1-21 傷
今月も残り2日 明日は新しい月からの狩りに供えて全員で集まって意見の交換があるが今日は狩人としての活動はオフだ。
ゆっくりした朝だが、いや、ゆっくりしていたからこそ事件は起こる。
「なんであれだけの量を燻製してコレだけしか残ってないんだ?」
昨日バチカーの肉をコーリンの意見で燻製したのだが俺は途中でオウノじいさんのところに向かった。残りの燻し作業はコーリンに任せていたのだが今朝の食事時に昨日の燻製ですと出されたものがどう考えても昨日の1/3以下の量なのだ。
「知らないんですか?カイルさん。 燻すと油が抜けますし乾燥して縮むんですよ?」
いくらなんでも減り過ぎてる。
「喰ったな? 喰ったんだな? 喰ったものをそのでっかい胸の中に溜め込んでるだろう!
前にも言ったが男の前でその薄着はやめろ!」
朝っぱらから俺にあるまじきセクハラ発言全開だがちょっとコーリンの態度には思うところもがあるので朝からぶちかましてみた。
「失敬な!この胸には食べ物など入っていません。
それと下宿内での格好をとやかく言われる筋合いはありません。
そもそも乳房など発達しているかいないかだけで男性も女性もあるものです。それを朝から注目して声に出すなどあなた自身が異常性欲者なだけです。
それにあなたの軟弱な知性では燻したことでの食材の変化が理解できないのですね。」
「ふーん、ならバチカーの差し入れもコレが最後となる!」
「・・・・・・燻製作業の正式な労働の対価として頂きました。
あくまで対価です。
ご褒美です。
なんらやましいことはしてません!」
なんでこの娘はバチカーの肉になるとこう残念な娘になっちゃうんだろう?もっとまともな娘だったよな。俺はため息を付いて燻製をつまみ・・・
「はぁ、・・・・・・お酒が欲しくなるなあ。」
あっちじゃ酒なんて興味本位で口にしてみたが日本酒は辛い、ビールは苦いとしか感じず、とても飲みたいと思えるものではなかったが体が違うと味覚も違うのかそれともアルコールを含む酒そのものの味があちらと異なるのか塩味がきつい食べ物を食べるときには美味しく飲める。
「朝の労働前から酒を欲するなどダメ人間の典型です。」
やっぱこの子、一線引いてるどころか俺のこと嫌いだよね?
「コーリンちゃんのいうとおりよ。例えお仕事がお休みでも朝からお酒はいただけないわね?」
マリアさんに注意され、
「肉の差し入れを立て続けにしたからいい気になってんじゃないの?」
アンジェに馬鹿にされ、
「コクコク」
ヴェガには同意される。
うちの女性陣から総攻撃だ。 せめて一人味方が欲しいな。
俺のとなりの空き室に男が来ないもんだろうか?
あ、そういや残りの輝虫のリング 今なら全員いるし渡しておくか・
「ちょっと渡すものがあるからそのまま待っててくれ。」
2階の自室へ指輪を取りにあがる。
ひょっとすると異法士のアンジェは偶然指輪に異法を作用させてその働きに気付くかもしれないが少なくもヴェガもコーリンも異法士じゃないから気付かないだろう。
「ほい、俺はこれから仕事じゃないが打ち合わせに出るからその前にこれを渡しておくよ。」
そう言ってから手の平の中の指輪を見せる。
「キレイ!」
「ほぅ・・・・・・」
ヴェガは声を発しないがまじまじと手にとって眺めている。
「ちょっと仕事で素材が余ったんで知り合いに加工してもらったんだ。よかったらどうぞ」
「ちょっと、カイル!
いくら同じ下宿の仲間とはいえこんなに高価なものをアンジェたちにあげるのはよくないわよ?」
輝虫は他都市向けへ交易品とされる素材で年輪都市内では見ることは稀だがその買取価格が高額であることを知っているマリアさんから注意を受ける。
「とはいっても素材は拾ったものだし加工も知り合いにやってもらったんでこの前のバチカーの肉を持っていったんですよ。」
「それにしてもコレって輝虫の素材でしょ?しかも普通よりも輝きが強い。かなりの逸品じゃないの?」
「いいんですよ。男の俺が指輪ってのもね。」
「三人ともちゃんとカイルにお礼をいいなさい。これは買うならかなり高価なものなのよ。」
3人はそれぞれ朝食の手を止めて指輪を眺めていたがマリアさんに言われてこちらに礼を言ってくる。
「料理の邪魔にならない時だけしてあげるわ。ありがと」
「先ほどの私の胸への不躾な視線に対する謝罪として受け取っておきます。」
手をあわせて感謝の意を表すヴェガ。
「ヴェガ、頼むからこういうときくらい喋ってくれ。」
なんだかんだあって俺はメンバーたちがいる修練場に向かう。
昨日1日の修練でプールされた源力も補充で使い切ったようなのでそれを補充するためだ。
全員が集まってなにやら話してるとこへ遅れて到着。
「よぉ、どうしたんだ?」
「来たな? この装具について相談していてな。 昨日の訓練で5回ほどはまったくの源力枯渇から充足までを繰り返すことができた。」
「つまり五人分の源力がプールされていたってわけだな?」
「微妙に残量は違うとったけどな? まあ源力総量は個人で違うからしゃあないわ。問題はな?」
「これほど多くの源力をまたこれに貯めるのにどれくらい掛かるかってことなの。」
「そう、つまり源力をこの装具に貯めるのに時間がかかるならスペアか別の形で持っておいたほうがいいのかと思ってな。 俺たちの源力数人分ならプールするに数日必要なんじゃないのか?」
「そのことで、カイルを、待っていた。」
なるほどスペアか、でもプールするのに時間が掛からんからあまり意味がないなぁ。
「昨日の修練の結果はタミーから聞いてる。装具にプールした源力もちゃんと使い切って調べたんならもう源力をプールさせてもいいだろう。みんな装具を出してくれ。」
まとめられた4つの装具を両手で掴み、そのまま源力を両手から注入していく。
やはり枯渇すると光沢がなくなる様だったが指輪も篭手の下敷も額当ても源力が溜まる艶が出ている。
「はい、プール完了。」
「「「「「・・・・・・」」」」」」
なぜか全員沈黙?
「はぁ~~~、カイルの力に嫉妬してた俺が馬鹿だったわ。比べるのがそもそもの間違いだ。」
「だよなぁ」
「ええ~~っと単純にウチらの充足状態から枯渇までを5回、それを4つ分・・・」
「この装具に今、プールされた分だけで私たちの20人分の源力ってことね」
「それを、たった、一分程度。」
「どうかしたのか?」
「い~~え!単に改めてあんたのでたらめさを認識しただけや」
「「「「うんうん」」」」
ひでえ話だ。 こっちはパーティーのために色々やってみたってのに。
「そういや 今日はホーヅを借りてくぜ?」
「そういえばホーヅはまだ装具を持ってなかったな。」
「膝の具合を見て貰って装具の仕様を決めようと思ってんだわ。 じゃ行くぜ、ホーヅ。」
「わかった。」
今日はホーヅを伴い、昨日と同じくオウノじいさんのところに行く。
ただし今日は普通に患者としてだ。 細々と困らない程度だけ診てるとのことだがやはりそんなペースでも腕のいい医術士の噂は広がるもので受付は午前だけなのに結構な人だかりだ。
「さてホーヅ。うちの知り合いの医術士に見てもらうんだが自覚症状は必ず正直に伝えてくれよ?」
「わかった。 それと順番を待つ間に、コレを渡しておく。」
バッグから出して渡されたのは包みに入ったクッキーだ。
「妹達が作った。今月の儲けは、法外なものだった。だからメンバーにと。」
「そうか、じゃ頂きながら順番を待つかな。」
-*-
「うぬ。 確かに治療そのものは終わっておるのぉ。」
「じゃこれ以上の回復は無理なのか?」
「いや、それは出来る。じゃがな?この巨体を支える足じゃ。治るまでの長期の安静、できるかの?」
「狩りに出ます。なので無理。」
「じゃよな。つまりは治りきる前に自重の負荷のダメージが入るのでこの状態が小康状態というわけじゃな。」
「じゃあ、俺の力で一気にやれば?」
「傷口を塞ぐなどならよいがな、こういう場合は難しい。それにお前さんの源力をとりあえず流せばいいだけなら源力をプールする装具なんぞ作らんでも直接体に源力を注げばいいじゃろ?」
「あ、そうか。・・・ではコイツを。」
そういって20cm程度の長細い棒状のものを取り出す。アッシャーとニミヤに装具を作った残りの珪藻土モドキで作っておいたものだ。
「俺の源力をプールさせて、膝の横に巻き付けてさ、あとは自然に膝に源力が流れるようにできないかな?」
「ほう、つまり四六時中 医術士が源力を注入している状態にするわけか?・・・じゃが却下。」
「なんで?」
「医術士がやるように源力をずっと流れるのはええが、流れた源力はどこにいくんじゃ?出るところが無い以上、体の源力に馴染んでいくじゃろ?結局、時間が短い間か長い間かの違いだけで源力が許容量を超えて大量に体に蓄積されるのはかわらんからやめたほうがよいの 」
「う~~~~~ん? ポク・・・ポク・・・ポク・・・チーン!」
「じゃあさ! この棒の上部からは源力を放出、ホーヅの膝を通過して棒の下部から源力を吸収ってのはどう? これなら源力は循環してるだけだ!」
それを聞いたじいさんは手を叩く。
「なるほどのう!確かに治療は源力を通すことで滞ってるところを活性化、治癒促進を行うものじゃから通るだけでよい。単に源力の予備として装具に留めておくのではなく使用するまで患部に循環させるとは盲点じゃったわ。 早速源力の通り道を作ってからワシとお主の源力をなじませよう!」
そういって出来上がった20モイト程度の棒。これを添え木の様に右膝の外側に包帯でくくりつける。できればサポーターが欲しかったがこちらにはゴム素材がまだまだ発展途中なのでよいものがない。
「これなら異法の修練をしながら治療をしているようなもんじゃな。ただ完全に膝が治った場合はまた装具を考える必要があるじゃろうが」
「感謝します。異法と同時に、治療も、とは」
「よいよい!診察代は貰っておるしの。アイデアはカイルのものじゃ。ヤツにも感謝しておくとよいじゃろう。」
深々と俺とじいさんに頭を下げるホーヅ。
これ以上は続く診察の邪魔になるので歩いて修練場まで帰ることにした。
「なぁ、ホーヅ。聞きたいんだがいいか?」
「なんだ?」
「ホーヅにとって妹ってどんなもんだ?」
「保護し、面倒をみるものだ。」
「簡潔だな?」
「年でも違う、年が近いなら、競う相手、 離れているなら保護、もっと離れているなら、父性愛に近いのではないか?」
「そうか」
「いずれにしても同じ家で、同じ時間を共有してる存在は、それだけで家族。」
「じゃあ 血がつながってなくてもか?」
「そうだ。そもそも夫婦は血がつながっていない。でも家族だ。」
「なるほど。逆に血が繋がっていても暮らしてなければ?」
「親愛の情も肉親の情もわかないなら、血が繋がっている他人だろう。」
「そうか・・・。」
俺はホーヅの家族観の意見に納得していた。
モイト=cm




