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具留米祭決着!一年C組、熱戦の果てに!


 東京具留米学園は文化祭の初日を終え、航平たち一年C組は、夕方の教室で緊急会議を開いていた。

「3-F、3-I、そして2-B…。やはり優勝候補だけのことはあったな。」

静まり返った教室で、玲司が静かに口を開いた。

「俺たちの発想は間違っていなかった。その証拠に、優勝候補の3-Iとはアイディアも価格も似通っている。3-Fもさすがと言わざるを得ない。強気な価格設定に負けない味と美しさ。何より、王者の風格がクラス全体から漂っていた。だが、一番の衝撃は、やはり2-Bか。」

航平が頷く。

「あぁ。あれには驚いた。食べ歩きやすいように醤油のかわりに使ったジュレが、味にも見た目にも重要な役割を果たしてた。あれはフレンチの技法の応用だよな。きっと、藤咲先輩に対しての挑戦状なんだよ。それに、オペレーションも完璧だった。」

「うん…。先輩たちみんな手際が良くて、どの料理も美味しかったけど、2-Bには圧倒されちゃった…。」

瑠衣をはじめ、女子たちはみんな不安そうにしていて、教室が再び静まり返る。

「確かに、どのクラスも想像の上をいってたと俺も思う。」

英人が沈黙を破った。

「これは俺の考えだけど……今年は今のところ2-Bが頭一つ抜けてると思う。」

みんなが英人に注目する。

「まず、3-F。俺も食べてきたけど、確かにうまい。あのポワレは、一流レストランで出されてもおかしくない出来だと思う。だけど、文化祭のメニューじゃない。3-Fは去年、鴨胸肉のロティを800円で出して優勝した。それを踏襲して、一口サイズのメニューでよりフレンチの王道であるフォアグラのポワレを選択したんだと思う。前年の上をいく、というテーマは理解できるけど、真新しさに欠けてしまい、価格も1,000円の大台に乗ってしまった。これがかなりネックだと俺は思う。」

みんな黙って英人の話を聞く。

「それから3-I。もう一組の優勝候補。ここは発想がうちにかなり近い。味も申し分なくうまかった。だけど、ここには俺はかなり競れてると思ってる。」

「その通りだ。」

玲司が頷き、分析する。

「アランチーニは確かに美味かった。だが、ジャンルが違うとは言え、味なら俺たちも負けていない。そして値段が400円。二つ入りで700円の設定。対して、うちは一本400円。二本購入での割引をしていない。調味料で味の違いも演出しているから、価格を合わせれば、リピートを獲得しやすのはうちの方だろう。」

「その通り。だから、2-Bに勝てば、俺たちの優勝だ。」

クラスのみんながポカンとした顔をして、英人を見つめる。

だが、航平と玲司だけは違った。

「俺もそう思う。あの手巻き寿司に勝つのはかなり大変だけど、まだ後1日あるんだ。」

「俺がいながら、料理で負けるわけにはいかないからな。何か打つ手はあるはずだ。」

三人の言葉に、誰からかはわからないがプッと吹き出す声がして、クラス中が一斉に笑いだした。

「あんなすごい先輩たちを見て、まだ優勝する気じゃん、コイツら」

「ほんと、すごいよ。なんか元気出てきたもん。」

「よーし。こうなったらとことんやって、とろうぜ!史上初の一年生クラスの優勝!」

そんな盛り上がる1-Cの様子を廊下から見ていた渡邊は、クスッと笑って、職員室へ帰っていった。

「がんばれよ。みんな。」


 翌日、1-Cは新たに作戦を立てた。まず、春巻きの値段を3-Iに合わせて、一本400円、二本なら700円に割引することにした。味変の調味料を多く用意している利点を活かし、リピーターを増やす狙いだ。そして、新メニューも追加した。新メニューは、『アップル春巻き』。切ったりんごをバターと砂糖でしんなりするまで水分を飛ばしながら炒めてシナモンを振り、しっかり冷ましたらそれを春巻きの皮で包んで揚げたアップルパイだ。急遽このメニューの追加を提案したのは、英人だった。

「出店の中にスイーツ系のメニューが少ないこと。そして、新価格のおかげで普通の春巻きとアップル春巻きをセットで買いやすくなるはずだ。客単価アップ間違いなし!」

英人は自信満々といった様子でそう言っていた。

 文化祭の二日目は、外部からの来客も招待されている。売上を伸ばす本番はこの二日目。1-Cの生徒たちは、誰かに強要されるでもなく、皆休憩時間も率先して店に立って働いていた。

「やっと食べに来られたよー!昨日はうちのクラスのお化け屋敷が忙しくって…。泰中さんの作る春巻き、絶対食べたいと思ってたんだ!」

午後1時、1-Cの教室では弦之介が元気いっぱいの様子で瑠衣に声をかけていた。

「いただきます!……んー!やっぱりうまい!丁寧な仕事、完璧な火加減。外はパリパリ中はジューシーで、それに大葉も嬉しい。さすがは泰中さん!やっぱり優しい人なんだ!」

そう言って弦之介は春巻きを頬張る。これで7本目だ。

「あ、あのね、宍戸くん、それはね…」

「おい宍戸、お前が食ったの、全部材料切ったのは斎浦で、包んだのは今永、揚げたのは俺のロットで、瑠衣は何も手つけてねぇぞ。」

航平がニヤニヤしながら調理場から弦之介に顔を見せる。

「なにーーー!?詐欺じゃねぇか清永てめぇ!!」

弦之介は今日も元気いっぱいである。


「考えたわね。うちの価格に合わせてきた上に、新メニューの追加。しかもクオリティーも高い…。斎浦玲司…さすがは東京具留米学園始まって以来の天才と言われるだけあるってことか…。」

クラスメイトが買ってきてくれた1-Cの春巻きを食べて、里愛は奥歯を噛んだ。

「でも、私たちだって負けるわけにはいかない。三年の意地、見せてやる!」


 同じく、1-Cの春巻きを和馬も食べていた。

(……美味い。具材の丁寧な処理。この包丁の扱いは繊細な和食と比べても引けを取らない。それに、火入れも完璧だ。皮はパリパリ、中はジューシー。それでいて余計な油分は感じない。これが天才・斎浦玲司の実力か。それに、もう一人…。清永航平…。覚えておこう。)

春巻きを一気に食べ切ると、和馬は黙って仕事に戻っていった。


ーーー数時間後。

全てのクラスが、二日間の営業を終えた。この年の具留米祭は、かつてないほどの盛り上がりを見せ、どのクラスも最後まで大忙しで、生徒みんながやり切ったという清々しい表情をしていた。

「皆さん、本当にお疲れ様でした。調理科も経営科も、各クラス素晴らしい出店だったと思います。そして、先ほど全てのクラスの売上が報告され、先生方の最終確認が終わって、今年の具留米祭、調理科の売上順位が確定しました。」

閉会式で校長が壇上から文化祭を総括した。

「早速、順位を発表していきたいと思います。」

全校生徒が、息を呑む。


 調理科は和食コース、中華料理コース、フレンチコース、イタリアンコース、多国籍料理コースの5コースが一学年に一クラスずつあり、上位7クラスの結果が発表される。

「まず、第7位。………一年F組。」

7位に聖羅たちの1-Fが入り、1-Fの生徒たちが歓声をあげている。

「一年生で上位に入賞は素晴らしいことです。おめでとう。」

校長は笑顔で称えた。その後、6位と5位の発表があり、第4位の発表の番が来た。

「第4位は……。1-C!」

おぉ、と全校生徒が驚いていた。

「一年生の第4位獲得は昨年の和食コース、一昨年のフレンチコースと並ぶ素晴らしい成績です。おめでとう。」

全校生徒が拍手を送り、1-Cの健闘を称えた。しかし、航平も、玲司も、瑠衣も、英人も、クラス全員が下を向いたままだった。

(届かなかった…。)

(4位…か…。)

航平と玲司は奥歯をギュッと噛んで、拳を握りしめていた。


「続いて第3位。ーーー3-I。素晴らしいアランチーニでした。おめでとう!」

発表を聞いた3-Iの生徒たちは、そのほとんどが悔しさで涙を流していた。里愛は、声をあげて泣いている女子生徒を黙って抱きしめ、慰めていた。


「残っているのは、3-Fと2-Bの2クラスです。本当に僅差でした。発表します。第2位は…。」

校長が、長いためを作る。

「第2位は、3-F!そして、優勝は、2年B組!!」

その校長の声に、2-Bの生徒たちが大歓声をあげた。

「……。」

3-Fの生徒たちは、やはりそのほとんどが涙を流して悔しがり、崩れ落ちて立てない者もいた。斗麿は黙って目を瞑り、2-Bに向けて拍手していた。



 東京具留米学園文化祭、具留米祭。2日間の出店を終え、夕方からは有志の生徒たちによるダンスの発表やバンド演奏などが行われる後夜祭が開催されていた。

「やっぱり2-Bが優勝だったな。」

体育館のステージ上のダンスを後ろの方から見ながら、航平と瑠衣が話している。

「うん、まさか藤咲先輩たちも優勝できなかったなんて、信じられないなぁ。それに、難しいのはわかってたけど…私たちも…。」

「あぁ。そうだな。」

二人のそばでは今永と吉崎、大群も号泣しており、英人と神司、岩井が3人を慰め、貫戸がそれをぼんやり眺めている。全員が悔しそうにしていた。

「私、こんなに悔しいって思ったの初めてだよ。」

瑠衣はそう言ってポロリと一粒涙を溢した。

「来年……来年は、絶対勝とう。藤咲先輩も勝てなかった真田先輩に、俺たちで。」

「うん…!」


 その頃、玲司は一人中庭に向かっていた。一人になりたい気分だった。しかし、中庭に着くと、ベンチには先客が座っていた。ーーー伊達里愛だった。

「……負けました。」

泣いている里愛の横に座り、玲司は言った。

「何?何か用でもあるの?それとも、負け犬の顔でも拝もうっての?」

里愛は顔を逸らして、なんとか泣き顔を隠そうとする。

「いえ、負け犬は俺の方ですから。」

「一年坊主が本気で勝つつもりだったの?生意気。」

「……すみません。」

「……やけに素直なのね。」

「……すみません。」

「……。」

二人はお互いにそれ以上は何も話さなかった。


「お兄様、大丈夫?」

「あぁ、大丈夫だよ、聖羅。」

藤咲兄妹は生徒会室の前にいた。

「聖羅も頑張ったな。一年生で7位はすごいことだ。胸を張っていいぞ。」

「はい…。」

「さぁ。後夜祭、楽しんでおいで。俺は大丈夫だから。少し残っていた生徒会の仕事をしてから俺も後夜祭へ行くよ。」

斗麿はそう言って聖羅を見送ると、生徒会室の一番奥、会長の席に座って、天井を仰いだ。

「お疲れ様でした。残念でしたね…。」

副会長が生徒会室へやって来て、斗麿に声をかける。

「あぁ、ありがとう。残念だが、真田たちの手巻き寿司は本当に見事だった。完敗だよ。俺もまだまだだな。」

「そんな…。私は、会長の作ったフォアグラが、どの料理よりも…好きでした…!」

副会長は顔を真っ赤にして、俯きながら言った。

「……ありがとう。」

斗麿は副会長に優しく微笑んだ。


 後夜祭では、最後の演目の有志によるバンド演奏が終わり、フィナーレを迎えていた。2年ほど前に流行った曲を全校生徒で歌い、文化祭は全ての日程を終えた。後夜祭を終えた体育館では、2-Bが優勝の喜びがおさまらない様子で、航平と瑠衣はそれを黙って見つめていた。ふと、航平と和馬の視線がぶつかる。二人は何も言わなかった。ただ、二人とも互いの目を見つめたまま、小さく笑った。

ーー来年。もう一度勝負だ!


 こうして、東京具留米学園文化祭『具留米祭』は幕を閉じた。航平たち一年C組にとって、初めて味わった大きな敗北。しかし、その敗北は、料理人として、そして人間として、彼らを確実に次のステージへと押し上げていた。

そして、彼らはまだ知らない。この文化祭をきっかけに始まった、新たな料理人たちとの出会いが、これからの高校生活を、さらに熱くしていくことを――。







 その夜の泰龍軒。龍彦が店の黒電話で誰かと話をしている。

「あぁ。航平と瑠衣のクラスは4位だったそうだ。おまえたちが一年生のときは3位だったか?それが未だに一年生史上最高位らしいな。しかし優勝は二年連続で二年生というんだからわからんものよのう。おまえたちですら優勝は三年時だけだったというのに。もし来年、航平たちが勝つようなことがあれば、おまえにもできなかった連覇を、航平たちがやらかすかもしれんなーーー。」

龍彦はガッハッハと笑って、黒電話を切った。


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