具留米祭開幕!甘くない!?2-Fの本格フレンチ・パフェ!
具留米祭当日。東京具留米学園は、朝からいつもとは違う熱気に包まれていた。
校舎のいたるところに飾り付けが施され、廊下には生徒たちの慌ただしい声が響いている。
「……いよいよだな。」
教室へ向かう廊下を、航平と瑠衣が歩いていた。二人の手には、最後の準備で使う備品が抱えられている。
「昨日までずっと準備してたから、なんか変な感じするね。」
瑠衣が笑う。
「そうだな。あとは、やるだけだ。」
二人が2-Cの教室へ向かっていると――。
「……ん?」
航平が足を止めた。目の前には2-Fの教室。
そこには調理器具と思しき機械と、大量の容器が置かれている。
「これ……エスプーマの機械じゃないか?」
「ほんとだ。」
瑠衣も足を止める。
さらに、その横には透明なパフェ用の容器が山のように積まれていた。航平はそれを見て、少し笑う。
「藤咲たちは今年もスイーツみたいだな。」
「聖羅ちゃんのスイーツ最高だもんね!」
瑠衣の目が輝く。
「楽しみ!」
そして、午前九時。
体育館での開会式を終え、生徒たちが教室に戻ると、校内放送が響き渡る。
『これより――東京具留米学園、文化祭――具留米祭を開幕します!』
その瞬間、学校中が一気に沸いた。
「いらっしゃいませー!」
「焼き小籠包、出来立てですよー!」
「おはぎいかがですかー!」
「悪魔のカリカリ・チーズパスタ串!食べてみてー!」
あちこちから声が飛び交う。生徒たちが走り回り、それぞれの仕事や目当てのクラスへと向かっていく。
2-Cも、開幕直後から大忙しだった。
「いらっしゃいませ!」
「トンポーローのクワパオサンド、出来立てです!」
「こちら最後尾です!」
次々と注文が入る。
「二つ!」
「三つください!」
「こっちは五個!」
「五個!?」
一瞬驚きながらも、クラスメイトたちはすぐに動いた。
仕込んでおいたトンポーローを取り出し、クワパオを開く。野菜と肉を挟みタレを絡める。最後にバーガー袋へ。
「はい、お待たせしました!」
「お次のお客様どうぞー!」
「四つ!」
「ありがとうございまーす!」
準備を重ねてきたからこそできる、無駄のない連携。
仕込み担当。
盛り付け担当。
袋詰め担当。
会計担当。
呼び込み担当。
それぞれが自分の役割をこなし、列を次々と捌いていく。
「トンポーローのクワパオサンド、おいしいですよー!」
「食べ歩きにもおすすめでーす!」
「まだまだありますよー!」
呼び込みにも力を入れる。最初の勢いは、想像以上だった。
「結構売れてるな!」
「このままいけば、かなりいけるぞ!」
航平と英人も、客に商品を渡しながら笑った。
「……いいスタートだな。」
その一方で、他のクラスも負けじと盛り上がっていた。校内のあちこちで行列ができている。
焼き小籠包。
おはぎ。
カリカリのチーズパスタ串。
それぞれのクラスが、自分たちの料理を武器に客を呼び込んでいた。
そんな中、航平の目に一際目立つ光景が飛び込んできた。
「……あれは…。」
2-Fの前。そこには、長い行列ができていた。
そして、列に並んでいる客たちの手には――。
「パフェ?」
可愛らしく盛り付けられたパフェ。
透明な容器の中には、白と茶色の層が重なっている。
「へぇ。うまそうだな。」
航平が呟く。
「さっきエスプーマの機械があったもんね。」
瑠衣も頷いた。
二人はそのパフェを食べてみようと、列の最後尾へ向かう。その途中、看板とメニューが目に入った。そこに書かれていた料理名を見て、航平は目を疑った。
『じっくり煮込んだ牛ほほ肉の冷製マッシュポテト・パフェ(ムース仕立て)』
「……え?」
航平が固まる。瑠衣もメニューを見つめて驚きの声をあげる。
「ええっ!?」
「あのパフェ、スイーツじゃなかったのか…。」
「見た目は完璧にチョコレートパフェなのに!」
透明な容器の中に盛り付けられているもの。その見た目だけなら、どう見てもスイーツだ。
しかし、その正体は――。
じっくり煮込んだ牛ほほ肉。
クルトンとフライドオニオン。
そして、なめらかな冷製マッシュポテトのエスプーマ。
「……すごいな。」
航平が呟く。そのとき。
「清永くん!瑠衣ちゃん!」
聞き慣れた声がした。振り返ると、そこには聖羅がいた。
「来てくれたんだ!」
聖羅は嬉しそうに笑う。
「もちろん!」
瑠衣も笑顔を返す。
「すごい行列だね、聖羅ちゃん!」
「ありがとう!」
聖羅は少し照れながら、料理について説明を始めた。
「今年はね、スイーツじゃなくて、本格的なフレンチに挑戦してみたの!」
「あぁ、驚いたよ。」
航平がパフェを見ながら言う。聖羅は頷いた。
「エスプーマって、普通はスイーツやソースを泡状に仕立てるために使うことが多いでしょ?それを応用して、マッシュポテトのエスプーマを作って、牛ほほ肉の赤ワイン煮込みをパフェみたいに仕立ててみたの!」
聖羅は楽しそうに説明する。
「牛ほほ肉は時間をかけてじっくり煮込んであるし、クルトンとフライドオニオンがシリアルみたいでかわいいでしょ?」
「見た目は完璧にパフェなのに…。」
「中身は完全にフレンチってことか。」
瑠衣も航平も感心した。
「そう!」
聖羅が笑う。
順番が来て、航平と瑠衣が、パフェを受け取る。
「いただきます。」
スプーンを入れる。牛ほほ肉となめらかなマッシュポテトを掬い上げて口に入れると、口の中でそれぞれの味が重なっていく。
「…………!」
航平の目が見開かれた。
「……うまい!」
瑠衣も驚いた顔で何度も頷く。
「おいしい……!」
見た目のインパクトだけではない。
牛ほほ肉の濃厚な旨味。
冷たいマッシュポテトのなめらかな口当たり。
重厚なフレンチでありながら、スプーンですくって食べられる軽やかさがある。
「なるほど……。」
航平はもう一口食べる。
「見た目で興味を引いて、食べたらちゃんと本格的な料理になってる。」
航平は、パフェを見つめた。
「しかも、藤咲らしさもあるな。」
「ふふっ。ありがとう!」
聖羅が嬉しそうに笑う。航平は周囲を見る。2-Fの前には、まだ長い列が続いている。客たちは皆、パフェを手にして嬉しそうな顔をしていた。
「……こりゃ、強敵だな。」
航平が呟く。瑠衣も頷いた。
「うん!」
2-Cのクワパオサンドも好調なスタートを切った。しかし、去年7位だった2-Fもまた、今年はただで終わるつもりはない。
それぞれのクラスが、自分たちの料理への誇りを胸に走り出した。具留米祭は、まだ始まったばかりだ。




