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あっちとこっち  作者: rurihari
2 生活
56/142

2-31 男達が狩りでいぬ間に

 私は人種の中でも多数派であるヒトではない。


獣の特徴を宿した人種である獣人族と呼ばれる種族。その中でも自らを『白銀』と称する一族だ。

獣人族にはいくつかのタイプがあるが一族に白色の体毛が多いことからそう名乗っている。年輪都市や他の衛星都市と比較してもとりわけ獣人族が多いところで固まって暮らしており、時に衛星都市での学校の定員を超える年度などは親元を離れて年輪都市の学校に通うこともある。

 

 白銀と名乗ってるくらいなら銀色の体毛のものがいるかというとそうではなく、実際には白から灰色といった体毛なのだが時に艶により光沢を帯びることからそう呼んでるそうだ。その色と姿に誇りを持っていたがここ年輪都市に住むには混血を受け入れなければならない。都市内での争いは巨獣に囲まれた危険な立地である都市そのものの弱体化を招くことになる。人種の融和を目的とした混血政策も理解しているので一族も受け入れている。

 そのため純血が1人もいなくなり、皆の寿命はヒト並となったものの尻尾を持ち、獣化できるものがいなくなったことを受けて私の一族はせめて風習だけでも残しておきたいと考えた。習慣が廃れないようになるべく近親者が固まって住むようになったのだが、おかげで年輪都市に住んでいる獣人族の血を引く者達に比べて血が濃いものばかりとなった。そのせいなのか純血でないにも関わらず獣化できるものが稀に現れるようになったのだが、獣化出来たものは純血と同様にヒトよりも10年ほど生は短い。先祖の特徴を示せるものはそれを誇りに思うものもいれば他人よりも短い生を悲観するものもあった。

 一族の中でも白い体毛がかなりはっきりと出たせいで生まれた時に家族は獣化出来る(寿命が短い)のではないかと訝ったそうだが、尻尾も持たず結局獣化できないためヒトと同じ時間を生きることができるだろう。

もし私が獣化できてその寿命が短かったとしても構わない。どれほど濃く生きたかが重要だと思っている。

ヒトの倍の寿命があっても半分の寿命があってもただ無為に過ごす砂を噛むような人生を送っても意味がないだろうと。

 別にドラマチックな人生を送ることが濃い人生じゃない。

大きな浮き沈みや極端な喜怒哀楽を味わう人生は物語の中だけで十分だ。

毎日寝る前に過ごしたその日を後悔しない1日を過ごす。

それを積み重ねることが濃い人生だと私は思っている。


 この赤髪亭で出会った彼は良い人生を送ってるとは思わなかった。何か事情があるのだろうが遅れて就学したため、大人としてのスタートは他よりも遅い。なのに自由研修期間でありながら職に付くための技を同年代に追い付くほどに磨くわけでもなく、人生を諦めたものが送るようなその日暮らしの城壁修理に毎日を費やしていた。

 別に城壁修理が悪いというわけじゃない。

どうせ城壁修理を仕事にするなら折角の研修期間中なのだから都市の建築課で研修を積んで技術を学ぶべきだと思う。なのにやっているのはその場限りの人夫募集での仕事。好ましいタイプの人間にはとても思えなかったが同じ屋根の下に暮すものとして円滑に日常が送れるように愛想はよくしていたつもりだ。


 私は下宿の室内では薄着だ。

 別に露出過多の服装を好む人間ではない。

しかしヒトとは違って頭髪だけでなく、首の後ろから背中にかけての体毛のせいで暑さを和らげるためにどうしても薄着となってしまう。それに年輪都市の学校に通い始めてから発達した胸のせいで暑い日中は乳房の下が蒸れたりするので仕方がない。出来れば肩の体毛なんかも全部剃ってしまいたいが他の人に聞くとかなりの違和感を感じるそうなのでやめたほうがいいと言われた。混血が進んで血とともに体毛も薄くなってる人が羨ましい。

 薄着で過ごすには男である彼がいるのは気になっていたがアンジェという娘がいるマリアさんが下宿を許しているくらいなのだ。こちらに興味を示しても襲ってくるような自制心がない男ではないとだろうと安心していた。

それに襲ってきたところで男を押さえ込む方法やたたき出す方法は幼い頃から母から仕込まれている。私の一族ではそれができないとロクでもない男と番わされることになりかねないからだ。


 最近になって滅多に口に出来なかったバチカーの肉をめぐって彼と口論をすることが度々あったがあれほど私の胸を気にしていたとは知らなかった。いや、それ以前はそんなことに対する興味がないように見えていた。思えばあの頃から彼から受ける印象は少し変わっていたように思う。

 前よりも軽口を叩くことが多くなったが以前よりも朝に顔を合わせることは少なくなった。夜に赤髪亭を手伝うのは少し減った程度だが表情は前よりも明るくなっているように思う。おそらくこれまでの城壁補修の仕事などよりやりがいのある仕事を見つけたのだろう。何度か肉を差し入れとして持ち帰っているので問屋の仕事で巨獣の仕分け・解体をやってるのか食肉問屋にでも働いているのだろうか?なんにせよ彼の人生に張りが出たようで何よりだ。


 ある日、彼と一緒に赤髪亭の厨房に入っていた。赤髪亭は本来は食堂を営んでいるが二階部分を下宿として貸し出している。ただ儲けのためというよりは少人数世帯で大きな建物に住んでいると都市から目を付けられることがあるので貸し出してるそうだ。学校が終わって夜の営業を手伝えばその分家賃も安くなる。なので下宿をしてるもので時間に余裕があるなら手伝うこともしばしばある。

 その日いつもと違っていたのは私の前を通るたびに彼から法悦の香りが漂ってくる。来年には学校を卒業して大人と見なされる15歳になる身だ。「そういった」興奮も識っている。しかし私以外は彼からの匂いは感じていないようだ。これはバチカーの味と同じように私達を強く惹きつける特有な匂いのようだが何故彼からそんな匂いが漂ってくるのか。結局仕事は手に付かず彼が動く度に振りまかれる匂いを追って右往左往してるうちに倒れこんでしまい、足に力が入らず立てなくなってしまった。アンジェの介添えでなんとか自室に戻ったのだが階段を上ってすぐにある彼の部屋からより強い匂いが漂ってきて自分を抑えるのが辛かった。

 赤髪亭の営業が終わった後、どうしても我慢が出来なくなった。

あの匂いを発してるものが欲しくて欲しくて抑えきれなくなったのだ。

発光石が出されたままの彼の部屋から明かりが漏れている。ノックをしたが返事はない。

中に入って確認したが彼は作業中だったのだろうか?机に突っ伏したまま眠っているようだ。ふらふらと彼がうつぶせになっている机にある籠の中に手を伸ばす。


 これだ。


「根のない薬草」でもわりと大きい。しかも売り物にあるものに多い乾燥したものではない、採取してきたばかりのもののようだ。

 この甘い、と形容していいのだろうか?傘の下から出ている匂いを直接嗅ぐと我慢が出来なくなった。自分の部屋に一部を裂いて持ち帰ればいいものをそんなことすら思い至らず、目の前にある彼のベッドで自分を慰めてしまった。何度か達する中、目を開けると虚ろな目で私を見ている彼と目が合った。そのことを認識しても自分を律することは出来ず、再び眠りに落ちたらしい彼のことは忘れ、更に自分の一族の掟のことすら忘れて耽ってしまい気が付くと夜明けになってしまっていた。

 汗とそれ以外のもので汚れた服を取り替えに自室に戻ったが、平静を取り戻して自分達の掟を思い出す。とはいえ別に一線を越えたわけじゃない。それに彼は様子がおかしかった。私が昨晩いたことも覚えていないかも知れない。戻って彼が寝ていれば以後は白を切ればいい。だけどもし起きていたのなら私が出ていくまで寝たふりをしていたのかもしれない。それなら掟に従わなければならない。着替えた後に彼の部屋に戻ってみた。


 そもそも私が衛星都市から年輪都市の学校に来たのは親の勧めだがその目的はそろそろ外の血を入れて都市からにらまれないようにするためであろうことは暗に知らされている。まさかこんな経緯で自分の良人を決めることになろうとは。


 彼が赤髪亭に着てから二年近く経つが彼について詳細を知らない。過去についてはいずれ聞けばいいので今の仕事を知るために彼についていったが小賢しくも私を撒こうとしていた。だが無駄なこと。敏捷性では通常のヒトに勝る私達を引き離せるわけも無い。彼を追ってたどり着いたのは狩人が大森林に出るための詰め所だった。


 彼を待っていた同僚から話を聞くことができた。


 彼が所属している狩人のパーティーの中でも私よりも年上の二人だ。かなりメリハリのあるスタイルの長身の女性と白い肌と黒から緑になったグラデーションの長い髪が印象的な女性から彼が今やっている仕事や力、メンバーからみた彼の印象を聞くことが出来た。

その日暮らしの生活を送っていると思って軽蔑していた部分もあったが私は彼のことを何も知らなかったようだ。

そして彼女達は彼に助けられて好意を持っていること、既にそのことを本人に伝えていることを聞かされる。彼女達によると別に私の掟の邪魔をするつもりはないそうだ。もちろん私が彼を良人をしないならそれに越したことはないがと正直な気持ちも聞かされた。そして出来れば同じ家にいて接触が多いなら彼に聞いて欲しいことがあると。


 その後 私は親カードを持つ母に念話をした。

掟により良人の候補ができたことは伏せて「男性」について聞いてみる。男の女に対する性格を知るには抱かれてみれば分かるとのこと。あけすけな母によると行為にいたるまでの行動や行為に至った後の後戯で性格が出るらしい。自分の快楽だけを優先する者、相手を大事にする者、労わる者などその行為が言葉を使わない会話のようなものだといっていた。

紳士に見えても抱いた後に自分のモノとして態度を変える者、束縛する者、より強く愛そうとする者、抱いたことでもう関心を無くす者。いろんな男がいるが掟に縛られた私達は一度抱かれたら死別するまでパートナーを替えることができない。女からすると不自由な掟のため、これはという男以外が掟を縦に迫ってくるなら殴り飛ばしていいと言われた。

とりあえず母の言葉に従って彼がどんな男性なのか抱かれて知ろうと思う。どうせ年輪都市は早婚を推奨しているのだ経験が早くて困ることはないだろう。その結果で知ったこと彼の性情が好ましくないものだったら仕方ない。叩いて直せばいい。どうせ直すなら早めの方がいい。

 当然私に男性経験はないが彼は既に学校を卒業して自由研修期間もあと半年程となってるはず、私のように一族の掟に縛られない普通のヒトなので経験はあるだろう。そのまま彼に任せればいい。

(この時点でまさか「男」でなかったとは知らなかったのだが)

そう思って彼の部屋を訪れたのだが結局同衾はしたが関係を結ぶことは出来なかった。

 そして彼がパーティーメンバーの女性二人にいずれ言うつもりでまだ言ってなかったこと。彼女達からカイルから聞き出して欲しいといっていた内容を聞くことができた。これは明日にでも彼女達に伝えるつもりだ。


-*-


『どうする?』


 カイルの後から現れた白い髪と蒼い目、そして私よりも大きな胸を持つアマザよりも豊満に見える胸を持った少女?をアマザと一緒に連れ出した。

今日は普通どおり狩りに出るはずだったが彼女が言った言葉はそのまま聞き逃せない。このまま狩りに出たところでどうせ集中できないに決まっている。アマザと念話を交わし彼女から事情を聞くことにした。アッシャーたちには悪いが私にはこっちの方が重要だ。なんせカイルの婚約者を自称していたのだから。


 狩りに出る前の狩人に朝ごはんを出す店を見つけてて3人で入ってテーブルに腰掛ける。とりあえずはカイル自身に事情を聞くことも重要だがいきなり降って湧いた婚約者発言をしたこの子のことを確認したい。


「まずは自己紹介やね。うちはアマザ。こっちの黒髪がタミー。カイルとは3ヶ月近く前から狩人パーティーを組んどる間柄やね。今んとこは。」


 アマザからの自己紹介で彼女も答える。


「初めまして。カイルさんと同じ赤髪亭に下宿しているコーリンと申します。今は第3地区の最外区の第2学校の4学年です。」


「そうか同じ下宿なんかぁ。カイルは部屋を借りてることは兎も角、他に下宿してるやつがおるとかは言うてなかったな。マリアさんいう人には会うたけど。」


 この前に彼の下宿の赤髪亭にみんなで行ったけどこの子はいなかった。あの時間ならまだ学校から帰って来ていなかったかもしれない。しかも話を続けるとこの体で学年通りの今年14歳らしい。今は巨乳のアマザでも学校にいた頃はこんなに大きくはなかった。なんというか、アマザに向ける視線から考えるとカイルが好みそうな体型だ。

 それはさておき、いや同じ家に住んでいるのなら彼女の胸に惑わされて関係を持ってしまったのだろうか?

だから彼女は婚約者を名乗ったのか?

だがカイルはまだ一般に子供とされる学生に手を出すとは思えない。そもそもそんなことをする位ならアマザと既に関係を持ってるはずだと思う。それに先ほどのカイルの態度や念話だと彼女に困惑してる様子だった。一方的に好意を寄せられて婚約者を名乗っているのだろうか?とりあえずアマザと共に彼女と話を続ける。



「彼はどういう経緯で狩人をしてるんでしょうか?」

「彼は一般人のはず、狩人でどういう働きをしてるのでしょうか?」

「危険な大森林へパーティーを組んで出るあなた方から見ては彼はどういう人柄にみえますか?」


 彼女からの質問で今のパーティーに彼が如何に重要な存在になっているか再確認することになった。だが彼女からの質問は思っていたものとは違った。婚約者を名乗るくらいなので女性である私達に不貞を探すような質問や釘を刺すような意見を言うわけではなかった。婚約者を名乗ってるわりにカイルのことを知らないので他人からの評価を集めているという感じだ。やはりさっきのカイルの態度も含めて何か訳ありのようだ。

 そのうち


「女性の意見としてお聞きしたいことがあります。特に狩人は狩人同士で結婚することも多いそうですが彼を異性としてどう思われていますか?あとその指輪についてなのですが。」


 カイルをどう思っているかについてはアマザも私もはっきりと好意を持っており、告白したことも、それから続く今の現状も伝えた。

指輪については源力補充装具であることについては広まることを防ぐため説明せずにカイルから貰ったものであることは伝えた。狩人でもない彼女もカイルから贈られていたことを伝え聞いて妬心を覚えたけれど。


「彼が狩人をしてたことは知りませんでしたが それ以前の城壁補修の仕事をしていたのは知っています。失礼な話とは思いますがその頃の彼からすると貴方達ほどの器量の方が懸想するほどの男性ではなかったと思うのですがなぜ彼を好きになったんでしょう?」


 カイルを低く評価する発言をした彼女に対してアマザは最初不機嫌な表情を見せたがモトスとの一件を話し、私は自分のこれまでの事情を話した上で彼を好いていることをはっきりと伝える。しかしアマザや私が彼を好きでいることを伝えても彼女はそれに反発することもなく、淡々と受け止めている様子。婚約者を名乗ってるがカイルのことが好きではないのだろうか?


「そもそもなんでそうなったん?」


「私の一族の掟です。」


 一昨日に起こった事故?から掟によりカイルを良人とするつもりなのだそうだ。


「普通は結婚が決まるまでは数回(数人)の恋愛を通して男女の付き合いをこなすものなのでしょうが私の一族でもそれは変わりません。ただ一線を越えたらその相手と結婚しなければならないだけです。そしてそれは行為だけでなく同室で二人で一夜を過ごすなどした場合でも同じ事と看做されます。」


「傲慢な男に組み伏せられたらその先不幸しかないやん。ニミヤとカコちゃんの事情にも腹立ったけどそっちのしきたりも大概やなぁ? 女の方から不満はでぇへんの?」


「そうですね。確かに女性には不利に見えます。だから私達は女も戦い方を学んでます。それに異法は人によって使う使えないがあるのでこういった時には使えません。使った場合は卑怯者としての烙印を押されますし。」


「それで、あんたはその掟に従って一緒の家に住んでてもうちらに尋ねんとあかんほど知らへん男と一緒になるつもりなん? うちらとしては別にカイルと関係を持ったわけでもないし別にあんたの一族にばれてへんのやったらカイルを避けてもろたほうが嬉しいけどな?」


「ええ、彼に好意は持っていませんでした。ですが一緒になってから好きになれば同じことですのでまずは好きになれるところを探すつもりです。ですので同じ女性であるお二人の意見も参考になりましたし。」


「っちゅうことはうちらがカイルを好きなことが分かった上でも引かへんってことで?」


「はい。掟ですので。」


「わたしもあなたの事情を知ってもカイルを諦めるつもりはないわ。そもそも私は特異な体質で子供が欲しいならカイルが相手でしか出来ないし。」


「うちもカイルに関して引くつもりはないけど一夫多妻制度やから問題ないってことでええの?」


「はい。そちらがそれでよければ私は構いません。」


『どうする』


 わたしはアマザと念話をして彼女をカイルとの一夫多妻に含めるか相談した。結果は一夫一婦を求められてカイルを失うよりは手を組むことになった。


 3人で話がまとまったところでアマザがカイルから聞いたカイルの過去、先ほど詳しく説明していなかったカイルの怪力と源力を操る能力、狩人以外に原石を専売している状況を説明した。更にカイルに告白して2ヶ月以上経つこと。そしてどうやら付き合うには彼には言っておくべきことがあるとのことなのだが今のところそれを明かしてもらっていない。

それは言いたくないようなトラウマなのか?口に出せば私達が彼を嫌悪するほどの事情なのか?いずれにしてもこのままでは関係が先に進むことが無さそうなので同じ家に住んでいることを生かして聞き出すことができないか頼むことになった。おそらくは彼女が彼を良人にしようとしてもカイルはその事情を持ち出してくるのは確実だと思うから。



先日半分書いて保存したつもりがそのまま公開になってましたが後半を追加してサブタイトルも付けました


お気に入り100件 ユニークPV一万ありがとうございます



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