2-12 休日5 お礼
中央買取課の広場で大森林で獲物を仕留めた狩人たちが指輪を使って次々と開かれる歪門、そしてそれをくぐって出てくる狩人たちとロープで引き手たちにより引っ張られて出てくる動かぬ躯となった巨獣たち
夕方を前にして全地区の狩人たちが次々に帰還してくる。絶え間なく運ばれてくるロープを引き手の男衆が力の限り引っ張るその掛け声や、引き手に引かれて買取課まできた巨獣を移動用の台車に乗せる音、獲物を前に買取課の受付と値段の交渉に当たる狩人の声と行き交う市井の買取問屋の声や1日の狩りのせいかに満足して帰途につくものたち。俺を軟禁した窓口の女性職員たちも総出で当たっているようで、この時間は窓口だけでなく買取巨獣の前に来て査定をしているようだ。
「ほえ~~~ !中央買取課ってこんなに賑わってるもんなんですねぇ~。」
すっかり落ち着いたミイネは普段見ることも来ることもない買取課の喧騒に感心しきりだ。ちなみにそれは俺も含めてタミーとアマザも同じだったりする。
「俺達もこの時間に中央買取課の広場に来たのは初めてなんだが・・・ 昼過ぎとはえらく印象が違うもんだな。」
「ほんまや、ウチらみたいに午前の狩りの成果で満足するパーティーもあるけど少数派ってことみたいやなぁ。それに獲物を取り逃がしたり、遭遇しても手に余る巨獣は見逃したり、朝から入って源力が尽きるまで狩れるだけ狩ろうって無茶な連中もおるやろしな。大規模なキャラバン隊とか特殊な依頼で夜に出る連中以外は今が一番の帰還ラッシュっちゅうわけやな。」
「本当にすごいわね。アマザが土の異法で岩を動かして歪門を通したら回りから注目されるかと思ったけれどこれだけの人の行き来の中じゃまったく注目されてなかったわね。」
「それの方が好都合さ。これからも同じ水晶岩の回収依頼がきたらこの時間にすれば目立たなくていい。 それよりもサンタシさんの声の方が目立つがな・・・」
そういって横を見ると済まなさそうに右手で頭を掻くサンタシが左手で台車の引き棒を握っていた。
「そう言わないでくださいよ。これだけの喧騒で次々に歪門が開くんですよ?大声で呼ばないとどこにいるかわからないじゃないですか?」
「はぁ~~~、この水晶岩って都市間交易課からの依頼だっけ? 突き上げを食らって焦ってたのかはわからないけど念話で呼べばお互いの位置も分かるだろうに・・・ 」
「・・・失念してました。それよりカイルさん、このまま別室に来ていただいてよろしいですか?今日はこれを依頼した工業都市の代理で来ている交易人の方もこちらに留まっておりますのでこれを見ていただきたいのですが?」
「それは構わないがこれって俺が直接その交易人に売るわけじゃないんでしょう?俺はあくまで年輪都市の都市間交易課に売るわけで。 」
「それはそうですが買い手がいくらの評価をつけて実際にカイルさんにいくら入るのかは知りたくありませんか? あまりに都市が暴利を取ってるなら次回からは依頼を断ればいいですし。」
「課は違っても同じ都市職員なのにそんなことを言っていいんですか? 」
「構いませんよ。都市同士の交易はあっちの課ですが民間交易人との交渉はこっちでも出来ますからね。水晶岩がなくてもカイルさんの原石の持込だけでこっちの課も潤いますんで。いい加減、交易課からの催促も頭にきてましたからね。」
お役所もイロイロあるようだ。
「その前に背負ったコイツを処分してきてもいいかな?」
「ジバシリですか?こちらに来ていただけば一緒に処理いたしますよ?」
「いや、大森林でコイツに襲われていたのを助けるついでに〆て持ち帰ったけど今日は狩人の活動で大森林に出たわけじゃなくて俺の個人依頼で入ったからね。パーティーとして活動する以外で巨獣を狩るともめる元になるから別で処分しておきたいんですよ。」
「そやけどどうすんの?買取せえへんかったら持ち帰って捌いて食べるん?」
それでもいいが持ち帰っても量が多すぎて赤髪亭のメニューになるのは確定だな。 それよりあの娘にあげるか。こいつらに囲まれて恐怖体験味わったわけだし。
ちょいちょいと手招きして買取広場に所狭しと現れる種々の巨獣に見とれていたミイネを呼ぶ。
「俺が背負ってるコレだけど買取に出すと巨獣の狩りとは別件で大森林に入ったのに巨獣を狩ったってことで他のパーティーメンバーともめる原因になるんだわ。なんでコレを君に上げるからここで買取なり持ち帰って食べるなりしてくれない?まあこの大きさが4頭だから君には持てないだろうからこの場で買い取りに出すほうがお勧めだけど。」
「え?・・・受け取れません。 助けていただいたのにお金まで頂くわけにはいきません! それに私が見たことは他言しませんので!」
恐縮しきりで小さな体が更に縮こまったように見えるが声は大きい。だけどね、
「いや・・・あのね、ここで大声で「他言しない」って言われたら余計にマズイんだけど分かってる?」
言われて周りから注目されることに気付いて俯くミイネ。しかし回りは自分達の買取や獲物の移動に夢中でこちらには気付いてないようだ。でかい岩が土と一緒に台車に乗ってる光景はおかしいと思うんだが幸い注目されていない。
「重ね重ねすみません・・・」
頭を下げるミイネの頭をぽんぽんと叩く。学校卒業後に自由研修期間を終えて本採用ってことは今年16歳ってことだから俺とそれほど年が変わらないはずだが小さいので撫でたくなるな。
これでサイドアップテールが猫耳とかだったらもっとポイント高かったけどね。 日本じゃ何も飼ってなかったし、いやペットに対する印象みたいなのは彼女に失礼か・・・コーリンはどうやっても撫でさせてくれそうにないしな。いやバチカーで釣るという手も・・・
おっといかん!思考が別にいってた
「正式採用されてるくらいだから当然カードも持ってるんだろ?カードさえあれば身分証明になるから買取もしてもらえる。こっちも後に用事が控えてるからささっと済ませる!」
そういって俺は強引に彼女の手を引いて都市の買取課でなく、市井の問屋関連の買取窓口に連れ立って向かう。俺達も休日が終わったら都市の買取課でなくてこういった街の問屋、商店からの依頼、買取をこなす予定だからどんなものか見ておかないとな。
「らっしゃい! こちらは巨獣の肉と素材の買取ですがよろしいか?」
「とにかく用事があってすぐに処分したいんだがジバシリは買取してるかい?」
「ええ、狩り易いですけど素材も肉もとれますから頭数に関係なく買い取りますよ。量が入ってもすぐに掃ける肉ですんでこいつは買取課に売ってもこっちに売っても同じ値段ですしね。」
「それはよかった。4頭だけだがお願いするよ。」
「毎度!ってニイさんずっと4頭背負って歩いてたの?健脚っつーか異法士にはあんまりみない力持ちだね!」
「俺は単なる一般人のポーターだよ。だから力だけは持ってるのさ。」
そういったミイネがえっ?っていいそうになったので口を押さえる。この娘ホントに黙っててくれるのか不安になってきた。
「ははっ! でも聞いてるぜ?引き手のおっさんたちに最近名づけられたのお前さんたちだろ? 午前の暇なときには俺達も雑談して待ってることが多いから聞いてるぜ?」
おやまぁ 意外に知られてるのか。
「とりあえずこいつの買取をお願いするよ。コレは事情があってこの子に買取金をやってくれ」
「あいよ、じゃお嬢ちゃんカードを出してくれや 買取金額をチャージすっからよ」
ミイネはこちらを向いて再度確認してくるが こっちも人を待たせてるので渡すように促す。
「ほい、4頭分ね 」
渡されたカードを見て増えたピプに目を丸くしている。
「こんな値段になるんですね 一般的な巨獣って聞いたのに・」
「それだけ馴染みが多くて食卓にも上ってるだろ?あれだけで何人分の肉になるやら・ それより買取課を待たせてるからこれでお別れだ。ここに来ることは友人に伝えてるんだろ? じゃあな」
「あっはい! すみませんでした。 後日改めてお礼に伺います」
その後、なぜか睨んでくるアマザとタミーの視線と「年下か・・・」という呟きをかわしつつ、サンタシと前後で台車を押して買取課別室へ向かう。
入った部屋には長机に二人の男が座って待っていた。
「この方が水晶岩を持ち込んだ狩人のカイルさんです。」
台車を長椅子の前に置き、目礼してサンタシの横にアマザ、タミーと共に着席する。あとは彼らの品定めだけなのだがなるべく傷がない状態でとの事だったのでそのまま運び込んだので見た目は岩でしかない。
「年輪都市で都市間の物資のやり取りを担当している交易課です。他都市の交易人での依頼でなく工業都市からの入手依頼を買取課を通してお願いしました。しかし・・・これでよろしいので?」
そういうと隣に座った人物に尋ねる。
「傷がないほうが望ましいですがまさか中身が見えないままとは・・さすがにこれでは買取額を査定できないので割って、・・・いただいても?・・・」
俺以外の全員の目が向けられるがどないせいと?いや交易商人は俺を向いていないな。俺の後ろを見ているようだ。
「ええっと、前回売ったのはパーティーメンバーの水の異法士に削って割ってもらったんです。今日の回収作業には水の異法士の出番はなかったので同行しておりません。なので私がやるとしても振動が大きくなって中の水晶が剥がれて落ちたりする可能性がありますが?」
「構いません 前回のものよりもはるかに大きい岩なので同じ比率で水晶が内包されているなら数も多いでしょうし。」
そういいながら視線は別に向いている。
「わかりました。では・・」
俺は椅子の後ろに置いていた背負子にくくりつけていた如意棍を取り出し、彼らを背にして棍をノコに変える。
三倍ほどの重複化を行い、中の空間が見えるまで切れ目を入れたところで背負子から取り出すふりをしてノコギリをヘラ状に変形させる。それを切れ目に差し込んで重複化された筋力で一気に岩を割る。
「ふわぁ・・」
「綺麗・・・」
上半分が割れて露わになった結晶にアマザとタミーが感想を漏らしていたが男連中は上の空だった交易商人も含め無言で見つめている。
やはり世界が異なれば鉱物もあちらには存在しない組成になっているのか形は水晶だが同じ岩に内包されているのに濃淡どころか色がそれぞれ異なっている。 それどころか大きなものは結晶の上と下とで違う色のグラデーションとなっている。興味深いな・・・
しばし無言で眺めていた面々だが俺が岩の下部も見えるように更に割るべきかと如意棍を突っ込もうとすると
「いえ! もう結構です。 あとは上から調べればわかりますので!」
そういって工業都市の交易商人は岩の前に陣取り、大きさと個数をじっくりと数えている。あれじゃ下の結晶の個数なんて数えられないと思うんだけどな。
彼が夢中で数えている間、交易課の職員がこちらにやってきた。
「これらは他にも?」
「ええ、いくつかは抑えてあります。ですがあくまで私たちは巨獣を目的に活動しておりますので今日のようにパーティーで活動しない休日しか回収作業ができませんが・」
「う~~む、今のところ入手依頼は工業都市だけだが広く知られれば年輪都市でも需要がでるかもしれんな。 狩人の既得権が認められているから君はかなりの富を得られそうだね。」
「やっかみを受けない程度だけ稼がせてもらいますよ。」
「欲がないね、でも奴さんの執心具合からするとこれだけでもかなりの値が付きそうだがね?」
「でもその値はそちらの売値で私がそちらに売る値は当然それより安いでしょうに?」
「まあそうだね、都市として使用する金と個人が使える金は規模が違うさ。君個人が使うなら莫大になると思うけどね?」
「いえいえ三等分ですので♪」
そう言って俺達の会話を興味津々と聞いていたタミーとアマザを見る。二人共目の前で起こっていることと会話にかなり戸惑っているようだ。
「それでもかなりのものでしょう?カイルさんは他にも既得権益があるじゃないですか?」
そういってサンタシも加わってくる。
「そうなんですか? ウチに入ってきた情報は水晶岩を持ち込んだのがカイルさんってことだけでしたしね。」
「いやはや その若さでこれですもん。羨ましくて肖りたいですな。」
「なら サンタシさんもポーターとして大森林に出てはどうです?」
「儲け話ならそれなりにリスクを取れってことですか。ま、私らみたいな安定を取って職を得たんだし仕方がないですね。」
などと雑談をしているうちに交易商人は立ち上がり、交易課の担当者と俺を呼んだ。
「とりあえずはこれだけの数が取れるならそれぞれの職業上位に授ける数は足りると思います。もちろんこれは引き取らせていただきますが加工の失敗や好評なら最上位だけでなく、もう少し下の順位の職人にも授けることになるかも知れませんのでその時はまたこちらの交易課に依頼を出します。買取額はこちらになります。」
そういわれて紙に書かれて提示された金額はかなり・・・というか以前にもちこんだ50モイト程度の岩の10倍以上の値が付いていた。
「カイルさん。交易課への買取額はこの金額の七掛けとなりますがよろしいですか?」
「十分ですね 労力に比べればとんでもない値段です。ただこの依頼を受けたのは俺ですが仕事をしたのは後ろの二人を含めた3人なので買い取り金額は三等分で分けていただきたいのですが?」
「わかりました。 あなたが良心的な狩人でよかったですよ。中には買取額の交渉で揉めることも多いですからね。他にも目の前で仲間内での分配争いとか勘弁して欲しいことも多いんです。」
俺たちは買取課の別室から出口に向かって歩いていた。アマザとタミーの二人はカードを見て表示された情報を見たまま前を向かずに歩いている。
交易課からチャージされた時の金額を見て面食らった状態のままだ。
すると今出てきた別室のドアがいきなり開け放たれて交易商人が出てきてこっちに走ってきた。 そしてタミーの前で立ち止まる。
「あの・・・やっぱりこの金額って桁がおかしかったんでしょうか?間違いに気付いて追いかけて?」
タミーはそういって相手を見るが
「・・・ あの?・・・ そのぉ・・・お名前は?」
「は? 」
あら? さっき水晶岩を割る前にどこに視線を向けてたかと思ったら後ろにいたタミーを見てたのか・・・
「タミー 」
息をせずに汗を浮かべて告白の返事を待ってるような交易商人に名を告げると自分の名は告げずに礼をして別室に戻っていった。
「都市を超えて交易するような商売人なら海千山千の経験をしてると思ったけどなにやら純情そうな感じだったな。」
「いとあはれ、 タミーはなびかんと思うけどなあ。」
アマザと会話してる間もタミーは先ほどのことには関心がないのか再びカードに視線を落としている。
-・-
翌日の朝 俺はサンタシに原石の買取をしてもらおうと部屋に置いた皮袋を整理する予定だった。
しかし朝から予定が狂う。
「カイル、あなたにお客さんよ。」
マリアさんにそう言われて一階に降りたところ、尋ねてきたのは昨日助けたミイネだった。 そういえばお礼をしたいからどこにいけばってことで赤髪亭を教えたんだった。
「昨日は助けて頂いて有難う御座いました。おまけに巨獣の買取代金まで。何もお返しができませんがお料理を作ってきたのでよかったらどうぞ。」
律儀に仕事を休んでお礼に来てくれたらしい。 マリアさんに促されるまま、まだ営業していない食堂に入り、彼女が持ってきた包みを開ける。
「先日で懲りたので仲間内だけで薬草を取りに行くことはもうしないと思うので昨日取れた薬草を使ったジバシリの肉料理です。」
そういって出された包み。そういえば正式採用されて職員になってるんなら長子でない限りはもう一人暮らししててもおかしくないから料理が出来てもおかしくないのか。
朝ごはんはすでに終わっているが少し摘ませて貰おうと包みを開け、肉と一緒に入っていたのは年輪都市では食材として存在しないと思っていたキノコだった。
それを見た俺はマリアさんに頭を叩かれるまで彼女の肩を掴んで揺さぶりながらキノコについて尋問していたのだった。
交易人は以前にサンタシと交渉した人物とは別人




