1-13 狩りの合間の休日 午後 ホーヅ宅
ホーヅから念話を受けてとりあえずはいつもの10番出口狩人詰所にやってきた。俺がホーヅの額の化膿を治した翌日からは金網の仮面はつけていない。元々医術院に通ってたそうだから他の狩人たちも単に治療が終わったと思っていることだろう。あの時に酒場の「宴」にいた連中が気付いて喧伝してなければとなるが仮に話が広がっていても別に悪事を働いたわけじゃない。そもそも源力操作が出来るのに市民カードにも爪にも変化が現れていないのは都市システムのせいで俺のせいじゃないもんな。
「待たせたか?今日は、治療の礼に馳走する。」
いつも狩りの後で着替えてくる作務衣のような服装で詰所に迎えにきてくれたホーヅは言葉少なに招いてくれた。
「ありがたいね。だがどこかの飯屋にでも行くのか? 俺は10番地区はこの辺り以外は全く知らないから新規開拓もやぶさかでないぜ?」
「自宅に、来てもらいたい。粗末だが、家族が、料理を用意してくれた。」
「家庭料理か、なお有り難い。なんせ俺には親も家族もいないもんでな。」
「そう言ってもらえると、嬉しい。自宅は、6番地区中ほどだ。歪門をくぐろう。」
俺はホーヅと共に中央、中央から真南に向かう6番地区方向の歪門をいくつかくぐっていく。ホーヅの顔は厳ついわけではないのだが額の化膿は治まったとはいえ傷痕がなくなったわけではない。その傷顔のせいか都市内の道を歩くと人が割れる。さすがに2メイトを超える大男ってのはこの都市でもそうは見かけない上に厚い胸板とぶっとい腕が見るものを威圧してるようだ。
ホーヅよりもはるかに重いものを持てるがあくまで重複化を行ってこそ、細マッチョな俺はホーヅの舎弟に見えるのかも知れないな。
ホーヅに歩いて案内されてたどり着いたのは普通の一戸建て。だがその周りにはプランターが多く家の周りをぐるっと取り囲まれている。赤髪亭も食堂の玄関口左右にプランターがあるが、そのプランターの数の8倍ほどはある。いずれのプランターもどうやら根菜っぽいものが植えられているようだ。
「母さん、恩人を連れてきた。一緒に昼飯を食う、準備を頼む。」
「はいはい、全然治らなかったあなたの化膿をあっさり直しちゃった医術士さんね。入ってもらって。」
「こっちだ。」
玄関奥から聞こえてきた声に従い、ホーヅの案内で部屋に通される。
ホーヅに促されるまま食卓に着き、ホーヅのお袋さんが深い寸胴鍋を持ってきてドンと置く。寸胴鍋のはずなんだがなんかおかしいと思ったらオフクロさんもホーヅと同じくらいの身長で2メイトを超えてそうだ。
「聞いたわよ?ポーターとしてアマザちゃんとこのパーティーに入ったんだって?ウチのはこんな図体と人相だけど無闇に暴れたりするようなのじゃないから仲良くしてやってね。」
「いえ、ホーヅが持ってくる情報と異法には助けられてます。こっちこそよろしく。」
無難に返しておこう。なんせ…デカい!ホーヅと並んで立たれるとものすごい威圧感だ。
「あの…ホーヅの背の高さって遺伝なんですね?」
「そうだよ~ウチはみんなデカいからよく食うんだよ! だから昼からこのスープの量を仕込んでおかないとだめなのさ。今日はあんたのためにってホーヅが狩りの獲物を自腹で買取してきたのを使ってるからうまいよ。たっぷり食べていくといい。あんたの大食いぶりも聞いてるからね。」
そうなのだ。この一週間狩りが終わればずっと「宴」にて夕食をとっていたのだがほとんどの日は重複化を行って獲物を背負って帰って来たためにメンバーから呆れられるほどの食欲を見せていた。ずっとメンバーと夕食をとっているおかげで赤髪亭のマリアさんとアンジェからはどこで食べているのかと聞かれた。
今の仕事については話していないがポーター初日に獣臭かったことから巨獣をさばく精肉作業もしくは素材仕分けの解体の仕事をしてると思われているようだ。そのため安く巨獣の肉が入らないかとかコーリンからバチカーの肉があれば…などといわれている。
しかしですな。今日は普通の日でこれから重複化する予定はない。なのでごく普通の量をいただくとしよう。
「それでは頂きます。」
つい日本の習慣で手を合わせてしまい、寸胴なべから自分のスープ皿に移してから食べる。
野菜1:肉2くらいの食べ応えがありすぎるくらいの具沢山スープで白い肉がなんというか淡白にみえるのだが意表をついて旨い。煮込んでスープがしみているのだろうか?
「数日前、湿地で獲った、バチカーだ。」
「この白いのがあのバチカー?」
「そうだ。俺の分け前の半分を皮以外の、肉として受け取った。思ったよりも量が多かった。 尻尾部の肉で、すぐに食べずに置いておくことで、美味くなる。」
「熟成ってやつか。ウチの下宿にも肉好きのやつがいるがバチカーが美味いっていってたのも分かるな。」
そういって二杯食べたのだがホーヅの家のでかいスープ皿ではもう満腹だ。その間にホーヅも4杯を食べて食事を終え、二人でまったりと狩りの合間に大森林で拾えるモノについて話していた。
すると何か後ろから視線を感じる。振り向くとテンプレのように入り口から壁に隠れる人物が3人、でもデカすぎて隠しきれていない。
「出てくるといい。客人とはいえ、俺の友人で同僚だ。畏まることはない。」
ホーヅがそういうと出てきたのはホーヅの妹弟たちだろうか。二人の女の子とおそらく一番下の子が男の子だと思うんだが…一見して分からん。なぜかというと
やっぱりデカいから!
「上の妹、下の妹、そして末の弟だ」
そういわれてもみんな俺よりもデカいんですが?
「カイル、遠慮はいらんが、もう食べないのか?」
「ああ、荷物も持ってないから腹は減ってないからな。」
「では、残りは、お前達で食べていいぞ? 持っていくといい。」
そういうと嬉しそうな笑みを浮かべて寸胴鍋を持っていく。あれだけでかい寸胴を持つのに女の子一人で十分なのか。
「あの身長で俺より年下かよ・・・ん?ホーヅって何歳だ?」
「アマザと同じ、18だ。 ちなみに上の妹が14、だから年下で合っている。」
14歳ってことはコーリンやヴェガたちと同じか。コーリンは年の割にはスタイルは大人顔負けだけどホーヅの妹さん達は普通に年相応って感じだな。人見知りするところも子供っぽいところも微笑ましいし。ただ3歳も年下の女の子から見下ろされる俺・・・ ちょっと悲しい。
日本の俺は170cmぎりぎりにギリギリ足りないけどこっちの俺は180モイトには届かないくらいだ。きっちり計ったことはないがたぶん175-178モイト位だろう。その俺よりも10モイト程度高い。顔つきや体つきは年相応なのに縮尺がおかしいとしか思えん。
「いったいオヤジさんはどれ位でかいんだよ?」
「父さんは、一番小さいぞ?」
そうなのか・・・家族みんなから見下ろされるオヤジさんに同情を禁じえないな。オフクロさんの遺伝子おそるべし。
「母さんが、獣人族の、血を引いている。熊タイプの先祖だったらしい。血は薄くなったが、体格だけ大きい。」
おっと猫タイプ以外の獣人族ってやっぱりいたのか。でも体毛も濃くないし全然わからないな。
「年輪都市に、やってくる前からの、混血だから、もう特徴が消えかかっている。」
「なるほどなあ。じゃオヤジさんは普通の人だから家族に比べたら低いってことか」
「そうだ。うちは大男、大女ばかり、よく食べる。少しでも稼ぎたい。狩人を続けられるのは、アマザのおかげ、感謝してる。」
アマザに感謝というところで気になっていたことを聞いた。
「そういや、ハガネイノシシの親子を狩った時にアマザが叫んでたな。ホーヅみたいになるのは嫌だって。何かあったのか?」
「…聞こえていたのか?
俺が傷を負った時、足止めをしていたのが、アマザだった。だが、アマザの足止めを引き抜いて、ボウガンを構えていた俺を襲ってきた。そのオオツノジカに右足を噛まれて、逃げようと暴れる後ろ足で、蹴られた、それが額だ。」
「土の異法士は、固定する力、硬化をどれくらい続けるか、どのくらいの土を固めるか、判断するべきこと、考えることが多い。初めてのオオツノジカに、失敗した。だが初めてを踏まえての狩りだった。そもそも、ボウガンを使うのは安全な距離を取る為、非は俺にある。 だが、アマザは判断ミスと、自分を責めた。 呵責もあったのだろう。負傷後、俺は放逐されたが、パーティーを立ち上げたアマザは、拾ってくれた。」
「なるほどな。あの時の叫びは再び判断ミスでって思ったためか。生真面目だな。」
「困った酔い方をするが、いいヤツだ。」
「同感だ。」
酒席で何かと脱ごうとする、困った様子を思い出して互いにクククと笑う。
「兄ちゃん、ついでにお皿一緒に洗っておくね。」
そういって再び姿を見せたでっかい妹さんが俺達の皿を持っていく。
ホーヅが頼むといってキッチンにいく妹さんを見送っていると彼女を見ていた俺に気が付いて聞いてきた。
「あんなに大きいのは変か?」
「いんや~。アマザだって結構高いほうだろう? ただ、妹ってあんなもんなのかって思ってな」
「兄弟は、いないのか?」
「……いねえよ。」
触れられたくないと察したのだろう。さすがデータ管理の頭脳労働担当(仮)だ、空気が読めるってのはありがたいね。
ホーヅはそれ以降その話題を振ることはなく、引き続き二人で巨獣以外の大森林の「副業」について意見を交わした。
1モイト=1cm




