2-10 休日3 案件
昼時を前にタミーの家を出た俺達は中央買取課に顔を出す前にまず0番地狩人詰め所に来ていた。 オオアシの産卵に関する報告を先にするとはいえ、大森林内にある水晶岩を取りにいくのに街の普段着でいくわけにはいかず、詰め所で装具に着替えてからにするためだ。 まあ先で報告しても後で報告しても結局0番外門から外に出るのでどっちが先でもいいんだがついでに詰所近くでいつものとは別の場所で食事をすることにしていたためだ。
情報集めを兼ねて食事をするにはどうしても狩人が集まりやすい広い店内をもつ酒場とか食事処となるので同じ場所ばかりになる。しかし今日は3人で狩人活動とは関係がない個人の用事なのでたまには違ったものを食べたい。そう思って店は小さいながらも本日のお勧めメニューなんかが掲示してある店に入ってみた。
ちなみに酒場なんて酒、つまみ、肉しかないのでメニューなんてものはないに等しい。
「最近はともかく昔はずっと外食してたけれど、ここはなかなか美味しいわね。」
「そやね やっぱり農耕地区と住宅地区の境で人の行き来が多いところは自然といい店が集まってる感じがするわ。」
そう言いながら向かいに座った二人は運ばれてきた料理に舌鼓を打っているのだが、正直俺はもう少しメニューに変化があっていいんじゃないのか?って思う。
以前ならそう思うことはなかっただろうが日本の食生活を知るとあまりにメニューが少なすぎる。
折角二人が楽しんでいるので口には出さないが、いくらほぼ直径100ミイトに及ぶ年輪都市とはいえ、どの地区で食べてもあまり食べ物が違わないのである。
この年輪都市の一般市民が口にするものは 巨獣の肉以外に大森林から持ち帰って都市内で栽培ができるようになったものや他都市から持ち込まれて栽培が可能となった野菜となるのだが、調理法かそれとも似た種類が多いのかバラエティが少ない。一応それでも野菜に関しては葉野菜、根菜、果物などは揃ってはいる、肉に関して言えば大森林からの食用肉の種類と部位、衛星都市の牧畜都市からの肉もあって種類は日本よりも豊富、しかし魚に関してはその種類や料理以外に口に入れる機会が少ない。都市内に通っている川や大森林内での川にも魚はいるのだが捕る労力の割に食べる部分が少ないと年輪都市の住民には不評だ。当然魚や海草からの出汁なんて存在するはずもない。
考えてみれば日本って小さい島国って言われてるけど本州は世界で7番目に大きな島だし東西にも南北にも実は長い。暑い沖縄から寒い北海道までしかもビニールハウスもあるから同じ時期でも様々な気候で育つものが取れるんだよなあ、勿論輸入もあるけど・ 輸送のインフラも考えれば未開のジャングルにポツンとある年輪都市とその衛星都市の食料状態を日本と比べるのは酷だ。
こっちでも都市間交易で得られたものはあるが数が多くはないのと保存技術の問題で広く一般庶民に手が届くほど流通はしてないみたいだ。
それと年輪都市の昼間は暑い。夜は風も通るし日没とともに一気に気温が快適くらいに下がるのだが昼間は暑いのでやっぱり冷たい水が欲しい。しかし冷蔵庫なんて文明の利器が存在するわけもなく、冬という気候が存在しないこの都市では氷を氷室で保存なんてこともできない。
地球世界でも確か存在していたと思うけど素焼きの甕に蓋をして水を入れ、炎天下に置いて染み出す水の気化熱で冷やすのは方法はあるのだが正直それほど冷たくもない。
やはりあの件をアンジェに頼むしかないか?
最近狩りは午前で終えて、赤髪亭を手伝うことも多いから手伝ってくれるとは思うんだけどな・
それにしても午前に狩り、昼から工術の自主練習、夕方からオウノじいさんのところにいくか赤髪亭の手伝い。
充実はしてるけどいいかげんじっくり休みたい、だがお袋が言ってたことも気に掛かる。折角 日本と繋がって不貞腐れてた状態から改善したんだからやりたいことは進めておくべきか。
二人が雑談をしながら食べ進める中、フォークを置いてメモを取り出す。
・パンがあるのだから原料である小麦に相当する穀物を使ってあっちの料理を再現してみる。
・火の異法の確認とそれを使って工術で作れないか? (冷水とスイーツ、単純に氷)
・あっちの大衆料理を再現
油を使った揚げ物とか、カレー ラーメンはどうか?
書き出しては見たがコメがないから日本の料理の再現って難しいな・・・
ひょっとしたら大森林で探せばコメのようなイネ科の植物は発見できるかもしれないが都市は他都市への交易と都市内の主食として小麦(に相当するようなもの)を栽培している。 コメなんて作ろうとしたらそれらの栽培面積を狭めることになるため許可されないだろうし何より現代日本のコメは品種改良した結果のものだ。野生品種を栽培していい結果がでるとは思えないな・・・しかたないか。
「な~に? 考え事? メモ帳広げてまたウチらの人物評かいな?」
「! 見たのか?」
「前に酒場でメモ帳忘れ取ったやろ? 悪いとは思ったけどカイルがイロイロと考えてんのはわかったで。まあそやからこそカイルの言う源力の大量消費の異法行使とかもみんな素直に従っとるんとちゃうかな?」
「それはいいが・・・人物評ってアレも見たのか・・・」
「見たわよ?アマザのプロポーションにどんな印象を持ってるのかとかね。」
「うわぁ・・・
なんてな!
そもそもアマザの手ずから返してもらったんだから想定はしてた。まあちょっとアマザやタミーには気を悪くする内容もあったかも知れないけどそう思ってるのは事実だし、知られたとしても態度が変わってなかったからあんまり問題なかったのかと思ってた。」
「別に怒るようなことが書いてあったわけでもないで?ま ボン、キュッ、ボンっちゅう表現は恥ずかしいもんやけど魅力と思ってくれとるわけやし。ただみんな気になっとったんやけどな。」
「そう、アレって可能なの? 火の異法士のこと。」
「ああ、あれかぁ。ちょうど今 食事のメニューを考えながらそのことについて考えてたところ。まだまったく試してないから可能かどうかはわからない。そもそもモノを構成している最小の単位を運動させると温度は上がるんだ。逆にその運動を止めると温度は下がる。もし火の異法士がその運動を操る力を持ってるなら暖めるように冷やすことも出来ると思うんだが、それが簡単にできるものなら年輪都市がダメでもほかの都市でも存在しているはずだろ? でも寒いところにある都市では敢えて火の異法でものを冷やそうとは思わないだろうし、年輪都市みたいな都市じゃ年中暑いのが当たり前でモノが冷えるってことがどういうことか分かってない者が多い。それにモノを暖めるよりも冷やすほうが源力がいると思うんだよなあ。
(確か分子運動を促進するよりも停止させるほうがエネルギーが必要だったような・・・だからクーラーって電気代が高いはずだし)」
「いや、そんなこと言われてもウチよぉわからんねんけど。 じゃ冷えたらどうなんの?」
「温度が下がるってことさ。例えば水だって温い水よりも冷たい方が気持ちよく飲めるだろ? それに温い水だってコオリをいれたら冷たく飲める。」
「「コオリって何?」」
二人に聞き返された。
そういやさっき日本語でコオリって言っちゃったな。年輪都市じゃ氷が存在しないから単語もわからんからな。四季がある都市や冬が長い高緯度にある都市にはあるとは思うけど。
「水は普通は液体だろ? それが冷たくなると透明になって硬い固まりになるんだよ、それがコオリ。」
「うまいの?」
「いや、単なる水だからな 口にいれても溶けて水になるだけだぞ? だけど水や他のものを冷やせるし、何より果汁酒に入れたら旨いと思う。」
「へえ~~~ カイルは飲んだことあるの?」
「ああ (こっちの世界じゃないけどな) そういやコオリを削ってシロップをかけて食べるとうまいぞ? たまに頭がキーンとなるけど。」
「「?」」
二人には想像できないようだ。コオリも知らないんだから無理もないか。
「さて、この話は終わりにして中央買取課に行った後に向かう場所なんだけどな?」
俺は疑問符を浮かべる二人に手帳の別のページを見せて話を変える。
0番地区に来てずっと岩場を見つけてはそこを狩場にしてきたわけだが最初に持ち込んだ数十モイト程度の水晶岩は持って帰ることができ。その後も見つけてはいたのだがあまりに大きくて重複化しても背負えるかあるいは背負っても背負子が曲がりそうだったり、土に埋まっていて掘り起こす必要があったりで以後持ち込んではいなかった。
しかしそれらは如意棍で叩いて中が空洞っぽいことを確認した後 メモに狩場の位置と一緒に書き込んでいた。 とはいえ方位磁石もないし大森林の中なので正確な位置ではなく、最初に狩場に選んだ岩場を基点にしてどれくらいって感じだ。 そのメモからするとおそらくは東西に帯状に点在してるのではないかと推測している。 そもそももっと北上した水源地あたりは植生も変わると聞いたから同じような岩場もないのかもしれない。
「今日行くのはこれまで行った岩場でも一番東のところだな。その分大森林の移動距離も多くなるけど大丈夫?」
「一番東やろ? みんなで行った時も途中で見かけたのはいつものジバシリくらいやし問題ないと思うけど。ただ迷わんようにいつもみたいに最初の岩場に出てから東に移動したほうがええわ。今日はニミヤもおれへんから上からの情報もないし。」
「それでいいわね。もし複数頭の巨獣が来てもタミーと二人なら足止めも各々でできるでしょ あとはカイルに捻って貰えば問題ないわ。」
「じゃ ご飯を済ませたら中央買取課に寄ってから行こうか。水晶岩を確保してまた中央に戻るから今日は夕方まで掛かるかも知れないけど買取金額は3等分だからよろしく!」
1ミイト=1km
100ミイト=100キロ




