1-Cの想い、一枚の皮に
航平たちが斗麿からアドバイスをもらった翌日、東京具留米学園調理科中華料理コースの1-Cでは、引き続き文化祭に向けた話し合いが行われていた。
「やっぱり中華と言ったら北京ダックじゃないか?」
「高級食材すぎるよ。仕入れが難しくなりすぎる。」
「じゃあフカヒレもダメかぁ〜。」
「だね。文化祭で売るには高くなりすぎるし。」
「炒飯とか餃子は?定番だし。」
「真新しさに欠けるって感じがするよな。」
皆真剣に様々な意見を出す。航平と瑠衣、そして玲司も、優勝するためにはどんな料理が良いものか、黙って考え込んでいた。
「考え方を少し変えてみよう。」
皆が考え込んで、教室に沈黙が流れ始めたとき、窓側の席に座る新藤英人が口を開いた。
新藤は航平が入学してすぐに仲良くなったクラスメイトで、一緒に学校をサボったり、泰龍軒でバイトをする前は、よく放課後に遊びに行ったりしていた友人だ。勉強している様子もないのに成績は中の上。普段の会話からも「こいつ賢いやつだな」と、航平は感じていた。
「何が売れそうかを考えるのもいいけど、勝負は売上。単価を上げるか、安いものをたくさん売るか。文化祭ということを考えれば単価は上げられても限界がある。ターゲットが高校生メインだし、みんな、なるべくたくさんのクラスを回って色々食べたいと思うはず。つまり、提供時間や食べる時間が長いものだったり、量が多すぎるものは敬遠されやすい。」
クラス中が英人の話に耳を傾ける。
「そして価格。単価を上げれば一人あたりの売上は増える。でも高すぎれば客が減る。安ければ客は増えるけど、今度は大量に売らなきゃいけない。だから大事なのは、値段と販売数のバランスだ。」
確かにそうだ。航平や玲司は、他のクラスよりも美味いものを作ることばかりに気を取られていたのかもしれないと思った。
「他のクラスのものを食べるのも邪魔しないし、他のクラスのものを食べた後でも食べられるボリューム。価格も高すぎず、かと言って単価が高めのクラスとも差がありすぎないもの。歩きながら食べられて、食べやすいもの。この条件が満たせるメニューなら、チャンスはある気がする。俺が考える、この条件を満たす料理…。それは…春巻きだ。」
航平は思わず立ち上がった。
「うん、賛成!すげぇよ英人!春巻き、絶対いけるよ!」
玲司も続いた。
「あぁ、春巻きなら大人から子供まで誰でも楽しめるし、食べやすく、リピートも狙いやすい。」
英人が頷いてさらに続ける。
「春巻きは比較的安価だけど、誰でも簡単に作れるものでもない。具材の切り方、餡のバランス、包み方、そして揚げ方…。俺たち1-Cでやる意味があると思う。」
「色んな調味料を用意して、好みに合わせられるようにしたら、一人が何本も買いに来てくれるかも!」
瑠衣らしい視点だ。
「いいかもな!春巻き!」
「私、春巻き大好き!」
「提供は紙コップとかを使えば安上がりだしオペレーションも楽そうだな。」
クラスメイトたちも賛成の様子で、具体的な意見を口にするものも現れた。
「では、今年の文化祭、僕たち1-Cは春巻き店をやるということで決まりです!教室の装飾や仕入れ、レシピ、当日のシフトなどまだまだやることはたくさんありますが、頑張ろう!」
その後の話し合いで、航平と玲司は調理チーム、瑠衣は販売担当、英人は学級委員とともに店舗の運営責任者を勤めることになった。仕入れる材料も概ね決まり、航平と玲司を中心に春巻きの試作品作りが始まると、1-Cに新たな課題が持ち上がった。
「ダメだな。」
「あぁ。これじゃダメだ。」
玲司の言葉に航平が同意する。
「え?何がダメなの?美味しいと思うけど。」
瑠衣はわからないという表情で航平たちに聞く。
「これはできたてだからな。美味くて当たり前なんだよ。」
「だが、回転を考えると揚げるのに時間がかかりすぎる。そして、作り置きをすると…こうなる。」
玲司は少し前に揚げておいて置いてあった春巻きを瑠衣に渡した。
「冷めて、油で皮がべちゃべちゃだ…。」
「この問題を解決しないと、お客さんを待たせすぎるし、列の先頭と最後尾で味に差がですぎてしまう。」
そのときだった。1-Cの仲良しトリオ、神司・大群・貫戸の3人が教室に入ってきた。
「あそこの弁当屋の唐揚げ弁当、マジでうまいよな」
「いつ行ってもすぐ揚げたての弁当出してくれるしね。」
「一度揚げたものを提供直前に二度揚げしてるっておばちゃんが言ってたよ。」
3人の会話を聞いて、航平と玲司が目を合わせる。
「「それだ!!」」
そこから、1-Cの春巻きの試作品作りにますます熱が入りだした。
「どうだ?」
「餡の水分が飛びすぎてるかもな。」
「やっぱそうか。皮も硬すぎるよな。一次揚げの時間をもっと短くしてみる。」
「あぁ。とにかく試すしかない。具材の切り方も色々試してみよう。」
「そっちは頼む。英人、次いこう。また時間メモっておいてくれ。」
「任せとけ。神司たちは保温時間の管理と管理方法のチェック頼む。一次揚げから何分までなら味や食感を保てるか確認するんだ。」
「了解ー!」
文化祭が近づいてきて、教室の装飾や様々な準備が進み、東京具留米学園はますます賑やかになってきた。
「瑠衣見て見て!」
「かわいい〜!」
「当日は、このユニフォームで接客だよ!」
「もっとスリット深くしますか…?」
瑠衣も仲良しの女子グループの今永・岩井・吉崎
と、販売担当の女子たちが着るコスチュームの話題で盛り上がっている。どうやら、女子はチャイナドレスを着るらしい。
「おい、女子たち、当日チャイナドレスだってよ!」
「うおー!楽しみすぎる!」
男子たちは工具や木材を手に看板の制作に励んでいたが、チャイナドレスを着た女子たちを横目で見て盛り上がる。
「おい、とっととやっちまおーぜ。」
航平はそう言って、クラスメイトたちを作業に戻るよう促す。視界の端でチャイナドレスを手に持つ瑠衣を見て、ほんの少し頬が熱くなったような気がしたが、クラスの熱気のせいにして、自分も準備に戻っていった。
それぞれがそれぞれの役割を果たし、東京具留米学園はついに、文化祭当日を迎えたーーー。




