1-17 狩り再開
年輪都市での昨日、穏やかに過ごせると思っていた休みは色々あった。
近況報告と素材の加工をじいさんにお願いし、パーティーメンバーのお宅訪問に、ウチのメンバーを侮辱したヤツと決闘、更にごにょごにょ。
その後に呼び出された赤髪亭の食堂はまだ客がそこそこいた。そりゃそうか。色々会ったけどタミー宅に行ったのが日没後だったので当たり前だ。それでも8番区からの移動だったから時間が掛かったから減っていた方だろう。商売繁盛何よりである。
朝も早めに出ていたのと夕食を済ませて帰宅するので以前よりも帰りは遅い。そのためアンジェも含めコーリンやヴェガとも顔をほとんど合わせていない。
タミーの「お誘い」で動揺してたが食材を切ったり、厨房に響くアンジェの大きな声の指示に従い、手が回らない炒め物を捌いてるうちに落ち着いてきた。
そして眠れば日本の高校生だ。
なんというか朝置きて夢精してるのかと思っていたが大丈夫。朝から年輪都市での昨夜を思い出してムラムラしてしまったが仕方がない。健全な高校2年男子だからね。
それにしてもキレていたとはいえ よくあんなことが出来たもんだ。クラスメートが不良に囲まれていたとしたら僕には無理だ。あんなのはやっぱり年輪都市だけの話か。夢みたいだけどそれが続くものである限りは夢じゃないんだよな。
こっちの退屈な1日を送ってじっくりと興奮が醒め、最近母さんの帰りが遅くなってることを案じながらも1日を終えた。
年齢都市 6月21日
さて今月6月も残りは10日間、残り半分の5日間で規定買取額をクリアすれば晴れて来月から指輪の貸し出しOKだ。ん?そういや指輪が貸し出しOKになったら俺は失業するんだろうか?アマザに確認しておかないと。
そしていつもの10番外門の狩人詰所。
「昨日は色々あったけどお疲れ、カイル。何というか久々にスカっとしたで!その調子で今月残り10日頼むで。」
そう言ってきたアマザの左右に全員が揃っていた。今日は俺が一番遅かったようで昨日の件について男連中から何か言われるのかと思ったがアッシャーからよそよそしさは受けるがいつもと変わらない。
アマザとタミーには前日に念話を受けたがそれに返答してなかったので何か言われるかと思ったのだが二人からは念話に対するリアクションはなく、いつも通りに見えた。実はアマザとタミーは前日夜に念話で相談していたのだがそんなことや内容はカイルが知る由も無い。
それよりも気を揉んでいたタミーとの顔合わせが微妙な空気にならないか?と思っていたころが拍子抜けに終わって有り難い。自分が心配してるほど妙なことにはならないもんだ。案ずるより産むが易しってところか、ちょっと物足りないような気もするけどな。するとホーヅが今日の狩りの標的を説明してきた。
「残り最低5日、ジバシリを狩ってもいいが、最初の予定だった、西から逃げてきた、巨獣を狩ってはどうか?」
「クロヅノイノシシだっけ? あれってハガネイノシシと似とるけど牙だけが黒い金属化であとは普通やったっけ。」
そういや元々クロヅノの方がなんたらシカよりも肉が取れるからって初日の目的にしたんだっけ。
「そうだ。2~3メイトほど、大きさも成獣のハガネより、小さい。牙による突撃と跳ね上げ、注意はハガネと変わらない。」
「っちゅうこって。今日はイノシシ狙いやね。規定買取額日数のクリアが見えとるし、今月は十分過ぎるほど稼いどるから色気出して狩る必要もあれへんし。」
するといきなりこっちを見て言ってきた。
「ただ変に浮ついた気分で大森林に出たら怪我するで?いつもと同じで慎重に行こ。」
怖いです。アマザさん。タミーからなんか聞いています?
俺は藪を突付かないことにして何も言わずにスルーした。こんな状況をスマートに切り抜ける大人になりたい。そう、日本でも年輪都市でも恋愛経験が無い俺には逃げの一手しかできないのだ。とはいえ、あんなに分かりやすい念話を送られて向けられた好意に気付かないほど鈍感でもない。 これが自惚れだったら大笑いだけどな。
詰所受付で装備を受け取り出発準備をしてると他の狩人から今日はどこに行くつもりなのか聞かれた。おこぼれに預かるつもりなのかと思ったら逆に俺達が行く場所を避けるつもりなんだそうだ。尋ねている相手はアマザだが明らかに注意はこっちに向いているのを感じる。おそらくは昨日証人として見ていた狩人か。俺が見ると視線を下に向けるのが少し寂しい。無視されているのでなく、明らかに怖がられている。
まぁいいか、有象無象の狩人よりも自分のパーティーの方が大事だ。
今回もニミヤの索敵と肉玉を潰して匂いの誘いを行ったが今度は問題なくクロヅノイノシシってやつだった。ハガネイノシシからこっち巨大な獲物が多かったので2.5メイトが普通に見えてしまうのは早くも狩人に染まってしまったんだろうか?
問題なく狩り終えてこれは俺が一人で背負えた。その後、全員が修練場で残された源力が尽きるまで鍛錬を行う。
アッシャーはひたすら水蒸気から水球にする過程を行っていた。何か思うところがあったのだろうか?
その日の夜、いつもの酒場「宴」にいたのはニミヤ、アッシャー、ホーヅだけで、なにやらアッシャーはニミヤたちと相談したいころがあるのでちょうどいいと言っていた。
残りのアマザ、タミー、そして俺はタミーの家に来ている。
「もう分かってるかも知れへんけどウチはあんたが好きや、と思う。」
「わたしはカイルが好きよ。」
二人が俺を前に言ったのはそのものズバリだった。
ただいきなりそれで恋人がどうこうということではないようで、「好き」というか好意を持っていることをちゃんと伝えておきたいということらしい。
恋愛経験のないアマザはその感情を持て余しているし、タミーに関しては自分の過去や子供が産めないこともあって好きとはいえ態度は引いてる感じ。 自分達のために怒って戦ってくれた人に素直に好意を感じているがそもそも出会って一週間ちょっと、互いに知らないことがほとんどだ。だからしばらくは男女としてより先に友人として狩人として互いを知りたいとのことだった。
俺からも言うべきことがあったのだがそれは重複化に関することなのでこの場では言えなかった。だが狩人仲間として、友人としてこれからも知っていくならいずれ言うべき機会があるだろうと思う。少なくともそれを二人に伝えるまでは恋人関係にはならないだろう。
そして二人が一緒に告白してきたけれど恋路を争ったりしないのか?というと
「恋愛の最終的な目的が結婚なら私はできないもの。」
というタミーが自分にも愛情を向けてくれるならアマザと俺がどうなってもいいそうだ。 健気や・・・
俺は二人が向けてくれる好意が嬉しいが来月から指輪が貸し出されたらポーターは用済みじゃないか?といったらアマザにヘッドロックを掛けられて怒られた。
「あんたのどこがポーターやねん!どう考えても前衛職やろ!」
だそうだ。 しっかり獲物を背負って帰ってるの見てないのか?
そう言いたかったがまたも頬に当たる感触を味わっていたので言えなかった。
しかしその後一転して真面目なトーンになって席に着いた。
懸念があるとのこと。それはよそよそしさを感じたアッシャーのことだった。昨日のモトスとの決闘は見てたらしいんだが。土の異法に対する無双ぶりはともかく、自分と同じ属性であるモトスのパーティーメンバーの水の異法士が瞬殺されたことに思うところがあるらしい。
修練場での水球の作成を何度も行っていたのはそのせいだろうか?
-クロヅノイノシシ 規定買取金額クリア 指輪貸出条件まであと4日-
年輪都市 6月22日
雨だ。しかもスコールだ。
すぐに止むのだが晴れたと思ったらまたすぐに降り出す。
一旦全員で集まったものの今日の狩りは断念し解散。
ホーヅとアマザは指輪が貸し出しOKになったとして、来月の狩りの場所をどうするかとそれに伴って市井の巨獣の買取価格や種類がどんなものなかの偵察に行ってくるそうだ。
タミーとアッシャー、ニミヤは大森林での探索中に雨が降ってきた状況でも失敗しないように異法修練場で源力が尽きるまで特訓するそうだ。
雨の日にでる巨獣(巨竜だそうだが ひょっとして両生類?)もいるそうだが雨の日にわざわざでる狩人は少ない。そのため情報が不足してるとのこと。
俺たちも残り4日間クリアすれば条件達成なので早め済ませたいが天候はどうにもならない。異法士でもない俺は特訓も出来ない。で何をしていたかというと、昨日のクロヅノイノシシの肉と格闘していた。
俺たちが買取に出したクロヅノイノシシのうち、俺の取り分をそのまま1/6の肉で受け取ると(実際には皮などやツノの素材の買取も含まれるので厳密には1/6ではないが)えらいことになるので10kg分だけを肉で貰った。
それを使ってどうやって熟成させるんだろうと赤髪亭に持って帰った。
ドン!と厨房に置かれた10kgの肉の塊を見て
「全部、うちの店で使っていいの!?」
とアンジェが目を輝かせていたが
「半分だけな?」
と言ったら頬を膨らませて不貞た。
いやお前もう15才だろう?頬を膨らませるなよ。 可愛いじゃないか!指でほっぺを突くぞ?
ところが赤髪亭でも肉は肉屋から料理として使える状態で買っているらしく、熟成の仕方がわからないとのこと。
俺も料理に関しては日本の知識もあるけど生肉そのまま捌いた肉なんて使ったことないぞ? 日本でスーパーで並んでる肉と同じと思っていいのか? わからん・
「で・・・仕方なく焼肉となった。みんな心して食べるように!」
とは言ったものの男1人、女4人で食える量なんて知れてる。今日は重複化もしてないから飢えてないし。
「バチカーじゃない…」
コーリンにはバチカーじゃないとがっかりされるし、何だってんだ?
これは熟成させてから、じいさんに持っていくはずだったんだが失敗。
年輪都市 6月23日
雨が止んで地面からの湿気が不快な朝。
昨日雨の中を出て行ったパーティーからホーヅが話を聞いていた。
雨で増水したせいで川から水が溢れて湿地が広がり、獲物を求めて広い範囲にバチカーが来ているとのこと。
湿地の奥へ入らずに狩れそうなので今日はバチカーとなった。
増水したところは普段は湿地ではないので泥になっておらず。バチカーはその巨体を隠しきれていなかった。
どころどころにいたが複数狩る余裕があっても持って帰る余裕がない。なので一番大物そうな一頭に狙いを定める。
泥の中からジャンプしてこないだけ前回よりも落ち着いて狩れたが、アッシャーは逃がさないように囲んだ土壁の水抜き以外にも水が壁に染みないようにかなり広い範囲で地面の水を一気に集めていた。しかしそれを水球として他所に放出するときに口をかみ締めていた。何を考えているんだろう?
前回同様に水流剣で四つ切にして俺が背負っていく。だが既に終わったのに水流剣を解除しない。水から頭を出してる石を切ろうとしていたようだがバチカーの肉を切った水流の剣は石を絶てず、俯いていた。
バチカー 7メイト 1頭 規定買取金額クリア
-指輪貸出条件まであと3日-
年輪都市 6月24日
今回のバチカーも肉買取にした。
ただ前回の赤髪亭での仕込みで懲りた。なので俺たちが買ったものになるかどうかは分からないが今日の買取時に熟成済みのバチカーを買い取ると注文した。
確認すると俺達が狩ったもので間違いないらしい。昨日の時点で7メイトクラスのテイルフィレは一頭しか買取されていないらしい。
昨日買取に出してもう熟成が済んでるんだと。
クロヅノイノシシの後、日本で肉の熟成について調べたが低温で数日掛かるものらしいのにもう翌日に?
そう思ったらこっちじゃ果物で漬け込むらしい。パパイン酵素が云たらかんたらってヤツか? 匂いをとるためでもあるらしい。まあ金属と取り込んで牙にしちゃう生き物がいるんだから日本の生き物と比較しても仕方がない。受け取りは後でまずは狩りだ。
今回はオオヅノシカ ホーヅやアマザには曰くつきのヤツである。そして最初の狩りで獲物はクロヅノかオオヅノかって言ってたやつだ。
コイツもシカとはいえ大森林の巨獣であるため雑食ではあるが、人を襲って食う、というよりも動物の死体を食う程度の物らしい。
日本でも鹿茸として漢方になるシカの角であるが、こっちでも薬になるらしい。
大森林の巨獣は金属と取り込んで武器として争うから薬にならないと思っていたが以前にアマザが言っていた通り、磨り潰して薬になるんだと。大丈夫か?
そもそもこいつらの角はその複雑な形から元々折れやすい。そのためかどうかは知らないがそれほど強度がないのだそうな。じゃあなんでそんな複雑な形かというと頭上の木の実を取るために角で引っかかるためにあんな形になってるんじゃないか?ってコトらしい。
やはりウシと同様に名前だけ同じで別モンだよ あっちとは。
ただホーヅが顔面に食らったように蹴りが攻撃主体なのか蹄が金属でガチガチだ。
そういえばなんの薬なのかは知らない。またホーヅに聞いておこう。
-オオヅノシカ 1頭 規定買取金額クリア 指輪貸出条件まであと2日-
なおこいつもなるべく買取が高くなるように俺が圧し折り、洗浄と血抜きはアッシャーが行ったが悩んでいるようだ。言葉数が少なく、表情がさえない。
年輪都市 6月25日
天候は晴れない。
俺の悩みも晴れない。
カイルが悪いわけじゃない。
あいつのせいにするわけじゃない、だが俺は異法士として狩りに役に立っているだろうか?
悩みや考え事を大森林に持ち込むのは愚の骨頂だ。分かってる。
だがその状態でも俺たちのパーティーは結果を出してる。
しかもボウガンすら使わずにだ。
カイルのおかげで買取は高くなる。
俺は水の異法士として血抜きも洗浄もしてる。 だけどそれはホーヅ一人がすればことが済む。
情報もホーヅが集めてる。俺には何ができるんだろう?
こうやって超特大の獲物を取った時にナイフで捌くだけなのか?
それともこうやってカイルが持てない分を引きずって持っていくだけなのか?
-クロヅノイノシシ 5メイト 超大物
規定買取規定額クリア 指輪貸出条件まであと1日-
年輪都市 6月26日
今日で指輪の貸し出し条件の規定買取額の累計日数21日は終わるだろう。
それを確実にするために狩りはジバシリとなった。
ニミヤが適当な群れを感知して俺たちはそれを追った。
しかし他のメンバーに対して俺が捕らえたのは1頭だけだった。
カイルはあの暴力的な力と棍で次々にジバシリの首を圧し折って行く。
あいつは本当に一般人なのか?
医術士の力が使えることはホーヅの化膿をものの数分で完治させていたことから分かる。だが爪もカードも一般人の区分だ。
前以上の12羽という大量のジバシリを得たが、体高70モイトもある歩行性の巨鳥はこれ以上背負子に括り付けるところがない。
とりあえず俺に出来ることをしよう。
俺は両肩に2頭ずつを担いで森を歩いた。
それで分かったのはカイルのありえない怪力ぶりだった。
-ジバシリ 12頭 規定買取額クリア 累計クリア日数21日/26日-
これで来月からはどこの狩人詰所からでもPTリーダーであるアマザは指輪を貸してもらえる。
その後の飲み会で羽目を外して飲み過ぎていた面々だったが俺は愛想笑いを貼り付けただけで飲んでも飲んでも酔えなかった。
酔っ払っているがアマザとタミーはカイルの両隣にいる。
二人がカイルに好意を向けてるのは丸分かりだ。
いつも荷を背負って帰った後はめちゃめちゃ食べるがその様子を二人は左右から見つめてる。
あいつはいいやつだ。
本質が一般人か術士なのかは知らないがその力でホーヅの怪我を治し、俺たちが狩れないと諦めたハガネイノシシを狩り、はっきり言って人外の怪力を持ち、異法士との決闘すら勝利した。
いい男にいい女は集まるのは自然だと思う。
僻むわけじゃない。
そこまで腐るつもりは無い。
ただカイルに、このパーティーの荷物にならないようにするにはどうしたらいいか?
見えてこないんだ。
1メイト→1メートル
鉄は熱いうちに打て!ってなもんで書く気があるうちになるべく進めます。
手直しはあと、なので色々おかしいのはご勘弁




