2-5 その後の日常
一級巨獣の群れであるゾウを退治してから既に一週間が経過している。
俺達はゾウの対処と再度襲来に来た時のために外壁に詰めていたため4日を狩り以外に費やした。都市防衛課0番地区の上官にゾウの撃退の働きを指輪の更新条件の買取価格クリア日に加算してくれるように頼んではいたのだがたった一日分しかカウントしてくれなかった。渋いけどまあ別に収入も入ったし市民の犠牲も出なかったわけだから良しとしよう。 あと次回の指輪の更新が決定するまでの買取価格クリア日数は数日分残ってるので、まずは指輪の貸出延長更新を済ませるために巨獣を買取課に出す日常に戻った。
違ってるのは他の狩人からの注目のされ具合となっている。
特に源力補充装具についてバレたわけではないが、三級ばかりを狩っているパーティーと思われていたのに一級を倒すとはいかないまでも撃退したのだから当然か。
問題はそれが0番地区だけでなく中央買取場の面々にまで知られていたことだ。なぜこんなに早いのかと思ったら指輪の継続使用条件への働きの転化申請に訪れた0番地区の買取課から中央買取課職員に話が広がっていたためらしい。
噂に聞いた一級巨獣を撃退したパーティーと聞いて実物の俺たちを見て、ほとんどのものは既に巨獣の捕食が足りていたので偶然相手の攻撃を凌いでいる間に巨獣が帰っていったのだろうと思ったようでちょっかいを掛けられることはなかった。現場を見ていたのは狩人がいなくて防衛課の連中だけだったこととパーティーのリーダーが18歳のアマザほかのメンバーも10代ばかり、この0番地区での狩りの成果からも軽んじられたことで余計にそう思われたのが幸いしたのだろう。実際のパーティーメンバーの人数や年齢からすると決して甘く見られる狩りの仕事内容ではないのだが、やはり一級を撃退するくらいなら?という先入観がはいるので助かった。
厄介事は避けたいことと、俺の狩りの「副業」はまだ他の狩人への情報が詳細にもたらされていないため、情報の独占期間が終わるまではこの0番地区の岩場近辺で原石が拾えることは伏せていたいのだ。今月だけか指輪の借り出し条件更新に合わせて二ヶ月いることになるかは分からないが北大門から日帰り範囲において、狩りができる広さの岩場はその間に回っておきたい。
買取課の個室に閉じ込められるのをさけるために持ち帰った原石が邪魔になってきているがそのうち中央でなく、赤髪亭がある3番地区の買取課にいってみるとしよう。
この原石拾い、何故か今のところ北大門近くの岩場でしか見つからないのだがおそらくは隣接する11番や1番出口からいける大森林でも同じ岩場があるところがあると思うのだが「最も北」に位置する北大門が一番岩場が近くあるということで同じ岩場があるのがベルト地帯になってると仮定すると11番や1番からそのまま北上するとかなり大森林を進まないと岩場ある地点まで到達できないということになる。
そのため北大門から狩りに出ている今のうちになるべく拾っておくつもりだ。別に現在、金に困ってるわけでもないが手付かずの場所を自分だけが開拓してる楽しみってものを感じている。なんせ同行しているパーティーメンバーすら拾わないのだから。おそらくは岩場の周りの木が生えているところも掘れば岩に当たるだろうから出てくるとは思うが巨獣がうろつく大森林で土堀りをしたいとは思わない。なのでとりあえずは今だけの楽しみといえる。
それとまぁ、自分に好意を向けてくれる人には何か自分で作ったものをプレゼントしたいってのもある。予想外に輝虫の指輪は喜んでくれたけどアレはあくまで源力補充用の装具だからなぁ。
だからこそ自分のお気に入りはそのまま部屋において他を買い取りに出しているのだがいくら置いてるモノが少ない部屋とはいえ場所が無くなってきた。 なのでそれを使って加工しようにも日本で集めた資料やネットで調べても個人が~カットなんてできるわけも無く。そのためこっちで職人さんが頑張って腕を上げてくれるのを待つしかない? 力に関してチートってだけでなんでもできるわけじゃないから仕方ないよな。
『カイル? いいのか?ぼちぼちそっちにいくぞ?』
おっと、考え事をしていたがここは狩場だ。しかも今回は新顔の巨獣を見つけて追っていた。
ここではジバシリを一気にコロニーごとお持ち帰りしたことがあるが、今回見つけたのは同じ飛べない鳥でも完全なダチョウタイプ。
エミューとかが巨大になった感じの既にあっちでは絶滅したモアのような巨鳥だ。
ホーヅによるとこいつらは雑食ではあるが、あくまで肉は昆虫とか土中の生物であり死肉や動物を襲って食べるということはしないらしい。 メインは草食なのだが体高3メイトを越す巨体を維持するために各個体が縄張りをもっているようで一度に多くは狩ることができない。その上、主に草食であるためニミヤが匂いで誘い込むこともできないために狩ろうとすると逃げるヤツをひたすら追うしかない。タミーやアマザの土の支配が追いつけば土壁を使って誘導することもできるのだろうが体高3メイトの足の長さは半端じゃない、とてもじゃないが走るのが速すぎて行く先に土壁を作ることができないのである。
そのためホーヅ、アッシャーに水球を作ってぶつけながら追い込んでもらい、その様子をメンバーに伝えているのが大森林の上に土の異法士が作って硬質化した土の円盤に乗っているニミヤである。
いまだ不安定ではあるがなんとか樹上あたりまでは上昇させることができるようになったので単に風による状況把握でなく目そのものでの把握をしてもらうことにした。さすがに体高が3メイトもあると大森林とはいえ上からでも把握できるためだ。
『おし、俺は樹上の枝で待機してるから通りかかったところで一気に片付ける。そのまま追い込んできてくれ』
すっかり大森林で走れるようになったホーヅとアッシャーにより、大きな巨木の脇にまで誘い込まれて走ってきた3級巨鳥:オオアシは十数メイト離れたところから待機、土の支配をしてたアマザにより足を止められ、俺は巨木の枝から飛び降りると同時に首の付け根をへし折った。
『今日はコレくらいかね? タミーそっちは異常はないか?』
『ええ、問題はないわ。今日は水流剣を使っての止めじゃなかったから獲物に出血はなかったから匂いに誘われた巨獣は来てないわ。』
今日のノルマの3頭の最後はこの通り追いかけての狩りだったため、既に仕留めた2頭はタミーが傍で確保していた。もし巨獣が襲ってきても3級ならまず今のタミー一人で足を止めて俺達が到着するまで持ちこたえられるだろう。
『ホーヅ、こいつって初めて狩ったけどどうなん?』
アマザに取ってもこいつは初めての獲物のようだ。
『こいつは足に金属成分が、集中してる。その部分が売れるほか、羽の鞘にも金属が多いから素材として売れる。本来そのせいで、そう簡単に打撃は通らないはずだが、やはりカイルの怪力はすごい。』
悪いねバカ力で。
『そしてそれだけの重さになった体を、あの速さで2本足で動くために、かなり筋肉が発達してる。ほかの獣肉に比べて、下処理が少なくて済むことと、味がいいこともあって、高級肉の部類になっている。おそらく良い値がつくだろう。』
ほう、旨いのか?食ってみたいな。
『そうなの?処理が少なくて済むって焼くだけで美味しいってこと?』
タミーも食いついてホーヅに確認している。
『そう聞いている。』
『じゃあ、買取に出した後に買ってみようかな?』
円盤を持ち上げる下からの風制御、前後左右に傾いて倒れないように自分の姿勢制御の風制御を地面から2メイトほどの高さで行いながらニミヤが念話を飛ばす。
『じゃアマザ、今日のところはこんなもんか?』
『そうやね 今日の狩りはこれくらいにして後は各自の異法修練にしよか?』
そういって各々の異法修練は続く。まだなんとか俺の源力を使った源力供給装具は4-5回のチャージができるのでそれを使い切るまで異法を修練することにしている。
この時間が俺の副業タイムでオオアシを他の獲物と同じところに運んだ後は近くの岩場で散策、原石拾いとなる。
それにしても石はキレイなんだけどこの宝石の組成ってどうなんだろう?やっぱりあっちの世界とは全く異なってるんだろうか?土壌にこれほど金属が含まれているならそれらが元にした組成になってるんだろうか?考えても分からないこととはいえ疑問は尽きない。
『あの、カイル? この前のモトスの件で結局、「お礼」が出来てないままだからそのうちに家に来て欲しいんだけど? まぁまだ腕を磨いてる最中だからすぐにじゃないんだけど。』
『おっ料理の勉強中ってこと? タミーが自分で納得の腕になったら喜んで寄らせて貰うよ』
なおこの後 タミーはカイルが食堂兼下宿にいるだけでなく、実際に客に出す料理を作ってることがあることを聞いて自宅に呼ぶのは更に遠のくことになる。
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『じゃ昼前やし今日はこれで帰るで? そやけど今日は0番の方で飲み会な~』
アマザにそういわれて獲物の巨獣にロープをかけて帰る準備を行う。
装具への源力補充を終えていつものようにアマザが歪門を開き、メンバーたちが門を通る。
獲物が歪門の向こうの「引き手」により引っ張られるのを見ていたら
『え?』
という念話が届いた。
『どうしたんだ?』
『いや?なんか引き手の連中が俺達に……』
なにかあったんだろうか?今日の3頭が歪門を通った後に俺は歪門を通る。
「引き手」たちの横にいるメンバーに顔を向けると困惑顔?
すると最後に歪門を通ってきたアマザに対して「引き手」のおっちゃんが言う。
「おう嬢ちゃんがリーダーじゃったな? ワシら引き手の楽しみを知っとるかの?」
「あのあだ名っをつけて呼んでるってやつ?」
「そうじゃそうじゃ、 お前達みたいに若い連中は人の入れ替わりが激しいからまず付けることはないんじゃがな? 今月に入ってから指輪を使うようになった新人じゃがまったくメンバーは変わっとらんし、まったく負傷もしとらんじゃろ? しかも獲物の種類に関わらず帰ってくる時間が一定ってことはかなり余力を残しての狩りをしとるようじゃな? そんなとこがワシらの間で話題になっておってな、お前達にもあだ名をつけることにしての、ワシが「遠慮」と付けたわ。」
「「「「「「なんで遠慮?」」」」」」
俺達みたいな若い連中のパーティーはメンバーの入れ替えやパーティーそのものの離散、未熟ゆえの落命などがあってあだ名が付けられることが少ないとは聞いている。言わば名誉なことだとは思うが……遠慮?
「お前ら獲物に関わらずに帰って来る時間が一定っちゅうことは余裕を持って狩り終えて決まった時間になったら帰ってきとる。違うか? 」
「まあ、そのとおりやな。」
「つまりもっと狩ろうと思えば狩れるのに今の成果に止めとるんじゃろ?じゃから『遠慮』じゃ」
「あのーそんなんでいいんですか?」
「いいんじゃよ 別にパーティーの正式名称でもない、単なるワシら引き手がお前達を呼ぶときのあだ名にしか過ぎんて、それに別の意味もあるじゃろ?」
「遠くを慮る、ってことかい?」
「そうじゃよ。若い連中は血気盛んで狩れるだけ狩ろうとするもんじゃ、それゆえ無茶をして命を落とすこともあるわけじゃが。 お前達は実力がありながら考えて今の成果に留めておるようじゃからな、両方の意味じゃよ。」
「ありがとうございます? いずれは[無遠慮]に変わるかも知れませんが・」
「よいよい、無遠慮になるくらい狩ってくるならワシらも働き甲斐があるというもんじゃ。じゃ精進せえよ、若いの。」
そういって買取課へ運んでくれたおっちゃん達。でも「遠慮」って名前はないんじゃないかな?
俺達は妙なあだ名を付けられたことを話しながら歪門を通って0番外門近くの詰め所に向かい、装備を預けて服を受け取り銭湯で汗を流す。
昼過ぎから酒場で飲み会とはほめられたもんじゃないが 夕方に再度集まると自由時間が取りにくいから仕方がない。
雑談と飲み屋のマスターから狩人の噂話を収集しつつ、食を楽しむ。
『カイル、ちょっといいか?』
ニミヤから個人念話が飛んできたのはその時だった。




