文化祭開幕!一年C組、いざ出陣!
東京具留米学園の文化祭当日。生徒たちは朝早くから登校し、最後の準備に取り掛かっていた。材料を切り、餡を作り、皮に包む。準備は順調に進み、予定通りの数を開会式の前に包み終えた。
開会式が始まり、校長先生のやや長い話が終わると、斗麿が開会を宣言する。
「今年も例年通り、調理科はクラス対抗戦となっています。もちろん、他学科の出店や、有志による出し物も例年以上に盛り上がるものになるだろうと思っています。東京具留米学園、その生徒全員の思い出に残る、良い文化祭にしましょう。ここに、東京具留米学園高校文化祭、『具留米祭』の開会を宣言します。」
斗麿の挨拶に拍手が起こり、学生たちが盛り上がる。航平たち1-Cは教室に戻り、最後のミーティングを済ませる。
「いよいよ、文化祭当日だ!みんな頑張ろう!」
学級委員の声に全員の士気が上がる。
1-Cはクラスを3つのチームに分けて営業をすることに決めた。それぞれのチームに調理・販売・休憩の自由時間が順番に回ってくるシフトにするというものだ。
航平と瑠衣は、最初に調理場に入るAチームになっていた。油を立ち上げ、春巻きを揚げていく。一度揚げたものをバットにあげ、準備は整った。時刻は10:00。各クラスの営業がスタートし、それぞれの教室から販促担当の生徒たちが飛び出して、大きな声で呼び込みを始める。1-Cでは英人たちBチームが販売を担当。主に女子たちが会計を行い、英人たちは宣伝のために声を張る。
「きっと売れるよね。あんなにみんなで準備したもんね。」
航平は不安そうな瑠衣を励ます。
「一生懸命準備してるのは、どのクラスも同じだ。俺たちは俺たちのやることをやる。結果は後からついてくるさ。」
「そうだね。うん!頑張ろ!」
その頃、最初の休憩シフトのCチームに所属していた玲司は、大群、岩井ともに他のクラスを見て回っていた。
「やっぱり、まずは去年優勝の3-Fか?」
「そうだな。やはりそこを一番最初にチェックすべきだろう。」
大群の問いに玲司は淡々と答える。
3人が3-Fの教室に到着すると、すでに行列が出来上がっていた。
「3-Fは、フォアグラのワンハンド・ポワレか…。うわっ!まじかよ…さすがというかなんというか…すげぇな3-F。」
大群がパンフレットを見ながら感嘆の声をあげた。
「ディフェンディングチャンピオンだもんね。それだけで、何もしなくても宣伝効果があるってことかな…。去年のメニューが相当人気だったみたいだし。それに藤咲先輩は生徒たちからの信頼も厚いから…。」
岩井も不安そうだ。
「とにかく、食べてみないとな。行くぞ。」
3人は行列の最後尾に並び、順番が来るのを待った。その間、教室から出てくる人々を観察する。小さめだが、バルサミコソースと付け合わせのイチジクでかわいらしく飾り付けられた器に、串に刺さった一口大のフォアグラのポワレが置かれている。食べた者はみな、幸せそうな笑顔を浮かべていた。
行列ではあるものの、進みは早く、あっという間に玲司たちの順番が回ってきた。会計を済ませ、商品受け取りカウンターまで進むと、斗麿が直接料理を持って調理場からやってきた。
「やぁ。来てくれたのか。去年、鴨胸肉の一口ロティで優勝した経験を踏まえて、今年はフォアグラのワンハンド・ポワレに決めたんだ。俺たちのポワレ、是非楽しんでくれ。」
そう言って、笑顔でポワレの皿を手渡してくれた。3人はお礼を言い、教室の空いていたテーブルで食べることにした。そして、その味に驚いた。
「これが…高校生が文化祭で出すクオリティーの料理なの…?」
「下手なレストランのポワレじゃ相手にならないぞ、これは…。」
トロッとしたとろけるような食感。特有の生臭さもなく、火の入りも均一にレアに仕上げられている。下処理の段階から丁寧な仕事がされていることがわかる。
「一流レストランで出すような、上等なフォアグラじゃないはずなのに、このクオリティー。小ぶりではあるし、文化祭で1,000円は高いとは思うが…1,000円払っても食べる価値がある一品だな。」
さすがは三年生。さすがはフレンチの天才、藤咲斗麿率いる3-F。認めざるを得ない実力だった。
玲司たちが次に向かったのは、3-I。イタリアンコースの教室だった。
「斎浦くん…なんか、怒ってる…?」
「顔が怖いぞ…斎浦…」
二人の言葉を無視して、玲司は3-Iに向かう。
(あの女……俺が、藤咲先輩はおろか、アイツにも及ばないだと?どれほどのものか、見てやろうじゃないか。)
1-Cでは、英人たちの声かけもあり最初の客がやって来ていた。
「春巻き1つください。」
「ありがとうございます!400円です!」
ついに今日の最初のオーダーだ。航平が一次揚げを済ませていた春巻きを素早く高温で二度揚げする。揚がった春巻きを紙コップに入れ、ペーパーホルダーと一緒に提供する。
「お待たせしました!ありがとうございまーす!」
今永が元気よくお礼を言って、春巻きを手渡す。そして、1-Cみんなが、最初の一口目の反応に注目した。
「美味そう〜!」
そう言って醤油とからしをつけて、一口目を頬張る。ザクッという音がする。
「何これ、うま!」
パリパリの皮の中から、具材の旨味が濃縮された熱々の餡が溢れ出し、口いっぱいに広がる。
「そんなにうまいの?俺も食ってみたい!おねえさん、俺にも一つ!」
「はい!ありがとうございます!」
その後も春巻きを食べている人たちの様子を見て、続々と客が集まってきた。行列の長さは、上級生たちのクラスにも引けをとっていない。そして、驚くべきはその提供までのスピードだった。
「え?もうできたの?」
「はい!揚げたてですよ!」
そんなやりとりを今永たち接客係が何度もしているのが聞こえてきていた。
「二度揚げ作戦、大成功だね!」
瑠衣が笑顔で航平に言った。
「あぁ。しかも皮の端をしっかりと折ってから、水でといた小麦粉を塗って密閉したから、二度揚げしても余計な油が中に入り込まないんだ。」
「お肉はたっぷり使ってるけど、野菜や春雨とのバランスも計算したし、多めの生姜でさっぱり感もアップして、本当に美味しくできてるよね!」
さらに、瑠衣の発案で、醤油、お酢、からしの他に、黒酢や梅だれ、山椒、ケチャップやチリソースなどの調味料を用意して、好みで味付けできるようにしたり、+20円で大葉を巻いて提供するなど、リピートと単価アップを狙う作戦も採用した。
「さぁ!どんどん呼び込んでくれ!ジャンジャン揚げるぞ!みんな!」
1-Cの熱気は春巻きを揚げる油のように熱くなっていた。
玲司たちが3-Iの教室に到着すると、そこには3-Fに負けず劣らずの行列ができていた。メニューは、自家製ラグーのアランチーニ。こちらの列も、見た目よりも早く順番が回ってきた。ピンポン玉サイズのライスコロッケの中にラグーソースとチーズが入っている。かわいらしい見た目と食べやすいサイズで、特に女子生徒たちから人気のようだ。玲司たちは再び列に並び、商品を購入した。
「さっきのフォアグラより安い600円か。イタリアンコースの三年生が作った自家製ラグーのライスコロッケなら、安いのかもな。」
「小ぶりでおしゃれなカップにアランチーニが2つ入ってて、女性にも食べやすい感じ。」
大群と岩井が受け取ったアランチーニを見て感想言っていると、そこに赤毛をツインテールにした小柄な女子生徒、伊達里愛が現れた。イタリアンコースで三年間トップの成績を収め続けている女子生徒で、入学直後から斗麿をライバル視しているらしかった。
「あら、天才一年生くんじゃない。この前言われたことが悔しくて、私がどんなもんか見に来たってところかな?クールな顔してるけど、やっぱりまだまだ子供だね。」
大群と岩井は、ここまで斎浦をおちょくるようなことを言う生徒がいるとは思わず、驚きを隠せなかった。二人の間に何があったのかは知らないが、斎浦が明らかに不機嫌そうなことだけは火を見るよりも明らかだった。玲司は里愛を睨みつけて、無言でアランチーニを食べ始めた。
ザクッという音がして、中から濃厚なラグーととろとろ熱々のチーズが溢れ出す。
(このクオリティーを、この短時間で提供しているのか…。)
玲司は一度目を閉じて、もう一口アランチーニを口に運んだ。
「二度揚げですか。」
「そう。あなたたちも、用意したのは春巻き…揚げ物だったわね。同じようなやり方ってわけか。一年生でそこまで辿り着いたことは褒めてあげるわ。さすがに創立以来最高の天才と呼ばれるだけのことはある。」
「行くぞ、大群、岩井。」
何も答えず、里愛に背を向ける玲司の後ろを、大群と岩井が追いかける。
(これが…東京具留米学園のトップクラスの実力ということか……。)
「さ、斎浦…?また…怒ってる…?」
大群が玲司の機嫌を伺う。
「斎浦くんだって、そんなに子供じゃないでしょ!大丈夫だって!ウチらもやれることはやったんだし!」
岩井はしっかりしていて逞しいなと大群は思った。
「そう。俺たちはやれることは全てやった。あとはとにかくうまい春巻きを作って、売って売って売りまくるだけだ。」
玲司は拳を握りしめて、1-Cへ向かって歩きだした。
「そろそろ調理場が忙しくなってくる頃だな。少し早いが、調理場へ行くぞ。」
東京具留米学園の文化祭は、まだまだ続く…。




