4-17 日常 2
8番地区の外門付属の狩人詰所の近くの酒場に向かって歩く。
今のところ2番地区での活動は問題ない。
大森林とはいえ、巨木が多いところは下草や低木が少ないので見通しはいい。だが草原はもっと見通しが良いので自分のような風の異法士の主だった働きである索敵はさほど重要とはならない。
だが草原といっても大地の起伏がないわけではないし巨獣が身を隠すほど背が高い草が生えているところもある。手を抜いているわけではないが視界が遮られる中、全方向に意識を向ける大森林の中とは違って余裕があるのは事実だ。
これまでと勝手が違うのは場所だけでなく、獲物も同じでこの前の巨獣を棲家にしていた蛇や存在は知っていても目にしないモグラなどにも遭遇した。
自分たちにとっての初見の動植物についての情報交換は今のところ『偏食』メンバーとの飲み会で行なわれているがそこでの話題でまたもカイルが何やらやっていた。
事の起こりは草原を移動中に感じたことなのだが時折草原と大森林の境で妙な匂いを感じたことだ。てっきりそういった特殊な獣臭を持つ巨獣が大森林側にいるのだと探ってみたのだがそれらしいものは感知できない。
同様のことが何度があったので『偏食』の風の異法士ルウミに尋ねてみたが彼女も草原で活動するようになってから感じていたそうだ。『遠慮』よりも『偏食』の方が都市寄りで活動しており、大森林を背にして活動しているせいもあるのか自分よりも感じる機会が多いようだ。
どうやら地面から匂うものであるらしいとルウミが言ったところでカイルが食いついた。
狩りが終わった後にタミーとアマザに協力してもらってなにやら掘り返していた。大森林と違ってこの草原部の土はやや柔らかい。深く土を動かす事は問題はないが目的は浅いところにあったようで地中に張っている大森林からの樹木の根の周りからなにやら取り出して持ち帰っていたようだ。 匂いからするとそれが俺たちが感じていた元らしいが取り出してしまうと何故か臭気は薄れていた。
そういった新しい発見があるところは面白い。
なんせカイルのおかげで2級あたりの巨獣なら十分に対応できるようになり、大森林での危険が減ったことに繋がる。それゆえ同じ場所で狩りをするとルーチンワークとなり、いずれは注意力も落ちそうなものだがこの草原地区のように様相が異なると飽きない。今のところ移動時間の問題でこれ以上先へはいけないが更に遠くに行けばぶつかるという北から東へ抜ける河に行くことができればもっと新しい発見があるだろう。キャラバンでも組んで数日に渡る遠征をしない限りは難しいとは思うが。
歩きながらの思考は座ったままや横になりながらよりも進むなと思いながら目当ての店のドアをくぐる。 この時間は人の出入りが多いのと気温が高いのでドアは開放された状態だ。
訪れたのはこの8番地区やそれ以外にも支店を持つ宴という屋号の酒場。以前カイルが加わった当初にも10番地区の支店を利用したことがある。
酒場と言うと夜のイメージがあるがこの都市で最も酒場が賑わうのは夕方から宵の口だ。 宴が店を構えている場所から利用するのは狩人が主で仕事柄、朝から大森林に向かう彼らが深夜まで酒で騒ぐわけもない。
ある日の午後、ニミヤは昔馴染みと言うほどではないが付き合いがあった人物から念話を受けて待ち合わせたこの店にやってきた。
まだ黄昏にもならない時間、指輪を持たない新人狩人が集まった店内に入ると壁際のカウンターに一人でいる人物の元に向かう。
「よぉ、師匠。」
振り向いた男はやや猫背の40才を超えたくらい。自分の父親よりも少し年下だ。ニミヤが覚えているよりもやや痩せているか。ウェービーな髪を後ろに括ってるがところどころ纏めるには短かった毛が垂れている。だが髭などは剃られており不潔という感じはしない。置かれたグラスに入った果汁の色からすると果汁酒でなく果汁水を飲んでいるようだ。
「久しいな、お前が親元を出てから会うのは初めてか。」
ニミヤは果汁酒を注文し、氷があればと頼んだが今日は氷の供給日ではないと温いままで出された。夕飯の代わりに食べるにはやや偏ったメニューしかないのでつまみ程度のものだけを頼んでしばし互いの近況を報告する。
「で、別にそれほど昔でもないことを懐古して酒の肴にするために呼んだんじゃないんだろ? 昔みたいに訓練って事で一緒に女の服を風で捲るならこんなとこには呼び出さないだろうし。」
「わかるか?」
ニミヤを匂いの道に引き込んだ当人であるこの男は普段こういった酒場では飲まない。酒を買ってもっぱら外の公園で飲む。ニミヤの言うように公園にいる女性を風を使って目と鼻で観賞しながら飲んでいたような男だ。
だがそれだけでなく、ニミヤの父親に雇われてニミヤに木の匂い、土の匂い、風に混じる雨の匂いを教え、彼自身もそうだった狩人としての風の異法士の役目を教え込んだ。
学校を出た後に異法士としての研修として専門教育を受けながらこの男からの教習を受けていたので同じ年に卒業した風の異法士より技術も先んじることとなった。そのおかげで同時期に都市の祝福を受けた者が座学を主に行っている間にこの男について大森林へ実地を行うくらいになっていたがニミヤは父親と揉めて家を出ることになった。
彼と会うのはその時以来だ。
「お前たちのパーティーの活躍は聞いている。……今の俺の雇い主の子供が火傷を負ってな。
それに使う素材を調達したいんだがお前も知ってるかもしらんがあの素材は調達依頼を出したところで確実に獲ってくる奴がいないんじゃないかと望み薄だ。
弟子に伝手を頼むのもなんだがお前がいる『遠慮』で受けてくれないか?
急ぎでなくていい。火傷そのものの処置は終わってるからな。」
「火傷の処置が終わってて必要な素材ってことは一応は危険があるわけじゃないけど大きさで巨蟲になってるやつか。確か生きてる状態で捕獲しないと意味がないんだっけ? 」
緊急を要しないが火傷を負ったものが必要とするなら患部の見た目をどうにかするための素材。そして入手が困難ということからニミヤにも思い当たる。
「そうだ。だが危険じゃないというのは正しくない。場合によっては毒を持っている場合もある。
大きさのせいで一匹捕まえれば素材としては結構獲れるが入手したらすぐに使わないと保存ができない。
だから捕獲依頼を出してからの入手でないとうまく需要と供給がマッチングしない。狩人が素材が必要になるくらい負傷したならそのまま外で死んじまうことが多いから都市内での重篤な負傷者が使うくらいだからな。」
ニミヤはしばし思考を巡らせるが今は二番地区の大森林での狩りの最中ですぐに調達依頼を受けるのは無理だ。
色良い返事は出来そうにないのでニミヤはせめて気持ちよく帰ってもらおうと店の奥に声を掛けて少し値の張る果汁酒を頼む。
受け取ったニミヤはそれを隣の男に手を使わずにカウンターの上を滑らせる。するとグラスは音も無く滑り彼の前でピタリと止まる。
それだけのことなのだがニミヤの師は驚いている。
理由はかなりの勢いで滑ってきたのにピタリと止まったこと。
風の異法でよく磨かれたカウンターの上を滑らせることは可能だが液体が入ったグラスを押すならそれなりの風がグラスの周りも起こるはずだが感じなかった。
未熟な者が行うとグラス均等に風が当てることが出来ず、滑らずに倒れてしまうものだがニミヤは風の異法は細かい扱いは出来た方だ。
それからすると不思議ではないが滑る音が全く音がしていないのはおかしい。それに前で止まった時にグラス内の果汁酒が一切揺れていない。
これはニミヤがグラスを浮かせたままで固めた空気で覆って動かしたのだが一見してニミヤの師は気付けなかった。
その表情をたれ目で面白そうに見ながら、期待に添えるかはわからないがパーティーメンバーには言ってみると伝えてから中央買取課の資料室へ向かった。
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ナージがいる角付きのコミュニティは学校卒業時の都市の祝福で空間操作異法士になった者の集まりだ。なので当然都市の全地区からより集まったコミュニティとなるので育った食の習慣も全地区から集まっている。
家族を持つもの以外は寮で住むことになっており、いくつかある寮の中では都市から派遣された者が料理を担当している。ところがナージのいる第一寮は歪門の維持以外ですることがない角付き達が暇に厭かせて自分達の寮内の調理を担当している。しかも全地区から集まっている関係でそれぞれの特色がある地区の味を出すようになっており、中央地区の大きな店に引けをとらないくらいに出てくるメニューは豊富だ。
「うーん……スパイスが使われてるのは確かなんだけど種類と量が分からないから再現は難しいわね。」
趣味であるが料理を寮内の夕食を担当している女性のうち、キーロという女性が知り合いから貰ったカレーパンなるものを作れないかと思案していた。
彼女はナージと同じく学校に通う前に異法が発現した希有な存在だがそれでもナージよりも5歳年上で既に学校も出て歪門作成、維持者となっている。
腕を組んでいる彼女の右手の甲には硬く盛り上がった爪のようなものがあった。 角付きと言う名前からするとふさわしくないがこれが彼女の角だ。
他にもこのカレーとやらを使ったメニューはあるそうだが小麦を細かくしたような玉を作るのが面倒なので実際に口にしたカレーパンを再現しようと思っていた。 似たようなスパイスを使ったメニューは本を見れば載っているがいずれの料理にもない味に寮のみんなにも食べさせてあげたかった。
学校の勉学に関しては問題なく、自分が知らないことに向学心を覚えるナージは料理についても時折手伝いをしながら経験を積んでいた。
ある日の午後、厨房でお茶を入れて貰って図書館で借りた本を読もうと自室に帰ろうとすると声を掛けられた。
「ナージ、貴方は学校でカレーパンって聞いたことある?」
コミュニティ外では中央地区の学校内程度でしか知り合いがいない上に、カレーパンは今のところ赤髪亭の昼の弁当メニューでしか出してないので一々昼ご飯を中央から食べに行っている者はいなかった。
小首を傾げた後、首を振って分からないと言った後、スパイスが使われるなら売ってるお店で聞けばいいんじゃないかと思い、お茶は一杯だけ飲んで中央地区の街に出ることにした。
以前は幼い同胞が一人で街を出ることには否定的な大人たちだったがコミュニティーのリーダーであるブヨウにより、偏ったものの見方をするようにならぬよう、もっと街に出て人と関わるべきと学校に通い始めてからは割と自由に行動できるようになった。
特定地区で消費される食材をお使いとして買いに行くついでにスパイスを専門で扱う店に足を運んだ。
入った途端に様々な見本から薫る匂いが混ざっているせいか形容できない刺激を受ける。 鼻腔を通して感じたその刺激を反芻しながらこれが食欲を誘うものに変わるなんて不思議だと思って店主に尋ねる。
「すみません。話に聞いたのですがスパイスを使ったカレーという料理があるそうなのですがどれを使えばよいのでしょうか?」
帽子を取って尋ねてきたナージの額を見てやや驚いた店主だったが子供の割に丁寧な物言いに自分はカレーというメニューを知らないことと、一般の客に渡しているスパイスを使ったレシピが書かれた紙を渡す。
目的のものはなかったが自分でこれを作ってみるのもいいかとレシピに書かれたスパイスを店内で探していると別の客が入ってきた。
フードで顔を隠していた女性は店内に入ると後ろにずらして隠れていた髪が露わになる。最初 顔を隠しているので自分のような頭部に角が出た角付きかと思って目を遣っていたが普通の女性だった。
いや普通ではなかった。
第一印象は黒い。
自分と同じ黒い髪だが長い。先に行くほど緑がかるが頭部だけみると艶やかな純黒だ。
次の印象は白い。
髪の黒さとの対比もあるだろうが顔は白い。不健康というわけではないがずっと寮内にいることが多い角付きのコミュニティの人たちよりもずっと白い。
そうか、彼女はその白さを維持するために陽を避けているんだと思ってからスパイス棚に目を戻したのだが彼女が「カレーを作るのは」と漏らしながらスパイスを選んでいたのを聞き咎め、その場で彼女から情報を得ることができた。
本来 第三地区のある店で作られているそうだが本当に偶然で彼女との出会いで使っているスパイスを知ることができた。ただ詳しい分量は自分も知らないのであとは試行するしかないそうだ。
偶然の出会いと彼女に感謝をしつつ、スパイスを購入して寮へ戻った。
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タミーの家の前の空き地に作られたドーム状の盛り上がりの中でバケツを片手に柄杓で水を撒いている。
年輪都市の由来である環状大路傍を流れる水路に面したところなので水を汲むのは簡単だ。
土の異法で作られたドーム状の中は半地下室となっており現在この中にはカイルが0番地区で採取し、自分のものとしてより分けていた原石と輝虫の人口採卵を試した朽木、そして今水を掛けているキノコ栽培のホダ木が並んでいる。
このドームは傘のように盛り上がった天井部分の縁の内側に細長い通気口が設けられているがガラスも網も填められておらず、風通しが良い上に直射日光が入らない。しかし昼間なら発光石がなくても間接光だけで十分に明るい。そのためキノコの生育に良くないかもと実験ホダ木を格子状に積んでその上に黒い網を被せており、その上から柄杓で水を掛けている。
キノコどころかカビが生えているところもあるのだが今は様子見だ。
いざとなったらホーヅかアッシャーに頼んで水気を強制排除も出来ることだし。俺が水の異法士なら湿気の調整の手間はいらないんだが仕方ない。
それにしてもちょっとおかしいとは感じている。ついこの間まで生木だった枝木の断面はカチカチだったのだが今はやや柔らかいように思える。それだけ朽ち方が早いということだ。
大森林ではやたらと成長が早い木があったり、普通の木があったりするそうなのだが成長が早い木は朽ちるのも早いとでもいうのだろうか? そうすると木を腐らせる腐朽菌の活動が異常に高いことになる。それが目当てのシイタケに似たキノコの菌なら意外と出てくるのが早いのかもしれない。
黒い網を持ちあげて木を確認したあと、こっちに運び込んだ原石の整理を少しやったあとタミーの家にお邪魔した。
この日はキノコ関連でコウサ師匠の所に寄るため午後の赤髪亭の手伝いはしないと伝えてるのでゆっくりしてもいいだろう。
既にコウサ師匠への所用は済ませたので後は自由時間のようなものだ。
以前もご馳走になったオオアシのソテーを食べてから少し料理についての雑談をまったりとこなし、少し横になったと思ったら急激に眠気が来て日本に戻っていた。
年輪都市では2番地区に移ってからの多忙、日本では体育祭の季節を迎えており、バイトもあってやや疲れている。
当然双方の世界の身体は睡眠で疲労から回復できるが連続した多忙の日々は心労を連れて来ていたようだ。
タミーの家には日本家屋のような縁側はないので座って涼むということは出来ない。しかし第3地区と違って家と家は離れているし、西側は空き地や畑なので遮るものがなく、窓を開けると風が通りカーテンを揺らしている。
転寝で日本世界での生活に戻っていた頭を戻しつつ、少し西の空の赤さをカーテン越しに見ていた。すると頭を撫でられていることに気付いて視線を上げるとタミーと目が合った。
膝枕をされていたらしい。
「短い時間だったけどよく寝てたわね。」
「うん。ここは風通しがよくて陽が落ちると涼しいし。美味いものを食べて腹が満たされると次は睡眠を取りたくなるもんだしね。それにこの枕は柔らかくて気持ちいい。」
と言ったのだが実際には膝枕をされると低い枕を好む俺にとっては頭の位置が高くなり過ぎという気がするのだがここでそんな野暮を言うつもりはない。
「いつもとはちょっと口調が違うわね。寝ぼけてる?」
「そうかな? まぁ異法について指示を出す狩人活動中じゃないからね。 それにタミーやアマザは年上だし年下が偉そうに声を掛けるのも変でしょ?」
一樹の口調が混じってるとは思うけどそれでもいいか。頭がはっきりしてないこともあるけどどっちも俺だし。
できれば正座の膝枕でなくて縁側に座っての膝枕のほうが頭が低くなりそうでいいけどそんな日本的な建物の構造を持つ家は年輪都市には無かったな。
日が暮れるくらいで一番赤髪亭が忙しい時間だけど唐揚はフライヤーがあるからマリアさんやアンジェも出来るし、カレーは作り置き出来るし獣脂と混ぜたなんちゃってルーもある。マリアさんたちも自分でスパイスを調整したり出来るようになってる。だから夜の営業時間に必ず俺を必要とするわけでもない。
しかし単純に客の入りが多いので人手不足となってきていることは間違いがなく、来年のことも考えてマリアさん、アンジェとも話しておく必要があるだろう。人を雇うかということとついでに店も大きくするか、そのまま赤髪亭で自分も住むのかも含めて考えておかないといけない。ヴェガは卒業して進路はどうするんだろうな。
家を借りるか、建てるか、みんなで住むのかにもよるし、急く必要はないけれど一度意見を聞いておこう。
「別に気にすることはないと思うけどね。じゃあ年上の私が頼んだら言うことを聞いてくれるのかしら?」
「余程無理なことじゃない限りは御要望を叶えるために鋭意検討を行う所存で~す。」
「ふふっ、今日はちょっと感じが違うわね。それにしても狩りの休日じゃないけど赤髪亭の手伝いはいいの?」
「ああ、今日は師匠んとこに持って行く新種があるからって伝えてるからね。 それに……一寝入りしたけどまだちょっと疲れてるかな。忙しいのはいいけど前みたいに狩りの休みに一日ゆっくり過ごすこともなかったし。
タミーがいいならもう少しここにいていいかな?」
目を瞑ったままタミーに問うと
「どうせならこのまま泊っていってもいいわよ? お風呂に入るにはちょっと歩かないといけないけれどね。」
「そう……。」
そういったまましばらく同じように頭に手を置いてくれたタミーと黙ったままの時間が流れていたが、ふと思ったことを口に出してみた。
「タミーってアマザ以外に更に二人増えたことで思うところはないの?実際にはやっていけるか不安とか。」
「他の三人とは念話でやり取りしてるし特に諍いはないわよ? それにわたしはカイルに受け入れてもらった側だもの。カイルがすることには意見はするけれど従うつもり。
そりゃ、女としちゃ結婚が決まっても求めてもらえないのは寂しいけれどね。」
「きっかけはバラバラだけど俺の中じゃみんな同列だからね。関係を持つにしても全員が学校を出てからと思ってる。この前にコーリンがベッドに忍び込んで来たけど特に手は出してない。」
「そう、4人で会った時にあなたに何か問題があるんじゃないかと思っていたけど自分で決めてるならそれでもいいわ。それに今はちょっと疲れるみたいだしね。」
「うん…… だから今日はこのままもう一度寝るよ。膝はもう崩してもらってもいいよ。」
もう一度眠りについて心の休息を求めることにする。
一度タミーが立ち上がったことでやや頭は醒めた気がしたがだるさは取れず、用意してくれた枕に頭を沈めた。
目を瞑っていたので分からなかったがタミーが歩くと漂ってきたハーブのような匂いを感じる。ジャスミンティーのような感じだ。
そして近くにタミーが座ったことを感じたのだが他人が傍にいる安心感というものを感じたところで意識は途絶えた。
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まさかあんな偶然があるとは。
キーロ姉さんが悩んでいたメニューはスパイスを扱う店に聞けば分かるんじゃないかと思って行ってみた。中央にあるあの店は交易品のスパイスも扱ってる。
だからてっきりキーロ姉さんが知らないメニューなら年輪都市ではない都市の食べ物だと思って訪れたわけだがまさかレシピどころか聞いたこともないと返されるとは思わなかった。
偶然後から入ってきた女性からカレーについての情報が入手できるなんて運がよかった。この前の氷を作ってもらった時と同じ、このコミュニティで周りの大人たちに何かと構って貰っているのと同じで偶然とはいえ幸運に恵まれている自分に感謝した。
私の眉間に有る角に視線が注がれたことは感じたが特段最初と態度が変わったように見えなかったことも彼女に対して好感が持てた。
彼女がいうには別の都市の料理ではなく、この都市で作られたメニューなのだそうだ。まだ彼女が知る店でしか提供されていないのだがそれを作りだした人と面識があり、時折ここにスパイスの買い出しの手伝いで訪れているそうだ。そのおかげで使うスパイスの内容も知っていたらしい。
だが折角作りだした料理のレシピを人に漏らしていいのかと確認するとたくさんの人が作るようになることでより味の変化が出るだろうからむしろ広がる方がいいと言ってるそうだ。
代理でスパイスを買いに来たり、その人の考えまで聞いてるということは既に結婚されているのだろうか?
その髪の色から一般人かと思っていたら使うスパイスの見本を手に取った爪の色からすると土の異法士のようだった。あれほどの肌の色の白さを維持できるなら都市内での作業をされているのだろう。大森林に入るならフードは蒸れて汗を掻くし視界も遮る。
別れ際にレシピを公開してくれていることに旦那さんに感謝を伝えて下さいというと、彼女ははにかんだ笑顔を浮かべた。
綺麗という感じの人でやや冷たそうな印象を受けたけどこんな風に笑うんだと思いながらひょっとするとまだ恋人なのかもしれないなと旦那さんと言ったことを少し後悔した。
それにしても彼女の髪は艶やかだった。洗うのは大変そうだけれど私も伸ばしてみようかな?
漆塗りがないので漆黒なんて言葉もないので別名の純黒で。
宴でなくて風の異法士ばかりが集う酒場の方が秘密の話がしやすいかと思ったんですが風の異法士として稼いでるはずのニミヤなら同業者に絡まれたりして当然だと思うのでボツにしました。
登場人物
ニミヤの師 モブ扱いに近いんで今のところ名無し 火傷の治療に使う人工皮膚のような素材を求めている。
今回タミーの家でカイルの口調が違うのは一樹の意識を引きずってるせいです。




