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あっちとこっち  作者: rurihari
1 狩人
15/142

1-15 狩りの合間の休日 夕刻~夜 異法修練場

 俺はアマザのパーティーが儲けている原因をカイルにあると踏んでのことを調べ、弱みを握って安く使えないかと思って調べてみた。

 はっきり言ってこれまでの経歴は並み以下だが、医術士の力があることは酒場で目撃したので間違いない。

それもたった数分で化膿が瘡蓋に変わるほどだ。俺は医術院には縁がないがそれがかなり高位のものであることは想像がつく。

それにおそらくは買取で解体せずに持ち運んでるってことは当然ポーターとして入ったやつが背負って帰ってきたはずだ。異常なほど筋力が強いのかそれとも防衛課に所属してるっていう施術士みたいな強化ができるのか?

 いずれにしても俺のパーティーに欲しい。

とりあえず入ればあとは最初だけ金を与えて、あとは最初に比べて働きが悪いとか難癖つけて下げればいいと思っていたがまさか向こうからタダ働きを条件に出してくるとはな。こっちの意図も分かってるようで頭も悪くないようだ。

 いや、異法ありで異法士と武器で戦う条件をつけるってことはやはりバカなのか?武器なんぞ異法士おれたちには通じないのに。


-*-


 俺とアマザ、タミーとモトスのパーティーメンバー、それと宴にいた客は店をでて夕闇迫る黄昏の中の異法修練場に来ていた。アマザによると他のメンバーにも事態を伝えて至急来るようには念話を飛ばしたらしい。

 異法を使うには離れていないと邪魔なので練習場の区切りの外にアマザたちと宴の客はいる。気に食わないのは証人としてきたそれらの客のほとんどがモトスの挑発に下卑た笑いを浮かべていた奴らってことだ。


 修練場中央だと証人たちから離れすぎてるので彼らから10メイトほど離れたところで向かい合う。


「挑発に乗ってくれるとは有り難いねぇ。しかもこっちが求めてるのはお前の「力」で、安く使いたい目的だと分かってた上でただ働きを条件に申し出てくれるんだからなぁ。それもこっちは異法あり、そっちは武器とはなぁ~。」


 証人である観客にも聞こえるようにするためか、挑発も兼ねているのか大きい声だ。


「なんで狩りで剣や槍を装備しないのか?一般人が狩人にならねえのかわかってんのか?武器を持ったところで異法士には敵わねぇからだぜ?使えねえ火の異法士は別だがなあ?

 てっきり無手同士で殴り合いになると思ってたがこんなに楽な条件でやらせてもらえるならタミーとアマザに裸踊りでもさせるって言っておくんだったぜ。」

 

 怒りを誘うためか?またも挑発してくる。自分の勝利は疑っていないが更にこっちの冷静さを削いで確実にするためだな。


「ああ、それでも構わないぜ。だが当然こっちも条件を追加する。

この前のハガネイノシシの持ち帰りでそちらが受け取った買い取り金額の半分を寄越してもらう!」


 ついでだ。こいつらに持っていかれた買取金も頂こう。


「いいぜぇ~!俺が負けを認めたらなぁ。」


 すると観客に向かい、更に大声を出す。


「じゃあ、ここにきた見物人が証人だ。

俺が負けを認めたらアマザとタミーへの謝罪で耳を落とす。そしてこいつらが狩ったハガネイノシシの買取額の半分を渡す。 逆にカイルが負けを認めたら俺のパーティーに入って1年間ただ働きだ。馬車馬のように働かせてやる。

 それと証人になってもらった奴らにサービスだ。アマザとタミーが裸で踊ってくれるぞぉ~~~!」


 そう言うとほぼ男ばかりの見物人から歓声が上がる。


 モトスと同類のような下卑た男達の前で二人を裸にさせるつもりはない。だが念話で相談せずに勝手に決めたのでどう思ってるのか気になって二人を見た。

 するとタミーは黄昏時ではあるが顔を目元以外は顔を隠して表情は読めず、隣のアマザは俺の視線に頷いた。


 証人である観客にも勝利条件が説明されたところで俺たちは少し離れて向かい合う。


「じゃあいいな?死にそうになったらさっさと負けたと言えよ?証人がいるっても殺すことになって保安課に拘束されるのは面倒だからな。」


「じゃあ俺はあんたを死なない程度にコイツで打擲させてもらうよ。アマザとタミーには言葉でも詫びて欲しいからな。」


「ほうほうご立派、言ってることだけはな! 出来なきゃなんの意味もねえぜ?」


(モトスがそういうと開始も言ってないが奴の体の源力に流れを感じる。予想はしてたけど不意打ちだな。)


 そう思ってすぐに後ろに下がった。それが開始の合図となった。


 モトスは自分の勝利を疑っていない。世間一般からすると人品よろしくないことは自覚している。だがそれが何だというのか?

 

 明日死ぬかもしれない狩人に身を置いてる俺たちが欲のままに生きて何が悪いのかと思っている。

そしてモトスは「都市の祝福」を受ける前から異法を発現していた。とはいえ学校に入ったばかりの頃だ。ちょうど授業で異法に関することも習うのでそのまま毎日異法が尽きるまで我流で訓練し、個人の源力総量をあげた。更にモトスには手の爪以外にも足の爪にも色がついていた。これが足からも源力の放出ができるとわかったことで他の異法士より手をつかない分、わずかな差ではあるが早く強い異法が行使できた。

 このことが命を落とすこともある狩人に評価され、我流の訓練も悪くなかったことから学校の入学から一年経つ12歳の頃には大森林にデビューした。 最初は恐怖から失敗もしたが21歳という若さでキャリアはもう9年になる。通常の異法士は学校卒業時の「都市の祝福」で発現してもその後の自由研修期間で異法の操作を習い覚えるので9年のキャリアはそれ以上の年月の優位がある。既に同年齢の異法士の源力総量ははるかに超えてるだろう。当初の初期値は個人差はあるがそんな差は9年のキャリアでは無いも同然だ。

早い発動、豊富な源力、長いキャリア、他人に見せたくないが奥の手もある。しかも今日は狙って声をかけたので狩りには行ってない。つまり源力は満タンだ。

勝ったら俺以外のメンバーと大森林で狩りをさせ、自分は何もせずに分け前をハネようと思っている。



『カイル、そいつは土の異法士や。武器を持ってない以上は足止め、カイルの棍の無効化が狙いやろ。気ぃつけてな。』


『安心しろ。二人の裸踊りは個人的には正直見たいがあいつらと同じとこまで下がるつもりはない。』


『……アホ。』


『それとさっきも酒場でアイツに言ったろう。情けないが俺は臆病なんだ。勝てる相手にしか噛み付かねえよ。』


『あんなバカでかいハガネイノシシ相手にする奴がよう言うわ』


 などと念話で軽口を叩いてモトスの出方を窺う。そしてもう1人とも念話を交わす。


『タミーはいいのか』


『いいわよ。あいつの言ってることは本当だもの。私は元娼婦よ。たぶんこの観客の中にも客がいたかも知れないわね。今更、裸になったところで減るものはないわ。』


『そう自分を卑下するもんじゃないさ。事情を知らない俺にはそう言う資格はないのかもしれないけどな。

 それにタミーが裸になったら守れなかった俺の自尊心が減るさ。』


『……ありがとう。』


 日本あっちの俺じゃこんなこと言っても決まらないだろうな。かなり恥ずかしいがそう思ってることは事実だ。そうじゃなきゃヤツの挑発に乗りはしない。


 相手は無手だ。土の異法士で武器を相手に戦うなら当然足を潰して動きを止め、武器を押さえてから動けないように拘束。あとは負けを認めるまで殴るつもりだろう。モトスの異法を行使するタイミングを逃さないように源力を探ると腕から手ではなく足に降りている。

 すぐに飛びのいた。

すると足元から工事現場においてある赤いコーンのようなものが5つ6つ飛び出してすぐに崩れる。 足元を崩して倒れたところを拘束するつもりか。そのため一々操作した土を固めることはしないで源力の消費を抑えてるってわけか。

モトスが足からも源力が放出できることに驚いたがそれは向こうも同じだったようだ。


「簡単にすっ転ぶと思ってたら鋭いな。でもいつまで続くかな。」


 そう言ってモトスから10メイト以上距離を置いたカイルの足元に次々に土のコーンが盛り上がる。

 しかしまったく当たらない。

傍から見てると何故モトスはカイルが動いてた後に元の場所に土のコーンを作ってるのか疑問に見えている。モトス自身も疑問に思ってるようだ


 しかしその原因がわからないので攻める手段としてひたすらコーン(土製)を出し続ける。 


「てめえ?何をやってる?」


 まだ余裕があるようだが一向に転ばせない、いや足元を土で掴めないことに苛立ってきているようだ。

 そうだろうな。

剣を持っていようが槍をもっていようが近づかれる前に足を止めれば相手の攻撃は届かない。これが異法と武器のリーチの優位差だ。さすがに歩いてよけるほど余裕は無いのでステップを踏んでる感じだが。


「なんで当たらねえ?」


「動作が~~~遅いからだろう~~~?」

 

 避けながら適当に返答する。すると煽るのは得意なくせに煽られるのは苦手なようだ。


「舐めてんじゃねえ!俺は足からも源力が出せる。立ったままのこの状態でも普通の異法士よりも早いんだよ!」


「ふーん・・・でも当たらないね、それにあんたは足からも源力が出せるのか。便利でいいねえ~」


「っ!」


 声にならない息の詰まり。

情報の重要性を知ってるなら足からも源力を出して異法を行使するなんてほかの異法士同士の争いじゃ重要な要素になると分かるだろうに自分から暴露かよ。


「自分の情報を周りの異法士に明かしちゃっていいのかなぁ、狩人のセンパイ?」


 事実とはいえアマザたちの経験不足を素人って言ってたから煽ってやった。


「うぉおら~~~!!」


 おっと怒ったみたいだ。ちょっと源力が多く出てる。広範囲での異法行使のようだ。避けるならそれが出来ないほど広い範囲に出せばいいと思ったのだろう。

 これまでの5-6本のコーンが出てたのが、10メイトほどの正方形の範囲で作られるようだ。さすがに今からこの範囲の外にステップで出るのは無理。


 俺は如意棍を斜めに突き刺し、一気に伸長させる。先を握ったままの俺はそのまま伸び先へ移動する。

着地点に追撃のコーンが出るかと思ったがモトスも観客もぽかんとしている。だが俺はそのままモトスに近づくこともせず立ったまま。

数瞬の後、隙を見せてもなにもしてこないことを舐められていると思ったのだろう。


「転がすのはもう止めだ!避けるのが上手くても覆っちまえばいいんだろうが!」


 そういうと背後から土壁が4枚せり上がり、俺の四方を囲むつもりだろう追尾してくる。確かにこれだと追って来る以上は逃げ続けないといけない。

だけどなあ…… 


重複化! 3倍


「「カイル!」」


アマザとタミーが叫ぶが構わずゆっくり歩き、わざと動く土壁に追いつかせる。


「はっ!これで終いじゃねえか。」


 壁で囲って固定してお終い、そう思ってるのだろう。

前後を囲って更に二枚の壁が迫るが俺は追いつかせるだけで歩みは止めてない。つまり壁はまだ動いてるままだ。

初期のままの長さの如意棍を横に薙ぎ、前の土壁をなんなく吹き飛ばす。土壁を構成してた土は棍を振った方向にゴルフのバンカーショットで巻き上がる砂のように飛び散る。


 またも観客はぽかんとしてる。

確かに一撃で飛ばしたのは重複化のせいだが問題は其処じゃない。壁を作っても移動させてるってことはそれは硬質化されてないってことだ。つまり壁の形をしたただの土にしか過ぎない。追尾するために体積を少なくするためか厚みもそれほどでもない。水の異法みたいに水流が高速回転してるならちょっと厄介だけどな。


 同じように速度を落として歩きながら近づいてきた壁を無造作に棍で破壊していく。囲ってから硬質化して俺の足を止めるか拘束しようと思っていたのだろう。2つ目の策が通じないことで更に苛立っているようだ。


「逃げるのは上手いじゃねえか? だがそれだけでどうすんだ? 逃げるだけでお前が俺を参ったと言わせられるのか? そうやって俺の源力切れを狙ってんだろが俺はキャリア9年だ。アマザたちみたいに少々のことで源力切れなんざ起こさねえぜ?」


「そうだな。じゃそろそろこっちからも行くか。」


 そう言って少し離れてしまったモトスの元に歩いて向かう。相変わらず土壁を作って俺を後ろから追わせている。

 

 それにしてもキャリア9年ってのはすごいな。5モイトほどと薄いが俺の身長より高い長方形の土壁をずっと動かしてる。今のアマザには無理じゃないかな?

決闘の直前にタミーやアマザと念話で話したせいか、宴でキレていた頭は落ち着いている。


 無造作に近づいてモトスの前にくる。すると俺の後ろからついてきていた4つの壁はモトスの前に並んで防御の壁となった。高さは低くなったがモトスの正面に1枚動かないのでおそらくは硬質化されているな。 あとの3枚は硬質化された一枚の前で横に並んでいる。


「どうしたカイル? 避けるのは確かに上手い。だがどうやって攻める?動く壁に硬質化した壁、一般人のお前にどうにかできるのか?」


「ああ、できるね。」


 動く土壁3つを次々に棍で打つ。しかし飛び散らなかった土が棍に次々とまとわりつき重さが一気に増す。


「これが武器が異法に勝てない理由のひとつさ。いくら異法士に迫っても武器が武器として使えない。あとは素手で俺が硬質化した壁を崩せるか?」

 

 そうなのだ。

土や水の異法なら自分の前に壁が作れる。水の壁なら水流を起こすことで剣もやりも弓も壁をまっすぐに切れないし、貫けない。土壁にいたってはなおさらで、槍や剣などは今のように武器そのものに土をつければ扱えなくなる。


「普通はそうだな。じゃ試してみよう」


 俺の今の獲物は棍だ。刃や槍先に土がついて困るわけじゃない。むしろ形状が変わっても重さが変わらない俺の如意棍に重さを加えてもらってありがたい。

重複化してる俺にこれくらいの重さは掛け声をかけて振るう必要もない。

無造作に土だらけになった棍を振リ抜き、モトスが硬質化を掛けた土壁は根元から折れて長方形の板として転がっていった。


「「カイル!!」」


 またもアマザとタミーの二人の声が俺の名を呼ぶ。

その直後、源力の流れを感じ俺の足は踝の辺りまで土に埋まり、硬質化されていた。

俺が飛ばした壁の向こうには両手を付いた状態から体を起こすモトスの姿があった。


「いや~~こうも容易く俺の壁が壊されると思ってなかったけど油断したな?」


 パンパンと手に付いた土を払いながら言う。


「さっき言ったとおり俺は足からも源力が出せる。だけどももちろん手からも出せるんだぜ? より早く、より強く異法を行使するには一度に多くの源力がいるだろ?水を出す蛇口が二つがあればその分一気に出る水の量は増えるよなあ?」


 なるほど両手両足から一気に源力を出してさっきより早く、強く硬質化したのか。


「いいとこまで行ったなあ? 大口叩くだけあるぜお前。

 だけど結局一般人は異法士に勝てねぇんだよ! この状態でもお前の武器は怖い。だけどな。足を押さえた以上、あとは土を盛れば窒息してお終いだろ? 一番苦しい死に方は窒息らしいじゃねえか? どうだ?負けを認めるか?」


 俺の前だと棍が届くと思ったのだろう、後ろに回りこんで話す。


「何、確かにただ働きはしてもらうさ。だがそのためには最低一年は死んでもらうわけにはいかんからな。当然飯も食わせてやるさ。気が向けば女も抱かせてやるし、小遣いだってやるぜ? 負けを認めちゃどうだい? ん?」


「この程度で負けを認めるつもりはねえよ。こんな状態が負けってんなら俺は学校に入る前に殺されてる。」


 そういうとまたお決まりの激昂だ。これまで自分の思い通りにしかなったことがないのかね?


「じゃ今のお前に何ができんだよ!!」


「こんなことかな?」


 重複化、5倍  如意棍 変われ!


 念じた俺の手には鬼が持つような金棒の形に変わった如意棍があった。その様子に後ずさりするモトスに俺はニヤリと笑ってやった。


両手で持って振りかぶり、一気に足の土を「砕く」!


 玄翁で石を割ったように、叩きつけた所にはヒビが入っており、割れた土は深さ50モイトを超える。しかも範囲も広い。

俺が避けないようにこれほど広く、そして深く固定化してたのか。

キャリア9年ってのは伊達じゃないな。

俺は足を引き抜き、後ろを振り返る。たった十数分の間に何度呆けてるんだコイツ。


「なんで? 俺は足から源力を流して硬質化を掛け続けてたはず……」


「だからだよ。硬質化が高度になればなるほど硬くなる、つまり全体が石や岩になるってことだろ? それ相応の力が加われば石も割れるし、岩も砕けるぞ?」


 俺がモトスに向かって歩くと、モトスも下がる。


「じゃ、さっきも行ったとおり、負けを認めるまでコイツで打擲させてもらうか。」


「ひっ!」


 顔面蒼白、ここで泣いて詫びをいれれば耳は勘弁してやってもいい。だけど金は貰おう。


「オイ! おまえら!」


 自分のパーティーメンバーに向かって声を掛ける。すると二人の男がこっちに走ってきた。

可哀想に、時間稼ぎ要員か。自分は逃げようってわけね。


「アマザ、足止めよろしく。」


 モトスは走って逃げようとしてしばらくは走っていたがアマザの支配した土に追いつかれ、モトスは足を固定されてつんのめって前にこけ、痛そうな声を上げる。異法士の源力は術士と違って他人の源力と混ざらない、だから固定された土はアマザの異法による支配が解けないと自分では操れない。

 

 奴のパーティーで目を掛けられているのだがろう。2人がこちらにやってくる前での間に臨戦態勢でいたのか異法で水を空中の水蒸気から集めながらやってくる。

 だが遅いよ。こんなもん集まる前に散らせば終わる。


 こっちへ走ってくる1人に如意棍を伸ばして額に当てる。集めた水ではまだ水流剣も壁も作れなかったようだ。もう一人も水のようだが既に大きな水塊となっている。どうせなら水の塊の表面を回転させて高速射出させればいいのに。

水の異法士は水と水流を操れても回転力がなければ水を弾丸みたいに打ち出す能力はない。そりゃまぁ多少は射出できるみたいだけれど威力は脅威じゃない。


 こっちに打ち出してきた直径1.5メイトほどの水の玉だが如意棍を巨大な匙に変えて掬った挙句に回転させて相手に投げ返してやった。

水の異法士は流体も操るが自身のキャパを超えたものは例え源力を浸透させていても制御は不可能。当たり前だが土の異法士だからといって山そのものを動かせないと同じ。

少なくともこいつには俺が投げつけて飛ぶ水の塊を御する力はないようだ。まともに受けて昏倒する。多分水を受けたところは飛び込みで失敗したように真っ赤だろう。


 振り返ってモトスの元に向かって歩く。

モトスはまだ前に逃げようとして足掻いているがアマザの土の拘束は取れない。


「アマザ、こいつの仲間は退場してもらったしもういいぜ。」


 そう言ってただの土に戻ったところから足を抜いて逃げようとしたが俺が目の前にいることに気づいて諦めた。


「なんで、なんでなんだよ? なんで俺の異法が通じないんだよ?」


 虚勢かな?負けが見えてるのに大声で理由を聞いてくる。種明かしというか、当たり前のことだけど言っておいてやるか。


「バカだなあ、俺が医術士かも知れないってことは源力操作ができるって思わなかったのか?

 術士が何故異法士と区別されてると思う?

術士は他人の源力と自分の源力を親和させて能力を発現させるんだぜ?術士には他人の源力の流れが見えてると思わなかったのか?つまりお前の源力の流れなんて丸見えなんだよ。足から源力を出してたことも、どの範囲で異法を使おうとしていたかも丸見えなんだよ。」


 術士は戦うことがない。だからその力をどう使うかを想定してなかったんだろう。

絶句しているモトスはまだ負けを口にしていない。

 さーて先ずは、


ドゴっ!!


 腹に一発 拳をぶち込む。

とっくに重複化は解除しているがここは2倍ほどにしておいた。なんせアマザとタミーの2人分だからな!


体を曲げて吐いて吐瀉物を撒き散らす。

胃が痙攣しているのか呼吸と嘔吐で話せないようだ。


俺としては更にビンタで張り飛ばしたかったがやつのゲ○がこっちに付きそうだったのでやめた。

だが足払いで痛みの屈曲反射で腰を折っているモトスを自分の吐瀉物の上に這い蹲らせる。それでもまだ呼吸が整わないようだ。

 だがこれ以上は弱いものいじめか。

這っているモトスを見下ろしてそう判断した。俺は耳の件についてどうするかアマザとタミーの元に向かおうとする。


「俺りゃまだ負けを認めたって言ってねえぞ~~~」


 ヤツの腹に一発入れるときに手放した如意棍を手にして目を血走らせている。


「これがないならお前は普通の一般人だろうが! これさえなけりゃ俺の異法だって防げねえだろうがぁ!!」


 如意棍が異法を退けたと思ってるようだ。重さそのままで形が変わる便利グッズだけどそのままだと硬い棒でしかない。


 俺はコイツに負けを認めさせて耳を落とすことに決めた。

自分を見る度に負けを実感させる必要がある。でないとこの場で負けを口にしたところでいつまでも絡んできそうだ。


 ちなみにコイツが言ってきた耳を落とすというのは年輪都市での一番の謝罪の証しだ。

先ず耳を切り落とすのは他人からすぐに分かるため。

そして指などは落とすと物が掴みにくくなったりとか実生活に影響する。巨獣襲来時には例え罪人でも、いや罪人だからこそ戦いに出すため武器を握る指や手、足へのペナルティーは科さない。

 耳は落としても鼓膜が無くなるわけじゃない。引き続き音は聞こえる。

そして自分が肉体の一部を無くして詫びるほどのひどいことをしてそれを認めて贖罪したという意味がある。


 俺は足払いでヤツの体をキレイに一回転して地面に叩きつける。

年輪都市は他都市と争いがない、戦う相手は巨獣だ。しかも武器を持って戦うよりも異法の方が強いと思ってる。それゆえ人と人とが戦う格闘術がほぼない。精々都市内の警察組織に当たる保安課が少々やってるくらいだろう。 俺は神聖都市からきた養父オヤジに2年ほど叩き込まれた。それが今の技だ。


 持っていた俺の如意棍は手放し、それでも起き上がったが負けは口にしない。それどころか何で俺が?って顔をしてる。自分が負けると、あるいは都合が悪いと被害者面するタイプか?そして更にこっちを恨むか。


 重複化、8倍


 俺は如意棍を拾って無言で近づき、やつの体に手を当てた。

腰を低くして腕を一気に突き出す。するとその後、モトスの体は一気に8メイト以上ぶっ飛び、観客の前に転がっていった。

 別に殴ったわけじゃない。

いくら年輪都市こっちの人間でも体が8メイトも飛ぶほどの力が拳に掛かったら体が飛ぶんじゃなくて拳が刺さってる。つまり手の平を胸に当てて一気に「押した」のだ。

しかしそれほどの力が胸、肋骨に掛かったんで呼吸が出来ないようでうずくまっている。自分がどれくらい飛ばされたことはわかったのだろう。その力で殴られたらどうなっていたかも。俺が観客の中に近づくと完全に怯えていた。


 溜飲は下がった。

やりすぎたかもしれない。

それは周りの狩人の反応を見ても明らかだろう。

観客の狩人たちも自らも武器は使うがあくまでメインは異法、武器では異法士に敵わない。

その常識を軽く一蹴して見せたんだ。引かれるわな。


「負けを認めるか?」


「びどめる、ぼう、だめてくれ」


 息が整わないのと吐瀉物が邪魔になってるのだろう。きちんと喋れていない。哀れにも思うがこっちが負けていたらどうなっていたか。

 それに俺はさっき決めた。ちょうど酒場で下卑た笑いを浮かべていた観客こいつらにも思うところがある。


「じゃあいいな! お前は負けを認めた! アマザとタミーへの贖罪として耳を落とす。そしてハガネイノシシの代金を俺たちに渡す。だったな。」


 奴の顔は青くなった。変化はそれだけで声は発しない。


「まずアマザとタミーに言葉で謝れ。謝っても謝らなくてもお前が言い出したように耳は落とすがな。」


「っ!」


 ぶんぶんと激しく首を横に振る。しかし謝罪は口にしない。それどころか立って逃げようとしてる。まだダメージが残ってるのか耳を落とされる恐怖からなのかよろけて全く走れていないが。


「狩人の自分達はいつ死んでもおかしくないから何をしてもいいと思ってないか?欲に正直でどこが悪いと?死ぬ恐怖を理由に己の律せないなら本能で生きる巨獣と同じ獣だ。狩人などやめてしまえ!」


 俺は観客を睥睨し、モトス以外に彼らにも聞こえるようにも言った。

死の恐怖に怯えてるのは俺もそうだから偉そうなことは言えないがな。心の中で自嘲した。


 そして如意棍を変化させる。

皮をなめして編んだのが鞭なら、細く薄い金属でも鞭として編んだ構造へ、想念して変化した。音速を超える鞭の先は衝撃波が起きてパン!と鳴る。それがコレならどうなるか?


ヤツの耳は鞭先が当たると右の耳が爆発したように弾けた。


まだ痛みを感じないようで左に少し体が傾いた後、そのまま歩き去ろうとしていたが直後に左の耳も弾けた。


「アマザとタミー、二人への贖罪 だから二つだ。」


 そう言い終わる前にヤツは両耳を抑えて蹲り絶叫した。


「宴でモトスが言ったことに下卑た笑いしてたやつがいたな。今は赦す。だが今度俺のパーティーメンバーに謂れなき侮辱をしたら同じ目に合わせる。」


 観客達は耳を押さえて転げまわるモトスを見て全員青い顔をして頷いた。

こんなことをしても他人が他人をどう思うかなんて止めることは出来ないことはわかってる。俺がこうしたことで返ってアマザやタミーに悪感情が向けられるかもしれない。だが少なくともモトスの様子を見た連中は俺たちの前では侮辱はしてこないだろう。


 そしてモトスの声に応じて俺を襲ってきた二人を起こし、その二人からハガネイノシシの買取金額の半分を代金をチャージした。こいつらのカードには総額が足りなかったのでチャージするとマイナスになってしまうがモトスの様子を見せたら大変素直に応じてくれた。


 周りの人間をドン引きさせるようなことをしでかして肝心のパーティーメンバーにも嫌われたかもしれない。そう思って視線を向けるとアマザは満面に笑みを浮かべ、タミーは……日が落ちているのだがまだ目元以外は隠れたままだからわからない。

念話で連絡して到着していたのだろうニミヤは鷹揚に頷いていたがアッシャーとホーヅは呆然としている。後でこの金《ピプ?》分けないとな。



今回で休日は終わる予定でしたが変に長くなったのであともう一回


モトスはこれにて退場  ニミヤ関係でちょっと出てくるかも

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