なんで!?招待状のない二人
照りつける太陽。青く広がる空。高校生たちにとって、待ちに待った季節。東京具留米学園の生徒たちも夏休みを迎えていた。
「……あっつ。」
泰龍軒で仕込みをしながら、航平は額の汗を拭った。
「まだ夏休み始まったばっかりだよ?まだまだ暑い日は続くんだから!そんなことでどうするの?」
隣で瑠衣が笑う。
「いや、暑いもんは暑いだろ……。」
「まぁ、それはそうだけど。」
そんな他愛もない会話をする二人のもとへ、この日、一通の手紙が届いた。送り主は、藤咲聖羅と藤咲斗麿。差出人の名前を見た瞬間、航平は察していた。
「今年も来たな。」
航平の元に届いたのは、去年と同じ、赤い封筒だった。
「そうだね。」
瑠衣が横から覗き込む。
「……清永くんは今年も赤か。」
航平は封を切り、中の便箋を取り出した。そこには、藤咲家の海辺の別荘への招待が記されていた。期間は二泊三日。
「やっぱりな……。」
航平は苦笑する。
赤い封筒。それは、藤咲家が料理の実力を認めた者に贈られる特別な招待状。そして、赤い封筒を受け取った者には一つの役目がある。二日目に行われるBBQで、料理を振る舞うこと。
「今年は何作るかな……。」
去年のことを思い出しながら、航平は便箋を眺める。
「私は白だったよ。」
一方、瑠衣が手にしていた封筒は白だった。
「……よかったぁ。」
瑠衣が、ほっと肩を撫で下ろす。
「なんだよ。赤じゃ嫌なのか?」
「だって、BBQの料理担当って大変そうじゃん。去年の清永くん、大変そうだったし。食べるのも斗麿先輩たちみたいなすごい人ばっかりで、プレッシャーだもん。」
「まぁ……確かに。」
その晩、瑠衣のもとへ聖羅から電話がかかってきた。
『瑠衣ちゃん!今年も来てくれるんだよね?』
「うん、行くよ」
『よかった!今年も二泊三日だから、いっぱい遊ぼうね!』
電話越しの聖羅の声は、弾むように明るかった。
「水着どうしようかなぁ。」
『絶対持ってきたほうがいいよ!』
瑠衣も楽しそうに笑いながら、旅行の予定を話していく。
『あ、そうだ!』
電話の向こうで、聖羅が思い出したように声を上げる。
『今年はね、虎太郎くん、辰樹くん、月也くん、それになでしこちゃんも来るよ。』
「えっ?」
瑠衣の顔がぱっと明るくなった。
「みんな来るの!?」
『うん!その代わり、お兄ちゃんと相談して、今年は調理科の子たちだけ呼ぶことにしたの。』
今年は、有望な新入生が多い。そして、斗麿自身も大学生になった。去年までとは、少しだけ別荘旅行の形も変わっていた。
『経営科のみんなには申し訳ないけど……。せっかくだから、みんなで楽しく過ごせたらいいなって。』
「そっか。仕方ないよね。行けるみんなで楽しもう!」
瑠衣は弦之介と直緒のことを思い浮かべて、少し複雑な思いだったが、笑って電話を切った。
だが――。
翌日の泰龍軒で、その二人がこの事実を知ることになる。
「え?」
店内に、間の抜けた声が響いた。バイトにやってきた直緒が、固まっている。
「三日間……いないんですか?」
「そうなの。」
瑠衣が答える。
「聖羅ちゃんちの別荘に行ってくるの。」
「……え?二人とも?」
直緒は航平を見る。航平は頷いた。
「二泊三日だ。」
「ええええええ!?」
そしてもう一人。たまたま昼飯を食べに来ていた――という建前で、実際には瑠衣に会いに来ていた弦之介も、話を聞いて目を見開いた。
「……藤咲家の別荘?」
「うん。」
「二泊三日?」
「そう。」
「……俺は?」
静寂。
航平と瑠衣が顔を見合わせる。
「……今回は、調理科の生徒からしか招待されてないらしい。」
「な、なんだと……!?」
弦之介が立ち上がった。
「ちょ、ちょっと待て!去年は俺も行っただろ!?」
航平が説明する。
「斗麿先輩たちが大学生になったから、今までと同じように声かけると人数が増えすぎるんだってさ。だから、今年は調理科の有望な奴らだけを呼んでるらしい。虎太郎たちも来るし。」
「つまり……。」
弦之介が拳を握る。
「俺は調理科じゃねぇから除外されたってことか!?」
「まあ……そういうことだな。」
「納得いかねぇ!!」
弦之介の叫びが店内に響いた。
「私もですよ!」
直緒も負けじと声を上げる。
「私だって泰龍軒でちゃんと働いてるんですよ!?なのに航平センパイたちだけ海!?」
「いや、だから今回はそういうイベントなんだって……。」
航平が呆れたように言う。
「仕方ねぇだろ。」
瑠衣も苦笑しながら二人を宥めた。
「こればっかりは私たちが決めたことでもないし、仕方ないよ。」
弦之介はしばらく黙っていた。
そして、
「……わかった。」
と妙に素直な返事をする。
「今年は仕方ねぇ。楽しんでこいよ。」
「お……おう。」
航平は軽く手を上げた。
瑠衣も、
「じゃあ直緒ちゃん、お店のこと、よろしくね!」
「……はーい。」
直緒が答える。二人は、その場ではそれ以上何も言わなかった。
だが、航平と瑠衣が厨房へ姿を消すと、弦之介が直緒に声をかける。
「……直緒」
「はい?」
弦之介が周囲を確認するように辺りを見回した。
「俺たちも行くぞ。」
「行く?……どこに?」
弦之介はニヤリと笑った。
「決まってんだろ。藤咲家の別荘だ。潜入するぞ!!」
「…………!」
直緒は目を丸くした。そして――。
「……行きましょう!」
即答だった。
「よし!」
こうして、弦之介と直緒による、藤咲家別荘潜入作戦が始まった。




