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あっちとこっち  作者: rurihari
1 狩人
16/142

1-16 狩りの合間の休日 夜 タミー宅

 両耳を失った男がのた打ち回る中、アマザが俺に微笑んでくれていた夕闇迫る修練場、今思うとかなり凄惨な風景だよな。

 

 争った相手の耳を落とすなんて日本あっちじゃどう考えても官憲に捕まってしまうし、仮に相手が殺そうとしてきても過剰防衛になりそうだ。

 テンションが下がってきて冷静になるとやりすぎたことをちょっと後悔。ちょっとだけどね。なんせここは日本じゃない。耳をおとすんじゃなくて破裂させたけどそのしきたりそのものはこの世界にあるものだし。「都市の維持のために争い事を許さない」方針のこの年輪都市なのに耳を失って喚くモトスを保護した保安課の職員に同行を強制されたものの、見ていた見物人、宴の店員などの証言で不都合な点がないため解放された。なんぜ耳を吹っ飛ばされた本人が認めたのでこれ以上拘束しても意味がない。


 当事者の俺も含めてアマザとタミーも一緒に保安課に連れて行かれていたが解放されて帰宅しようとしたら呼び止められた。


「あのカイル・・・ちょっと一緒に来て欲しい。」


そう言われてタミーの自宅に招かれた。ゆっくりするはずの休日はまだ終わってない。てっきり一緒にアマザも来るのかと思っていたんだが来ないようだ。


 10番地区最外部の保安課の建物から出て一旦中央へ、そこから何故か8番区の中ほどへ向かう。この年輪都市は都市の城壁内側の一定距離までは狩人や作業で外に出るものやそれに付随する施設があるので人口はそれなりにあるが、その地域を過ぎれば都市の左半分ほどは農耕地区なのだ。無いわけではないが住宅は少ない地域だ。その分何かと不便なので住宅の価格や家賃は安い。 水道のこともあるので完全な一軒家がぽつんとあるわけでなく、年輪都市の由来の環形大路の傍にいくつかの家が固まって点在している。

 既に夜になって月明かりが田畑を照らす中、タミーの自宅に到着した。しかし家に灯りがない。この世界には電気がないがかといって蝋燭で光を取ってるわけじゃない。発光石と呼ばれる石が存在し、日中光に当てておけば一晩中とはいかないまでも明るく照らしてくれるのである。 当然面積が大きいほど光も強い。そういった大きいものは環形大路など大きい通りには一定間隔ごとに安置され日が暮れても人が多い通りは明るい。

 家に置く発光石は寝るときは布をかけるか箱にしまうかなのであまり大きいと隠れず明るくて眠れない。家は暗いがアマザに呼び出される前に発光石を家の中にしまいこんでいたのだろう。玄関の横にある箱から出して室内を照らす。 

 リビングに通されてしばらく待つように言われたあと、少し乾いた焼き豚のようなものと飲み物を持ってきてくれた。服装は自宅のせいか以前に「宴」で見たものよりももっとゆったりしているものに着替えていた。そして互いに椅子に座ってどういう会話をしたものかと思案しているとタミーは語りだした。


「さっきも言ったけどモトスが言ってたことは本当。今はアマザと一緒に狩人をしてるけどその前は官営娼館にいたわ。」

「官営娼館っていうと都市が運営してる娼館だろ?確か金が無くなって返す見込みなくなった場合とかに働く場所の一つにされるっていう。」


ピプは現金でなくカードに表示される情報だ。この世界の経済はどの都市もこのピプで経済が回っている。たとえ襲われても同意しない限りは他人からピプを奪うことが出来ない便利なものだがもし浪費など自分が持つピプを超えるほどしてしまった場合はどうなるのか?例えマイナスになってもカード情報に都市内で働く定職が記載されていればどういうことはない。給料が入ってきていずれプラスになるのだから。ただ一年経ってもマイナスに変動が無いもの、マイナスが更に増してるものは都市の強制労働義務が生じ、その労働賃金でマイナスが0にならない限りは解放されない。都市に住む以上、納税は絶対でそれが行えない「お荷物」は強制的に納税させられるってわけだ。

 ただ強制労働義務といっても別に奴隷になるわけじゃない。確かに肉体労働などもあるが個人に技術があればそれで働く場所を提供される。そっちのほうが稼げるならなおさらで、借金が無くなった後、そのまま定職として居つく場合もある。逃亡しないように寮に入れられるが少なくとも寝るところはあるし食べ物もでる。ただそれ以外の給料は借金がなくなるまで都市に納められる。衣食住は保障されるのでそれほどこの制度には不満は出ていない。



「わたしとアマザとホーヅは同じ地区の学校に通った仲なの。私達は全員が都市の祝福を受けたけれどアマザ、ホーヅは家の事情もあってなるべく稼げる仕事ってことで狩人になることを選んだわ。」

「住民の半分ほどしか異法士や術士はいないのにすごいな。」

「そうね、逆に仲間全員が一般人ってグループもあったけれどね。運がよかったのか、それとも悪かったのはわからないけれど。」


「そして狩人になるかどうかはともかく異法の習得のために研修期間を使うことにしたわ。その時にアマザと一緒に狩人育成部門の研修に顔を出したの。」

懐かしんでるのかな。

「そこでまだ研修を終えたばかりで狩人になったばかりのあの人と出会った。わたしは当時から髪は伸ばしてたし、何故か日に焼けにくくて今と同じように肌は白かった。 その人は私の黒髪と肌の白さを褒めてくれたわ。毎日狩りの後に会いに来て、私も彼の熱意に絆されていった。」


「たった2ヶ月後には結婚することになったわ。親は反対したけどわたしも若かったから突っ走ってた。学校を出たら一応は大人扱いではあるし、早婚は都市が勧めてることだしね。 新人の狩人だけど一般人よりは稼ぎはいい、だから安くても二人で暮らす家を手に入れようってことになった。」


なるほど、この家か でも誰もいない・・・


「どうせあの人は町の中の移動じゃなくて大森林が仕事場、場所はどこでもいいってここに決めたわ。都市の東側よりも人が少ないけど静かだしね。農耕地区だから小虫が多いのが問題だけど。」


「だけど二人で暮らし始めてから一ヶ月も経たない時だったわ。彼は大森林で死んだ。いえ、彼だけじゃなくパーティーそのものが全滅したの。 なまじ実力のあるパーティーだったから少人数のままで大森林の奥の草原があるところまで進んでいたそうよ。そこで一級巨鳥に遭遇したそうね。大森林の中ならやつらは木が邪魔で降りてこない。だから普通は草原で獲物を取っていたみたいね。一級巨鳥が来ていることを知らなかったパーティーは啄ばまれて全滅…。」


「あっという間に未亡人になって、残された私はあの人と住んだこの家を手放したくなかった。でも親に反発してまで結婚したことに妙なプライドもあったから相談もしなかった。家庭に入るつもりでいた私は異法の修練はしていなかった。」


なるほど、それが同じ年でもアマザとは違う点か。それに話も見えてきた。


「この家の残りの支払いのために私は一般人よりも確実に稼げて、死の危険がないものを選んだ。それが官営娼館よ。」


「自分でその道を?」

「ええ、一応民間の娼館もどんなものか調べてみたわ。民間の娼館の方が利用する代金は高いわね。でもそれは男が抱きたいと思われる女なら稼げるってだけなの。客がつかないと当たり前だけど実入りはないわ。でも官営娼館はね、民間よりも利用する値段が安い代わりに客が女を選べないのよ。相手の年齢は範囲で選べるけどね。」


この都市の風俗業か・・・


「それに官営は客が選べないからこそ、少しでも女の見た目をよくするために化粧とかのお金は持ってくれる。それに借金回収の場所でもあるから病気になってもらっては困るから健康のチェックもしてくれる。民間娼館に来るような「無茶をする客」からは守ってくる。だから官営を選んだの。」


なるほど給料民間よりも少ないが福利厚生がしっかりしてるのか。

俺は言葉を発せずそのままタミーの語りを聞いていた。


「あの人が見初めた長い黒髪も白い肌も男を喜ばせるポイントだったみたいね、15の小娘が人妻だったってことも。

そのおかげで客の男達からいくらでも払うからわたしを抱かせろって話がいくつもきたみたいで、民間とは違って一夜の値段の違いがないはずの官営娼館だったけどやむなしに私だけが指名の代わりに高額になったわ。モトスが言ってた『高級』というのはそういうことね。」


 カイルの知識の中では都市では娼館は蔑まれる職業ではなく、女性の側からも若くて楽に稼ぐための職の選択として上がる。ただ人の考えはやはりこちらでも様々、特に年齢が低く、また性体験がない層には性産業を嫌う考えの者はいる。


 稼ぐ方法として上がる理由は通う男の側の色々な趣味はあるだろうが「若い」ということが一番の売りになり、しかも狩人のように落命の危険はない。それに例え娼館の仕事で妊娠しても民間・官営の区別なく母子に補助が出るからだ。

老いたものには補助はないが納税者候補には厚い。この都市はかなり現実的だ。


「高額な値段を設定した分、高級感を出そうとしたのか私に付く客は1日1人になってたけどそのうちに客の希望から無くなったわ。夫が残した家のために体を売る、最初はそんな自分に酔っていたのかもね。

でも割り切るには私はまだ若かった。

翌年を迎える頃には心は病んでいたわ。何のために体を売ってるのか分からなくなったし、夫の顔も思い出せなくなってた。」


「私は娼婦をしてることは黙ってた。でも人気が出たせいでアマザの耳にも入ったのね。私の近況を聞いて異法士としての力が生かせる狩人へ半ば強引に誘ってきたの。娼館に通いながら訓練学校の内容をアマザが手取り足取り教えたくれた。」

「家の支払いの目途がついたあたりで私はアマザの独立と共にパーティーに入って狩人になったの。」


「でも学校を出てすぐに異法の訓練を始めたアマザとの源力総量の差はどうやっても埋まらない。都市の祝福を受けたときの総量の個人差も私は低いほうだったしね。」


「おかげであと少しで家の代金も払い終えるわ。」


「……あといくらなんだ? どうせすぐには使う必要もないから前のハガネの代金とか少し当てがある(あの輝虫の上羽20万で買取でてたよな)」


「いいわよ、気を使わなくても。

夫が死んだことを割りきって借金になっても再婚をすべきだった。

それが狩人を夫に持つ妻の基本的なスタンスなの。

若さものせいかもしれないけれど、そうしなかったわたし自身が始末をつけることだし。」

 

 今だって18歳、十分若いだろうに。


「それにもういいの。あと少し自分で払い終わったらここは売りに出して部屋を借りるつもりだから。家に帰ってきてもどうせ一人だしね。」

「そこまでして払ったんだろう。これから結婚して家族を増やせばいいじゃないか?」


「……」


 黙ってしまうタミー。 娼婦をやっていた自分と結婚してくれる男がいるか心配なんだろうか?

モトスは侮辱していたが官営で娼館が営まれてる通り。仕事として認知されているものだ。ましてタミーの器量なら結婚を望むものは多そうだが?


しばし間があいて口を開く。


「娼館は性病も含めた健康チェックもしてくれるの。発病してからだと遅いから高位の医術士にね。その医術士によるとわたしは問題があって、妊娠しないそうだから。」


「だから家は要らないの。」


ちょっと・・・というか、かなり空気が重くなった。


「このことを伝えるために?」


「ええ、さっきわたしに卑下するものじゃないって言ってくれた時に事情を知らないって言ってたから。どうせなら知っておいて欲しかったの。」


「でも俺にできたのはタミーやアマザに対する侮辱が起きないようにするくらいだけどね。」


事実そうだろう、こうやって彼女の事情を聞いても家の購入代金の援助を断られたらできるのはそれくらいだ。


「カイルは命の危険があったわけでもない、単なる事実を元にした悪口のために体を張ってくれたわ。」


「だからわたしも体で感謝をしようと思って招いたの。」


 そういって部屋の発光石を箱に入れる。暗くなったが窓からの明かりがはいるので真っ暗じゃない。

立ち上がったタミーは服を下に落とし。裸体を俺の前に晒した。

高地とはいえ熱帯にあたるこの都市では珍しいほどの白い肌、それにうるんだ瞳で見つめてくる顔をこっちの思考も固まってしまった。


 娼婦をしていたことに思うところがないというと嘘になる。特に俺には日本あっちでの常識もあるしな。

そういやある歌で「男は一番目の男に憧れ、女は最後の女になろうとする」ってあったな。


一番目でなくてもタミーは

「白くて綺麗だ。」

と口をついて出た。


白い肌が窓から入る月明かりに照らされてすごく綺麗だ。ふらふらと彼女に近づいた時、子供が産めない体というのを思い出して。唐突に浮遊感が無くなる。


(もし病気によるものなら俺になんとかできるんじゃないか?)


そう思って俺は彼女の下腹部に左の掌を当てる。


(ものすごく…柔らかい それに華奢だ。こんな体で大森林に行ってるのか。)


彼女はその様子と当てられた俺の手を見ていたが、それ以上何もしないことに怪訝そうな表情になっている。


で俺はナニをしていたのかというと・・


不妊なら器質的な問題なのか?それとも別の原因が?と思い、自分の源力を流して異常がないのか探っていた。俺は源力操作ができると分かった時、傷の治り良くするのは訓練時にオヤジにもやらされたので得意なんだが、こういった患部の発見っては不得意だ。 せめてなにか分かりやすい炎症があればなんとかなるんだが。 だからこそもう一つの理由もあって医術士と生きていく場合はオウノじいさんのところに研修にはいる予定だったわけだし。


わからん・・・ そもそも日本あっちの俺も不妊に関する知識は少ないし、あっちの人間とこっちの人間を単純に同じと考えるわけにもいかん。


左手を当てたまま、更に右手を腰に回して前後から探ってみた。彼女の体がビクっと震えたけど気にせずに体の前後から源力を通して探ったが何も異常は感じない。


ここで我に返り、手を離して彼女から離れた。タミーの裸体を正面から見ると

欲情してくる。月の光だけのせいで体の凹凸の影が際立ってコントラストがでて・・・


ん? 彼女の乳房の下に左右同じ薄いぽっちりみたいなのが・・・これって?


「あの?どうしたの?」


女が誘ってるのに俺がこの様子のせいかタミーが声をかけてきた。


「タミー、ひょっとして先祖に獣人族がいなかったか?」


「いえ? 私の知る限り知らないわ。どうせ年輪都市に来るより前の先祖のことは知らないけれど。」


日本あっちの世界でも副乳ってのは存在するが年輪都市があるこの世界にも存在する。ただこっちの世界では獣人族に現れる特徴らしい。

何か関係があるのかな?関係が無くてもとりあえず俺なんかよりもはるかに高位の医術士のオウノ爺さんに見てもらったほうがいいだろう。


タミーは裸を欲情とは違う目で見られていたのに気付いたようで、余計恥ずかしくなったのか右手で胸を隠し左手で下を隠して身をよじっている。それを見たこっちは興奮するやら恥ずかしいやら・・・


 すると


『カイルー!! あんた最近手伝ってないでしょ、外でばっかり食べてないでたまにはこっちの仕事手伝いなさーい!!』


 アンジェから思いっきり大音量の念話で怒鳴られた。思わず頭痛を感じて目を閉じる。


「すまないタミー。ここまでしてもらって恥をかかせることになってなんなんだが、頭に響くほどの呼び出しが来たんですぐに帰るよ。」


「わかったわ。」


 さっきまでの俺のおかしい態度もあったのかタミーは怒らずにいてくれた。


「ただそのうち時間が出来たら一緒に来てもらいたい場所がある。」


「いいわよ。」


 タミーは後ろを向いて落とした服を付けながら返答してくれた。

俺もそれを見ないように後ろを向いていたので背中合わせの会話だった。



 確かにアマザとタミーの侮辱は許せなかった。だが明確な好意からでなく、鬱屈していた日常を変えてくれた仲間や居場所を失いたくなかったせいだ。

だからここで抱いちゃいかんよな!

などとかなり言い訳じみたことを自分に言い聞かせる。

絶対今晩のことは後悔するだろう、そして日本あっちでオカズになるだろうなと思ってたりする。今日の記憶と手の感触は忘れないでおこう。


 座が白けたこともあって帰る前にタミーに聞いてみた。


「アマザが酔うと脱ぎだすのはなんでか知ってる?」


「お母さんのせいらしいわよ?蒼海都市出身で年輪都市より標高が低くて海ってやつが目の前にあるらしいわ。だからそのため暑い時は都市の目の前の海でみんな裸みたいな格好になるんだって。年輪都市も昼間は暑いからお母さんが家の中で裸になってリラックスしていたのを見て育ったからあの子もリラックスするとそうなってしまうらしいわ。」


 なんと?じゃアマザは家では裸族だったのか? 思いもかけぬ情報が得られた。あのタレ目の変態紳士は知ってるんだろうか?


「それじゃ。」


「また明日ね。」


 タミーは玄関で笑みを浮かべていた。

狩りのあとの酒場でも笑っていたことがあるはずだったが 俺に向けられた笑顔はさっきの月明かりに照らされた裸体よりも綺麗に見えた。

そう思ったら自分でもわけが分からないうちにハグをしてしまっていた。

数秒で我に返り、そうしてしまった自分が恥ずかしくてタミーの顔を見ずにまた明日といって後にした。


 ともかくこれ以上頭痛に襲われないように赤髪亭に急ぐ。

その最中


『あの、カイル?ウチは狩人のパーティーで体を求められたことはあるけど応じたことないから!』


『ねえ、カイル。 あなたは髪は長い方がいい?短い方が好き?』


 と念話が来た。


 結局、返答しないまま我らが赤髪亭につき、鍋を振るわされた。明日(俺の体感は明後日だが)からまた狩りだからいいかげん休みたいんだけどな。


 今晩が日本あっちで過ごせることに感謝した。 明日も年輪都市こっちだったらどういう顔をして二人にあったらいいのか分からん。



今回はおタミさんの事情でした。

ニミヤ、アッシャーについてはまた後ほど・・・になるのかすっとばすか


今日は日曜なのでなにもかもお休み なので明日は更新なし

週一のつもりが7月に入ってがんばったし。


ここでようやく作品キーワードにハーレムが入ります。


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