1-22 互いの事情
「今日もええ天気や! 午前中出かけるでカイル!」
朝食を済ませてメモを纏めていた俺の頭に元気な声の念話が響く。
「アマザ、今日は明日からのミーティングがあるんじゃないのか?」
「午前は修練、昼からミーティングや言うたやろ?」
「いや、だからアマザは修練だろ?」
「そんなん、今終わったって!それにうちもそうやけど10番詰所に預けとるもんを新しい詰所に預けとかなあかんやろ?」
「なるほど、防具とか背負子とか新しい活動予定のところで預けなおさないといけないか。」
「そや!10番詰所で待っとるで。」
そう言われてやってきました10番出口狩人詰所。
二週間ほどの利用だったけどそれまでの生活との内容の濃さが違ったせいか早くも懐かしい。
「じゃ行くで?」
「新しい狩りの予定場はどこなんだ?」
「次は真北、通称北大門の0番出口の周りでやる予定やから同じように狩人詰所に荷物を預けに行くで。」
二人で連れ立って詰所付属の歪門を通り、中央に出てから北の0番方向でも最外の門近くへ繋がってる門を通る。
着いた0番詰所は既に狩人が出払った後のようで人は疎ら、俺は暇そうにしてる詰所の受付に荷物の預け入れを頼む。アマザは修練をしていたので10番詰所で受け取った服に着替えてから防具を預ける。
狩りの間は服を預けて洗濯してもらい、狩りから帰ると逆に洗濯された服を受けとり防具を預けて手入れをして貰う。なので新しく着替えを持ってこないなら服はそのまま同じなのだ。複数の服を預けてもいいがその分預ける金がかかるので複数の防具ならともかく、着替えを複数預ける狩人はいない。
そのため着替えてきたのはいつもの飲み屋で見かける格好だ。腕を上げるとヘソが見えるような短いノースリーブ。 こんな服で隣を歩かれたらちょっとドギマギしそうなものではあるんだが、実はこの程度は町行く若い女性はよくしている格好だったりする。それだけ昼間は暑い。
それでもコーリンみたいな格好はもっと年の低い子達しかやってないけど。
「次からは北か。」
「そうやで。まあ植生とか地形は違うけどどうせ気候は変わらへんけどね。」
「ところでもうコレで用事は終わりなんだろう?念話で荷物を移しておくように、で済んだんじゃないのか?」
「・・・・・・ニブいなぁ。」
「は?」
「ウチらあんたが好きって言うたやん?
狩りの時は一緒におるけどちゃんとしとかなあかんし、このところは異法士は修練やったやん!」
「それにこの前あんたがタミーを連れて行った日ぃ、ものすごいご機嫌やったで?
『なんか』したんとちゃうのん?」
(おっと、そういうことか。)
「いや、アレはタミーの『病気』についてな、俺の知り合いの高位の医術士に診てもらったんだ。その結果がな・・・・・・」
「治る見込みがあるっちゅうこと?」
「まあ、そんな感じだ。」
「よかったやん! タミーが上機嫌になっとったんはそのせいか、あっ?でも『治った』いうわけやないんか。それまではあんまり触れんほうがええか。」
「まあ、タミーの事情もあるけどウチのこともあんたは知らんし、アンタのことも詳しぃは知らんやろ?
まずはお互いを知ろうっつっといて機会があれへんかったからね。」
「なるほど。じゃあ、0番最外区はよく知らんから適当に歩きながら話すか。」
互いに納得して雑談をしながら次の仕事場となる北大門こと0番大門の周りを散策する。
狩人が利用する詰所のほか、銭湯、買取課、そして一ヶ月か二ヶ月かお世話になるであろう。狩人御用達の酒場を下見した。出来ればその酒場で味を確かめつつ、アマザを話をしたかったが午前のこんな時間から開いてるわけもない。
0番地区は住宅開発地区の端になるので、公園なども整備されており、昼間には火の異法士による屋台も出ているそうなのだがさすがに午前には出ていない。
氷がないので暑いわりにアイスクリームがないのがなぁ。あったら年中昼間は暑い年輪都市じゃ大繁盛するだろうに。
アマザは腕を取るとまでは行かないがかなりべったりと横について歩いている。 大森林じゃまずこんなに近づいて並んで歩くことはない。俺は178モイトくらい、アマザは175モイトあるなしとほぼ身長差がなく、ヒールでも履かれたら抜かれてしまうがこっちにヒールなんてあったかな?
それにその、なんというか。
身長差も近いってことはアマザのご立派な胸が歩くたびに揺れており、激しく注意を引く。たぶんブラなんてないもんなあ、この世界。
なんというか気候のせいと早婚推奨制度のせいか、薄着なのでかなり女性的な魅力が強調される都市なので健全な男としてはすぐに目が行ってしまう。 見られたくない女性なら更に上に着るなりするんだろうけど、アマザは俺の視線に感じて隠すどころか胸を逸らしてきた。
自分の視線が胸元に行ってることがバレバレだったことにかなり気恥ずかしさを感じたのと完全におっぱい星人になってしまったことで、においフェチ変態紳士を笑えないと真面目に思っていたりする。いっそのことおっぱい星出身の変態紳士として紳士同盟を組もうか? いやそれでは複数の変態紳士をメンバーに持つアマザの肩が狭くなるし、ぐぬぬ・・・・・・。
心の内で葛藤しているうち、アマザが俺の腕を取って木の下のベンチに引っ張っていった。上の枝葉が強い日差しを遮り、公園を渡る風が気持ちいい。
すると隣のアマザが語りだした。
「ウチから話してええかな? ウチのオカンはモトスが言うとった通り、蒼海都市の出やねん。この年輪都市とはこっちの穀物、蒼海都市の干物で交易があるとこやね。
大森林に覆われたのがこの都市なら、海っちゅう大きな水たまりの傍にあるのが蒼海都市なんやて。海って知っとる?」
「・・・・・・いや? 河のもっと大きなものか?」
日本じゃ瀬戸内海が近いけどこっちの世界の海は全く知らない。 一般人が他都市への出ることが稀なこの都市で海を知ってるのはおかしいだろうし知らないことにしておこう。
「そんなんとちゃう、大地がそのまんま水に変わったような風景らしいで? こっちの大森林に巨獣がおるように海にはたくさんの魚がおるらしい。まあ巨獣みたいに大きいもんは「ほぼ」おれへんらしいけどな?」
「そんでヘンコなオカンはずっと海ばっかりの景色が嫌で別の町に行ってみたいと思うとったらしい。でも通常はゲートを使わないでいけるほど近い都市は資源をめぐって争ってることが多いし、ゲートで他の都市に行くのは交易人だけ。
そやから条件さえ飲めば移民ができるこの都市に来たんやて。」
「そんでまあ・・・ こっちよりも暑い蒼海都市はこっちよりも肌の露出が高うてな? こっちの一般的な服装も知らへんからそのままの服で移民課に行ったらしいんやけど。」
(あ~~~露出に惑わされた男の餌食になっちゃったわけか・・・)
「俺は結婚しているけどこの都市は都市の成り立ちから一夫多妻が認められている。右も左もわからないこの都市で一人でやっていくのは大変だろう? ってな感じで熱心に口説いてきたらしいわ。
確かに心細かったのとすぐに一人で住める部屋の手配までしてもうて、結婚はともかく感謝の意味で会っとったらしいんやけど、そのうちに拒みきれずにウチが出来たらしい。 それもあってオカンはすぐに結婚してくれると思うとったらしいんやけどな?」
「お決まりの言い訳と逃げか?」
「ま、そうやね。その男はかなり出来る男で出世コースに乗っとったらしいねん。ところがウチが生まれた時って一夫多妻制度が今も必要かどうかの議論をしとったらしい。 実際よっぽどの金持ちでない限りは複数の妻を持つようなことはないやん?それもあって制度として消そうとしとったらしいわ。
都市の会議でも廃制度派が大勢を占めとったんで既に妻が一人おるその男はうちらが邪魔になったらしいわ。 そんでその存在すらわからんように一切連絡を絶って援助すらしてくれへんかったらしい。」
「ひどい話だな!」
「でもひどいんはその後でな? 結局一夫多妻制度は古老の一声で廃案はなくなったんやけど。 その後4年ほどは何も連絡してこうへんかった。周りの目を完全にそらすためやったんかは知らん。あるいは単に出世街道を進むのに多忙やったんかもしれん。あるいはうちが産まれておかんの『妊娠しやすい期間』が終わるのを待ってたんかもな。
ウチの物心が付いたときにそいつはやってきたんやわ。時折顔を出してオカンと出て行くそいつがウチの父親って聞いたんは妹が生まれた時やけどな。」
「なんでオフクロさんはまたそいつを交渉を持ったんだ?」
「援助を申し出たらしいわ。古老が声に出して意見をいった以上、一夫多妻の制度がなくなることはない。そやけど出世のために一度離れた俺を赦してくれないだろうから援助はさせてくれと。 でも結局は体が目的やったってわけやね。オカンもその男のうちに対する態度を見たんと妹が生まれてからはもう援助だけを受け取って会ってないらしいわ。」
「なるほど、なかなかにヘビーな家庭環境だ。」
「いや実はそうでもないんやで? ウチはおかんがおったけど両親が狩人で一度に死んでまうこともあるわけやし。」
「そうだな。孤児ってのは親の愛情を受けられないからな。それでも親が残した金があるだけはましだけど。」
アマザは母子家庭で女ばかりの家庭で育ったのか。男にフランクな感じで接してるから年が近い兄とか弟がいるかと思ったんだが意外だったな。
「じゃあ俺の話をしようか。」
「うん!」
「俺のオヤジもオフクロも、ついでに俺の師匠でもある医術士も同じ時期に神聖都市からこっちに移民してきた。」
「前にも言ったけど詳しくは知らない。だが宗教の宗派に関わらず、互いの信仰を尊重して話し合いで主張の違いによる争いを無くそうとした人間ばかりが集まって出来た宗教都市だ。信仰を捨てなければいけない年輪都市に移民して来るんだから余程のことがあったんだろう。」
「俺が知ってるのは既にオフクロは俺を身ごもっていたことかな? 俺が生まれ育ったのはこっちだから実際に神聖都市がどんなもんか実際には知らない。ガキの頃からウチは放任でね。俺には無関心のオヤジと自分の子供なのにまるで距離感がおかしいオフクロ。俺がその理由を知ったのは6年後だったよ。
オフクロに妹が生まれた。オフクロは生まれた妹を溺愛していたよ。俺に対する態度とこうも違うもんだとショックを受けた。疑問に思って尋ねたオフクロが俺に言ったのは俺はオヤジの子供ではないこと、強姦されて身ごもった子供だったってことさ。」
「・・・・・・」
「ま、ガキだった俺にはそれは理解できなかったがオヤジの子ではないってことは理解できた。後から考えるとオフクロの微妙な態度も理解できたよ。」
「だがまぁそれまで親に無関心で接せられていたからな。家族の中で外れた存在でもオフクロの子供ではあるから飯は出たし生きていくのは問題なかった。」
「・・・・・・」
「問題はその後でな。」
「!」
「妹を『失くした』。」
「・・・」
「その後 娘を『失った』オフクロは病んだ。心の衰弱は体の衰弱を招いたよ。俺達は環境を変えるために年輪都市から衛星都市に移った。しかし改善はなく、オフクロはオヤジに俺を鍛えるように言った。それが11歳、本来なら学校に通う年だ。」
「オヤジが狩りで稼ぎに出るとき以外はみっちりと鍛えられたよ。強くするには飯を喰うのも必須だから歯は折られなかった。だが腕や肋骨はよく折ったもんだ(自分には医術が通じなくてひたすら重複化で補強して続けたんだっけ。だから鍛えられても筋肉にならなかった。)
俺が棍や刺又を使うのは親父が神聖都市の出身のガーディアンだからさ。人に道の教えを説くものが人を殺す剣を振りかざすわけにもいかんからな。」
「そしてその二年後、いつこんな生活が終わるかと思ってたけどオフクロの死と共に終わったよ。オヤジは如意棍を残して何処かに去り、俺は一人で年輪都市に来て孤児として学校の寮に入って人より2年遅れて就学した。その後16才で卒業して18才に成るまでの今年一杯までは自由研修期間ってことさ。源力操作ができるから医術士になるために研修を受けたかったがいつまで待ってもカードには変化がなく、城壁修理で食いつないでたけど心機一転することにした。そこで目に留まった依頼書がアマザのものだったってことさ。」
「そう・・・やったん。 ウチはまだオカンから愛されてる分、マシな方なんやね。」
「辛気臭いな、もう終わったことだ。それより明日からの狩りの方が重用だろうに。」
「うん、そやけどカイルの事情を聞いたら・・・」
俯いているアマザはいつもの元気がない。俺にはもう過去の話なんだけどな、妹のこと以外は。
うーん、どうやって元気付けるべきか?
・・・タミーさんのように不意打ちか?
「アマザ・・・ 」
とりあえずタミーからの攻撃には受身だったがここは自分から行ってみた。俺だって男、こういう時には押してみないと!失敗してもしらん!!
隣に座るアマザの肩を引き寄せて、いきなり軽くキスしてみた。タミーにされた時は戸惑いが大きかったが今回は自分からということもあってアマザの柔らかい唇の感触を感じる。
だが俺にできるのはそこまでできっぱりはっきりタミーのようなテクはありませんので!
「あ~、え~、アマザの引っ張ってくれる明るさには助かってる。互いを知るためとはいえ俺自身が気にしてないことで落ち込んで欲しくはないんだ。いつものアマザに戻ってくれないか?」
恥ずかしいが真顔で真正面から言ってみた。
アマザは最初、キョトンとしていたがキスされたことを認識して顔どころかノースリーブで見えてる肩まで赤くなってる。
てっきりアマザのことだから照れ隠しに叩いてくるかヘッドロックのパターンって思ったのだが俯いて
「うん。・・・」
あの~・・・ こっちも恥ずかしいです。
たぶん俺も真っ赤になってると思われる。ゆでダコになった男女がベンチに並んでるわけか。
慣れないことはするもんじゃないと俺の逃げの部分が思ったけれど好いてくれる相手に行為で返すのも悪いことじゃない。
そういや蒼海都市から干物が着てるなら干しダコあるかなあ?裂きイカでもいい。なんて思いながら顔面の紅潮が収まるのを待っていた。




