2-9 休日2 石と買取
年輪都市食料素材買取部中央買取課の窓口担当主任サンタシは同じ年輪都市の別部門の都市間交易課から催促を受けていた。
サンタシは課長ではないが狩人が持ってきた獲物や素材の交渉にあたる窓口の上司に当たる。 カイルを別室に拉致していた肉食系女子たち窓口受付嬢の上に当たるのだが実は彼女達とて下っ端とはいえ中央にいるくらいなのでかなり優秀な人材だったりする。
時計方向に分けられた各地区の最外に設けられた買取課は当然最寄の外門近くの大森林からもたらされた巨獣などの買取を行っている。ところがここ都市中央買取課では指輪を通して全方向地区の大森林から狩人がやってくるため扱う巨獣、素材の種類が当たり前だが他の地区より飛びぬけて多い。しかもそれぞれの地区が時期によって取れるものが変化するので優秀でなければそれらを裁ききれない。
まだ30才手前とそれほど年を取ってるわけでもなく、温厚篤実なやさしい印象の顔立ちのサンタシだがこれでも16才の正式採用から外門付属の全12地区の買取窓口を一年ずつ担当してスペシャリストとなった自負がある。そして能力と知識も伴っているからこそ中央買取課に回されてきたのである。
これまでは狩人によって持ち込まれる巨獣の肉、付随する素材、食料や医療に使えるものが主な扱い品目だった。
だがある人物が持ち込んだ石が問題だった。年輪都市では宝石や輝石といったものは重宝されてこなかった。それは巨獣への対処や食料の供給の安定化がまず最初にあったため、そして誰もが自由に動ける場所が都市の中しかないことと、その都市内では宝石や輝石が産することがなかったことが理由だ。 その多数の人間がその存在を知らないのだから当然それが価値を持つことはないし、価値あるものとは認識されていなかった。
これを持ち込んだ人物は石を研磨することで更に輝きを増し、価値を上げることができると言っていた。そして輝虫を欲しがるものには間違いなく需要はあるだろうと。
肝心の研磨に関しての技術は当人は持ち合わせていないようで後日買取が可能かどうかの返事をするといって帰したのだが色よい返事はできないだろうと思っていたのだが折衝のために別の課に顔を出していた別の都市の民間交易人と会うことができた。
「失礼、他にあればすべてを見た上で判断したいところではあるのですがこちらでは原石しかないのですか?」
「原石、ですか? これらは先日ある狩人が買取課に持ち込んだものなのですよ。その狩人がいうには研磨をすれば更に価値が上がるものだと。私たち年輪都市では衛星都市のように金属鉱石を集めるところはあるのですがこういった「石」を扱うことは初めてでして、持ち込んだ人物のいうとおり研磨によって価値が上がるものか?そして需要があるものなのか他の都市の交易商人に判断して貰いたいと思いまして、いかがです?」
他都市の都市からの民間の交易商人は目を見張っていた。価値があるどころのものではない、他の都市で取れる宝石と比べて大きさが違いすぎる。
もちろんこれは原石でしかないので価値は職人の腕に左右されるところもあるがこれほどの大きさのものばかりが布袋をひっくり返して出てくるとは。
年輪都市との交易でこちらが見るべきものは巨獣の肉の珍味、特定の種類の部位の美味なるもの、そして巨獣からしかとれない素材と穀物が主だった取引品目だった。 特に民間の交易商人にとっては都市間での取引材料の穀物には手を出せず、年輪都市でだけ取れる巨獣関係のものがほかの交易商人との競合すべき要注意品目だった。入荷が不定期なために都市間での交易には不向きなため、フットワークの軽い民間交易人が自分の目利きで仕入れられるからだ。 正直年輪都市は居住可能な都市内以外は全くの未開の地でこういった宝石の原石などは産出するかもしれないが捜索はされていないと思っていた。それがまさか他の都市以上のものがごろごろしてるとは……都市部以外は未開地であるゆえなのだろうか?
交易人はここで考える。
価値を判断させるためにも一番よい原石を持ってきたのか?
それともこの大きさが当たり前でここではゴロゴロ取れるものなのか?
取れすぎるとすぐに価値は下がるが、一手に原石をこちらで引き受けて他の都市への売買はこちらが供給バランスを握るというのもありか?
そもそもこれまでこんなに大きな原石が存在しているのに他都市へ流れてこなかったというのはこの都市の住民が宝石に興味を示していなかったことと他都市側も宝石がこの都市近郊で取れるとは思ってなかったから素材の調達依頼にも出さなかったせいなのか?
とりあえずは他の民間交易商人と他都市交易担当課に取られないようにするべきだろう。自分が原石とその情報を独占するために交易人はこの場にあるすべてを買い取ることと、他にもあれば見せて欲しいという要望を伝えて買い付けに必要な金額を算出するために一旦帰る。
サンタシはカイルに買い付けが可能になることを伝えるために翌日に買取課で待っていたのだが そのカイルが持ち込んできたのはまるで刃物で切ったようにキレイに切断された岩だった。 しかし単なる路傍に転がる岩ではない、それは外側数モイトだけが岩でその中身は内側に向けて水晶の結晶が大量に存在してるものだった。これまた自分の買取経験にない品が持ち込まれたことでその後 買取額の査定金額を算出してやってきた交易商人と膝を付き合わせることになった。
「これも件の狩人の方が?」
「そうです。しかし……美しいものではあるのですが少なくともこの都市内では需要があるものなのかと判断に迷いまして昨日の石に興味を示された貴方ならこれが価値を持つものかどうかお分かりになるのかと重ねてご相談をと。」
他都市からの需要や要望を知りえるのは交易課の領分だ。なので大森林で得られた物資の調達が仕事である買取課ではこの原石の他都市での価値がわからない。交易課に丸投げしてもいいがこうして手間を掛けることで自分の業績をあげることもサンタシは分かった上で交渉の席についている。
「そうですか。まず見ていただきたいのですが昨日こちらでお見せ頂いた石ですが 研磨するとこうなるのです。」
そう言って交易人が出したものは磨かれカットされたいわゆる「宝石」、そしてそれを使ってアクセサリーとなった指輪やネックレスだった。
「なるほど、彼が言っていたように研磨によってずいぶんと印象が変わるものなのですね。」
「ええ、原石は加工によって更に価値が増します。ただしいくら加工する技術があっても元となる原石があってこそです。なので先日見せていただいた石はできればすべてこちらで引き取らせて頂きたい。そしてそれがどういったものになるかをこちらの都市の方にも知っていただきたいのでこれら加工した宝石類を都市の上層部の方に見せていただきたいのです。」
「わかりました。 で、この水晶が詰まった岩はどうですか?」
「水晶そのものは加工した宝石より価値を持つことはないのですがこれほどの大きさと透明度があるなら話は別です。ひょっとすると私共の所属する都市そのものから引き合いがあるかも知れません。とりあえずこれもこの場で買い取らせていただきます。」
そうしてサンタシは巨獣の肉や素材からすると考えられないような高額な買取金額を提示されてカイルから継続的に買取を続けることになる。
更に加工された宝石の輝きを見た都市上層部や富裕層からその原石が自分達の都市から取れることが明るみに出て、出回る原石の入手とそれを磨く加工の方法が探られるようになる。
しかし供給元であるカイルは買取課の女性陣の執拗なアプローチを避けて最近石の買取には不定期でしか訪れない。その上、石の取引をした交易商人が所属する「工業都市」からは正式に前回と同じ水晶内包岩石の調達依頼が回ってきており、入手元である買取課の窓口責任者サンタシにはチクチクと催促が来ているのであった。
しつこい窓口女性陣の代わりにカイルと買取交渉に当たっていたサンタシは水晶についての依頼をカイルに伝えはしたのだがそれ以後返答がなく焦っていたのだがその日、ようやくカイルが直接姿を見せた。
気を揉み、ともすれば都市間交易課からの突き上げでストレス性胃炎になりそうなところに妙齢の女性二人を両側に従えてやってきたカイルを見て内心怒りがこみ上げているサンタシだった。
中央買取課窓口主任 サンタシ 三田市をもじって




