↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
あっちとこっち  作者: rurihari
2 生活
50/142

2-25 キノコと巨蟲

 『遠慮』の渾名を知らしめることになった常識の埒外の狩りをしてから既に一週間。

 アマザの言っていた通り指輪リングの貸し出し資格を得る狩人は俺たちに興味は持っても変に絡んでくることはなかった。それは一安心ではあったが逆に命を粗末にするような狩りを行うパーティーと若干距離を置くものもいた。

 当たり前だが巨獣を狩るには一度に相手にできる常識的な頭数がある。

それを超えている頭数を相手にしたと思われたため命知らずで金の為に狩れるだけ狩ってきてしまった若さゆえの向こう見ずな行動と思われてしまったようだ。無傷で生還してきた異法の力についてはもちろん認めはいるようだが。

そもそも通常一頭ずつを誘って固定してボウガンで弱らせて仕留めるというのが一番多い安全な狩り方なのでボウガンで即死させることが出来ない以上は時間が掛かる。

 それを丸1日をかけずに30頭なのだから複数頭を同時に相手にしていると推察されるのは当然だ。

 それができるのは巨獣を絶命させるのにボウガンを使うよりももっと早く行えているからなのだがそこまで気付いているパーティーもおそらくはいるだろう。

 だからといってどうやって仕留めているか? あるいは分かっても真似ができるかは別の問題となる。


 その後 思った以上に普通に狩り生活を続けており、アマザが提案した9頭ほどを無難に狩って余った時間は現場修練というこれまでと同じ流れになっている。俺はこれまでと同じようにみんなの修練の時間は「拾い物」をしているが今はキノコ拾いにシフトしている。

 

 他に変わったことは0番地区に入る狩人が増えたことと、俺たちの狩りの現場をみて同じように岩場を狩場にするパーティーが出てきたことだ。

 しかしそのパーティーも土がないところでは巨獣の足止めが出来ず、うまくいっていない様だ。

 岩場周辺の原石は回収済みだし、岩場を俺たちが狩場として占有する必要も無いので他の狩人さんも頑張ってくれ。


 『偏食』メンバーとの酒盛りも先日で終了したが俺は初日以外は酒盛りは参加していない。

 原石に関しては小出しに中央買取課に出しつつ、キノコを採っては取れた状況と外観の大まかな絵を書いたり、更に煮たり、焼いたり、味の感想をまとめたりしていたのでとても酒盛りしている時間がなかった。

 酒宴の最中の話題に狩りの手法が上がるのも当然だったがパーティーメンバーは源力補充に関しては他言していいかどうかは俺の許可がない限りは言わないよう申し合わせているようで『偏食』以外にも酒場で聞き耳を立てていた者にも漏れることはなかった。

 狩りの仕方の情報を欲しがっていたのでなんとく『偏食』たちは0番地区に来るかと思っていたのだが起伏の激しいこの地形では巨竜は少ないので今まで通り2番地区で狩りを続けるそうだ。


 リーダーのダーナからは暇があれば自分たちの狩りを見てアドバイスをしてくれと頼まれたがあの格好で真面目に狩りをされると笑ってしまう自分を止められそうにない。

 真面目に異法を使いながら振り向いたらカイゼル髭って反則だろ。

 巨竜の進路に待機するために大森林を走って飛んで念話を飛ばしながらこっちを見たら眉がないって、俺は噴出すのを堪える自信が無い。

 

 それとなく


「都市内の仕事ならすでに結婚して一児の母になっていてもおかしくないんだから……」

 

 ということをぼかして言ってみたが伝わらなかったのが悲しい。

 婉曲な表現は通じないらしい。

 だが俺は今のパーティーでの狩りしか知らないから他の狩人がどうやって狩ってるかは興味はあるので休狩日で都合がよければ同行するかもしれない。


 そんなことをつらつらと考えながら今なにをしてるのかというとこっちの珪藻土で作った七輪もどきで今日もキノコを焼いている。


 今日のは見た目が椎茸に近い期待のキノコだ。

 日本あっちのスーパーじゃ普通に買えるがこれを10個程度見つけるのがどれだけ大変だったか。

ホダ木での養殖は知ってるしホームセンターでインテリアみたいに室内で栽培するキットが売ってるほど日本世界あっちじゃお馴染のキノコだが実は養殖方法が確立する前はかなり貴重なものだったらしい。

 こっちでも美味しいならなんとか栽培してみたいもんだけど菌コマってどうやって作るんだろう? いずれにしても味を確認してからか。

 ちなみに毒になるかもしれないものを大森林から勝手に持ち帰るのは許可されていない。それがなぜここにあるかというと持ち込める安全なものかを専門家であるコウサ師匠に判断、調査してもらうという形を取った上のことだ。ほかにも師匠が問題ないものだと覚えてるものだけをこうして自室に持ち帰っている。


 炭が手元にないので鍋板を使うことが多くなってあまり使わず余りがちな赤髪亭の薪をもらって焚いてるのだが赤髪亭の入口前ということもあり、七輪を眺めているのは俺だけでなくマリアさんとアンジェもいる。

 都市カードを物質化して表示された時間を見ると3時過ぎ。学校が終わると赤髪亭の手伝いまでは外出したり、コーリンたちと遊びに行くことが多いアンジェだが俺がキノコを持ち帰って味見をするようになってからマリアさんと一緒に味の批評をしている。

 こうしてキノコの味を確かめるのは毎日ではないが、とにかくうまいキノコを探し当てるまでは気長にやるしかない。コウサ師匠は全部煮て食べたって言ってたからな。焼いても食べられるってことになると思うが煮ると焼くじゃ味も違ってくるだろう。

 あっちと同じ形だから同じ味がするとも限らないし、その逆もありえるのでまずはトライだ。とはいえキクラゲタイプのキノコを焼いて食べようとは思わないので傘と柄があるタイプだけを焼いている。

 実際に店に出す料理を作ってる2人から味のアドバイスをもらえるのでどんな料理に使えそうか意見をメモっている。 養殖してるわけでもないし、一度に数が採れたり、同じものを探しても全く採れなかったりするので都市から食用としての持ち込みが許可されたとしても採取する者が増えないことには今のところ定番メニューの材料としては安定した採取はできないが日替わりの一品として出せるかどうかか。

 

 ちなみにコーリンも最初はいたのだがたまたま最初に焼いた種類のキノコの匂いが気に食わないようで以降は参加していない。

 ヴェガに至っては一口食べてプイっと顔を背けてから自室に引っ込んでしまった。味がないか薄いと感じるらしく他の料理に混ぜた状態でないと食べないみたいだ。

 

 串に刺して焼いたキノコの傘の裏の襞<ひだ>からじゅわっと汁が出てきて、そろそろ火が通ってきたようで串を2人に渡す。


「うーん。塩とコショウだけで食べられるけれど味は「それ」だけね。触感がいいからスープにはいいかもしれないわね。」


「このグニグニした触感いい? 刻んで混ぜるなら他の料理に入れてもいいと思うけど……」


 「うーん、 柄が付いてるところを切って肉詰めで焼くか、細切りにして野菜と炒めるくらいか? 後でこいつは煮てみよう。出汁がでるかもしれない。」


 匂いが無いシイタケって感じか。キノコってグアニル酸とか旨味成分が豊富っていうけどあんまり感じないな。こっちじゃこれは煮ないとダメなタイプか?それとも干さないとダメか?


「出汁ってなによ?」


「えーっと、グルタミン酸、いやアミノ酸。旨味っていう味が付いたもんだ。苦味、辛味、甘味、塩味とは違う味って思えばいい。」


「ふーん、(む)」


 あまり興味が内容で金串の両端を持って焼きキノコを頬張るアンジェ。


「あっ! たぶんレモンかチーズを上に乗せてもいけると思うぞ。」


「なんというか、あんたの食べものの合わせ方ってキワモノね。」


「旨けりゃいいんだよ。」


 とりあえずシイタケの代用っぽいのはこれでいけそうだ。

ひょっとして茶碗蒸しが作れるかもな。あとの代用を目指すとしたら、しめじ、エリンギ、ひらたけ……滑子はウケが悪そうだ。味噌汁もないし止めとこう。

 松茸はもし似たのがあっても匂いをどう感じるが微妙だな。

日本じゃいいとされてても北欧じゃ悪臭扱いだし。 確か北欧での名前ってムカツク臭いって意味だっけ?

 マッシュルームか中華でお馴染みフクロタケなんかがあると嬉しいけどしめじと一緒で野生じゃどんな感じかまるっきり知らない。ネットで画像検索しておこう。

 それに臭気といえば松露、いわゆるトリュフだ。実は日本でも取れるんだがこっちではどうなんだろうか?普通にキノコがあるんだから存在してそうだ。あっちでも食べたことないけどな。


「美味けりゃいいっていっても巨蟲は勘弁してよ? もしアレをここに持ってきたら部屋から追い出すわよ!」


「アレは俺もゴメンだ。素材としての巨蟲はともかく、食いもんとして触れたくない。」


 アレを思い浮かべて食欲が失せてきた。


 『巨獣』の呼称でまとめられる大森林に生息する人に害為す巨大な生物。


 巨獣、巨竜、巨鳥、巨蟲、巨妖。


 年輪都市が廃墟から再興される時に存在していた巨妖は既に姿が無くなって久しく、狩人が主に素材を得るためや食料として狩るのが巨獣、巨竜、巨鳥。

 そして危険な毒物を持つタイプもいるのだが大森林に入らずに都市内で生活してる分には基本的に脅威ではないのが巨蟲。


 もちろん普通の大きさの虫も多種多様、そして多数存在しており、かつそれらの中に体長が巨大な種類が存在している。

 輝虫が貴重なのはその美しさと採れる数の希少さもさることながら素材として使えるほどの大きさを持つ虫であることも重要なのだ。

あちらの世界にもいるクワガタやカブトムシに似たような種類の虫もいる。だがいくら大きくても10-15モイト程度で輝虫のような30モイトなんて甲虫はこの異世界の大森林でも極端に大きい昆虫の一つなのだ。

 ただし昆虫としてはであって、哺乳類や鳥を捕食する蜘蛛など昆虫以外の節足動物や甲殻類はもっと巨大なものも存在している。


 巨蟲として恐れられているのはいくつかあるが中でも最も恐れられているのは甲虫ではなくハチ、しかも雀蜂ホーネット。そして吸血タイプの虫だ。

 

 日本あっちでは最も人を殺している動物であるスズメバチ。こちらでは更に凶悪で毒のカクテルをブッ刺してくる以外にも幼虫に与える肉団子のため「生きてる動物」を襲って肉を噛み千切りにくるのである。それも10-15モイトものヤツが!

 だがその幼虫は良質のたんぱく質を食べており美味しいらしく、都市内で珍味として流通しているが俺は食べたくないのでどんな料理なのかは知らない。高級食材として生で並んでるのを見たことがあるのだが秋にバラエティで時折やってるスズメバチハンターの番組で見る幼虫そのままだ。こっちでは防護服がないので土の異法で体を固めて巣を壊して取るそうだがそんな依頼が来ても絶対に受けたくない。

 

 吸血タイプのやつは昆虫である虫のようなタイプと『蟲』と呼ばれているよくわからんタイプがいる。

 吸血『蟲』と呼ばれているのは節足鉱物ではなく、管状の姿をした生物で以前狩りをやっていた10番地区にいるのはこの肉食吸血タイプだ。夜になると大森林の土から這い出てヤツメウナギのように皮膚に吸い付き、更に肉を食いながら血を吸うらしい。活動時間が夜ということで出歩くものが少ない為に被害は少ないそうだが気色悪くて絶対に会いたくない。


 あ~~~食事の合間になんでこんな気色の悪い蟲を思い浮かべにゃならんのだ。


 頭を振って次のキノコを焼いてみる。


「それにしても『根の無い薬草』って普通に食べれるものが多いのね。赤とかオレンジのヤツはないの?」


 食感が、などといいながら食べるを止めないアンジェ。相変わらず赤いものに拘っているようだ。


「あるのはあるらしいぞ?

 ただ食べたら虚ろな目になって口は半開きで涎垂れ流し、笑いながら失禁してたそうだ。

 翌朝まで1日寝たら治るそうだがその間とってもステキな夢が見られたってよ。」


「持って帰ってこないでよ?」


「残念! アンジェが好きそうな色だから見つけたら持って帰ってこようと思ってたんだが。

(毒じゃなくて普通に食べられるのもあるそうだけどな。)」


「ふん!」


 お次のキノコは傘がない茎だけに見えるタイプのキノコだ。冬虫夏草のキノコ部分のような外観。


「あら?///」


 何故か戸惑っているマリアさん。


「カイルはこれが何か知ってるの?」


 薬草及びキノコ(根のない薬草)の専門家であるコウサさんに見せて問題ないキノコだと確認してるが問題があるのだろうか?


「普通に問題がない食べられるキノコだって教わりましたけど?」


「そうなの? そういえば最近は『こういった薬草』は見なくなったわね。あの人と結婚した時は勧められて二人で恥ずかしがって食べたものだわ。」


 ちょっと赤面しているマリアさん。往年の新婚時期を思い出してるんだろう。

 それと彼女の態度で『こういった薬草』の効果が分かった。 民間療法的なあっちの用途なわけね。


「聞くところによると気のものというか、実際の効能ははっきりして無いらしいですよ? 

 だから都市では『そういう使い方』での流通は減ってるようですね。 普通に食べて問題ないらしいです。」


 コウサ師匠から聞いたことを伝えて口に運ぶ。


「うーん、触感は思ったよりも固めだな。味は出てるけどちょっとえぐい?食べるならあく抜きする必要があんのかな?」


 続いてマリアさんも口に運んで食べた後に懐かしそうに言う。


「そうそう、こんな味だったわ。」


 しかしアンジェは見ているだけで食べようとしない。少し俯いて恥ずかしそうにしているように見える。


「……母さんもあんたもよくこんなの食べるわね。」


 俺達の会話でどんな効能があるとされているのか察したようで紅潮した顔で言ってくる。


「都市が認めてないってことは効果も眉唾か、あったとしても軽微ってことだろ?

 どうってことはないな。」


 ポン酢、いやそれだけじゃなくて大根おろしも欲しいな。それに唐辛子を振れば焼いたキノコは大体いけるかな?こっちにあればだけど。


「そうよ? あなたも料理をするんだから食材の味は知っておいて損はないわよ?」


「母さん! もし効果があってこいつがけだものになったらどうするのよ!」


「ちょうどいいじゃない。まだ学校に行ってるとはいえあなたはもう15でしょ? 私があの人が結婚したのも15よ? 結婚するかなんて後でいいから『女』になってもいいんじゃないの?」


 などと俺を相手に初体験を済ませれば?なんて返してる。

 たぶん冗談なんだろうけどアンジェってこの都市の住民にしては奥手というか潔癖症?って見るとアンジェもマリアさんの言葉でこっちを見ていたらしい。

 すると、


 バシっ!!


 なんか知らんが強烈な張り手を食らった。


「誰がこんなヤツと! 絶対にイヤよ!!」


 更に顔を赤くして部屋に向かって走っていった。

 俺なんかしたかよ?


「マリアさん、アンジェをからかうのは止めてくださいよ。こっちに被害がでるんですから。」


「あらあら。じゃあ、効果があったら私の相手を頼もうかしら?」


「アンジェだけでなくて俺もからかわないでください……。」


 七輪の火が消えたんで他のキノコは明日に食べることにした。




1モイト=1センチ

1メイト=1メーター


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。