生意気すぎ!?新入生からの挑戦状!
「ちょっと待ってくださいよ、斎浦先輩!」
入学式が終わった後の東京具留米学園。体育館から教室へ向かう廊下を玲司が歩いていく。その後を、新入生の浅野虎太郎が追いかける。
「俺は、あんたと戦いたくてここへ来たんだ!一度だけでもいいから、俺と――」
「何度も言わせるな。今の俺に、お前の相手をしている暇はない。」
玲司は足を止めることなく答える。
「……くっ!」
虎太郎はその場で足を止めた。遠ざかっていく玲司の背中を、悔しそうに睨みつける。
「……絶対、いつか勝負させてやるからな。」
「だから言っただろ……。」
隣に追いついた三好辰樹が、眼鏡を押し上げながらため息をつく。
「斎浦先輩は生徒会の仕事もあるし、料理のことだけ考えてるわけじゃないんだから。」
「わかってるよ。」
虎太郎は腕を組んで考え込む。
「でも、俺はあの人を追いかけてこの学校に来たんだ。絶対に勝負したい……。」
虎太郎は腕組みをしたまま、その場に胡座をかいて座り込んでしまった。「…………。」
辰樹も、どうしたものかと頭を抱える。
そのとき――。
二人の前に、一人の人物が立ち止まった。逆光のせいで黒い影になっており、その表情はよく見えない。虎太郎が顔を上げる。
「……?」
その人物は、ほんの一瞬だけ足を止めると、虎太郎に何かを告げた。声は、辰樹には聞き取れなかった。
「…………。」
虎太郎はしばらくその人物の背中を見つめていたが、やがて――。
「……へぇ。」
虎太郎が立ち上がる。
「辰樹。」
「な、何?」
「ちょっと行ってみようぜ。」
「どこに?」
虎太郎はニヤリと笑った。
「二年C組。」
「清永くん!ほら!シャキッとして!がんばれー!がんばれー!」
「…………もう無理……。」
入学式が終わり、2-Cの教室に戻った航平は、相変わらず机に突っ伏している。
「…………。」
「…………。」
教室の入り口に立つ虎太郎と辰樹は、言葉を失っていた。
「あれが……?」
「うん……。」
「清永航平……?」
「……たぶん。」
「…………。」
虎太郎はしばらく航平を見つめる。
「…………あんなやつが?」
「……うん。」
「あんなにだらしなくて……。」
「……うん。」
「女とイチャイチャしてるやつが!?」
「それは関係あるの……?」
辰樹の言葉には答えず、虎太郎はズカズカと教室の中へ入っていった。そして、そのまま航平の机の前まで歩いていく。
「アンタが清永先輩?」
「ん?……そうだけど……。お前、一年だろ? なんか用か?」
机に突っ伏していた航平が、顔だけを上げる。
「俺と勝負しろ!!」
「……は?」
突然の大声に、教室中の生徒たちが一斉に振り返った。
「……なんだ?」
教室の端では、玲司が面倒そうな顔をしている。航平はしばらく虎太郎を見つめたあと、深いため息をついた。
「……なんで?」
「なんでって、料理の勝負だよ!」
「いや、そうじゃなくて、なんで俺がお前と勝負しなきゃならないんだよ。」
「アンタがこの学校のもう一人の天才だって聞いたからだ!」
「……誰がそんなこと言ったんだよ。」
虎太郎は一瞬だけ口を閉じる。
「……とにかく!俺はアンタと勝負したいんだ!」
「俺はしたくない。」
「なっ!?」
あまりにも即答だった。
「面倒くせぇし。俺は学校とバイトで忙しいんだよ。」
虎太郎の眉がピクッと動く。
「待てよ!俺はこの日のために――」
「はいはい。すごいすごい。」
「聞けよ!」
虎太郎が机をバンッと叩く。
「……うるせぇな。」
航平は再び机に突っ伏した。
「俺、もう寝るから。」
「なっ……!」
虎太郎は拳を握りしめる。
「……へぇ。なるほどな。」
そして、ニヤリと笑った。
「料理より女とイチャイチャしてるほうが趣味ってわけか。だったらタッグ戦でもいいぜ?俺は辰樹と組む。アンタはその女と組めばいい。」
「えぇ!?僕もやるの!?」
虎太郎の挑発に、航平の隣で、瑠衣の眉がピクリと動いた。
「女・・・?」
「まぁ、逃げるってんならそれでもいいけどな。そうすると俺の勝ちってことだよな。斎浦先輩、アンタのライバルに俺、勝っちゃったみたいなんですけど、俺の相手してもらえませんかね?」
玲司が面倒そうに顔を上げる。
「逃げる・・・?」
瑠衣が呟いた。
「…………。」
その表情から、笑顔はすっかり消えていた。
「さっきから黙って聞いてれば……。」
教室中の空気が変わる。
「人のことを勝手に『女』呼ばわりして、清永くんのことまで馬鹿にして……。」
瑠衣は虎太郎を真っ直ぐ見据える。
「いい加減にしなさいよ!」
突然の大声に、虎太郎は心臓をドクリと跳ね上げた。
「!?…お、おう……?」
「タッグ戦……?望むところよ……。その勝負――」
瑠衣が一歩前に出る。
「受けて立ちます!!」
「おおっ!」
虎太郎が嬉しそうに拳を握る。
「言ったな!?」
「女に二言はありません!」
「よっしゃあ!」
大群と今永を中心に、2-C全体も盛り上がる。
「……えぇ~……。」
異様な熱気の中、航平だけが、机に突っ伏したまま情けない声を漏らした。




