1-18 水の苦悩
今日は体調不良で早起きしなかったのでこの時間に更新
咳が止まらん、痰が切れない
テキトーに会話ばっかりで繋いで字数を稼いでしまいました。
今月の買取実績が指輪の貸し出し条件を上回り、今月は十分な稼ぎがあったために危険な大森林に入って無理に稼ぐことはやめ、来月までの残り数日は異法の修練をすることになった。
リーダーのアマザと情報収集をかって出ているホーヅは自らの修練のほかに来月から赴く予定の狩場を調べているので大森林に出ないといっても多忙だ。
俺は異法士ではないので修練の必要もないし、来月から指輪で大森林の狩場から直接中央買取場まで繋がることになるので中央依頼書で輝虫みたいなオイシイ依頼がないか、またどんな素材がよく依頼されているかを調べるつもりだった。
ところがアマザからアッシャーをそれとなく見ていて欲しいと言われ、アッシャー、ニミヤ、タミーらと共に朝から修練場に来ている。
何人かの異法士がいるもののその用途から十分な広さがある修練場でニミヤがかなりの風力で小さな竜巻みたいなものを作って砂を巻き上げている。タミーが土壁を横に並べて作ったり、ドミノのように縦に並べて作ったりと色々と試行している。
しかしアッシャーは修練のために水を集めることをせずに何やら考え込んでいるようだった。他の異法士たちの修練はどんなものだろうとしばらく移動して離れていたらタミーの声が聞こえてきた。
「なんでそうなるのよ?水の異法士にはその仕事があるでしょ?」
「そうだぜ?
確かに同じ仕事はホーヅにも出来るがホーヅが出られない時はどうする?
同じ水の異法だからって必要ないわけじゃないんだぜ?」
アッシャーの声も混じってくる。
二人に諭されているのはこの所、悩んでいるように見えたアッシャーだ。
「だがカイルが入ってからは俺はいてもいなくても同じだ。
今までは狩りのセオリーに従って異法を使わない場合でもボウガンで攻撃してたさ。
だけどカイルが入ってボウガンの必要も無くなった。あいつが捻れば巨獣は傷もないまま殺せる。
それにその方が高く売れるさ。
俺がこれ以上修練しても役割は変わらない。俺がやることはカイルが邪魔になって持てないくらいの嵩張る獲物をバラすことと、同じように持てない獲物を引きずるくらいさ。それも来月から指輪が貸し出されば終わる。
カイルはもうポーターじゃない。
このパーティーじゃ既に必要不可欠な戦力だ。逆に俺はいてもいなくても変わらないお荷物さ。精々狩った獲物を捌く程度さ。異法を磨く必要はない。」
「そんなことないでしょ?
じゃカイルが大森林に出られないときはどうするのよ?
言いたくないけどカイルがポーターを辞めたらどうするのよ?」
「カイルが外に出られないならその時は俺たちも出なければいい。
カイルが去れば2週前と同じになるだけさ。 まあアマザやお前が止めさせるわけもないだろうが。」
「カイルにはいて欲しいけど狩人を続けるかどうかはカイルの自由でしょう?」
「カイルに惚れてるお前達が離れたがるのかよ?
お前達がカイルが好きなのは見れば分かる。
こんなことは言いたかないがカイルがいただけで今月の俺たちの収入はどうなった?
先月の10倍近くだ!
カイルが出て行っていいのかよ?
アマザもお前もカイルに惚れてるんだ、喜んで体で繋ぎとめるんじゃないのか?」
パンっ!!
タミーが平手を打ったのかと思ったら(実際その動作には入っていたが) ニミヤがアッシャーの頬を張っていた。
「みっともないな、アッシャー。 カイルに嫉妬か?
そうやってれば自分の異法が強くなるのか?
不満を言う前にやることがあるんじゃないのか?
それにタミーに謝れ。例えタミーがカイルに抱かれることを是としていてもだ。」
ニミヤから冷静に正論を言われ、アッシャーは俯いたがタミーに向かって頭を下げた。
「……すまない。タミー」
「いいわ。もう言い争うのはやめにしましょう。」
パーティーメンバー内の不協和音は嫌な余韻を残したままだ。
それにニミヤとタミーは修練を再開したがアッシャーは今も修練にかかる様子がなく、座り込んでまだ悩んでるようだ。
たぶんさっきの発言の自己嫌悪もあるんだろうな。
水の異法士の在り方か。
異法士じゃない俺にはわからないが行き詰まってるのか?アマザにも頼まれていることだし、発破をかけるか。
上手くいってくれればいいけど。
「アッシャー、俺と模擬戦をしないか?」
そう言った俺を3人が凝視してくる。
狩人は朝から出かけてるので修練場に来てる異法士は少なくこの周りは俺たちだけだ。模擬戦をしても邪魔にならないだろう。
どういうことなのか考えていたようなアッシャーだったが、カイルの力への情けない嫉妬心をどうにかしてくるのならそれもいいと応じてきた。
「じゃいくぜ?俺は棍ありで(重複化は使わんが)アッシャーは水の異法でだ。負けを認めるか、ダウンをしたら一本終了だ。」
「いいぜ。どうせ俺はお前には手も足も出ないだろうがな。」
ニミヤに合図をしてもらって俺達は向かい合った。
「始め!」
水を大気中の水蒸気から水を集め始めたアッシャーだがやはり「遅い」。
俺は如意棍を使うこともなく、とった距離を一気に縮める。
185モイトは超えて筋肉もあり、体も厚い。しかしアッシャーたち一般的な年輪都市の異法士は格闘術など見に付けていない。
俺はあっさり重心を崩して体落としを決める。
もちろんアッシャーだってされるままじゃない抵抗はした。だがみっちり訓練した経験のある俺が相手で身長差もそれほどでもないので傍からみるとあっさりと投げられたように見えたかもしれない。
アッシャーが集めていた水はその力を発揮するまでもなく修練場の土を濡らした。
「それまで!」
「はい、次、二本目! アッシャー、すぐ立つ、すぐ立つ!」
アッシャーは引き続き異法を行使する。
二戦目は先ほど集めかけた水が回りに落ちていたので、そこから水は早めに集められたが剣や水球になる前に俺の突きを腹に食らった。
だが所詮重複化はしてない、更に俺の怪力で腹に一撃が来ると足を落として構えていたので防具もあってまったく痛みを感じていなかったようだ。
ところがその後 突きのために接近した身体をアッシャーの横に流し、アッシャーが態勢を変えようと力を抜いたところを崩されてまたも同じ体落としを決める。
「はいはい、次 3本目!」
開始の合図をしてるニミヤも観戦しているタミーも何故このまま続けるか分からないようで怪訝そうな顔をしている。
いいようにあしらわれていると感じているアッシャーの顔には悔しさがありありと滲んでいる。
そしてまだ続けるつもりなのかカイルが3本目を促すまま模擬戦は再開。
今度は過去二回で集めた水が足元にぶちまけらていたので早々に手には水球が現れ、水流剣を形作った。更に水の盾を作るために水を集めるのは続ける。
だがモトスが作った硬質化した土を「砕いた」如意棍だ、石を割れなかった自分の水流剣が通じるわけもない。
そうアッシャーが考えたとおり、棍は水流剣を抜けて頭に一発もらって負けとなった。
「はい、次。4戦目!」
(まだ続けるつもりか?カイルの力にみっともなくも嫉妬する情けない俺を打って叱咤するつもりなのか?
だが俺はどうやったらこの劣等感を晴らすことができるのか分からない……異法士でありながらカイルに体術でもいいようにやられる自分の情けなさが増すだけだ。)
アッシャーはそう思いながら水を集める。
今度は過去3戦の水流剣と水の盾を作るために集めた水が足元に転がっていたので開始と同時に上から下へと水流が回転する水の盾とさっきよりも太い水流の剣を展開した。
(水球がカイルに通じないのはモトスの部下との戦いで分かってる。でも俺が他にできるのはこの水流剣と防御の盾しかない。
これ以上俺が出来るのはことは精々もっと水を集めて剣を太く、盾を厚くすることと支配を強めて水流を早くするくらいだ。)
水流の剣を水流の盾を展開してカイルに向かう。すると……
「ここまでか。俺の負けだ。三勝一敗の勝ち逃げで悪いがな。」
戦う前に敗北宣言したことでカイル以外の3人はぽかんとしている。
特に何もしていないのに自分の勝ちといわれたアッシャーにはカイルが負けといった意味が全く分からない。
「勝てる見込みがない俺に対する情けか?」
力無い声で言うアッシャー。
対してカイルはこう返してくる。
「この状態では俺はアッシャーには勝てないからさ。
俺は臆病って言ったろ? いやあの時いたのはアマザとタミーだけだっけ?
とにかく俺は臆病なんで負ける戦いは避けるんだ。」
すると怒ったようにアッシャーが言う。
「負ける戦い? お前が俺に負けるわけがないだろうが!
あのモトスも手玉に取ったお前が!」
アッシャーもモトスの強さは認めているようだ。さすがアレでもキャリア9年の実力者だ。
「じゃあ、説明してやるよ。
アッシャーが確かに水球をぶつけて来るんなら、避けれるし攻撃も出来る。モトスの部下にやったようにな。
そもそも水球をぶつけるのはスピードがないからな。対処が分かってりゃ如意棍がある俺には怖くもない。
だが水流剣は別だ。
棍で水流を弾いても土の壁のように大量に水が弾けるわけじゃない。『棍が水の中を通ってるだけ』だ。
それに如意棍をヘラに変化させて水流剣に使われている水を削り取ったとしよう。だが水流剣は細くなるだけだ。高水圧流による対人の殺傷力は変わらない。
つまり異法者の手元から水流剣となっている水の大部分をヘラで絶って吹き飛ばさねば意味がない。
そしてどうやって近づく?俺には力がある。だけど早く動けるわけじゃない。(俺は重複化で力は増すが体重も増す、だから変わらない。 メンバーには言ってないが密にに詰まる分、外皮も尋常じゃなく硬くなるが)
それに負傷覚悟で近づいたとしよう。
水流剣と同時に水流盾を展開されたら薙いだ俺の棍の軌跡も水流でずらされる(重複化しなければね)。特にさっきより構成する水が多くなった水流剣だと棍は折れなくても水流ではじかれるか流されるだろう。
如意棍をシールドに変えて走って近づいて肉弾戦を仕掛けるとして形を自由に変えられる水流剣が前と後ろから襲ってきたらどう防ぐ?
神聖都市の殉教騎士とやらが纏ってるプレートメイルでもないと防げない。その重装騎士は逆に相当質量の水球を当てられたら衝撃で変形して終わりだろうがな。」
アッシャーは俺の説明を聞いて黙っている。
しかし俯いてはいない。
「俺はモトスには勝てた。
でもな、あいつが9年のキャリアをもった水の異法士だったらあんなに余裕はかましてない。
証人たちになんと言われようがまず先に「先制攻撃」で潰しただろうね。あいつがそれを許せばだけれど。事前の念話でアマザから土の異法士と聞いていたからこそのあの結果なんだ。」
アッシャーは引き続き黙っているが、ニミヤとタミーは何が言いたいのか分かってるようだ。
「アッシャー、俺が言いたいのはな。土の異法士に勝てたから水の異法士にも勝てるとは限らない。
状況や相手によって向き不向きがあるってことだ。
ホーヅと扱う異法は同じかも知れないが同じ使い方をする必要はない。そもそもボウガンで戦う必要がなくなったし異法でも出番はないといってたが 俺がボウガンの代わりに首を捻って〆ることで獲物の傷が少なくなって買取は高くなったかもしれないが所詮色を付けられた程度だろう?
これからは指輪で直接中央買取場まで帰ってこられる。
深追いは禁物だが残りの源力を気にせずにアッシャー自身で巨獣を倒すのもいいんじゃないのか?」
「そんなことが俺に出来るのか?お前のように硬質化した土も砕けないのに!」
「断言はしない。でもたぶん出来るさ。バチカーの体を4つ切りにできるんだ。」
「バチカーには通じてもハガネイノシシには通じなかった。それに石も切れなかったのはこの前のバチカーの時に見てただろう?」
「バチカーは三級だ。つまりアレを捕食するような二級や一級がいる。
奴らの体は食われやすいように出来てるわけじゃない。ホーヅに聞いたがあの皮はレザーメイルの材料になるんだろ?
縦横の繊維で構成されたあいつの皮は硬くてざらついてる。おそらく擦ったら石を研げるんじゃないのか?
水流剣で石を切ることは出来ないだろう。だが削ることはできるはずだ。それが出来ないのは異法を行使しているアッシャー自身が石を避けているんじゃないのか? 川じゃ水は石の周りを流れてるからな。そのイメージがそのまま自分の剣にも反映されてるんじゃないか?」
「……」
「それにハガネイノシシだ。
確かにあの金属を含んだ体毛には通じないかもしれない。
だが足の生え際の裏側はどうだ?口の中や肛門だって切れるんじゃないのか?
皮膚の切れ目さえ入ればその上の鋼の体毛を切る必要はないだろう?水流剣が通じない、ってところで思考停止してるんじゃいずれ大森林で死んじまうんじゃないのか?アッシャー。」
「……そうだな。
俺はお前の力を目にして自分の力の質も、それをどう使うかも考えてなかった。」
「いいんじゃないのか?
源力の総量だってまだ上昇する余地もある。アッシャーより年下の俺が言うことじゃないけどまだまだひよっ子なんだろ?
伸びる余地はあるさ。」
「教えてくれ、仮にお前が水の異法士なら……いや、いい。」
「仮に俺が水の異法士なら、ボウガンの代わりに水を背負う。
水の異法士は攻めるのも守るのも当たり前だが水だ。水を集めるために源力を大気の水蒸気になじませるには時間が掛かる。
バチカーの生活環境みたいに湿地から水を直接操れるのならともかく、生き死にが掛かる状況で一から集めてたんじゃ遅すぎる。」
「なるほど。」
「とはいえ、ボウガンを無しにしたら武器を減らすことになる。生き残るための選択肢を減らすことになるな。」
「うん? なにが言いたい?」
「水は大森林に入る前から集めておいて異法の支配化においておくべきだ。」
「おいおい、カイル!
そんなことしてたら肝心の巨獣を前にしたときに源力が減っちまってるじゃねえか?」
そう会話に入ってきたのは俺とアッシャーの会話に耳を傾けていたニミヤ。
「だな! だけど尽きた源力がすぐに満たされる方法があるとしたら?」
そう言った俺の言葉にアッシャーもニミヤも、そしてタミーも無言でこちらを見つめてきた。
1モイト=1センチ




