1-19 満ちる源力
俺は建材を求めてタミーとアッシャー、ニミヤと共に商店を回っていた。
「こんなんじゃ駄目なのか?」
「う~~~ん、違うな。
こっちじゃ建材として使ってるのか、それとも調理器具として使ってるのか定かじゃないんだよなぁ」
「おいおい、使う用途が分からないのになんでその素材を知ってるんだよ?」
「ナイショ!」
アッシャーに助言をした後、源力がすぐに満たせる方法があると言ったところ、
「あのな……源力は都市内が一番満ちる速度が速い。
例え都市からたった1ミイト(城壁の外周500メイト+アマザたちの大森林探索距離500メイト)離れただけでも満ちてくるのは都市内の同じ時間を掛けても雀の涙だぜ?
それに源力が尽きたら元に戻るのに一晩、8時間程度は掛かる。
なのにすぐに補充なんてできるのか? そんなことが可能なら狩人は誰だってやってるはずじゃないのか?」
ニミヤは懐疑的な意見を述べた。
まあ人の源力を他人が使うなんて話聞いたことがないので仕方がないだろう。
俺はアッシャーの異法をより有効に使うためには必須と考えている「源力を補う」ために輝虫の指輪と同じようなものを作るためにじいさんの力を借りようと思ってる。
アッシャーには詳細は伝えず、俺の源力をプール使用するために何か身をつけるものとして防具なりアクセサリーなりで便利なものはないかと探ってみた。
いずれはニミヤにもホーヅにも作ってもらおうと思うが問題は何に俺の源力をプールさせるかだ。 じいさんに作ってもらった輝虫の指輪のようにわずかでもいいので空間がある必要があるそうなのだ。
そこで思いついた素材があるのだが問題がそれがこっちにもあるのかどうか。
たぶん存在するなら外壁の壁の材料として使われてるんじゃないかと思ってそれらしいところを回っている。
すると少し灰色っぽいざらついた塊を粉にしている作業場があった。
俺はそこに近づいて触ってみて俺の知識にあるものと全く同じではないが、この世界で「それ」に相当するものだと踏んで作業していたおじさんに頼んでみた。
「すみませーん! これってこの辺りで取れたものなんですか?」
「この建築用材か? でかい塊の土で衛星都市から切り出してもって来るんだよ。今は歪門もあるしこれだけのでかい塊でも楽なもんだがな・」
(切り出してくる……か。TVで石川県の輪島のを見た通りだがやってみないわからんな。)
「これ2カイロほど売ってもらっていいですか?」
「何、2カイロ?たった? それだけじゃ家の壁の補修すらできねえのにそんだけでいいのか? 精々ネズミの穴を塞ぐくらいだぞ?」
「はい。」
「なら 持ってけ持ってけ、コレを乾燥させて粉にするときにこぼれる分だけでそれ以上あるしな。」
「ありがとうございます。 ではお代の代わりでよろしければ弁当をどうぞ。」
マリアさん謹製(最近は大森林に行くため肉抜きで卵料理が追加になって寂しくなってる)の弁当をお詫びに渡す。
「そういえばカイルのお弁当って買ってるの?」
「いや? 俺が部屋を借りてるところは食堂もやってるんだ。ついでに別料金で詰めてもらってる。」
「ふーん……。」
何かあるんだろうか? 別になんにも含むところはないから隠し立てするつもりもないんだけどな。ところでこっちの味付けってスパイスは存在するけどやっぱ塩、胡椒が多いんだよな。もうちょっとなんか欲しい。
やっぱ食道楽の日本人には敵わんよね。
「それよりカイル。これ?」
「そう、これ!」
タミーだけでなくアッシャーも、そしてニミヤも確認してくる。
「これでいいのか? 本当に?」
ただでさえ眉唾ものと思ってる源力補充にそれに使う材料が建材である、それりゃ余計に懐疑的にもなるか。
「まぁまぁ、細工は流流、仕上げを御覧じろってな。」
「なんだよ、それ?」
「そういう諺があんのさ。」
そう言ってから修練場でもない、異法とは何の関係も無さそうな建材商店の脇で4人で集まり、指示を出す。
「じゃ、まずアッシャー。手甲出して?」
「? ああ、どっちでもいいのか?」
「ちょっと重くなってもいいほうを頼む。」
そういうと利き腕の右腕の手甲をはずすして渡してくる。
タミーに造形センスが期待できるかどうかが賭けではあるが……
「タミー、土の異法って土とかの変形が出来たよな?」
「ええ、複雑なものはやっぱり修行しないと難しいけれどね。」
「ならこの建材からアッシャーの手甲の下に敷く感じで0.5モイト程度の薄さのものを作って欲しいんだ。」
「それだけでいいの?」
「ああ、複雑にすると割れやすくなるだろうし。」
すると建材の塊に手を当ててもう片方の手に手甲を掴み、手甲裏の部分に徐々に建材の塊が移動して薄く盛られていく。成型でなく手甲の下に層を作ってるようにして下敷を作っている。
「あら? この建材、堅いと思ったらなんかシャリシャリしてる感じで扱いやすいわね?」
「よし、次にニミヤ、ブーツの前面の脛当てか、アッシャーみたいに手甲の下か、それとも額当てか?どこかに薄い板をかませてもいいところはないか?」
「靴の下はだめなのか? 」
「中敷も考えたんだが薄くすると割れるし、厚くすると重くなるから却下!」
「なら俺は探査役だから前衛にいくことも少ないから額当てにしてもらうか」
「よし。タミー、さっきと同じ0.5モイトほどの厚さで縦5モイト、横10モイトほどの四角のやつを作って欲しい。」
すると厚みはともかく、形は変にアバウトなヤツができた。なんか鉢巻きみたいに細長い……
「こんな感じ? 」
タミーはあまり造形は得意ではないようだ。
筆が持てて絵の具があって画用紙があるといっても誰でもうまく絵が書けるわけでもないもんな。
異法で思い通りに形を操れるからといってうまくいくとは限らない。
「えーっと横の長さをも少し短く、逆に縦をもう少し高めにしてくれ。まあ額の前面に置ければあまり拘る必要もないけどな。」
できた四角形をニミヤの額に押し付けて更に成型!
「おいおい、ホントにこんなんでいいのか?」
ニミヤもアッシャーも源力を「補充する」なんて聞いたこともないことの上にやってるのは粘土遊びみたいなものなので更に疑わしく思ってるようだ。
「わたしはカイルを信じてるけど、わたしのは作らなくてもいいのかしら?」
「偶然だがタミーとアマザの分は、この前の休みの時に知り合いにアクセサリータイプのやつを頼んでたのがある。女性にはそっちの方がいいだろ?」
「……ありがとう。」
「おいおい、用意周到だな? 狩りにかこつけて口説いてんじゃねーぞ?」
そう言ってニミヤが冷やかしてくるが失敬な! じいさんとこに行ったのはモトス事件の前だぞ?
「ついでに俺達にも欲しかったよなあ?」
「お前らは男からアクセサリーをもらって喜ぶ趣味があるのか?」
「ノーサンキュー!」
午前まで悩んでたくせに一気に軽くなりやがったなこのオニダルマオコゼ、でなくて肉達磨細目!
「さて、あとは俺がやっとくから3人は修練場でがんばってくれ。」
「わかったわ。」
「あいよ。」
「なあ、本当に可能だと思うか?」
源力の補充について意見を交わしつつ去っていく三人を見送り、俺は成形後にタミーが硬質化を掛けてくれたモノを持って赤髪亭に向かう。
今日は学校がない日なのでマリアさんもアンジェもお昼の客を捌いていた。
「あ、カイル? お昼に戻ってくるってことは手伝ってくれるの?」
悪いが逆だ
「忙しいところすまない、アンジェ。 逆にちょっと手伝って欲しい。」
「何言ってんのよ?この忙しいのが見えないの?」
赤髪亭が昼営業で販売している今日の弁当のおかずの箱を重ねながら答える。しかし俺にはこの手がある。
「この前の肉……」
そう、結局この前のクロヅノイノシシの肉10カイロは半分は赤髪亭の食材として、残りも焼肉では食べきれずに赤髪亭の夜の食材となっていたのだ。無料で提供したので恩着せがましく言ってみた。
「……わかったわよ!、手伝えばいいんでしょ!
でも本当に忙しいからちょっとだけよ?」
するとバッグからさっきの成型された二つの物体を取り出す。
「これをアンジェの異法で目一杯温度を上げて欲しいんだ。」
「それでいいの? 時間は?」
「全体が色が薄くなるまでかな?」
「わかったわ」
そういうと自分は使わない竈の傍に行き、炭などを掴む火バサミを両方にもち、各々を掴む。
アンジェの火の異法は無機物の加熱だ。ある一定の温度を超えればもちろん燃焼する。
ところが燃焼まで持っていくのはかなりの高位能力者なのだがアンジェはそれが可能だ。 伊達に子供のころから異法を発現して、その力で厨房に立ってない。異法士が狩人として異法を使って鍛えるようにアンジェは厨房で異法の修練を行っていたわけだ。
異法が尽きたら普通の竈で料理をすればいいので家の手伝いが源力総量を上げる訓練ともいえるし、鍋やフライパンの火加減が強弱の練習ともいえる。
一気に温度を上げてもらい、表面が赤色を帯びたようになってしばらくするとアンジェが軽くなった気がするといってきたのでやめてもらった。
こんなに早く焼けるものではないだろうが異世界ってことで納得しておく。
アンジェに今度は熟成された肉を持って帰ると礼をいい、温度が冷めるまで放置。
あとはオウノじいさんのとこに行く必要があるがバチカーの肉を持っていかねえと。
冷めるのを待つ間に預けたままのバチカーの熟成肉を取りに行き、冷めた物体を指でたたいてカンカンと音が鳴ることを確認してじいさんのところに向かう。
念話でもう今日の診察は終わったことは確認済みだ。
「待っておったよ。この前の指輪じゃろ?」
「それと報酬の肉を届けにね!」
ドス、と熟成されたバチカーのテイルフィレをテーブル上に置く。
「ほっ、こりゃ剛毅じゃの! 一体何カイロあるんじゃ?」
「わからん……とりあえず7メイトのバチカーを仕留めたからそのテイル部分を熟成されたやつを持ってきたんだ。」
「おいおい、じじいのワシには食いきれんぞ? 燻して保存してもいいがこ
れほどはな。」
「食い切れないなら持って帰るさ。うちの下宿にゃこれの食いしん坊がいる。」
「それがよいかの? 爺よりも若もんが肉を食うべきじゃからな。で、それはなんじゃ?」
バッグから取り出したものに関心を示す爺さん。
「指輪と同じようにこれにも俺の源力をプールできるようにしたいんだ。可能かな?」
手にとって確かめるオウノ爺さんだが渋い顔をする。
「ん?これは建材ではないか? 焼いて水分を飛ばして硬くしたのか?」
工術士は建築士とは違う。なのでこういった防具、武具に応用されない建材には疎い。
俺がこっちもあるかと思っていたのは「珪藻土」かその類似物である。七輪に使われているアレで、七輪で焼くとうまいのは多孔物質で云々と聞いたことがあるためだ。なら指輪の中の空洞と同じようにこの多孔を利用して俺の源力がプールできないかと思ったのだ。
「ふ~~む? できれば空間が開いてるほうがよいが削るのか?」
「いや目には見えないが細かい穴が一杯開いてる構造だと思うんだ。このままでやってみてくれないか?」
「ものは試しか、ではまずはワシがプールできるようにワシの源力を馴染ませてから次にお主の源力を馴染ませてもらおう。」
一個ずつ両手に挟んで両掌からその間にある手甲の下敷と額当てに減力を通す。輝虫で作った指輪のように色が変わらなかったが心持ち光沢、というかつるつるになった気がする。
「ん? 確かにお主の源力を溜め込んでおるのぉ やってみるもんじゃ。では後は源力の入る、出るの道筋を作るだけじゃな。輝虫のような素材の加工処置はいらんからすぐにできるぞ?待っとれ」
そういって依然と同じく地下の工房に降りていく。
その間バチカーのテイルフィレを切り分けていた。それにしても肉が白い。
「おお?済まんの。 出来たぞ。それとこの前の指輪じゃ。
それにしても指輪を送るということは女性の狩人か?
いよいよ、というかやっと色気づいてきよったか。この都市じゃ遅いくらいじゃな?」
「おっと? そうだ爺さん 明日の今頃ちょっと見てもらいたい人がいるんだがいいか? 」
「怪我人か? いやそれならお主で済む話か。」
「不妊、らしいんだが」
「なるほど。いくつか原因があって起こるものじゃが難しいぞ?」
「それでも俺みたいな医術士志望だった程度の半端者よりもじいさんの方が本職さ」
「連れてきなさい。
まさか孫みたいなお前が色気づいてきたと思ったら、もう子供を作ろうとしてるとは驚きじゃ!ワシも年を食うわけじゃて。」
「はいはい、そうやって人の話を詳しく聞かないのも年のせいだと思うぜ?」
そういいながら加工されたものを受け取り、念話で情報収集が終わっていたアマザたちも含めて全員で異法の修練場に集まる。
アマザへの念話ではすでにニミヤから聞いていたのかアッシャーの件について礼を言われた。
「こいつがそうなのか?」
ニミヤがそういいながら額当てを布でくるみ額に当てて結ぶ。
「ひんやりしていいけど汗かいたら蒸れるかもなあ」
手甲の下に強いて固定しているアッシャー。
「まずアッシャー。水を思いっきり集めてくれ。」
「思いっきりって言われてもさっきまでここで源力が尽きるまでやってて少しだけ回復してるだけだからほとんど集まらんぜ?」
「たまり始めた源力が無くなるまでやってくれ、あとここから念話な?」
全員が見守る中、アッシャーの手に水が集まり始めるが1メイトほどになったところで集めるどころか、留めることもできなくなったようでバシャンと落ちて跳ねた水がアッシャーの靴を濡らす。
『これでもう今日はネタ切れ、さっきも源力切れたから満タンに満ちない以上は何回源力切れても源力総量は変わらないっと。』
そうなのだ源力を使い切るまで行使すると体はそれを学習してほんの少しずつ限界があがる。筋肉を酷使すると太くなるみたいなものだ。
しかし一度その増えた上限になるまで源力が満ちてから使い切らないと総量は上がらない。
一度源力を使いきると8時間ほど掛かることから狩りもあり、1日一回源力を使い切るのが精一杯というわけだ。
しかし俺の源力をこの装具にプールして引っ張ってこれれば……
『じゃ手甲に源力が流れるようにイメージしてみてくれ。』
『俺は水の異法士なんだが、いいのかね。』
そういいながら意識集中すると
『なんだこれ? 腕から一気に源力が入ってくる! いきなり満タンになったぞ?』
そういって大声の念話を飛ばしてきたと思ったら先ほど下に落ちた水を一気に引き上げて水球にしている。更に水蒸気を集めて大きくし始めた。
『よし、成功だ。それは俺がその手甲敷きにプールした源力だ。ただそれだけじゃ一気に流れ込みすぎるそうなんで知り合いの工術士に調整してもらった。』
『本当にこんなことが可能だったのか?
半信半疑だったがこれは常識はずれにも程があるぞ?
それもお前の源力?で?
確かに術士の源力は術の行使対象と混ざるものだが対象者は相手の源力は使えないはずだぞ? それが可能なら医術士が治療したらその分の源力が使えるってことになるがそんな話聞いたことがない。』
『補充が可能ってことは……つまり、1日に複数回、源力の最大から枯渇までを、使用できる』
『あ!一日に複数回、源力の枯渇と充足を繰り返せるんなら個人総量が上がるスピードが増す?』
『そうね。どのくらいの回数源力を満たせるのか分からないけど、大森林での狩りで枯渇を心配せずに強い異法や広範囲の異法を使い放題ってことにもなるわね?』
そこまで念話で話したところで全員から視線を向けられた。
別に怖がられてるわけでもないが「あいつ一体、何者?」って視線だ。
困ったもんだ。折角パーティーの底上げをしようと思ってやったのに。
『ホーヅは足の怪我を考えてから判断する。アマザとタミーはこっちへ』
別にまだ恋人関係になってるわけでもないが指輪ってのはちょっと失敗だったか?イヤリングでもよかったんだよな。
確か年輪都市には指輪に関して儀式めいたものはなかったはずではあるんだがな。
『輝虫を拾ってな、同じ工術士に頼んで素材を指輪に加工してもらった。
アッシャーの手甲敷き、ニミヤの額当てと同じで俺の源力をプールさせることができる。
源力が尽きてから自分の源力と馴染むようにイメージしてくれれば指輪から源力が満ちてくるはずだ。』
じいさんから受けとった指輪は5つ。
タミーとアマザに渡してあとは……源力をプール出来ることは伏せてうちの連中に渡すか! ご機嫌取りになればそれでいいし。
アマザとタミーは爺さんが言ってたように元の素材よりもより輝くようになっている指輪を見つめてそれぞれの指に嵌めていた。
アマザは指輪に負けないような笑顔で
「ありがとう カイル! たぶんめっちゃ高いもんやと思うけど嬉しい!」
そう言って抱きついてきた。押し付けられた胸が気持ちいい。もう俺はおっぱい星人ってことでいいや。
脇を見ると
「心得てるねぇ、女が喜ぶツボを」
なんて言ってるアッシャーと妙な顔をしてるニミヤがいた。
そしてタミーは指輪を嵌めた手をもう一方の手で包み、目を瞑っている。
『嬉しい。ありがとうカイル。』
タミーから念話がきた。
いや二人とも一応これって武器といえるんだけどね?
『タミー、この前に言ってたことなんだが 月が変わる前に行っておこうと思ってな。明日の昼から一緒に来て欲しいところがある。』
じいさんに診てもらわないとな。
1ミイトは1キロメーター
1メイトは1メーター
1モイトは1センチ
1カイロ=1キログラム




