桜咲く春、新しい出会い。
四月。東京具留米学園に、今年も新しい春がやってきた。
冬の間、固く閉じていた桜の蕾はいつの間にか満開に花開き、校門から続く桜並木を淡い桃色に染めている。真新しい制服に身を包んだ新入生たちが、期待と緊張を胸に抱えながら、その下を歩いていく。今日から、彼らも東京具留米学園の生徒になる。初々しいその姿を見て、瑠衣は微笑み、航平は時の流れの早さを感じていた。
「一年前は私たちがあんな風だったんだよね。懐かしいね。」
「そうだな。」
二人の視線の先には、新入生たちの中で一際大きな声を上げながら校門をくぐる、小柄な男子生徒がいた。
「うわぁ……広ぇなぁ!ここが日本一の調理科高校、東京具留米学園か!燃えてきたぜー!!」
「虎太郎くん!入学式の前からそんなに騒いだら……!」
その後ろを、長身で眼鏡をかけた男子生徒が慌てて追いかけている。
「だってよ、辰樹!ここが東京具留米学園だぞ!?俺、ずっとここに来たかったんだ!」
「わかってるけど……声、大きいって……。」
二人は周囲からの注目を集めながら、校舎を見上げていた。
その少し後ろでは、一人の少女が静かに二人を眺めている。
「…………。」
黒髪の少女だった。周囲が友達と楽しそうに話している中、彼女だけは誰とも言葉を交わさず、ただ無表情のまま、騒がしい同級生たちを無視するように、校舎に向かって歩いていってしまった。
さらにその後ろでは、派手な髪色に健康的に焼けた肌の少女が、友人らしき女子たちと楽しそうに話しながら歩いていた。
「ねぇねぇ、あの先輩かっこよくない!?」
「入学初日からそれー!?。」
「だって、せっかく高校生だよ!?青春だよ!?青春!」
「うるさいな・・・。もう少しクールにできないのか?まったく・・・。」
そんなことをブツブツ呟きながら、賑わう新入生たちの横をすり抜けるように歩く少年。きちっと制服を着こなし、少し長めのマッシュヘアーが特徴的だ。目を覆っていた前髪を風が揺らし、髪に桜の花びらがくっつく。そっと花びらを摘んで、髪を直す。
「これは・・・クールじゃないな。」
こうして、個性豊かな新入生たちを迎え、東京具留米学園の新しい一年が始まろうとしていた。
「今年も個性的な新入生がいっぱい入ってきそうだね。」
「個性的で済めばいいけどな・・・。めんどくさいヤツらはごめんだぜ?」
本当に嫌そうな顔をする航平の言葉に、瑠衣はフフッと笑う。
やがて、入学式の開始を告げる鐘が鳴った。
「じゃあ、そろそろ行こうか。」
「おう。」
航平と瑠衣も、他の生徒たちに続いて体育館へ向かった。
体育館には、すでに多くの生徒が集まっていた。二年生になった航平たちは、在校生の席に並んで座っている。その前方には、これから入場してくる新入生たちを迎えるように、たくさんのパイプ椅子が並べられていた。
去年は、自分たちが座っていた新入生の席。期待と不安を胸に、何もわからないままこの体育館に足を踏み入れたあの日。あれから一年。
新入生たちの姿を見て、一年前の自分たちの姿を思い出す。
舞台袖では、生徒会のメンバーが入学式の進行を確認している。斗麿が卒業してから、生徒会長も新三年生へと引き継がれていた。玲司と聖羅は、新しい生徒会メンバーとして、その隣で資料を確認している。
「そろそろ始まりますね。」
聖羅が資料から視線を上げると、体育館の扉が開く。
「新入生、入場!」
吹奏楽部の演奏が始まり、真新しい制服に身を包んだ新入生たちが、一列ずつ体育館へ入ってくる。
「うわわ。」
瑠衣が思わず声を漏らした。
さっき校門で見かけた小柄な男子生徒が、胸を張って堂々と歩いている。そのすぐ後ろでは、長身の眼鏡の男子生徒が周囲を気にしながら歩いていた。
「……あの二人、やっぱり目立つね。」
「特に前のチビな。」
「これこれ、チビはよしなさい。」
さらにその後ろ。
黒髪の少女は、周囲を気にすることもなく、無表情のまま淡々と歩いている。
派手な髪色の少女は、隣の女子と何やら楽しそうに話していた。
そして、少し離れたところには、髪型を何度も気にしている男子生徒。
「……クールに……クールに……。」
その様子を見て、英人が呟く。
「……なんだあいつ。」
「さぁ……。」
航平は首を傾げた。
やがて新入生全員が席につき、入学式が始まった。校長の式辞、新入生代表の挨拶、在校生代表の歓迎の言葉。厳かな空気の中で式は進み、やがて最後の拍手が体育館に響いた。
「これにて、令和XX年度東京具留米学園高等学校入学式を終了いたします。」
長い式を終え、生徒たちが一斉に立ち上がる。
「終わったー……。」
航平は誰よりも早く立ち上がった。
「清永くん。そんなに急がなくてもいいでしょ。」
「疲れた・・・眠い・・・。」
「もう・・・。」
航平はさっさと体育館を出ていく。
「待ってよ、清永くん!」
瑠衣がその後を追いかける。その後ろで、玲司は航平を呆れたような目で見送ったあと、一人体育館から渡り廊下へ出る。
すると――。
「斎浦先輩!」
渡り廊下に、先ほどの小柄な男子生徒の声が響いた。玲司が足を止める。
「・・・入学初日から、俺に何か用か?」
男子生徒がニヤけながら駆け寄ってくる。その後ろには、あの眼鏡の男子生徒もいた。
「俺は浅野虎太郎!俺と、料理で勝負しろ!斎浦玲司!」
「…………。」
玲司はしばらく虎太郎を見つめた。
「断る。」
「なっ……!?」
「悪いな。お前に構っている時間はない。」
それだけ言うと、玲司は何事もなかったように歩き始めた。
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ、斎浦先輩!」
虎太郎が慌ててその背中を追いかける。
「だから言ったのに……。待ってよ!虎太郎くん!」
三好辰樹が、小さくため息をつき、虎太郎の後を追う。
こうして、東京具留米学園に新たな騒動の種が蒔かれたのだったーー。




