まさかの新入り!?泰龍軒にギャル襲来!
中間試験が終わった、ある日の放課後。東京具留米学園のキャンパスにあるベンチに、二人の男女が座っていた。
「大学はどうですか?」
そう尋ねたのは、玲司だった。
「別に。どうってことないわ」
隣に座る里愛が答える。
「そっちこそどうなの? 二年で躓くやつ、多いからね、うちは」
「問題ありません。この前の試験も一位でしたし」
「……そ。さすがね」
里愛は表情を変えずに言った。
「まあ、でも安心したわ。あんたが二年になっても変わらず生意気そうで」
「馬鹿にしてますか?」
「褒めてんのよ」
「馬鹿にしてますよね」
そんな二人のもとへ、明るい声が飛んできた。
「玲司センパーイ!」
「ん?」
玲司と里愛が振り向く。そこには、浜出直緒が立っていた。
「……あれ?」
直緒は玲司の隣にいる里愛を見る。
「誰ですか?その子?オープンキャンパスに来た中学生?」
「…………」
里愛の顔からすっと笑顔が消え、明らかに不愉快だという表情になる。
「な……」
こめかみに、ピキッと青筋が浮かんだ。
「うるさいぞ。」
玲司が淡々と言った。
「この人は卒業生の里愛先輩だ。」
「えっ!?」
直緒が目を丸くする。
「先輩だったんですか!? しかも大学生……! ご、ごめんなさい!」
「……ま、まぁいいわ」
里愛は引きつった笑顔を浮かべた。
「アンタ、後輩の教育くらいちゃんとしておきなさいよ……?」
「え?なんか言いましたかー?」
直緒は気にした様子もなく、すぐに玲司へ向き直った。
「あ、そうだ!そんなことより!」
(そんなことですって~~……!)
里愛の笑顔がさらに引きつる。
「玲司センパイ、この後映画でも見にいきませんか?」
「映画?」
「そう! すっごく面白そうなラブコメ映画がやってて~!」
直緒は両手を胸の前で合わせ、期待に満ちた目で玲司を見る。
「一緒に行きましょうよ~!」
「断る。」
「えぇ!?」
「この後、仕事があるんだ。」
「また仕事ですかぁ?」
「そうだ。俺は忙しいんだ。君に構ってる時間はない。」
「むぅ……」
直緒は頬を膨らませる。
直緒はしばらく玲司を見つめていたが――。
「……じゃあ、また今度誘います!」
「勝手にしろ。」
「はーい!」
直緒は元気よく答えると、その場を離れていった。
「……」
里愛は、その後ろ姿をじっと見送る。
「……ずいぶん積極的な子ね。」
「毎日あの調子なんで、正直疲れますよ。」
「……あんた、ああいう子が好きなの?」
「なぜそうなる…?」
「別に…。」
里愛はぷいっと顔を背けた。
「なんとなく聞いただけ。」
「……。」
玲司はそれ以上気にすることもなく、立ち上がった。
「俺もそろそろ行きます。」
「うん。」
去っていく玲司を見送って、里愛は一人、ベンチに残った。
「…………」
さっきの直緒の顔が、なぜか頭に残っている。
「……なんなのあのガキは……!ムカつく…!」
その頃、学園の正門では、航平が瑠衣に腕を引っ張られていた。
「ほら、清永くん! 早く!」
「待てって!そんな急がなくてもいいだろー?」
「今日は仕込み多いっておじいちゃん言ってたでしょ!」
「分かってるって!」
いつものように瑠衣に引っ張られながら、航平は泰龍軒へ向かおうとしていた。
すると――。
「航平センパーイ!」
「ん?」
聞き覚えのある声に、二人が振り向く。
「浜出?」
そこには直緒がいた。
「やっぱりいたー!」
「どうした?なんか用か?」
「航平センパイ、この後映画行きません?」
「映画?」
「はい!すっごく面白そうなラブコメ映画がやってるんですよー!」
直緒は嬉しそうに航平の前まで駆け寄る。
「一緒に行きましょうよ~!」
「あぁ〜…。悪い。俺、この後バイトなんだ」
「えー!またですかー?」
「そう言われてもな……俺にも生活があってだな…」
「いっつもバイトばっかりー!」
直緒は頬を膨らませる。
「玲司センパイもおうちの仕事って言って、かまってくれないしー」
「……。」
瑠衣の眉が、ほんの少しだけ動いた。
「みんな忙しいんだよ。」
「そうなんですけどー!」
「それに……」
瑠衣は笑顔で続ける。
「そういうお誘いは、特定の一人に決めた方がいいんじゃないかなー?」
「え?」
直緒が首を傾げる。
「なんで?」
「なんでって……」
瑠衣の笑顔が固まる。
「……普通、そういうものじゃない?」
「ワタシ、航平センパイも玲司センパイもどっちも大好きだからいいんです!」
「…………」
瑠衣の笑顔が引きつった。
「あ、あのねぇ……」
何か言い返そうとした、その瞬間。
「……あ!」
直緒が突然、何かを思いついたように手を叩いた。
「そうだ!」
「?」
「私も、泰中先輩のおうちでバイトする!」
「……。」
「……。」
「「えぇー!?」」
航平と瑠衣の声が、見事に重なった。
こうして泰龍軒に、新たな波乱の予感が生まれたのであった。




