2-13 休日6 今更発覚
「で? あなたはカイルに助けてもらったからお礼に来たというわけね?」
食べられるキノコがこっちにもあることが分かり、更なる情報を求めて彼女の肩を揺すって詰問するなどして取り乱していた俺をマリアさんが頭を叩いて鎮めた後、全員で食堂の椅子に座って話し込んでいる。
「はい。大森林の際で薬草を取っていたら襲われちゃって……そこを助けてもらったんです。」
「あら? カイル、いいことをしたのね。
それにお嬢ちゃんもちゃんとお礼に来るのは偉いわよ?
でも学校をサボってくるのは良くないわね。終わってからでもよかったんじ
ゃないの?」
「ぷふっ」
俺は思わず噴き出した。
そりゃ確かに16歳には見えない身長だもんな。俺と並んだら30モイトくらい低い。既に仕事についているから「女性」と呼んで差し上げるべきなんだろうけど、アマザよりも童顔でこの身長だからどうみても「女の子」だ。
「あの、私これでも今年から水道課に正式採用で異法士として勤務してまして……」
「あ、ごめんさないね。小さいからてっきりウチの娘よりも年下だと思っちゃって。」
下を向いて肩を震わせてたらマリアさんに注意された。
「あなたも初めて彼女を見た時は若く見積もってたんじゃないの? 人の勘違いを笑うもんじゃないわよ?」
いえ、笑ってるのはマリアさんの勘違いじゃなくて彼女の見た目の幼さです。
「それにしてもなんでまた折角お礼に来てくれたのにあんな形相で問い詰めていたの?戸惑うどころか怖がってたわよ?」
そりゃそうか、彼女にしてみれば滋養強壮、薬膳みたいな感じで肉料理を作ってきたらいきなり肩掴まれて揺さぶらたんだからな。
「それがこのキノコ、じゃくて「薬草」なんですが確かこれって薬草として効能効果を持つもの以外にも普通に食材として使えるものもあるはずなんですよ。
(俺は使ったことがなかったから薬草の一群にキノコが含まれていることすら知らなかったんだが)
だけど薬草として使えるものがあれば逆に体に悪いもの、あるいは完全に毒として使えるものもあると思うんで薬草を集めている彼女なら『無益無害な薬草』を知ってるんじゃないかと思ってつい、……」
俺は養父との訓練で散々負傷はした。
擦過傷はいつもあったし、打撲や骨折もした。
俺は源力操作は出来ても自分に対して医術士としての力を行使することが出来ないから擦過傷に関しては洗い流している程度だった。そういった軽い擦り傷に使う消毒作用を持つ薬草の存在は知っていたがそれらは草本類であって菌類ではなかった。いわゆる滋養強壮剤としてこちらでは薬草扱いになってるようで一般的な食材として調理されることはないためかこっちで17年生きて健康体の俺は摂る機会も意味もなかったから知らなかったわけだ。
それに狩人の買取依頼で何を指しているか分からなかったんで色々と買取課に付属している資料室で調べたことはあったが日本のように図鑑があって写真で図示されてるわけでないので薬草は全部草本類だと思い込んでいたのである。
今の0番地区の狩場近辺では全く見かけなかったが、彼女らが同じ0番地区で探していたってことは視点を変えれば見つかるだろう。
それに以前に輝虫を見つけたあたりなら注意深く探せば見つけられていたかも知れない。なんせ大森林に入って間もなくて慣れてなかったし、そもそも輝虫が朽木を食べて育つなら倒木を朽ちさせている腐朽菌が存在してしかるべきなのだ。
だが例え日本の知識で食べられそうなキノコを見つけても、口に入れたら意識朦朧、幻惑、よだれたらたらでベニテングタケを食べたようになるかもしれないので要注意なんだが。
いずれにしても薬草とされているものは口にしてもいいのだろう。それにこっちの人間は金属が含まれている大森林由来の植物や動物を食べても平然としている。巨獣の肉を外の都市に交易物となってることからそれはこの都市の人間だけでなく、この世界の人間が全部そうなんだろう。ひょっとすると結構なんでもイケるのかもしれないな。
安心して食べ続けたら腎機能が駄目になるとかあったら怖いけど・・・・・・いずれにしても薬草としてキノコが分類されているならそれが薬草と使えるまでに試行錯誤した経験なりデータなりが残ってるんじゃないかと思うからそのうち探してみよう。
「薬草を食材に、か。変わったことを思いつくわね。
でもこのタイプの薬草って紛らわしかったり、採れる時期がかなり限られていたりして効能があるとされているものですら効果は眉唾とされてるものが多いわよ?」
「食べて毒にさえならなければいいんですよ。 単に食感を楽しむものもあれば香りを楽しんだり、乾燥させてから煮ることで味が出るものもあるはずなんです。 でもどの薬草がそうなのかわからないんで知りたかったんですけどね。」
何かそれらしい情報を持っていないかと期待してミイネをみると昨日のようにまたも下を向いている。
「すいません。私たちが集めてるのはこの料理に使ってるものだけなんです。それ以外のものについては知らなくて……」
俺が彼女が持ってきた料理に目を落とすと中には2種類のキノコが入っている。
日本の中華料理でおなじみのキクラゲみたいなクニクニした食感のものと元はキノコだったんだろうと想像できる刻んだもの。これらは普通に肉体疲労時に食べられているそうなんだがそんな効果あんのかね? 少なくとも日本じゃ食物繊維とビタミンDの供給源って感じだけどね。
「それでも食材の幅が広がるヒントが得られてよかったよ。ミイネに感謝!」
そういってお茶を入れて渡す。
「ところでカイル、彼女を助けたってどういうこと? 薬草を探してたんでしょ?」
「ええ、学生時代の知り合いと緩衝地帯を大森林の際に沿って歩いて薬草を探してたらジバシリに襲われてしまって。 走っても集団で追いかけれて逃げ切れなくて狂騒状態で叫ぶジバシリに恐くなって縮こまっていたところにカイルさんに助けてもらったんです。」
「あら? あなた今は食材加工かなんかの仕事をしてたんじゃないの?また外壁修理の仕事に戻ったの?」
「? カイルさんは狩人をされてますけど?」
二人は会話をした後こちらを向く。
そういや赤髪亭のみんなには今の仕事いってなかったな。
食材を差し入れで持って帰ってきたから巨獣をバラす精肉の仕事をしてると思われていたのか。前にアンジェに臭いと言われたことがあったけどさすがに背負って帰ってきたためとは思わないか。
「カイル、あなた今何を仕事にしてるの? 巨獣のお肉を差し入れに持って帰ってきたりしたからてっきり食肉加工とかの仕事をしてると思ってたけれど。」
うわぁ……別に悪いことしてるわけでもないし、単に大家と店子の関係だし、そもそももう学校を出てるしこっちじゃ「社会人」なんだけどすっごい叱られる気がする。
向こうじゃまだ親の庇護下の高校生にあるせいか?
あるいは俺の中にある母に対する苦手意識のせいなのか?
別に怒られるわけでもないんだがなんとなく言いづらくてマリアさんの顔は見ずに視線をずらして答えた。
「二ヶ月ほど前から狩人パーティーに入って大森林に行ってます。」
そういうとマリアさんはしばらく強めの視線でこちらを見ていたようだが何故か後ろめたい気がした俺は視線を合わせないままだった。
一方のミイネは自分を取り囲んでいたジバシリを一蹴して見せたカイルが普通の女性に問われているだけでやりこめられているように見えることにかなり意外に思って二人を見ている。
「すると以前よりも早めに出かけているのは大森林に入ってるからなのね?もう二ヶ月も続けてるってことはそれなりに危険な目にも合ってるとは思うけれど狩人は巨獣侵攻を除けば一番死ぬことが多い職業だって分かってるの?
もちろんないと困る職業だし、命が危険が伴う分、稼げる職業だけどここの家賃を払いながら手に職をつけるには街の中の仕事でも十分じゃない。そもそも一般人のあなたが大森林に入って出来ることは限られているでしょう? 」
「えっ?」
黙って聞いていたミイネが中央買取広場と同じように俺が一般人ってことに反応して声を上げる。
も~、いい加減にしてくれ。
見聞きしたことは他言しないっていったのに!それとも石のことだけしか黙っててくれないのかしらん?
「カイルさんに助けてもらったのは昨日ですけど異法士さんがいるのにカイルさんだけで私を襲ってたジバシリを一瞬でやっつけちゃいましたけど? それに突かれた傷口や痣をその場で治してもらったんですけど。
やっぱりカイルさんって一般人なんでしょうか?」
やめて~~~っもう言わないで~~~!
秘密にしていたいわけでもないけど敢えて拗らせるつもりはないんだよ!!
「そうなの、そんなことまで……。ごめんさいねミイネさん。
カイルは薬草についてあなたに聞きたそうだったけれど、そろそろこのお店のお昼の準備をしないといけないからカイルを借りるわね?」
「あっ、そうなんですか。 そういえばこちらは食堂ですもんね、お昼の仕込をしないといけませんね。 それじゃお邪魔にならないうちに帰ります。カイルさん、ありがとうございました。」
テーブルから立ち上がって深々と礼をして帰っていくミイネ。 あのね、こっちを拗らせて帰んないでもらいたい。
「じゃ、危険なことはやめなさいっておばさんの忠告を既に無視してたみたいだからお昼の準備を手伝ってもらいましょうか?
それと作業しながらでいいから事情を教えてもらうわね!」
目は笑ってるけど眉が怒ってる……逃げられんな。
仕方がないのでマリアさんとお昼の定食のおかずの仕込をしつつ、狩人となった事情を話すことになった。
アンジェたちが学校に行っててよかった。もしいたら姦しいことのこの上なかったろう。マリアさんならともかくアンジェたちにはあんまり聞かれたくはない内容だから余計に。
狩人になった経緯だけでなく、そもそもポーターとしてやっていける力がある理由を聞かれて自分の身の上を話すことになった。話の最中に更に突っ込みが入って色々と詳しく打ち明けることになった。
「そうだったの……うちも巨獣侵攻の時に色々あったけどあなたも苦労してきたのね。」
お昼の仕込が終わる頃には一通り事情は話し終えていた。
赤髪亭のお昼はアンジェたちが学校に行ってる日は人手が足りないため日替わりの定食だけだ。なのでその日のメニューを作り終えたら後はお客さんに出すだけとなる。
その仕込が終わってお昼を前にして二人で椅子に座っていたが会話が続かない。俺からは特にマリアさんに身の上話を話してそれ以上言っておくことはないし、俺が狩人をするとしても家族でも血縁でもないマリアさんからは特に文句を言われる筋合いはない。そう思っていると徐に
「毎日の仕事とはいえ、おばさんには仕込みは疲れるわ。肩を揉んでくれないかしら?」
エプロンを取って背を向けるマリアさん。日本の俺も夜に疲れて帰ってきた母さんの肩を叩いてあげたこともあったな。そういや最近してないか、母さんが帰ってくるのもこのところ遅いもんな。
「いいですよ。大量の仕込みは体力も使いますし凝ったところを解しましょうか!」
こっちの母の肩を揉んだことはなかったなと思いつつ、座ったマリアさんの後ろに立って肩を揉む。
当然だがアンジェを産んだ年が若かったし自分でおばさんといってもまだ三十路になったばかりだからちょっとドキドキしたのは内緒だ。
「あの子、アンジェが赤に拘ってるのは知ってる?」
肩を揉まれながら彼女が話しかけてくる。
「ええ、自分の服の色どころか食べ物の色まで赤にしたいみたいですね。」
「あの子の父親も同じ火の異法士だったの。でも5年前に外門を壊して侵入してきた巨獣侵攻時に死んじゃったわ。 それ以降、父親と同じ火の異法士であることもその証である髪の色から赤色に拘るようになったの。
それはいいけれど自分たちを守って死んだあの人を神格化というか、極度のファザコンになっちゃったのよ。今の性格からは想像できないけど塞ぎこんでいた時期もあったわね。
異法士の狩人がいるといっても年輪都市は都市内にいても危険があるわ。巨獣のテリトリーである大森林に入ればなおさらよ? それでもこれからも外に出るのかしら?」
「ええ、同年代、とはいっても俺が一番年下ですけど。
気の合う連中に拾ってもらって楽しくやってます。大森林に入る狩人なんてずっと出来る仕事じゃないことは理解してます。異法士は狩人をやめても異法で都市内に働き口があることも、一般人が若いうちから狩人パーティーに入ったところでその後のつぶしが利かないこともわかってます。ですがさっきも言ったとおり俺には時間がないかもしれないんでやりたいことをやっておきたいんですよ。
それに思わぬ収入も得られるようになりましたしね。」
「二ヶ月前か……言葉遣いもそうだけどあなたから受ける印象が変わったのもその頃ね。
捨て鉢になって危険でもいいからお金を求めてやってるわけじゃないなら大丈夫かな? でもここ最近は帰ってくるのも早いけど稼げているの?」
「ええ、十分すぎるくらいに! それに関しては心配ご無用です。」
「二ヶ月も経って狩人をしてることを知らなかった私がいうのもなんだけどアンジェには言わないほうがいいわね。あの子はたぶん父親のこともあるから『一般人』のあなたが大森林に出てるなんて知ったら怒りそうだわ。」
「一般人、なんですかね? 俺は……」
その後、マリアさんが俺が狩人をしてることを気付かなかった理由である狩人の装具が部屋にないことやパーティー仲間について軽く質問した後、いきなり爆弾が投げ込まれた。
「お母さんは許せそう?」
子供を持つ母としてウチのお袋が自分が産んだ子供である俺にしたことについて思うところがあったんだろう。許せるかときた。
俺はすぐには返事をせず、引き続きマリアさんの肩を揉みながら返答に詰まっていた。
恨んでいるか?
そういわれれば肯定するけれどどういえばいいんだろうか?そのことを考えるのを避けてきたってこともあるだろう。衛星都市から年輪都市に移ってきて自分のことで精一杯だったからな。マリアさんの問いかけに答えたくなくて話題が変わらないかとしばらく無言で肩を揉んでいる。 しかし彼女は話題を変えるつもりはないらしくそれ以降言葉を発さない。
「……」
「生まれた時は知りませんが物心がついたころからのお袋の態度はずっと同じものでした。そのままだったら単にそういう人だったと思って終わったかもしれません。妹が生まれて母が一心に愛情を注ぐところを見なかったならば……。
俺に対する態度は無関心から拒絶に変わって、妹が都市に取られて嫌悪に変わりました。」
「……」
「幼い妹に角が生えて角付きとなった時、空間操作能力者として都市中央にある角付きのコミュニティに連れて行かれた時から母は病みました。その後 俺に対して掛けられた言葉は「お前なんて産まなければよかった!」「あの子でなくてお前に角が生えれば良かったのに!」の二つだけでした。挙句に「お前に力をやるからあの子を連れ戻してきなさい!」って言われてコレですからね。」
過去を思い返し、自分の背中に視線をやる。でも前を向いたマリアさんには見えないか。
「当時は恨みもありました。ですがお袋が死んで養父が去ってからはあまり……
もう一人でやっていく年ってこともあるんでしょうけど過ぎたことに拘っててもね。
それに許す相手はもういませんし。」
「そう……」
その後、無言でマリアさんの肩を揉んでいた。
こっちの母親はそんなもんだった。悲しくはあるし、なんで俺が?って思ったこともある。ところが今の「俺」はそんな母を持ってはいるが日本できちんと母さんから愛情をもらって育ててもらった四方堂一樹でもある。それに妹奪還を目的に押し付けられた力だけど狩人としてやっていく俺にはこの力は必要なものだ。愛情の代わりに力をもらったってわけだ。そう悪いもんじゃない。
「きちんと心の整理ができてるなら大丈夫ね。でも溜まった澱があるならきちんと向かい合って晴らさないとダメよ?」
「……はい。」
「じゃそろそろ赤髪亭を開けましょうか 用事がないなら手伝ってね!」
マリアさんは明るく言って立ち上がった。
色々事情をぶちまけた後に顔を合わせて一緒に仕事をするのはやりにくいけど致し方ないか。




