2-22 心術士
「彼の余罪ですが年輪都市にはさほど興味なかったようで、先日カイルさんから売っていただいた水晶岩も適正な価格だったそうです。さすがに都市交易課からの代理依頼で不正をした場合のリスクは高かったようです。ついでに行っていた自らの交易に関しては心術士の力を使ってかなりあくどいことをしていたようです。」
ここはサンタシの応接室。今は彼の私室は俺が石置き場として占拠させてもらっているいるので今は彼の私室も兼ねている。
「お茶をお持ちしました。」
そう言って窓口の女性職員が持ってきてくれるが既に俺の前には3つの湯飲みが並んでいる。
別にそれほど長居をしてるわけじゃない、例によって積極的アプローチと言おうか肉食系婚活とでも言おうか、別の味のお茶をいれて別人が持ってくる。サンタシにも御せないのかそれとも言っても無駄なのか次々にくる女子職員を無視している。誰もお茶を置いていく時にさりげなく、ではなくモロに手を触ってから帰って行くのにも慣れた。
昨日の事件があったものの4日間も連続で狩りを休んでいたために今日は普通に0番地区から大森林に出た。この4日間の間も他の狩人が入ってるわけでなかったようで休みの間に狩られていない巨獣がいつもの岩場周辺にまでやってきておりあっさりと遭遇できたことで狩りそのものは時間を取らずにいつものノルマの3頭を狩り終えた。
その後の現場修練ではニミヤやアッシャーからあれほどの石を詰めた袋を運ぶことになるなら断ればよかったとこぼされたが新たに球状の源力補充装具を与えて黙らせた。大きさは5モイトほどだが中が空洞に成っており、これまでよりも俺の源力を多く留めることができる。それにこれなら誰かの源力補充装具の中が空になっても融通しあえる。問題は空洞であるために強い衝撃が掛かると割れてしまったり、身に着ける装具と違って持ち運ぶものなので持って出るのを忘れたらどうしようもないところが問題ではある。だがこれでこれまでの装具と一緒に使用すれば1日に10回以上の源力枯渇を起こすことができるだろうと張り切って修練をこなしていた。俺も何か能力を高めるようなことをしたいが異法士でもないため大人しく食用キノコの探索を行って帰ってきた。その足でサンタシから話があると呼ばれてここにいる。
昨日の件についてはすでにタミーからアマザ、アマザからメンバーに伝わっている。特に問題がなかったためにパーティー内では取り沙汰されなかったが、朝に二人でタミーの家から0番地区詰所に来た時にアマザが悔しそうな顔をしていたが事情が事情なだけに何も言ってこない。タミーとの個人的な念話は交わされていたかもしれないけれど。
「心術士の力で暗示を掛けて自分に惚れ込ませるか、あるいは出入りに厳しい都市からは土の異法士に女性達の体を土で覆ったりして交易品と一緒に連れ出していたようです。
都市間交易や工業都市の代理交易の収入もあって自宅では酒池肉林の生活をしていたようですな。
彼が今まで心術士であることがばれなかったのは爪に対する変化である光沢が現れず、源力放出が髪からだけの珍しいタイプだったことのようです。そのおかげで髪の変化である艶からばれないように敢えて染髪した上で艶が出るようにしていたようです。」
「拘束を解かれたら真っ先に恨まれそうだね。」
「そうでしょうけどさすがに今回のことを工業都市側の擁護派の意見は控えざるをえんでしょうね。年輪都市だけでなくほかの都市との交易との信用を失って交易存続の危機になるくらいなら彼を切るでしょう。」
「なるほど。」
「それにしてもよく心術士の暗示からタミーさんを解放できましたね。」
「タミーが完全に意識を失っていたらわからなかったけどね。異法や念話はロックが掛かってたけどすでに手足は動かせるくらいにはなってたし。」
心術士は医術士、施術士、工術士と同じように源力を操り他人に作用する術を持つ能力者だ。
その名称の通り心、人間の内面に作用する力を持ち、他の術者と同じように対象(この場合は人)に触れることによって自分の源力を他人の源力に馴染ませて心を探ることが出来る。
心術士は他の術士に比べて少ない上にその力から登録と力の行使には制限が付いている。
この年輪都市においては心術士は司法及び保安課に身を置くことになっており、例え働くことが出来なくなってもその籍は管理のために除かれることはない。
その仕事内容は犯罪者あるいは容疑者の心を視ることによって真実を知ること。心を視るという嘘もごまかしも通じないその力により、犯罪の捜査の手間は省けるし冤罪も起こらない。たとえ人を殺す犯罪を起こしてもその起因や背景がはっきりと分かるため酌量の余地もこぼすことがない。
しかし心術士そのものが嘘をつく可能性もあるため、同じ被疑者に複数の心術士が別々に心を視ることが義務付けられている。
そしてそれらの働き以外に行うことがあるのが異法士や術士の能力の制限である。
普段は行われることは無いが犯罪者となってペナルティの金を稼ぐ期間中に異法で人を傷つける恐れがあるものや学校卒業時の『都市の祝福』を受ける前、特に分別がつかない年齢で異法が発現した場合に事故を防ぐために一時的にその能力を封じることができる。
封じている間ずっと相手に触れている必要なく、自分の源力を相手の源力に溶け込ませることで暗示を掛け続けることで封じている。
これは行動や意識(思考の方向や意識活動の低下や催眠)にも効果を発揮するので悪用を防ぐために禁止されている上に心術士が一般には忌避されている要因となっている。
それが元で早婚を推奨するこの年輪都市では晩婚することが多い上に、結婚時には自分の力を心術士に封じてもらうことが多い。
人の心が読めること、そして相手に心が読めることがわかっているとまず結婚生活が破綻してしまうことが過去の例でわかっているためだ。都市のために働いているのにその力ゆえに避けられる孤独な能力者といえる。
「タミーさんに掛けられた心術が解除できるなら同じようなことが起きたらカイルさんにお願いできるんでしょうか?」
「どうでしょうね。今回はタミーだから、それにバーンタは俺が近くにいたせいでとりあえずの術しか掛けてなかったんだと思います。
うちの師に心術士のトレーニングを聞いたことがあるんですけどね。
異法と違って術は相手の源力に合わせます。異法士と違って術士は源力の流れは見えますが逆に物体に作用するものでじゃないので効果が目で見えにくいじゃないですか。だからイメージでトレーニングをするそうなんです。特にタミーがされていたような相手の意識を沈めて異法や体の自由まで奪う場合は「相手源力を卵に見立てて自分の源力で包み込む」というイメージで行使するそうです。
ですが相手の情動活動が激しい場合は滑らかな表面の卵でなく、栗のイガを包み込むようなものだそうで。
そのイガをすべて包む込むような厚い源力が必要なために術士の源力の消費や技術もいるそうです。なので強く暗示をかけるには相手が疲れていたり安静な状態の時の方がいいと聞いています。
今回バーンタはタミーの確保に時間がなかったこともありますがタミーの源力の総量を見誤ったんでしょうね。
卵を自分の源力で包む込んだつもりが鶏の卵でなくオオアシの卵だったわけです。当然それを包み込んだ源力は薄い、つまり効果が薄い。
意識が覚醒しかけて男達に押さえつけられているわけですから情動活動は憎悪で高まります。ただでさえ大きい卵だったのが大きいイガ栗に変わったってことです。そのせいで包んでいた膜は破れかけてたわけです。その状態で更にイガ栗を大きくしたために暗示の膜は破れてしまったわけですよ。」
「ん? つまりイガ栗が大きくなったのがカイルさんがやったことですか?タミーさんの源力を大きくしたということなんでしょうか?一体、如何様にして?」
「企業秘密ってことで。」
「そうですか。深く追求しても仕方がないのでこれで終わりますが、今回、巻き込んでしまったお礼についてはしばしお待ち願います。
バーンタの処遇が工業都市との交渉で決まってからになると思いますので。ご要望があれば上申しておきますよ?」
そういわれてもな。 今のところ順風だし、いやアレの飼い場所が欲しいな。でも下手に分かりやすいところだと盗まれたり、飼育法がばれたりする恐れがある。ってことはキノコ栽培も兼ねて……
「では広くなくてもいいので出来れば8番地区のある栽培区画を一部お借りしたい。」
「お金でなくてそんなことで?」
「ええちょっと試したいことがありましてね。植物栽培の使用でないのでその許可も欲しいところです。」
「一応 上申しておきますがどんな風に使うかをお聞きしても?」
輝虫について話すことは迷ったが原石の置き場所まで提供してもらってることだし信用するか。
そう思って輝虫の養殖と食用のキノコについて明かすと二つ返事で引き受けてくれた。なおその証拠の生き虫を見せたところ度肝を抜かれていたようで放心していた。彼も生きた状態では10年を超えるキャリアで2回ほどしか見たことがないらしい。その後はもし成功したら是非個人的に譲って頂きたい言われた。奥さんへのご機嫌取りに使いたんだとさ。
翌朝、0番地区に集合するとバツが悪そうなアッシャーとニミヤ それとやれやれと辟易した感じのアマザたちがいる。
「カイル、すまん。ちょっと面倒なことになった。」
どういうことなのかと聞くと昨日の狩りのあとアッシャーとニミヤが中央買取課近くの飲み屋で飲んでいたところ、別の狩人チームに絡まれたのこと。
曰く、なぜ3級しか狩ってこない奴等が引き手に有望とされてるのか? そんな連中が俺達よりも若くして名づけられたことが気に食わない。しかもどんな奴等かと張ってみれば4日間も狩りを休んでいる。大したことがない。引き手には手を出せないがやつらの目は曇っている。とのこと。
「いいんじゃないのか?そう思わせておけば。 そのせいで狩りの効率が落ちるわけでもないし、同じ狩場で競合してるわけでもないんだろ?」
そうメンバーに返したのだが
「それがな?アッシャーが食って掛かってなら明日1日の狩りの成果で判断しろって啖呵を切ってきたんやて。大体、渾名の有る無しなんてもんに拘っても意味ないやろに。」
「男には引けない時もあるんだよ!」
すると横から5人組の狩人がやってきてその中で一番背が低い帽子を被った男が声を掛けてきた。
「パーティー内の意思統一が出来てないようだなアッシャー。そんな様の狩人が俺達と同じ名付きになってるとは……だが約束は約束だ。今日1日の成果で勝負をする。負けたほうが一週間分の酒場の代金を持つ! これは譲らんぞ?」
「分かってる『偏食』。勝つのは俺達『遠慮』だ。お前達は今日の夜の飲み代のために稼いでこい。」
なにやら向こうのリーダーらしき人物と言い合っているアッシャー。飲み代の賭けなのかよ。それにしても
「何か?」
リーダーさん……なんて立派なお髭。
先がピンと跳ねて揃えられておりカイゼル髭じゃないですか?でもあんまり似合ってないから貫禄無いですヨ?
「失礼ですがお年は?」
「君達よりも年上だがまだ狩人では若輩といわれている22才だ。」
嘘やん、その髭で?しかも声質が高めのボーイソプラノ。
ついで彼が引き連れている人物達に目を向ける。アッシャーが『偏食』と呼んだ狩人パーティーだ。
前髪を伸ばして目元が見えてないヤツとか、眉がないとか、禿頭とか、顔に刺青?で『偏食』とか、個性が強すぎるだろう。
「えーっと? とにかく狩ればいいのか?アッシャー」
「いつも通り狩ればいい。それでも俺達が勝つ!」
そういうアッシャーに対してカイゼル髭の御仁は
「なら頭数及び総買取額で競おうではないか? 今日の夕刻5時を期限に君達はこの0番地で、我らは2番地区で各々狩りを行うとしよう。 アッシャー、我らは飲むぞ?覚悟するがいい。」
そう言って去っていた。
これから中央経由で二番地区詰所に向かうんだろう。彼らが去った後アマザとタミーが半眼でアッシャーを見ながら呆れていた。
「死ぬこともある大森林でしょーもないことを賭けて狩りをするってテンション下がるわぁ。」
「まったくね。」
気持ちは分かるが新しい源力補充装具を使う訓練もいいか。
「アッシャーの懐がどうなっても構わんが今日は『無遠慮』にやってみないか?」
メンバーにそう言ってみた。




