言われたもんだけど。」
「お前が集めた源力そのものじゃよ。」
「どういうことだ?源力って体に溜まるもんだろ? だから俺に貯まる源力はじいさんにも見当がつかないほどだから源力の流れが分かる術者にはなるべく会うなって言ってたじゃないか。」
「そうじゃな。じゃが馬鹿げた源力の総量はお前の身体に源力が貯まっておるわけでなく、あの半透明の物質にお前の源力が貯めこまれおるんじゃよ。そしてお前がいくら源力を操作しようと放出しようと一瞬で補給される。つまり全く源力が減らない様に見えることから術者にその異常がばれてしまうということじゃよ。
そもそも重複化してないお前は普通の人間と同じじゃぞ?その器にどうやって異常と言えるほどの源力を留めておくんじゃ?それこそお前の身体は異常を来してとっくに死んでおるわ。」
「そういえばカイルは源力を装具に補充したけど、うちらの源力の20人分ほどを一気に詰めとったな。」
「常人を遥かに超える源力を使う『角付き』でもない限りそれほど大量の源力は体に留めておけん。そもそも『角付き』すら体は常人と同じなんじゃ、大量の源力を留めておけるのはその『角』に源力を集めておけるからじゃよ。 」
「え?じゃいくら個人総量を上げてもいずれは上限が来るってこと?」
「そうじゃ。個人で源力の上限は枯渇を繰り返せば増すがいずれは上限にぶつかるのう。稀に延々と総量上限が伸び続けるものがおるようじゃがそういったものは角でなくて体に源力を貯めるような瘤のような部位が出来ておるはずじゃな。」
「なるほど、いや、興味深いが俺の源力の塊がなんで死につながるんだ?」
「遺失技術の石が埋め込まれたことでお前は重複化できるようになったが変化はそれだけでないんじゃ。
お前の体は源力の収集と放出の『中継地点』になっておる。つまり人よりも効率良く源力を集め、そしてお前の身体を通してあの物質に貯めこまれる。
一般人は一回源力の枯渇を起せば約8時間で元に戻り、それ以上体には貯まらない。お前ができるように外から源力を流し込むようなことをしない限りはな。だからオーバーチャージによる体の異常は起こるべくもない。
しかしお前は違う。
源力を使おうが使うまいがひたすらに人よりも早く源力が貯めこまれるようになっておる。身体という器から溢れたものはあの物質に転送されておる。お前がこれまで昼夜を問わずひたすら貯めこんだ源力の総量がアレというわけじゃ。そして貯めこまれたとんでもない量の源力を放出出来たりそれを使って重複化なんてことができるのじゃよ。
じゃがお前の身体はあくまで一般の人間のものじゃ。もしあの源力貯蔵庫である物質が破壊されたらどうなる?ひたすら体に貯めこまれる源力は器を超えても行き場がない。体に蓄積されてすぐに溢れる。」
「ってことは過去に10年以内で死んだってのはそれが原因?」
「そうじゃ、この技術は失敗として資料と共に保管されていたようじゃが数年たって重要性を理解せぬものが資料と共に保管されていた各人の源力の塊だけを捨ててしまったようじゃな。そのせいで次々に身体から源力が溢れかえって生じた体の異常が元で死んでいったわけじゃ。」
「なーんや! じゃその源力の塊さえ無事やったらカイルはどうもないってことやん。」
「理屈ではそうじゃな。じゃがその源力の塊がどのくらい持続するものなのかは誰にもわからん。作られた当時ですら検証されておらんからの。カイルが寿命を迎えるまで問題ないのか。あるいは源力を貯め込む限界が存在するのか?などわからんままじゃ。誰にもわからんから先ほど「おそらく」は大丈夫と言ったわけじゃ。」
「待てよ? じゃもしアレが誰かに持ちだされて壊されたら?」
「時を待たずにお前は死ぬということじゃ。じゃがどうやって破壊できるものかはわからんがの。
重複化は身体の表面の強化に腕力の強化、異法のように物質を操ることはできないが術士としての力は使える。そんなお前の弱点というわけじゃ。」
俺は左右を向いて頼むことにした
「すまないがこれは絶対に内密に…」
なんせもし分かった上で持ち去られたら物理的に命を握られることになる。
「ええ、もちろん。」「当たり前やな。」「分かりました。」
3人とも首肯はしてくれたんで一安心か。派手に稼いで変に敵を作らない限りは身辺を探るなんてことはしてくるやつもいないだろうし。
「それでついでに言っておくが今はどれくらい重複化ができるんじゃ?」
「8倍程度かな?」
「それ以上は試しておらんのか?」
「養父との訓練中にそこまでは試したけどその最中にハンガーノックを起し
て倒れてからは試したことはないな。」
「おそらくはそれ以上も出来るはずじゃよ。じゃが過去に倒れたことが心理的な壁になっておるんじゃろうな。しかし無理に過重な重複化をかけることもないかの。」
「そうか。でも安心したよ爺さん。ありがとう。折角に昼休みに悪かった。」
「構わんよ。お前があやつからかけれた言葉に悩んでおったことに気付いておらなんだワシにも問題はある。じゃが出来ればワシが生きておる間にお前の子供を見せてほしいもんじゃな。」
そういって三人の女性をちらりと見る。
「じゃ、せいぜい長生きしてもらわないとね。」
「そうじゃの。」
爺さんの目が笑って細くなる。
「じゃ」
そういって全員で爺さんに頭を下げて出ようとした時にコーリンが口を開いた
「質問よろしいでしょうか?」
「なんじゃね?」
「どうして重複化の技術は失敗とされたのです?」
「極端な熱量の消費で長時間の使用が不可能だったため、とあったのう。じゃが重複化の筋力の増量などは副産物でしかなかったらしい。ではそれが何を目指してのものだったかは未だ分からんままなのじゃよ。ひょっとすると重複化は目的の過程でしかなかったかもしれんな。すでに資料が失くなった今はそれらを紐解くこともできんがのぅ。」
「あと一つ、重複化能力を持ったものは普通に子を生せたのでしょうか?」
「それは問題なかったようじゃよ。それに重複化が出来たのはあくまで一代限りで遺伝するものではないそうじゃ。」
「わかりました。ありがとうございます。」
コーリンの質問にアマザもタミーも興味があったようだが特に続いての疑問や問題もなかったようで4人で医術院を後にする。気分は晴れ晴れ、とはならなかった。
確かに力を得て10年の短命ってことはなくなったが自分が知らないところでアレを持ち出されたら命を握られているのと同じことになるわけだ。部屋に置いてるがそれでこれからも無事といえるかどうか。誰も触れられない安全な場所があるのなら移動させておきたいけど、過去の実験者たちのように自分の知らぬところで処分されてしまうおそれがあるなら目の届くところの方が安心だし・・・・・・。
そんなことを考えながら歩いていると3人よりもずいぶん先を1人で歩いていた。
「カイル、ちょっとこの公園に寄って行かへん?」
通り過ぎた公園入り口の前に立ち止まるアマザに呼び止められた。タミーとコーリンが見えないから先に公園に入ってるんだろう。
園内にある大木を中心に大きな半円形に配置されたベンチに腰掛けた俺の前に3人が立っている。座ればいいのに圧力を感じるな。
「これでカイルが伝えなあかんことっていう事情はクリアになったわけやんな?」
「そうだな。」
「わたしとアマザはもう気持ちは伝えてあるしカイルの事情も知ったわけだけど・・・・・・応えてくれるの?」
「先日アマザさんとタミーさんと相談しました。
制度としては年輪都市は一夫多妻が認められているのであとは私の一族の掟に問題がないならカイルさんの妻になっても問題はないと言われました。私の一族は都市の方針である混血も認めているように一夫多妻の制度も受け入れてはいます。ただ離婚は死別以外は認められていませんが。」
「わかった。俺でいいなら嫁さんになってもらうよ。だけど少なくとも研修期間が終わる来年になってからだな。コーリンだって今年までは学校があるわけだし。」
立ち上がるとアマザが抱きついてきた。
「それやったらこれでカイルには手ぇつけたってことで!」
アマザから抱きついたままキスをしてきた。照れくさいのかちょっと触れた程度で体を離し、次に近づいてきたのはタミーで何も言わずに唇を合わせていつぞやのように濃厚なヤツをされた。
「来年までに無理はしない程度で稼いでおきたいわね。足りないなら次の年にずれ込んでもいいけれど。」
そりゃまあ来年でもまだタミーは19だしなぁ。でも家の保持の為に苦労した経験もあるからお金に関してはシビアに考えてそうな気もするな。
「最後は私ですね。タミーさんのような口付けの技巧は知りませんが頑張った方がいいのでしょうか?」
「お任せします。」
アマザのように軽くキスしてきたが時間が長かった。
カーミン・キニダック 美方郡香美町からもじって カイルの実母




