1-20 先祖返り 土の歓喜
じいさんと俺の共同制作の源力補給のアクセサリーや道具を身に着けた上で修練場で異法の訓練をする一同。
俺は全員に確認しておくように指示していたことがあった。
まず源力が切れるまで異法を使って、スムーズに源力の補給ができるように慣れておくこと。
その源力を使い切る過程で一度に全力で異法を放出してどこまでの威力、支配が各人の能力で可能なのかを確認しておくこと。
各々のプールした源力は完全に尽きた状態から何回満タンに源力を満たすことができるのかを確かめておいて欲しいということだ。
特に源力は各人で総量の上限が異なる。その上俺の源力を留める道具にしたって指輪の形状が同じだから全く同じ量がプールされているとも限らない。源力切れを心配しなくてもよくなったが果たしてそれが一回だけのことなのか?それとも複数回の補給が可能なのか?実戦で使う前によく把握しておかなければ。
源力切れを心配しないで異法の火力を上げて戦うなら俺が重複化することもなく、それぞれが巨獣を狩れるようになると思うんだがどうなるか……
「さて、持って帰ってきたのはいいがどうするべきか?」
異法士ではない俺は修練場に行くことはなく、この日の午前中は又も肉を前に厨房に立っていた。
昨日じいさんのところに持っていったバチカーのテイルフィレだったがさすがに7メイトの大物の尻尾部分、デカ過ぎてじいさんには食べきれないために余ったものを目の前にして腕を組んでいた。
焼肉はもういいだろう、ここはホーヅのとこでご馳走になったようにスープにすべきか? これでも一応テイルスープになるんだろうか?
問題は使う野菜だが……
マリアさんに頼んで店に出してもいいから使わせてもらうかな?そう思案してると厨房を覗き込んでいる耳が付いた頭がひとつ。
狩りには出ない日のためゆっくりした朝のひと時、要り用だったバチカーの肉が余ったので持ち帰ってきたので昼に定食メニューで提供しようか?とマリアさんに話したところコーリンが聞いていたようだ。
なんと昼前なのに早引けしてこっちを窺ってやがる。
しかも隠れるつもりもないのか身を乗り出して露骨にバチカーの肉を見ている。
「そこの欠食児童!学校はどうした?」
児童というほど年齢は低くもないし、むしろ成人と言っていいほど身体の成長著しいが口に出さなくても肉が食べたいと分かる行動は子供だ。
「美食の前には授業は意味を成しません。
誘惑で集中できない授業を受けるよりもすぐに味わって翌日からの糧にするほうがずっと正しい行動です。」
「一見すると良さそうな言葉だけど、食欲を優先したダメ人間の行動だな?」
さすがにバツが悪いのか耳が元気なく、視線も泳ぎ気味。
自分がやってることが誉められたものでないこともわかってるが食欲には勝てないらしい。
ホーヅの家で食べたスープは確かに美味かったが同じように料理できるとは限らないんだよな。
「とにかく!厨房に入るなら普段着に着替えた方がいいだろう。汚れるぞ?」
そういうと無言で二階へ去った。
どうせこれ全部を俺たちで食べきるのは不可能だ。どうせならお客さんの昼のメニューの一品としていられるようにするべきだろう。
思案していたらいつの間にか後ろにコーリンが来ていた。あいかわらずの薄着というか……
背中の体毛のせいで暑いのはわかるよ?
厨房だから暑いのも、だから空気を入れるのにゆったりしたタンクトップもどきなのも。
でも何か胸に当てておけよ!
胸の形が分かるし突起が分かるんだよ!!
視線のやり場に困った俺に気づいてもコーリンは気にせずこう言った。
「お気になさらず。こんな格好をしてるのは厨房の中と部屋の中だけです。よしんば貴方が劣情を催したところで私なら貴方程度は簡単に取り押さえられますから。」
「そう思う前にその薄着をなんとかしろ!」
「暑いからイヤです。」
にべもない。
「で、コイツが食べたくて学校を早退した食いしん坊はどうやって食べたいんだ?」
「燻製です!全部燻製にします!」
「燻製か~。(どうせならハムとかベーコンにしたいけど冷蔵庫がないここじゃ無理っぽいよな。地下室もそれほど気温が低くないようだし。いや?でも冷蔵庫がない時代からハムはあったわけだし大丈夫なのか?) でも厨房の中じゃ煙が出て迷惑だろ?」
「なら、外でやればいいのです!。」
そう言うと自分の意見を確実なものにするためかこっちに大股で詰め寄って目の前で立ち止まってこっちを見上げてくる。
その格好でそれをするんじゃない!
揺れるソレがすんごく気にかかるから!!
それと俺の視点からだと色々見えそうだから!!!
「分かった!だが俺は今日は夕方から出るから途中までしかできんぞ?」
「わかりました。ですがちゃんとこちらを見て返事をしてください。失礼ですよ?器具はマリアさんに家庭用のものを借りますからカイルさんはチップをお願いします。」
「(ちゃんとそっちを見たら下半身がエライことになるんだよ!)
じゃあ、今から買いに行ってくる。その間に肉を小分けにして縛っておくのは頼むぜ? それと外に行くならちゃんと服を着ろ!」
俺は燻製用のチップを買いに行き、先にバチカーの肉で焼肉を作って二人で食べた後、途中までは燻製を作っていたが3時を前に残りの作業はコーリンに任せて赤髪亭を出た。 何気にこれまでで一番長くコーリンと会話したかもしれない。
その間の会話によるとコーリンのいる衛星都市の周りにはバチカーが生息しておらず、結構なご馳走なのだそうな。 それにしても食いつきすぎだろう。
今日一日の修練の報告は明日に聞くとして俺は昨日言ったとおり、オウノじいさんのところにタミーを連れて行くことにしていた。
アマザも含めパーティーメンバーがどこまでタミーの事情を知ってるかは聞いていないのでタミーだけを連れて行くことにしている。修練が終わったら念話をくれるように言っていたのだがてっきりアマザやアッシャーたちも源力の補充の件でこちらに色々念話を入れてくるかなと思っていたのだが静かなものだった。
タミーによると各人5回は源力の枯渇と充足を繰り返したそうで、それによる源力総量の増加は1日1回しか満タンから枯渇させることができない通常の場合に比べて単純に5倍増(最初の1回目に加えて源力補充が5回行えるので6倍)となる。
更に枯渇を気にしない「力押し」が出来ることになってそれぞれが興奮して意見を交換していたためにこちらに念話を送ってこなかったらしい。
しかし新人が「らしからぬ」持続で異法を使って修練していたことでどうするかを相談するために全員で酒場に行くとのことで、タミーについては内容は言ってないが医師に見せることはアマザに言ってたのでそのまま送り出された。
狩人の服装から着替えたタミーと合流後、オウノじいさんところに着いたのはもう4時前だった。
「あら、あたしが最後だと思ってたらもう一組いたのね? 新婚さん? おめでたかしら? 体をお大事にね」
じいさんの医術院にはまだ患者が残っており、タミーは狩人の装具から着替えてきているのと日よけのフードを取っていたこともあり、新婚の若夫婦と見られたようだ。
どう返していいか分からないのでとりあえず
「どうも」
と返した。
この便利な言葉が年輪都市にもあったよかったと思う。
しかし「おめでた」と言われたことで子供が産めないタミーにはダメージがあったのか力ない笑顔で返していた。それを見たご婦人は
「ほら!不安で気弱になってる時はダンナがしっかりしないと!産んだら女は強くなるもんだけど労わってやりなさいよ?」
なんて声をかけられた。
いくら年輪都市でも17才で結婚は早い。が、珍しいほどでもないのか。単に今、身をおいている職業狩人たちの結婚が他の職よりも遅いだけで。
「じいさん、今日はもういいのかい?良ければ昨日言ってた子を連れて来たんだが?」
「ああ、さっきのご婦人で今日は終わりじゃよ。で?その娘かの?」
「あの?ええっと?」
既に話を通していたことを知らず、連れてこられたのが医術院であったことに戸惑うタミー。
「前の休日の時に会ってもらいたい人って言ったのがこのじいさん。これでも結構な高位の医術士なんだぜ?」
「不妊のことを?」
「そ! この前の夜にちょっと引っかかるものがあったんで俺の師匠にもあたる人だから診てもらいたいんだ。」
「それはいいけど……」
「この医術院を開いているオウノという。
カイルとは生まれる前のその両親からの付き合いじゃ。つまり移民組みじゃな。
カイルから事情は聞いておるよ。まずは問診からじゃが……
ほぅれ、出て行かんか!カイル。
お前は源力操作の医術は使えても『医術士』ではない。
研修を受けてるわけでもないお前が人の病気の事情を知っていい訳はないぞ? この子のダンナなら別じゃがなぁ。」
「いえ、いいんです。カイルには何を聞いてもらっても、見てもらっても。」
「そうか? お前さんがそういうなら構わんがのう。」
そして不妊と判断された高位医術士の言葉や、その診察を受けることになった背景をじいさんに説明していた。娼館にいたころに「無茶な客」にどうこうされたなどはないらしい。
「異常の発見のために、まあ源力を通しやすくするためと肌の表面からの異常の有無を情報を得るために裸になってもらうんじゃが?」
「構いません。」
「服を脱いでもらう間にカイルはこっちに来てもらうかの?」
隣のベッドがある診察室にきてじいさんは聞いてきた。
「カイル、わしに診せようと思ったのはどうしてじゃ?
源力での異常発見が出来ない場合の不妊ならわしら医術士ではどうにもならん原因ということになる。
病的なものでなく体質的な不妊じゃな。
その場合は儂らじゃなんとも出来んぞ?」
「いやちょっと気になることがあってね。」
「ふむ?」
「じいさん、彼女の胸の下あたりに注目した上で彼女を診断してもらいたい」
そう言ってカイルはその部屋に留まってじいさんの診断を待った。
タミーは構わないと言ってたけどやっぱりね。
するとしばらくオウノじいさんとタミーの会話が聞こえるがドアを閉めてるので不明瞭で何を喋ってるかは分からない。すると爺さんが出てきて中にいるタミーに声をかけている。
「まず、間違いないじゃろうな。一応類する症例を調べておこう」
そういって廊下に出て書斎に向かう。
するとタミーがこちらの部屋にやってきたんだが様子がおかしい。
誰もいない部屋にいる俺のところにやってきたタミーなのだが、診察の後まだ服を着てないのかシーツを巻きつつけたままの姿で潤んだ瞳で向かってくる。
あれ?これってこの間と状況そのままなんだけど?
てっきりオウノじいさんの診察の結果を伝えにきたと思ったのだが一言も発さないままこちらに向かってくる。俺はなんとなく感じたタミーの圧力からその場から逃げられず、それでも後ずさるとベッドに足が当たり、前から近づくタミーから逃げられないのでベッドに腰掛けた。するとタミーは俺の胸に手を当てて押してきた。強い力でも無かったのだが俺はそのままベッドに倒される。
更にベッドに上がりこんできたタミーに抱きつかれ、上から俺を真正面から見てくる瞳は・・・蠱惑的というのだろうか? 相手の視線に対してこっちの視線も離せなくなり、タミーは俺の顔を両手で掴んでキスをしてきた。
その直前に何やら独り言のように呟いていた気がする。
「わたしにも……の」
と。
タミーが俺にしてきたのは啄ばむようなバード的なやつでなくヌ、ヌ、ヌ、ヌ~と入ってくる情熱的な方のやつだ。しかも巻きつけたシーツの上半身部分が肌蹴ているのに気付いてないのか気にしてないのか。タミーは夢中で行為を続けていた。
一方の俺は一体なんでこんなことになってるのかわけが分からない。
それゆえ不意打ちの上に防戦一方という感じだ。
だが、そこは性欲持て余し気味の10代の男、タミーの攻めに劣情が抑えきれない。 自分からタミーに抱きつこうとした時だった。
「ほっほっほっ気が早いのう。若い体は抑えがきかんか? じゃがここは医術院なんでな、それ以上は勘弁してもらいんじゃ。」
じいさん登場、おかげで我に返ったがものすごくお預け気分だ。
タミーはその声に我に返り、サッとシーツで体を隠して着替えを置いてある隣の部屋に戻る。 やっぱり肌蹴てるのは分かってたのか……
「じいさん!タミーに何を言ったんだよ?」
「おそらくお主となら子を生せると言っただけじゃ」
「! なんで俺?」
そう、なんで俺なんだ?
「順をおって説明しようかの?
お主も獣人族に出ることがある副乳に気付いたのはよいの? それともう一つ、彼女はお主と同じ狩人なんじゃろ?
ならなぜ大森林に赴くのにあれほど筋肉量が少なくて華奢、そして筋肉の質も柔らかいんじゃ?」
確かに以前タミーの家で触った時にものすごく柔らかくて華奢って思ったな。
ん?
そういや巨獣を引きつける時にニミヤが風で誘う以外に囮として誘い出す役もしてると聞いたことがある。考えてみれば大森林の中を囮として走るのにあの筋肉量は少ない?。
同じ女性で、しかも同じ仕事をする土の異法士のアマザは確かに巨乳だしウェストもくびれて女性的だがちゃんと筋肉もある。初対面でそう感じたくらいに。 ついでにあのしまった筋肉なら豊かな胸も垂れることはないだろうと大きなお世話を焼いてみる。
「大森林で普通に狩人として活動しておることを踏まえれば 思い当たるのは体質の先祖返りじゃ。
何故大森林に出向いてる狩人なのにこんなに筋肉が柔らかいのか?ひ弱でなくて「その程度」の負荷では筋力が鍛えられんからじゃ。そもそもその体で問題なく他のメンバーと一緒にに行動出来ておるんじゃろ?」
「そして日に焼けないことも、髪が黒から緑のグラデーションなのもな。今は大森林での狩り以外は日差しを避けておるようじゃが昔からではないそうじゃな。学校に通っていたときは普通に日に当たっていたそうじゃ、なのに肌は焼けずに白い。
そして髪じゃ。
異法士としてもたらした変化なら全体で色が変わることが普通でこういった先だけが緑を帯びるのは珍しいんじゃ。
おそらくは、日に焼けたはずの皮膚の色素などを髪に集めておるかものう?じゃからより新しく色素が集まる生え際の根元ほど黒いのではないか? そういう獣人族の種族が先祖だったかもしれん。」
「でもわたしは普段顔を隠してますが?」
着衣を終えてやってきたタミーも話しに加わる。
「町の中だけじゃろ? 大森林では隠してないのではないか? そもそも隠す前に比べてより白くなったかの?」
「……」
「同じようなものがないか文献を調べたがの。
「卵子の異常」には分類される。
そのままだと卵子が精子を弾いて受け入れず受精に至らぬ。当然妊娠もせぬということじゃ。お主が医術士に言われたのはこのことじゃろう。
じゃがこれは本質的な不妊ではない。
病気というより混血に伴って現れた弊害のようなもんじゃ。
体質が先祖返りしたことでその当時の先祖のヒトや獣人族の普通の精子や卵子の強さになってしまっておるということじゃ。
つまり今のヒトなり獣人族なりの精が当時に比べて弱くなっとるんじゃのう。弱いというと語弊があるがつまり混血により、より広く血を受け入れやすいように変わっていっとるんじゃろう。」
「ん~~?じゃ生物として弱くなったってことか?」
「さっきも言ったろう?混血を進めるうちに多様化を種が望んだんじゃろ。」
「それで肝心のタミーちゃんじゃがの?
結論で言うと同じように数代前などの混血が進む前のような強い精を持つ男性が相手なら理屈上は妊娠は可能じゃ。」
「強すぎる卵子が弱い精子を弾くが卵子の機能が異常なわけでないからの。つまり同じように強い精ならどうじゃ?」
んんん~~~ なんか嫌な予感!
「理由は言えんがカイルの(重複化をした状態の)精ならまず問題ないじゃろうな?っという「事実」をさっきタミーちゃんに話したわけじゃ。」
「こら、じじーい!!
パーティーメンバーなんだぞ?
ちょっと変な空気になっちまっただろうが!」
「そんなもん知らんよ。わしは医術士としての意見を述べただけじゃ。」
「いいわよ、カイル。あなただって相手を選びたいものね。でもこれから先にどうしても子供が欲しかったらわたしはあなたの情けをもらうかしかないの。それは覚えておいてね。
それとありがとう。希望を与えてくれて。カイルに連れてきてもらって良かった。」
そういって先に帰っていった。
子供を産めない思っていたら好意を寄せる俺となら作れるといわれたら色々と思うところがあるのだろう。
しかし余計にこっちはがっちりとロックオンされてるわけで、俺はニヤつくじじいの横でどうするべきか考えたが結局は今まで通り「お互いを知る期間」としておくのが最もいいと考えて帰路についた。
どうせもうすぐ本格的な狩りだ。「それ」ばっかりに気を置くことは出来ない。
……あ?
ホーヅもついでに連れてくればよかったんだ。




