完成!2-C特製トンポーローのクワパオサンド!
文化祭に向けた準備は、着々と進んでいた。
各クラスがそれぞれのメニューを決め、準備を始める中、二年C組でも、いよいよ試作が始まっていた。
「できた!」
教室の一角に設けられた調理スペースから、航平の声が響く。テーブルの上には、蒸し上がったクワパオと、じっくり煮込まれたトンポーロー。肉を挟み、仕上げにタレをかける。見た目にも食欲をそそる、トンポーローのクワパオサンド。
「おお……!」
「めちゃくちゃうまそう!」
クラスメイトたちが集まってくる。
「じゃあ、試食しよう!」
瑠衣の声を合図に、一同がそれぞれ手に取った。
「いただきます!」
そして――。
「……美味しい!」
「うまっ!」
「これ、普通に商品として出せるんじゃない?」
次々と歓声が上がる。トンポーローは柔らかく煮込まれ、口の中でほろりと崩れる。甘辛い煮汁が肉に絡み、もちもちとしたクワパオとの相性もいい。味は申し分ない。航平も一口食べて、頷く。
「うん。かなりいいな。」
玲司も黙って咀嚼している。
「……悪くない。」
その言葉に、航平が笑う。
「お前がそう言うなら上出来だな。」
しかし、何人かが、食べ終えたクワパオを見つめていた。
「……でも。」
吉崎が口を開く。
「私には、ちょっと重いッスね…。」
「……あ…。」
別の生徒も頷いた。
「たしかに、めちゃくちゃうまいんだけど、これ一個で結構お腹いっぱいになる。」
貫戸も続く。
「文化祭って、いろんなクラスの料理を食べ歩く人も多いよね。」
「これだと、もう一個食べようって気にはなりにくいかも。」
教室に、静かな沈黙が落ちる。味はいい。むしろ、良すぎるくらいだ。
だが――。
「……確かに」
航平がクワパオを見つめる。
「俺たちは一個食べて満足するけど、客は一個だけ食べに来るとは限らない。他のクラスの料理も食べた後だと、このボリュームはハードル高いかもな。」
「たしかにそうかも…。」
瑠衣が頷く。
そこで、クワパオを担当していた吉崎や岩井、今永たちが顔を見合わせた。
「じゃあ……小さくしてみる?」
「今のサイズより一回り小さくすれば、食べやすくなるし、他の料理も食べられる。」
「二個買ってもらえる可能性もあるかも。」
「それ、いいね!」
クワパオチームが、さっそく試作を始める。
一方――。
「俺たちは、タレを変えてみよう。」
航平が言った。
「味を少し濃くする。」
「濃くする?」
英人が聞き返す。
「あぁ。」
航平たちはトンポーローの煮汁を確認する。
「それと、とろみももう少し強くしたい。」
「タレが流れすぎるから?」
「そう。食べづらかったろ?濃い味を肉にしっかり染み込ませて、粘度も上げれば最小限のタレの量で済む。」
味だけではない。食べる人がどう食べるのか。どこからタレが垂れるのか。一口目に何を感じるのか。航平は、そんなことまで考えるようになっていた。
「あと――」
航平が、煮込んだ肉を見ながら言った。
「ピーナッツパウダーをかけてみないか?」
「ピーナッツ?」
英人が首を傾げる。
「香ばしさを足したい。甘辛いタレだけだと、ちょっと単調になる気がする。それに、パウダーがタレを吸ってくれる。」
「なるほどな。」
英人も頷いた。
「やってみよう。」
「そういうわけだから。野菜の仕込み、頼めるか?斎浦。」
航平が玲司に問いかける。
「俺を誰だと思ってる?安心しろ。」
玲司はそう答えて作業に取り掛かった。
「肉だけでは重さは消えない。」
その言葉に、神司・大群・貫戸の三馬鹿トリオも反応する。
「野菜のチョイスと切り方が大事だね。」
「やっぱ高菜とかパクチー?」
「ネギも欲しい!」
「レタスは?絶対合うっしょ。」
次々と食材が並べられていく。そして、玲司が包丁を手に取った。野菜を切る。細く。長く。あるいは、少し幅を変えて。
「ただ入れればいいってわけじゃない。どの野菜のどの切り方が最適か。見極めるぞ。」
玲司が切った野菜をクワパオに合わせていく。
「タレが流れすぎないようにするのと同時に、肉の味を引き立て、食感のアクセントを加える。」
「野菜のみずみずしさで、さっぱりさせられるしな。」
シャキッとしたレタス。歯応えのある高菜。香りの強いパクチー。そして、ネギの辛味。
重かった肉料理に、少しずつ軽さが加わっていく。鮮やかな野菜の色は見た目にも華やかさを演出している。
「……うん。」
玲司が呟いた。
「これならいける。」
さらに試食を重ねる。材料それぞれが重なって、一つの味になっていく。
そして――。
「これなら、何個でも食べられそう!」
誰かが笑った。
「最初より断然いい!」
「一個が小さくなったし、重すぎない味になった!」
「これなら女の子も食べやすいね。」
「……よし。」
航平が頷いた。
「かなり完成に近づいたな」
だが、まだ終わりではなかった。
「最後は、これ!」
瑠衣と今永が袋を持って戻ってきた。
「買ってきたよ!」
「何それ?」
「バーガー袋!クワパオサンドをこれに入れて渡すの!」
瑠衣と今永が用意した袋にクワパオを入れる。
「これなら手も汚れにくいし、歩きながら食べられるでしょ!」
「なるほど。」
「しかも、準備をしっかりしておけば――」
瑠衣が手順を確認する。蒸しておいたクワパオ。仕込んでおいたトンポーロー。カットしておいた野菜。完成したタレ。
「あとは挟むだけ!」
今永が言った。
「それなら、注文が一気に入っても対応できるね!」
文化祭では、料理の味だけではなく。どれだけ早く提供できるかも重要になる。クラス全員で考え、試し、失敗して、何度もシミュレーションして、修正した。そうして完成した一品。美味しいだけの料理ではない。食べやすく。見た目もよく。何度でも食べたくなる。そして、素早く提供できる。文化祭という舞台で、「売れる」ための料理だった。
「……これで準備はバッチリだな。」
英人が言う。
「うん。」
岩井も頷いた。
去年、春巻きで四位だった二年C組が、今年選んだ勝負の一品。
「いよいよだな。」
航平が呟く。
「……具留米祭。」
瑠衣が笑う。
「うん!」
玲司は完成したクワパオを見つめる。
「優勝するぞー!!」
大群のその言葉に、教室のあちこちから声が上がった。
「おう!」
「絶対勝とう!」
こうして、準備期間が終わる。
東京具留米学園、文化祭、『具留米祭』。
開幕の日が、いよいよやって来る。




