これが噂の!?東京具留米学園の黄金タッグ!
「その勝負――受けて立ちます!!」
「おおっ!」
虎太郎が嬉しそうに拳を握る。
「決まりだな!」
教室の端にいた玲司が、ゆっくりと立ち上がる。
「それなら、俺が審査をしてやろう。」
「斎浦先輩が?」
「あぁ。俺にも責任の一端がありそうだからな。」
玲司は虎太郎を見る。
「お前は俺との勝負を望んで、この学校に来たんだろう?」
「……あぁ!そうだ!俺はアンタに勝ちたい!」
「なら、文句はないだろう。俺がお前の実力、見極めてやる。」
虎太郎の口元がニヤリと吊り上がる。
「……おもしれぇ。」
「勝負は明日の放課後でいいな。」
「明日!?」
瑠衣が目を丸くする。
「早すぎない!?」
「準備期間は必要ない。」
玲司は淡々と答える。
「料理人なら、その場で与えられた条件に対応する力も必要だ。」
「望むところだ!」
虎太郎が胸を張る。
「お題は明日発表する。」
「えぇ!? 僕たち何も準備できないじゃん!」
辰樹が慌てる。
「だからこそだ。」
玲司はそう言って、四人を見渡した。
「勝負は明日の放課後。調理実習室だ。」
「望むところだ!」
虎太郎が元気よく返事をする。
「先輩だからって関係ねぇ!絶対に勝ってやる!覚悟しとけ!」
「ハァ……。」
航平は再び机に突っ伏した。英人が近づいてきて、航平に声をかける。
「またうるさいのが入ってきたなぁ。でも、先輩として負けるわけにはいかないよな、清永センパイ!」
「うるせぇな、茶化すなよ。わかってるって……。」
ハハッと笑って、英人は航平の背中を軽く叩いた。
翌日。放課後の調理実習室には、四人と玲司が集まっていた。実習室内には、野次馬の2-Cのメンバーたちもいる。やがて、玲司が調理台の前に立った。
「それでは、勝負の内容を発表する。」
四人が一斉に玲司を見る。
「今回のテーマは――炒飯と副菜。」
「炒飯!」
真っ先に反応したのは虎太郎だった。
「よっしゃあ!」
虎太郎は嬉しそうに拳を握る。
「炒飯なら得意中の得意だぜ!」
「自信あるみたいだな、あいつ。」
航平が呟く。その隣では、瑠衣が不安そうな顔で調理台を見つめていた。
「炒飯と副菜って……どうしよう。私、炒飯もそんなに自信ないし……副菜なんて、何作ればいいのか……。」
瑠衣が頭を抱える。
航平は瑠衣に背中を向けて、早速準備に取り掛かる。
「炒飯は俺が作る。」
「え?」
「もう一品は任せた。」
「任せたって……。」
瑠衣が困ったように航平を見る。
「何作ったらいいのかわかんないよ!」
「大丈夫だよ。」
航平はいつもの調子で答えた。
「自分がいいと思うものを作ればいいんだ。」
「私が……いいと思うもの?」
「あぁ。」
航平は頷く。
「瑠衣が作るものなら、俺は文句ないよ。」
「…………。」
瑠衣は少しだけ目を丸くした。
「……うん。」
瑠衣は調理台に向き直る。
「わかった。私、考えてみる。」
一方、向かいでは辰樹が困ったように腕を組んでいた。
「僕は何を作ればいいんだろう……。」
「お前は得意な酢豚でも作っとけ。」
虎太郎が即答する。
「俺の炒飯があれば勝利は決まりだ!」
虎太郎は自信満々に笑った。
「俺の炒飯、食べたら絶対びっくりするぜ!」
そして――。
「始め!」
玲司の合図とともに、四人が一斉に動き出した。虎太郎は迷いなく中華鍋を手に取る。火を入れ、鍋が熱を帯びると、虎太郎の表情が変わった。
「……!!」
さっきまでの生意気な笑顔は消え、真剣な眼差しで鍋を見つめている。辰樹も酢豚の仕込みを始める。二人とも真剣な表情、そして慣れた手つきで料理していく。
一方、瑠衣は食材を前にして、しばらく悩んでいた。
「何を作ろう……。」
自分でも作れて、炒飯に合うもの。何かないだろうか。
瑠衣はふと、泰龍軒での日々を思い出した。炒飯を注文するお客さん。それを美味しそうに食べる人たち。そして、その横に添えられているもの。
「……そうだ。」
瑠衣は小さく呟いた。
「あれなら、私にも作れる。」
瑠衣が鍋を火にかける。
やがて、調理実習室に香ばしい匂いが広がっていく。最初に完成したのは、虎太郎の炒飯だった。
「できた!」
続いて辰樹が酢豚を盛り付ける。
「僕も完成……。」
「よし。」
玲司が二人の料理を前にする。まずは虎太郎の炒飯を一口。
「…………。」
玲司はしばらく咀嚼すると、静かに頷いた。
「うまい。」
「だろ!?」
虎太郎が嬉しそうに笑う。
「米の火入れもいい。具材とのバランスも悪くない。炒飯をよく理解している。」
「へへっ。」
続いて、辰樹の酢豚。
「これもうまい。」
玲司は一口食べて、また頷く。
「肉の火入れが丁寧だ。餡の甘酸っぱさも丁度いい。」
「ほ、本当ですか?」
「あぁ。二人とも、料理人として十分な腕がある。」
「よっしゃあ!」
虎太郎が拳を握る。
「どうだ!これで俺たちの勝ちは決まりだろ!」
「ま、まだわからないよ……!」
辰樹が慌てて静止するが、表情が少し緩んでいる。
「いや、絶対勝ってるって!」
そのとき。
「あいよ。お待ち。」
航平が皿を運んできた。続いて瑠衣も、そっと器を置く。
「私も……できた。」
「おっ。」
虎太郎が二人の料理を見る。
「…………。」
航平の前には、見事に盛り付けられた炒飯。そして瑠衣の前には――。
「……玉子スープ?」
虎太郎が目を丸くする。
「なんだそれ!」
次の瞬間、虎太郎は吹き出した。
「勝負を投げたってわけか!?」
「なっ……!」
瑠衣がムッとする。
「俺の炒飯と辰樹の酢豚は、どっちも絶品だ。そこに玉子スープって……。」
虎太郎はニヤリと笑う。
「やっぱり、もう勝負ついたんじゃねぇか?」
「では、清永たちの料理もいただくぞ。」
玲司は航平の炒飯を口に運んだ。
「…………。」
食べながら、一年前の勝負を思い出す。
一年前、自分も航平と炒飯で勝負し、負けた。一年ぶりに食べる、航平の炒飯。玲司はそれをしっかりと味わい、噛み締めた。火の入れ方、米の状態、具材との一体感……。明らかにもう一段上のレベルに達している。しかも今回は、事前に準備する時間などなかった。それでも、この完成度。
「…………。」
玲司は何も言わなかった。
次に、瑠衣の玉子スープへレンゲを落とし、掬ったスープを口の中へ流し込む。
「…………。」
玲司は目を閉じて、そして、ほんの少しだけ微笑む。
もう一度、航平の炒飯を食べる。続いて、玉子スープ。
「…………。」
もう一度、静かに頷いた。
「それでは、結果を発表する。」
五人の視線が玲司に集まる。
「今回の勝負――」
玲司は一拍置いてから結果を告げた。
「清永・泰中ペアの勝利だ。」
「なっ!?」
虎太郎が叫ぶ。
「なんでだ!?俺の炒飯も、辰樹の酢豚も絶品だっただろ!?」
「食べてみればわかるさ。」
玲司はそう言って、虎太郎と辰樹に二人の料理を食べるよう促した。
玲司の言葉に、二人は顔を見合わせる。
「……?」
そして、航平の炒飯と瑠衣の玉子スープを言われたように試食する。
「…………!」
虎太郎の目が見開かれる。
もう一度、炒飯。そしてスープ。
「……あ。」
辰樹も気づいた。
玲司が静かに口を開く。
「お前たちの料理は、確かに美味かった。だが、それだけだった。」
二人は黙って耳を傾ける。
「それぞれの料理が、それぞれ単体で完成している。」
玲司は航平と瑠衣の料理を見る。
「だが、清永と泰中の料理は違う。炒飯を食べたあとに、このスープを飲む。すると、また炒飯を食べたくなる。油分や塩気が強い炒飯の味を、さっぱりとしたスープがリフレッシュしてくれるし、口の中が潤って炒飯がさらに食べやすくなる。」
虎太郎は黙って二人の料理を見つめた。
「二つの料理が互いを引き立て、一つの食事として完成している。」
「…………。」
虎太郎はしばらく黙り込んだ。絶対の自信があった。どうしても、天才と呼ばれる斎浦玲司に勝ちたかった。それなのに、そこに辿り着く前に、完全に負けてしまった。悔しさで、爪が掌にめり込むほど、虎太郎は拳を握りしめていた。
やがて、肩を落とす虎太郎と辰樹に、瑠衣が声をかける。
「ねぇ。」
二人が振り返る。
「生意気だけど……料理は二人とも本当にすごかったよ。」
「……!」
「私だけだったら、絶対敵わなかったと思う。」
瑠衣は笑った。
「私も勉強になった!だから、これで仲直り!」
虎太郎と辰樹は、少し照れくさそうに顔を見合わせる。
「もっとこの学校でいっぱい勉強して、また清永くんにも斎浦くんにも挑戦したらいいよ。」
「……おう。」
「お互い、頑張ろうね!」
「ふん!」
虎太郎は照れ隠しのように鼻を鳴らす。
「当たり前だ!」
そして、いつもの自信満々な顔に戻る。
「まだ俺は負けてねぇ! もっと料理上手くなって、いつか絶対アンタたちに勝ってやるからな!」
虎太郎が勢いよく調理実習室の扉に向かって走り出す。
「待ってよ! 虎太郎くんー!」
辰樹も慌てて後を追う。
虎太郎が実習室を出ようとした、そのとき――。
英人が、扉の前に立ち塞がった。
次の瞬間――。
ドゴォッ!!
「グぺポッ!!」
虎太郎の勢いが、英人の16文キックによって止められた。
「キミたち、お片付けをしてから帰ろうね〜」
「……ハイ……すみません。」
辰樹は眼鏡を押し上げながら、深々と頭を下げる。
「よろしい。」
英人はそれだけ言って、踵を返した。
調理実習室に笑い声が溢れた。




