卒業シーズン到来!それぞれの春。
三月。東京具留米学園の桜並木では、まだ固い蕾が、春の訪れを待つように枝先に並んでいた。その下を、いつもと変わらない制服姿の生徒たちが行き交っている。その中に見慣れた三年生たちの姿を見つけ、航平はふと足を止めた。
「三年生の先輩たちも、もうすぐ卒業だね・・・。」
隣を歩く瑠衣が、桜の木を見上げる。
「あぁ。」
航平が東京具留米学園に入学して、約一年。思い返すと、三年生とも色々なことがあった。
斗麿や里愛、浩然との出会い。夏のBBQや、文化祭、クリスマス・パーティー・・・。
どれも、入学前の自分では想像もしていなかったような出来事ばかりだった。
「・・・寂しくなるね。」
「・・・かもな。あんまり、よくわかんねーけど。」
そのとき、前を歩いていた斗麿がこちらに気づき振り返った。
「やぁ。清永、泰中。」
「おす。」
「おはようございます!先輩たちも、もうすぐ卒業ですね・・・。」
「そうだな。まだ実感は湧かないが・・・。」
斗麿は高校の校舎を見上げながら言った。
「三年間、本当に色々なことがあったよ。」
「初めてうちに藤崎先輩が来て、清永くんのワンタンスープを食べて行ったのが懐かしいです。」
「一年てあっという間ですね。ついこの間入学したような気がするのに、もう先輩たちが卒業するなんて・・・。」
斗麿は笑った。
「時間は待ってくれないからな。今度はお前たちが先輩になる番だ。きっとまた、面白い新入生が入ってくるだろう。」
「俺たちが、先輩か・・・。」
「でも、お前たちなら大丈夫だ。一年前とはまるで別人。見違えるほど成長した。」
そう言われて、航平たちは照れを隠すように顔を横に向けた。
「東京具留米学園を頼んだぞ。」
斗麿が微笑む。そして航平の耳元で小さな声で続ける。
「聖羅のことも、よろしく頼むよ。」
「?」
キョトンとした顔の航平の顔を見て、斗麿は笑いながら歩いて行った。
「これでよし。荷物、しばらく置きっぱなしにしてしまってごめんなさい。」
「いえいえ!たくさんの書類や資料があって、学校のために美波さんも頑張っていらしたんだなって。勉強にもなったし、私ももっと頑張らなきゃって思わされました。」
生徒会室で、美波と聖羅が残っていた美波の荷物をまとめながら話していた。
「兄も美波さんも卒業してしまって、大丈夫かなって不安です。」
美波はふっと笑う。
「聖羅さんならきっと大丈夫よ。最初から完璧にできる人なんていないんだし、自信を持って?最初は私だって失敗してばかりだったんだから。」
「美波さんが!?」
「うん。資料を失くしたり、書類を忘れてきたり、行事の日付を勘違いしていたり・・・。でもその度に、会長が助けてくれたの。」
「そうだったんですか・・・。なんか意外だな。」
「私は会長を心から尊敬してる。勉強は常にトップでスポーツ万能。そして、名門グランメゾンの跡取り息子として、プレッシャーと闘いながら会長としての職務も最後までしっかり果たした。あなたはその会長の妹なんだもん。大丈夫。私が保証します。」
そう言って、美波は優しく微笑んだ。次の瞬間、聖羅が美波に抱きついた。
「私、寂しいです。もっと美波さんとお話ししたかった。」
美波も、聖羅をそっと抱きしめる。
「ありがとう、聖羅さん。」
二人の目には涙が滲んでいた。
「またここにいたんですか。暇ですね。」
「うるさい。私は一年の時からここに来てるの。邪魔しないで。」
「学校はみんなのものですよ。生徒会のメンバーとして言っておきます。」
「いちいちムカつくのよ、アンタは。」
里愛が校庭の隅のベンチで物思いに耽っていると、玲司がやってきて声をかけてきた。最近、二人はよくここで話しをするようになった。二人とも、このベンチが気に入っていた。
「卒業後は、どうするんですか?」
玲司は目を合わせないまま聞いた。
「大学へ行く。今働かせてもらってるリストランテも続けながら、もっと料理を勉強する。将来自分の店を持つためにね。」
「そうですか。」
そこから二人は黙ったまま、ベンチに座り続けていた。
どれくらい経っただろうか。長かったような気も、短かったような気もする。玲司が立ち上がる。
「先輩の店ができたら、すぐに教えてください。食べに行きます。」
里愛に背中を向けたままそう言って、玲司は歩き出した。
「・・・お祝いに美味斎から花くらい出しなさいよ。」
里愛は玲司の背中に呟く。聞こえていたかどうかはわからない。ただの別れの挨拶だったのかもしれないが、玲司は里愛から遠ざかりながら、右手を小さく上げて去っていった。
卒業式当日。桜の蕾はまだ開いていない。体育館には、全校生徒と教職員が集まっていた。卒業証書の授与、校長の式辞、生徒会長の送辞と、式は厳かに進行し、卒業生代表の斗麿の答辞が始まった。一つひとつの言葉が、静かな体育館に響いていく。
式が終わり、体育館を出ると、三月の冷たい風が頬を撫でた。まだ咲いていない桜並木の下を、卒業証書を手にした三年生たちが歩いていく。
体育館のすぐ横で、斗麿、美波、里愛、浩然といった面々が談笑や記念撮影を行なっていると、遠目からその様子を見つめる和馬の姿に、斗麿は気がついた。二人は黙って目を合わせると、和馬がそっと頭を下げた。斗麿もそれに答えて頷く。和馬は、そのまま黙って背中を向けて去って行った。
「こんな時でも、生意気なやつね。」
それに気付いた里愛が笑う。
「あぁ。そうだな。」
「先輩!」
航平や瑠衣、1-Cの面々が四人に声をかけ、四人が振り返る。
「一年間、ありがとうございました!」
三年生たちは微笑んで、卒業証書を片手に、桜並木を歩いていく。その背中を、航平たちはいつまでも見つめていた。
「私たちも、あんな風にかっこいい先輩になれるかな・・・。」
「・・・なろうぜ。かっこいい先輩。そしていつか・・・あの人たちよりも立派な料理人に・・・!」
やがて風が吹く。
枝先で、まだ固い桜の蕾が小さく揺れた。
四月。東京具留米学園は新学期を迎える。今日から航平たちも二年生になる。航平と瑠衣はいつものように二人並んで登校する。学校に着き、校舎までの道を歩いていると、遠くに浩ぜんがいるのが見えた気がした。
「ん?」
「何?どうしたの?」
「いや、気のせいか・・・?」
また少し歩くと、小柄なツインテールの女性の後ろ姿を見つける。
「んん?」
「さっきからなに?」
「いや、だってさ・・・」
航平が困惑していると、誰かが後ろから声をかけてきた。
「どうした?清永。」
振り返ると、そこには斗麿と美波の姿があった。
「先輩!?なんでここに・・・!?」
航平と瑠衣は驚いて目を大きく見開いた。
「なんでって・・・。俺たち、今日から東京具留米学園大学の一年生だからな。」
「「・・・・・・は?」」
東京具留米学園大学は、高校と同じ敷地内にある系列大学で、東京具留米学園高校の卒業生の多くがそのまま進学するのだ。
「そういうこと。まだまだ先輩として敬いなさいよ。」
里愛が横から入ってきて言い放った。
「チンヨン!これからもよろしくナー!」
浩然までやってきて、航平たちは大パニックである。
「あんたら・・・」
航平がわなわなと震える。
「紛らわしい態度取るんじゃねぇ!!俺たちの感動を返せェェェエエエ!!」
東京具留米学園に、また騒がしい春がやってきた。
読んでいただき、ありがとうございます。
マーボーよりもアツいキミ 〜天才高校生料理人の、調理科高校ドタバタ青春ラブコメディ〜、
このエピソードを持って、第一部を完結とさせていただきます。
これから少し休んで、またすぐに第二部を開始したいと思っております。
これからも応援、どうぞよろしくお願い申し上げます。
新橋茶ス




