1-12 狩りの合間の休日 午前 医術院
ウシ狩りの最中に目の前でご臨終になったタマムシ(仮)をお持ち帰り。その夜、赤髪亭に帰ってよく見ると日本にもいるタマムシと同じではないが似ていた。タマムシといえば日本で小学生の時にケヤキの木の上を飛び回ってるをひたすら待って網で掴まえたことを懐かしく思い出す。まあ大森林にいるやつのサイズはその10倍なんだけどな。
観察するとコイツの羽の表面は光沢があるのでつるつるとしてると思いきやちょっと粗くなっている。よく見ると細かい宝石(結晶か?)みたいなのが付いておりその原因で表面がざらざらしているようだ。地の金属光沢といい、日本のヤマトタマムシよりも更に派手だ。
こっちの昆虫って確か巨蟲に分類されるやつは都市の防衛課所属の職員が問答無用で巨獣を殺すための毒を採ったりしてたよな。一応素手で触ったのは最初の掴み取ったときだけだけど以降は用心しようっと。ナニがあるかわからんもんな。
ちなみに同日の夜の睡眠後、日本に戻ってから昼休みに学校の図書館で昆虫図鑑を見たところやはりタマムシは朽木を食って育つようで、もし生態が同じならやはりミネラルやら金属やらが含まれていた巨木の朽木を食べるせいでそれらを外骨格に取り込んで巨獣の武器と同様に体の外部に集めているのだろう。
アマザの狩人パーティーは本日完全なオフなので朝っぱらからオウノじいさんの元を訪ねていた。ちなみにまだ医術院が開く前なのだが快く迎えてくれた。なにやら年をとると朝早くに目覚めて退屈でかなわんとぼやいている。こういう悩みは日本と同じなんだな。
出された茶は日本の茶と同じように色々な味がそれぞれの嗜好とともに存在するがこちらの茶は飲んだ後にメントールのような清涼感があるのが特徴だ。
「ほう、狩人をやっとるのか。命を粗末にして突っ込むのは良くはないが色んな経験をしておくのはよいの。そもそも大森林も巨獣もここにしかおらもんじゃし。それだけで他の都市のやつよりいい経験じゃよ。」
「若い奴らばかりだけど身の程を分かってるのばかりだから今のところ問題はないよ。」
てっきり自棄になって何をしている!なんて怒られると思っていたのだが拍子抜け。
「ところで爺さんはああいった巨獣の実物は見たことあるのか?」
「生きた状態ではないのう。工術士としての仕事では素材の状態からじゃし、まれに素材が死体にくっついたままでの納入はあったがの。」
そうなのだ。オウノ爺さんは医術院を営んでいるが実は医術士であり施術士であり、工術士でもあるチートってやつなのだ。
「そういや巨獣が体に備えてる金属部分ってやっぱり大森林で生えてる植物のせい?」
「そうじゃな。土壌に多い金属を植物が溜め込み、それを食べて取り込んだ巨獣が角、歯、牙、蹄、骨、体表に強度、防御、攻撃を目的に利用しておる、それを更にわしらが素材として使うておるわけじゃ。じゃが巨獣に生えとるのはは完全な金属ではないぞ?確かにそれらを集めて精製すれば完全な金属となるがの。あくまで肉体の組成(アミノ酸とか蛋白質のこととか?)と金属が合わさったもんじゃ。そうでないと巨獣が住んでおる大森林の中はその死骸で金属だらけになっとるはずじゃろ?それだと大森林の植物も吸収できんし。素材として金属にみえる部分を取り出してもほおって置けばいずれ朽ちて駄目になる。保存のためにはきちんと素材ごとに手順を踏んだ処理をせんといかん。」
「なるほどな。じゃ素材として需要があるのは更に精製するためか。」
「いやそれは素材によりけりじゃの。そのままの状態が最もいいものもあるしの。」
これで何か作れるだろうかと思って鞄から出したタマムシ(仮)を見せる。
「こんなのを拾ったんだが じいさんの工術で何か作れるかい?」
差し出すなり爺さんは目を細めて確認している。
「ほっほ~~~ぅ!こりゃ珍しい、輝虫ではないか!!」
「そんなに珍しいのか?」
「うむ! これは見てのとおり美しいからのう。この前羽部分は年輪都市に来る前の神聖都市でも金持ち連中とか司祭連中の華美装飾品の素材として使われておった。ところがこれは年輪都市からもたらされるだけでのう。需要に対して供給がまるっきり足りておらんのでかなり高額な素材なんじゃよ。こうして素材でなく生きていた虫の状態として全体を見るのは初めてじゃ。」
そういいながら上や横に向けて、腹側なども観察している。
しかしそれほど高い素材だったのか。パーティーでは全員で狩る巨獣以外に拾った果物などの取得は個人のものでいいとのことだから問題はないだろうが気が引けるな。
それにしてもタマムシに近い生態なら樹冠近くに止まっては飛翔してるとは思うんだが生態が知られていないのかそれとも単に大森林に入る危険を冒してまで虫を取ろうとするやつがいないのか? あるいは両方なのかもしれないな。
「これで作れるものはなんだろう?」
「見た目を生かすならアクセサリーじゃろうの。まあそれ以外での使用は見たことがないんじゃがな。有名な素材じゃから扱い方や保存方法は知られておるからバラして素材にして保存しておくかの?」
「頼むよ。」
そういうと10分も掛からないうちに死骸をバラして外骨格部分だけを残し、後は捨てていた。てっきり前羽だけが素材になると思っていたのだが前胸部とか腹側の腹節部も使うようだ。確かに腹側も綺麗な金属光沢を放っており、前羽のような細かい金属結晶のようなものはないために表面が滑らかで虹色に輝いている。
その後 裏側になにやら薬品を塗っているのを見ながら死骸がアクセサリーか。と引いた目で考えてしまった。まあ日本でも鼈甲とか珊瑚とか生物由来のアクセサリーがあるからおかしくはないんだよな。
そして素材を布の上に広げてトレイに乗せ、建物地下に降りて行く。
其処には簡易工房があり、話には聞いたことがあるが見たのは初めてだ。そこで作業をしながら喋るじいさんの昔ばなしによるとこういうことらしい。
オウノ爺さんは前にいた都市では工術、施術、医術のいずれもが高位の三術士で名が知られていたそうだが(そもそも3つの術士の複合なんてこの都市じゃ聞いたことが無い。それだけで名が売れそうだ)、移民するにあたってのんびりひっそり暮らしたいとそれまでの名を変えたそうだ。医術院で生計を立ててはいるが食うに困らない程度だけを診てのんびりしているらしい。
ところが他の都市から移民時、単に信仰破棄を含めて都市のルールの了承、違反した場合の罰則を飲めばいいのだが、じいさんの工術士の腕を生かしたいと思ったのか名を変えて市民登録する代償として都市防災課所属の異法士にその腕を貸してもらいたいことで時折工術士としての腕も奮っているそうだ。
昔話をしながら机の上での作業は進み、素材の腹節部の中から使えそうな節を5つほどより分けている。
「この腹節部分の外骨格なんぞはその形から指輪に加工するのが簡単じゃ、作ってみるかの?」
「いいのか?」
「かまわんかまわん、医術院の仕事の合間の手遊びじゃて。代金代わりに今度お前さんが獲った獲物の肉を食わせてもらおう。」
「まかせといてくれ。」
オウノ爺さんは会話をしながらも手は止まらない。あの恰幅のいい腹は机に使えて邪魔にならないんだろか? 工具を使って断面が円になるように長細い腹節を丸めて太い針のような円柱状に、更にそれを丸めて環になるように加工しているのだが、薬剤を塗ったりするほか、自分の源力を流し込んでいるように見える。
2年ほど前の学校卒業時にカードが変わらなくてじいさんに不満をぶつけた時に自分が3術士であること明かされて、いずれはカードが光沢を帯びるかもしれないと医術・施術・工術の触りだけを教わったがそれだけじゃ今じいさんがナニをやってるのかわからんな。
「よ~~し!色味を損なうこと無しに加工できたわい。カイル、ちょっくらこい。」
呼ばれて作業台の前にくると爺さんの前には5つの指輪が完成していた。さっきまでは話しながらも目線はずっと素材に向けていたが今はじっと俺を凝視している。
「お前はこれからも狩人をするつもりか?」
「これからずっとやってくかはわからん。だがたった一週間程だが楽に過ごせる狩人パーティー入れたせいかポーターはやっていくつもりだ。」
「その短い間で危険はあったかの? 」
「狩人なんて大森林に入るから危険ばかりだろう まあ新人であることを自覚して活動してるメンバーだから無茶はしてないが出会う巨獣は手強いのがいたな。」
「やはり狩人は厳しいのう。お前さんの「力」は自覚しとるか?」
「正直あまりわかってないな。重複化とその副作用、ほかは源力が人よりはるかに早く満ちるとかか?」
「そうじゃの。そしてカードは反応していないが術士と同じように自分の源力を相手の源力に流す、あるいは同化させることが出来る。」
「つまりそれが他人に源力を行使するってことなんだろ?だからこそ怪我人の細胞賦活化による治療や異法士の術の特性を物体に定着させる工術士の仕事ができるわけだ。」
「そうじゃ。だがお主のは少し異なっておっての、お前さんは源力を他人に与え、受け取った相手は自分の源力として使うことができるんじゃよ。」
「ん? つまり源力が尽きたら予備の燃料として使えるみたいなもんか? 」
「使い方としてはそうじゃ。狩人なら大森林で源力が尽きたときに頼りになるのぅ。じゃが受け取る側お前さんの源力を直接流し込まれたら急激に大量に流れ込んで相手がパンクする恐れがある。じゃからこの指輪にお主の源力をプールさせる機能をつけておこうと思うんじゃが?」
「そりゃ有り難い。土の異法士はいつも源力の消費が激しいようだからな。」
「うむ、そうじゃろうな。有能な異法士は力を省いて効率を上げるがそんなものはもっと経験を積んでからじゃからの。」
「ところで俺の源力ってそんなに多いの?」
「馬鹿げておるくらいだの。源力操作が出来る術士ならまず気付かれるじゃろう。無機物にしか源力を作用させない異法士にはわからんがのう。厄介事を避けたいなら術士との接触は避けておけ。」
「あいよ。で、その指輪に俺の源力をプールさせておくってのはどうするんだ?」
「お主の源力を流した後。わしの工術で馴染ませてお主の源力を留めるスペースと出る、入るの流れ道を作っておく。ちょうどこれは中が空間になっておるからの。じゃからまずはこの指輪に源力を流して見てくれ。」
5つの指輪を摘んで手のひらに置いてから握り、源力が腕から手、そして握った手のひらに集まるように意識する。
すると次に手のひらを広げると金属光沢がさらに強くなり輝くようになった指輪があった。
「ほっ?驚きじゃわい。源力による物質励起か。問題はないが見た目は更に良くなったのう。これからは後はわしの仕事じゃから暇になったら肉を持ってくるがよいわ。ほかの素材もそのまま預かっておくからの」
「頼んまーす。」
そう言ってじいさんの医術院を後にする。どうせならコーリンも旨いって言ってたバチカーの肉を俺の分け前分買い取っておけばよかったと考えながら赤髪亭へ足を向ける。
しかし医術院の開業時間前に来たこともあってまだ朝ってところで時間も残ってる。どうせなら中央に出て市井の依頼での肉や素材の買取依頼をチェックしておくか。
そう思い直して今度は都市中央、8日前に訪れた中央依頼所に入る。
パーティーとしての獲物は自分がどうこうできるわけもないので、狩りの合間に大森林で拾えるものは何かあるかと依頼に目を通したのだが・・・
わけが分からん。
つまり狩りに伴う素材などの必要な知識がないので巨獣の名前と部位は分かるが肝心の巨獣以外の調達依頼が出ている「もの」が何なのか分からないのである。
自分の不勉強さを嘆きつつ、今日は適当に依頼されているものの名前をメモって都市の中央買取課に行くことにする。
新種を認定するのは研究を行っている別の課だが申請や実物の引き取り窓口が買取課であるため、大森林の植物や生息動物、調達できる有用物質、逆に危険な地域や毒を持つ植物などのデータベースを作成している。それは狩人に向けて公開されているため調べさせてもらうつもりだ。
ただ有益なものが獲れる場所などは狩人が秘匿していることとそれを認める制度があるために記載されていない。 これまでにない新しい食材となる植物や、未発見の巨獣、毒物を持つ生き物も都市に報告義務があるがそれが一般に明らかにされるのは一年後でそれまでは報告者が独占できるとのこと。
公開されるまでに儲けようとして狩りまくるのでなく、如何にその性質を研究しておくかが重要そうだ。
ちなみについでにあのタマムシ、もとい輝虫が調達依頼に出ているか調べてみたのだが…
『生体・死骸でも可、前羽に傷がない綺麗な状態の場合のみ左右一対分で20万ピプ』
とあった。
は?
20万?
一概に比べることもできないけど弁当一食分で比べたら大体1ピプが10円だから200万?
ホントに?
もう一度顔を近づけて張り付けられた依頼書を見たら確かに20万って書いてある。
宝くじ程じゃないけどすっごい儲けもんだ!
そういえば以前に新聞でタラコクチビルのクワガタの標本が100万円って記事を読んだことがある。標本として希少ってだけでそこまで価値が上がるなら宝石のように装飾としての価値があるのならそこまで買取値が高騰しててもおかしくはないのか。それだけ出しても売りものが無いから入手できないってことだし。
産卵場所を知っている俺はおもわず皮算用を始めたのだが考えてみれば幼虫期間が何年とかまったくわからねえや・
とりあえずは発生場所だけは覚えておこうっと。
あとは真面目に資料を手繰り、大森林に入る時に持って入ることを考えてメモ帳にまとめた。やっぱ日本でもこっちでも勉強って重要だよね。こっちは生活が掛かってるからなおさらだ。
そして昼直前になり、ホーヅから念話が入る。
額の傷を治してくれた礼として昼飯をご馳走してくれるらしい。
腹も空いてきたので遠慮なくホーヅの家のご相伴に預かることにした。
前にも登場したけど実はかなりチートなオウノ爺さん→小野市からもじって
タラコクチビルのクワガタとは南アフリカにいるコロフォンのことです。
保護地域でしかも高山にいるため発見した登山家の名前が学名になったりしてます




