2-14 休日7 それぞれの休日 1
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しばし休日が続きます
「ふんっ!!!」
呼気と一緒に声を出して気合を入れる。だがそれで源力の操作がうまくなるわけでもない。わかっちゃいるが今日の最後の異法修練を終えるときに気合の声を上げて〆とした。根性論で自分の技術が上がるとは思ってないが根性は必要だとは思う。
一級巨獣の撃退などもあったが雨天が少ないこともあって新しい狩場に来て順調に狩りの成果を伸ばして俺達のパーティーの指輪の延長資格を得るための条件「2ヶ月以内に規定買取額を21日以上」をクリアできた。その間の狩りを兼ねた源力の修練が楽しくて全く休んでなかったこともあってちょうどいいので3日連続で休みとなった。
体を休めるのもまた仕事、オーバーワークは禁物
それは分かっているが修練を兼ねた狩りがハードとはいえそれは午前だけだ。数日ごとに集まる酒場での会合を除けばいつも昼からはどう過ごしても構わない完全休養。これって毎日半日仕事であとは休んでるみたいなもんだから俺にしてみるともう少し緊張が続くように夕方まで狩りを続けて獲物を狩ってもいいと思うんだが・・・。 とはいえ今の午前だけで3頭の巨獣を狩ってる内容はカイルが加入するまでは夕方までかかって1頭狩っていたことと比べて単純に3倍の成果だ。そして金額となると狩る巨獣の種類にもよるがカイルが加入する前の平均6倍以上はあるだろう。
しかし俺は今は休むよりも修練がしたい。やった分だけその成果が実力の上昇として分かるのだからどんどん先に進みたくなるのは当たり前だろう。普通は個人の源力総量を伸ばすには身の内にある源力を使い切ることだけだ。それが負荷になり体は少し源力を留める許容量が高まる。しかし俺達はカイルが作った源力補充装具によりプールされた源力を体にチャージさせることで元の自分の状態からの源力使用も含めて1日に6回の源力枯渇を経験できる。しかもこれは午前だけという半日だけの時間を使ってのことなのだ。普通の異法士は不意の巨獣の遭遇に備えて源力が尽きないように余裕を持って狩りをして都市に帰り、修練場で訓練をすることで一日がかりで自分の源力を使い切ることを考えれば、作業時間半日で6回の枯渇は普通の狩人の12倍の効率となる。源力の総量が目に見えて上がってるのが自覚できるのも当然だ。
普通なら枯渇したほうが源力総量が増すからといって装具でチャージできる5回分まで全部大森林狩場現場での修練で枯渇するまで使い切ることはしない。当然大森林にいる以上はどこで巨獣に遭遇するか分からないためでそれが常識なのだがカイルがその場で源力供給装具にチャージするので枯渇した時に不慮の事態が起きたらどうする?なんて心配がない。 つくづくあいつはどうなってるのかと思うが一介の水の異法士の俺と比べるだけ無駄だ。
常人の6倍の効率で進む源力の個人総量増加、そしてカイルの発案による源力の使い方。俺は狩りで得られる成果や金よりもすっかり異法士の力を高めることに気持ちが傾いている。できれば仕事を終えたあとの午後も源力補充装具を使って何度も源力枯渇を起こすまで修練をしたいがカイルは午後も多忙に過ごしているらしく、呼び出して装具にチャージをしてもらうのは忍びなくて結局手持ち無沙汰の状態で過ごしている。
北大門の先に広がる大森林を今の現場にした時はジバシリを丸ごと覆う水球を15個も作ってそれぞれをコントロールしろなどと無茶な要求をしてきたカイルだが、あれから一ヶ月も経っていない今、それらも難なくこなせるようになっている。ホーヅと同じ水の使い方が出来るようになっていた方が便利だとは思うが今はホーヅと異なった水の異法の使い方をカイルの指導で訓練している。
ホーヅは水の盾。源力消費量無視での大きく、そして強力な水流での攻防を兼ねたもの。その一方で徐々に盾の面積をそのままにその厚みを少なくして水の体積を少なく、その代わりに盾の水流を更に速くするなど同じ水流盾でも異なる使い方を訓練しているようだ。俺はいうとカイルの力に及ばないと悩んでいたときに水流剣で岩を絶てないことを見られていたようでそれの強化をしてはどうかと提案されている。もちろん今の大量に源力を使って水流をより早くして水流剣はその力を増している。カイルに言われているのはその水流剣の水の量を減らして支配する水を少なくした上で、より多く源力を注いで更に早い水流で切れ味を増し、緻密なコントロールをすること。
ところがその水流が0.1モイト程度というかなり細い水の管(刃)で剣というよりは触れたものを切る太い糸といった感じだ。これが大森林の中ではおそらく巨獣どころか味方にも見えにくいだろうから広範囲に使うのは危険なのと水流である以上使う水は連環しているのだが水流の速さが増してるので強い角度で曲がるところなどの制御が難しい。今のところはまだ練習段階だがいずれはハガネイノシシの口の端からこれで切り上げて倒すことが目標だ。
休み1日目は源力補充装具からのチャージも含めて異法士の力を鍛えていた。とはいっても単に修練するのもなんなので雨が少ない農耕地への水分供給のバイトをしていた。 大気から水分を集め畑に散布するのである。同じ地域ばかりでやってると空気がより乾燥してしまうがしばらく待てば大森林から蒸散される水分がこちらにもくるので問題はない。巨獣に対する異法の使い方とはまた別でスケールを大きな異法の使い方なので得るものもある。
しかし2日目、さっさと自分の源力を修練で使い切ってあとはどう過ごすかやなんでいたのだが手が空いてるメンバーと昼飯でも食べようと念話を入れてみた。まずはホーヅだ。
『お休み中にすまんねホーヅ。連休で修練もこなしちまってやることがないんだが昼飯でもどうだ?』
まぁあいつは家族の面倒もみないといけないだろうから望み薄だとは思うが。
『ん?アッシャーか、そっちも休みとはいえ、修練は欠かしてないようだな。』
『おう!やった分だけ強くなるのが実感できるからな。で、どうなんだ?出て来れそうか?』
『すまない、妹や友人と、川に来て涼を取っている。今日夕方までは、こうしているつもりだ。』
『友人ねえ?・・・ まさか女か?』
ホーヅに女の影は見えないので冗談で言ってみたのだが
『そうだ。俺達は、午前で仕事が終えるが、彼女はそうもいかない、だから今日はゆっくり会っている。』
『おまえ付き合ってる娘 いたのかよ?! 』
『今のところ、たまに会う程度だ。付き合ってる、といえる仲かどうかは知らん。』
『へぇへぇ、一人もんの俺は一人寂しく飯を食うことにするぜ。ところで装具の源力はまだ残ってるか?』
『いや、昨日使って今日も使う。おそらく今日でプールされた源力は、尽きるだろう。』
『なら夕方以降にカイルの都合がよければ源力をチャージしてもらいにいかないか?』
『そうだな、考えておく。』
そういってホーヅとの念話は切れた。 それにしてもあいつ付き合ってたのか。実直で誠実、性格は温厚だしそう意外なことでもないか。
それにしても女か。パートナーはいないし、娼館に行こうと思ってもタミーの事情を知ってるからどうにも利用しにくいんだよなあ。俺も将来を考えて今のうちから誰か捕まえて付き合っておくべきなのか・・・
さて次はニミヤにでも念話を送るか。
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最近家が涼しい。異法士の兄ちゃんが家にいる時だけなんだけどね。
兄ちゃんは父さんだけではたくさん食べる私たちの食費が大変だからと学校を卒業しても家を出ないで狩人として稼いで家にお金を入れている。
だけど最近は前に怪我をした足の具合が悪いのか早く帰ってくることが多い。心配になって尋ねたら、
「大丈夫だ。足は前よりも良くなっている、早く帰ってくるのは、既に十分な仕事を終えたから。 お前が心配することは特にない。」
そういって頭を撫でてくれた。 でも兄さんは狩人になってから額と足に大怪我をしてしばらく治らないままで顔に仮面をつけていたくらいなので心配だ。
ところで家が涼しいというのは兄ちゃんが異法を使ってるかららしい。
父さんも母さんも一般人で家族では兄ちゃんだけが異法士だ。水の異法士っていってたけど家を涼しく出来るなんてすごいと思う。
妹のヨウサや弟のアッサゴも喜んでいる。どういう理屈で涼しいのかわたしには良く分からないが兄ちゃんが水の異法で集めた水を窓や出入り口とかの風が通るところに小さな水の粒、霧みたいにして噴射させているらしい。その水は温度でより、小さな粒になるだけだからまたそれを集めて霧にしてってのを繰り返してるんだって。
「これは、この前ウチにやってきた、カイルから聞いた。 ミストというらしい。 他にも、天井を常に水で覆っていれば。もっと涼しくなるらしい。 だが今はこの霧の制御を、同時に数箇所行うのが難しいから、やっていない。」
兄ちゃんによるとこれは異法はそれほど使わないけどそれを扱うのが難しいみたいで訓練も兼ねているっていってた。 これを大森林で広い範囲に行うことで遠くにいる巨獣を探ることができるかもしれないから、この前に家にきたカイルって人に練習するように言われてるんだって。あの人のおかげで兄ちゃんの額も治ったそうだし、兄ちゃんがお昼過ぎに帰ってこれるようになったらしい。そんなすごい人に見えなかったけどなあ、食も細かったし。
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今日は買取課の仕事がお休み。買取課は狩人の人たちに休みがないのと同じで年始と年末の間の5日間以外はそれぞれが休みを事前に報告して重ならない限りは休むことができる。
先々月に窓口であの人と出会ったときは狩人ってことだけで気性が荒い先入観があったのに、更に体の大きさと威圧するような顔の仮面で怖かった。
その人は獲物の買取がなくても毎日買取課にやってきてどういったものが持ち込まれているか尋ねてきて、こんなに強そうな人なのに使い走りをさせられているのだろうかと疑問に思っていた。なんせ初めて見たときの強面の印象とは違って話し方もゆっくりで丁寧、体は大きくても態度は尊大でなくこちらが手が空いてから尋ねてくる。
ある日彼は額から鼻までを覆っていた仮面を取ってきた。その下には額に大きな傷があったが今は治っているようだ。彼が狩人の持ち込みの状況を尋ねてくる時に恐る恐る聞いてみた。
「アレはこの傷を隠すため。今は治ったが、ソレまでは化膿して人を不快にさせるものだった。だから隠していた。」
ということだった。それまでの会話で気遣いができる人だとは思っていたけど周囲のためにあの仮面をつけているとは知らなかった。
それでも傷痕が残るその外見は体の大きさもあって初対面では怖いと思っただろうが話すと外見との落差が面白い人だと思うようになった。そのあと彼らのパーティーは成果が上がるようになり、指輪の貸し出し条件をクリアし次の月からは別の地区で狩りを行うと聞いた。 私はあの温和な大男との会話が無くなることが惜しく思えて彼と念話の設定をした。その後 彼らのパーティーが狩り場の地区を変える前にプライベートで一度会ってからは私が休みの時には彼と会うことにしている。獲物が取れないと収入がない、雨が降ると狩りにはでないことが多い、などあたしたち以上に休みが不定期なはずの狩人だが彼は午後は大体時間があるらしい。それでいて収入はここで狩りをしていたときよりも増しているそうだ。なので会うのは専ら私が休みの日の午後となる。
今日は都市を流れる川にある公園で会うことになった。彼の妹さんたちと一緒に涼みに来ているらしい。
年輪都市には都市の拡張で元からあった川をそのまま都市内に取り込んだものと、歪門により上水として水源地から取り込まれているものが存在している。直径100ミイトにも達するこの都市では地区ごとに雨が多かったり少なかったりするが雨が少ない時期に上流から流れてきた砂泥を異法士が移動させるので天井川にはならず、水害は少ない。暑い時間帯には子供達が川に入って遊んでいる。
そんな街を流れる川の支流にあたるところにある公園で待ち合わせをしていたのだが・・・ 公園に入るなり数人の子供達が球体の水に包まれて木陰の下でボケーっとしている。病気?かと思って近づくと木陰を作ってる木の枝のところに水が浮き、その周りに霧を放出している。日陰であることも手伝ってかなり涼しい。
「こんにちは、ホーヅさん。 何をやってるんです?」
木陰下に設置されたベンチに座っているホーヅさんは立ち上がってこちらに会釈をしてくる。挨拶で頭を下げるのは一般的ではないが横柄な態度をとられるよりは好感が持てる。
「こんにちは、ワキニさん。昨日から三日間狩りが休みになったんで、妹弟たちを連れて涼んでいるんです。」
「それにしてもこれはなんなんです? 水に使って涼むならそのまま川に入ればいいと思うんですが・・・」
「ワキお姉ちゃんこれ涼しいんだよ?兄ちゃんの異法の訓練でもあるらしいんだけど覆ってる水は中で動いてひんやりするし寝転がっても水がぷよぷよして体を持ち上げるから楽しいよ、お姉ちゃんもやってもらったら?」
10人ほどの子供達がいるなかで私に声を掛けてきたのは上の妹さんのシソーちゃんだ。あたしよりも背の高いシソーちゃんからお姉ちゃんといわれるのはちょっと悔しい。
「訓練なんですか?」
「ええ、もともと水流で体を覆って、鎧のようにダメージを減らせないかと、メンバーからの提案でやってみたんですが、水流が激しくなると皮膚も傷つくので、中止になりました。その応用で、水で体を覆うと涼しいんで、川の水でやってみたんです。これだと深みでおぼれることも、流されることもないですし。帰るときは、異法で水を取り除けば、服もすぐに乾きます。」
「なるほど・・・でこの頭の上の霧は?」
「水分が蒸発することで、気化熱を奪って涼しくなります。これもメンバーからの、受け売りですが。どうです?ワキニさんも、水で涼しくなってみますか?」
「え?でも川の水・・・ですよね?」
「はい。でも異法でちゃんと飲めるくらいに浄化してから覆います。 服もすぐに異法で乾かせますし、その、透けるような服なら問題ですが」
あたしは日に焼けると赤くなって痛くなるので昼間の暑いときでも長袖を着ている。とはいえ空気が入るように袖の左右は切れ込みが入っておりそれを太い糸が繋いでいるようなものだ。木陰に転がってる子供達が水に覆われたまま昼寝をしてるのを見てあたしもしてもらうことにした。ただ彼らのように寝転がるつもりはないのでベンチに座った状態のままで水で覆ってもらう。
「ひゃっ!」
全身を水で覆われると思った以上に涼しい。いやちょっと冷たいくらいだ。その感覚に次第に慣れた頃、隣のホーヅさんはぶつぶつと声にはならないが口を動かしている。
「念話ですか?」
「はい。メンバーからの昼食の誘いでした。妹達と出ているので、断りましたが。」
「そういえばもうお昼ごはんは済みました?よければ包んできたものがありますけど?」
「頂きます。妹も作ってきましたが、ウチの家は見ての通り、大喰らいなものばかりですので。」
あたしは荷物から作ってきたサンドイッチを出そうとするが体を覆う水は思いのほか重い、立ち上がろうとしても弾みをつけないとだめみたいだ。
するとホーヅさんが異法を解除して体を覆っていた水が一気に消えうせ、服を濡らしている水すらなくなっている。異法って便利だ。
私は自分のバッグからサンドイッチを取り出して川の流れを見ながらのんびりと午後の一時を過ごした。
そろそろ夕方近くになったころ、子供達を覆っていた水を解き、木陰の上の霧を止めた彼は変える準備をするのかと思ったら、異法の訓練と称して目の前の川の水を塞き止める。下流に流れなくなったせいで水位が増したと思ったら表面が爆発したかのような水柱が次々に上がる、大量の水で水が跳ね、水球が踊り、弾け、水流が私たちの周りを取り囲んで空中を流れていく。
子供達はその様子にはしゃいでいたが。私はその光景にうっとりとしていた。こういった川で異法士がやるのは土木作業で一時的に流れを変えたり水管のつまりを取り除くための作業をしてる。こんな風に水を使ってるのは私は初めて見た。それに個人で8メイトほどの幅の川の流れを支配して塞き止めるなんてことも。ホーヅさんって異法士としてとんでもない人じゃないだろうか?
ひとしきり騒いだ後、源力が切れたのかお開きとなり、一緒に遊んでいた子供達はそれぞれ帰宅し私はホーヅさんに最寄の歪門まで送ってもらった。彼は雄弁ではないが身長差からくる歩幅を加味して合わせてゆっくりと歩いてくれるのが嬉しかったがもう少し喋って欲しいものだ。
1メイトは1メートル
1ミイトは1キロメートル
0.1モイト=1ミリ
ホーヅの妹弟
シソー(妹上 宍粟市からもじって
ヨウサ(妹下 佐用郡からもじって
アッサゴ(弟 朝来市からもじって
ワキニ 西脇市からもじって




