2-24 酒宴
俺達は中央買取課の窓口前ある広場中の注目を浴びていたが得意気なアッシャーはともかく他のメンバーは目立つことを避けて早々にタンジーの店の奥に引っ込んだ。指輪の延長条件をクリアして民間の問屋へ買取を出す予定ではあったがリーダーのアマザがどこの店に売るか決めてなかったため利用してなかった。 そのためタンジーが番頭を務める問屋を利用する理由を説明したところ父親が絡んでいることに不機嫌そうになったニミヤだが少なくとも騙されたりすることはない理由にはなるのでそれ以上は何も言ってこなかった。
見積もりの結果は獲物の20頭はタンジーの店リクコに、あとの10頭はリクコの担当地区では品余りのため中央買取課への売ることになった。衆目の中、中央買取課窓口で買取金額をそれぞれカードにチャージされた後、上機嫌のアッシャーに連れられて酒場に向かうようだ。
「今日はこの時間まで大森林にいたからな。俺は風呂に入って着替えてから合流する。それにこの中央買取課近くの銭湯は色々騒がしくなりそうだからな。装備を置いて着替えるついでに0番地区詰所の方でひとっ風呂浴びるとするわ。」
そう言うとメンバー全員が同意。
酒が飲みたいというよりはこれまでの修練の成果が形になった今日の狩りに昂ぶっていた感じのアッシャーだったが俺の言葉で注目が煩わしさになることを理解したのか落ち着いてきたようだ。
俺達の今日の成果が知られていない0番地区詰所に戻り、最寄の銭湯に入りながら全員で念話を交わす。タイルに湯桶を置く「カポーン」という音は時折聞こえるが念話のため声を出しての会話のように反響のエコーもなくクリアに聞こえる。逆にこういう場で反響する声で会話をしていたら気恥ずかしさいかもしれない。
『これだけの成果を上げてしまった以上は今日からはどうやっても注目を浴びることになる。いつまでも高めた異法を使わないなら宝の持ち腐れだし仕方がないな。だけどこれで1日3頭くらいなんて成果をセーブする必要もなくなったわけだけど明日からどれくらいを目安に狩りをするのかアマザの意見を聞きたい。』
『そうやね。まず今日の狩りの成果は自分でも驚いたんやけど、もっと驚いたんはあれだけの巨獣を前にして気持ちは高揚してんのに焦ることがなかったことやねん。
東側からきた巨獣を連続で相手にしてこんなもんか?って思ったし、一呼吸ごとに源力を補充して常に充足状態にしとったから心に余裕があったんやろな。
でも今日の数は狩りすぎやと思う。稼げるのは嬉しいけど持って帰るための血抜きや洗浄、切断に時間が掛かりすぎるわ。それにカイルがおったからあれだけの獲物を歪門へ放り投げてもらえたけど うちらだけやったら狩ったところで持ち帰られへんかったやろ? カイルがおれへん時は狩りに出えへんと思うけど、これまでの3倍の9頭くらいにしておいたほうがええと思う。』
『わたしもそれに賛成するわ。あれだけ狩ったけれどそのおかげで今日は修練する時間もなかったし。今日はみんなずっと源力の補充をしてたから一度も源力枯渇を起こしてないんじゃない?』
『俺は特に意見はないな。カイルからの課題はクリアして巨鳥を落とすことができたことには満足したし。』
タミー、ニミヤはアマザの案に賛成。
『確かにアマザの言うとおり万能感というか後半の西方面の巨獣の連戦でも全く恐怖を感じなかった。源力大量消費での強力な異法には自信があったけど連戦してもこんなに余裕なもんだとはな。でも更に強くなるためにはもっと大量に源力を使って異法を使うってことだからな。
やはりこれまで通りに午後は修練に当てたい。午前に狩れるだけ狩るでいいんじゃないか?それがこれまでと同じ3頭でもアマザの言うように9頭でもいい。』
『俺は、問題ない。』
アッシャーは巨獣を相手にするには万能感ってちょっと危険な感想を持っているが更に強くなることに関心があるようでホーヅからは意見はなし。なのでそのままアマザの言うようにこれまでの3倍程度、ただ今回のように一度に相手にするのは避ける条件だ。今回東から来た毒液?を吐く巨竜や俺が相手にした甲殻を背負ったような巨竜などこれまで狩った事がないタイプが混じっていたので危険は避けるべきとの判断だ。
『問題はこれから起きるだろう。やっかみか、取り込みか逆に取り入ろうとしてくる連中が出てくることだな。前の10番地区の時よりはるかに多くなるだろうな。』
『それはもう狩りの途中から覚悟してるわ。リーダーのアマザはかわいそうだけどね。』
『それについてはあんまり心配してへんで?今まではキャリアと実力の違いからやっかまれると思っとったけどな? 考えてみたら10番地区と違って中央での買い取りやから周りは指輪持ちになれた程の狩人ばかりやもんな。うちらの結果に狩りの仕方を知りたいと思う奴はおるやろけどパーティーに入れてくれみたいな軟弱な奴はおらんやろ。』
『なるほどな。だが狩人にはモトスを始め色んな奴がいるからな。とにかく面倒な連中は適当にあしらうしかないしな。』
『なるようにしかならんってことだな。とりあえずは今日は自分の異法の上達の実戦証明を祝してうまい酒を飲みたいぜ。』
『じゃ、後でアッシャーのいう酒場に行くとしよか。』
『それにしてもカイル、お前ポーターになる前は外壁作業の仕事だったんだろ?なんで背中にそんな傷痕が残ってんだ?』
『巨獣より怖かった奴との特訓の名残だな。見えるとこや手が届くところは薬草を付けられたんだがな。この肩甲骨の辺りの背中はどうしようもなかったのさ。』
『ふーん。』
(今はその特訓をした養父、ニーオン・カイロクは中央にいるらしいな。あまり面を合わせたくないし買取課以外には近づかないようにしよう。)
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昨日 アッシャーたちと『偏食』メンバーが飲んだ酒場に入る。
俺達の顔は知られていないが時折 『遠慮』という渾名が聞こえるたびに視線を向けられる。
まだ装具をつけたままの『偏食』のメンバーを見つけたアッシャーは
「勝負は俺達の勝ち、だろ?今日から一週間は酒代を持ってもらうぜ『偏食』?」
「完敗を認める。約束どおりそちらの酒代を一週間持とうではないか!まずは勝者への祝杯だ!杯を持て。」
似合わないお髭のリーダーの音頭で俺達は杯を掲げる。
「若さと稀有な実力を持つ狩人に乾杯!」
「「「「「乾杯っ!!」」」」」
ついでに掲げてくれた店内の狩人たちと祝杯を空にして飲み会は始まった。
他の狩人たちからあり得ない成果を上げたことに対する賞賛と驚き、その方法をさりげなく話題として聞こうとしてるものがいるようだが俺はポーターであることを知ると声を掛けてきた連中は去っていくので静かに飲める。
果実酒を口に含みながら俺は以後のことを考えていた。アマザの言うように狩人として自尊心を持ってるなら入れてくれなどと言って来る奴はいないかも知れないが俺達の狩りを知るために同じ0番地区にやってくる狩人もいるかもと。
俺達の狩りは風で呼び寄せ、土で足止め、水で止め。ボウガンよりも異法がメインの攻撃になったこと以外は至極真っ当な狩りの手順といえる。それ自体をチラ見されてもなんの問題もないがその持続力と威力の高さに注目されると厄介か。
明日からは巨獣以外にも狩人に対する索敵が必要かもな。今はニミヤ以外にも土での振動探査、水での水蒸気の動きの探査もあるから訓練にはいいか。そんなことを考えていると『偏食』のカイゼル髭がやってきた。
「少しいいかな?ポーター殿」
高い声と髭以外の部分、頬の部分が綺麗で髭に違和感がありすぎる。
「構わないよ。『遠慮』のポーターのカイルだ。」
指を伸ばして手の甲を向けて爪を見せる。
相手も手の甲をこちらに見せて緑の爪を見せる。土の異法士か。
「挨拶が遅くなった。我は「偏食」のリーダーのダーナだ。まずはあれほどの成果を上げたこと、おめでとう。」
「ありがとう。でもそれだけじゃないんだろ?」
「ああ、せめて飲み代の代わりに情報や狩りのヒントが欲しくてな。アッシャーに聞いても詳しいことはカイルに聞けって一点張りでね。」
(あの肉達磨細目 こっちに投げやがったな?)
「すまんが婉曲な言い回しは嫌いなんで率直に聞く。どうやったらあんなに狩れる?」
周りにいる狩人は「誰もが聞きたい確信」をダメ元であろうとズバリと聞いたことに賞賛を送りつつも聞き耳を立てていた。
「そりゃ風の異法を使って匂いで呼び寄せたからさ。特に今回は3級を主に狩る新人が少ない地域ってことと4日間狩りをしないでいたこともあるだろうな。」
「(嘘だな。いやそれもあるだろう。だがそれほどの力がありながらこれまで大量に狩ってこなかった理由は推察できる。問題はどうやってその力を身につけたかだ。)
なんというか普通、いや当たり前のことだな。じゃあ聞き方を変えよう。
なぜあれほどの数を狩り終えるまで無事でいられる?まさか順番待ちで襲ってくるわけじゃないだろ? 一頭ずつ狙いを付けて呼ぶにしても何度も風の違法を使うことになる。あれだけの頭数分を索敵、釣りを行うには風の異法士の源力が持つはずもないと思うが?」
「そうだろうね。だから今回は一度に巨獣を集めたのさ。」
「馬鹿な!そんなことは自殺行為ではないか。それでどうやって狩れる?」
「創意と工夫だろう」
「さすがに教えてはくれんか。」
「俺達がやったことは別に奇跡でも魔法でもない。異法士の人数さえ揃えれば出来ることだ。(俺が如意棍で作った囲いだって土の異法士が複数人で壁を作ればできるからな。それに装具での源力の補充は言ってみれば複数人の異法士がいるのと同じだ。源力枯渇を起こす心理的な弱さがないなら交代要員で補えば同じことだし。) それを俺達のパーティーの人数でどうやりくりしたかが工夫だな。」
「工夫か。我たちも自分達の狩りの方向性を思考した上で今のスタイルのなったんだが、とても今日の『遠慮』ほどは狩れん。まだまだ我らの考えは足りんのか。」
「俺はあんた達の狩りのスタイルを知らんからどうこうは言えない。ただ現在の狩りで安全な方法とコンスタントな獲物の頭数に満足してるならそれ以上は変えようとしないだろ?なら当然その先には進まないさ。」
「……そうだな。」
少し考えてから頷いてから目を伏せて果実酒を煽る。その伏せた睫毛が長い。
ん? なんか髭がアンバランスだと思ったらカイゼル髭があるわりに顎ももみ上げも髭を剃ってる痕がない。
「ひょっとして、あんた女か?」
そういや室内なのに帽子を被ったままだ。
「何を言ってる?我は男だ 女がこんな髭を生やしてるわけが無いだろう?」
「いや、どう見ても女だろ、朝に気付かなかった俺もどうかしてたけど。どうも声が高いと思ってたら……なんで付け髭つけてコスプレしてんだよ?」
そういったところでアッシャーから念話が入った。
『それは触れないでやってくれ。こいつが女なのはみんな知ってる。
お前は狩りの後も忙しくてあんまり中央で酒場に行ってなかったろ? こいつら2級巨竜ばかりを狩れる実力はあっても渾名が無くてな。引き手から注目されるために涙ぐましい努力をしたのがソレなんだよ。』
『どう考えても努力の方向が間違ってるだろ。じゃほかのメンバーの眉なしや禿頭や刺青?もそうなのか。単なるネタじゃないか。』
『ま、そういうな。2級が狩れる実力があるのは間違いないからな。ほかの狩人も面白がってるのさ。』
そう念話が入って周りの狩人を見るとダーナを生暖かい目で見ている。
お髭の紳士はお髭の淑女だったわけか。イタいなぁ。
アマザやタミーより年上の女性が死の危険がある大森林に出る狩人でコスプレ、しかも精巧な付け髭までしてる彼女の行動にパーティーを組んでるメンバーの苦悩を思うと同情を禁じえない。 いや眉剃ったり頭剃ったりペインティングしたり意外とノリノリなのか?
名付き狩人パーティー『偏食』リーダー ダーナ→灘区をもじって




