第4話 ぽん太くんのドッジボール
昼休みは、子どもたちが一番元気になる時間です。
ドッジボールをしたり、友達と遊んだり、校庭には笑い声があふれています。
でも、その何気ない昼休みに、思いがけない出来事が起こりました。
今回は、ぽん太くんの「とっさの行動」のお話です。
その日は風が強かった。
昼休みの松原小学校は、校庭いっぱいに元気な声が響いていた。
「ぽん太〜っ! ドッジボールやろう!」
「やるー!」
ぽん太は友達といっしょに、元気よく校庭へ走り出した。
「算数の宿題やった?」
友達が聞いた。
ぽん太は遠い目をした。
「……たぶん」
「たぶん?」
「答えは書いた」
「宿題ってそういうものだろ」
「でも途中の式が分からなかった」
健太があきれた顔をした。
「お前、算数苦手だもんな」
「九九はできるんだけどなあ」
「三年生なら当たり前だろ」
みんなが笑った。
「じゃあ、始めるぞー!」
ドッジボールが始まった。
「いくぞー!」
健太が勢いよくボールを投げた。
ビュン!
速い球だった。
「ぽん太!」
ぽん太は一歩だけ横へ動く。
パシッ!
両手でしっかり受け止めた。
「おーっ!」
「ナイスキャッチ!」
ぽん太は照れくさそうに笑った。
「えへへ」
その時だった。
ぽん太の足が、ぴたりと止まった。
「どうした?」
健太が聞く。
ぽん太は校舎の方を見ていた。
誰も気づいていない。
だが、ぽん太には聞こえた。
ガタン。
どこかで何かが倒れたような音だった。
ぽん太は少し考えた。
遊びたい。
でも――。
「ごめん!」
ぽん太は校舎へ向かって走り出した。
「お、おい!」
健太たちも後を追う。
二階の理科準備室の前で、同じクラスのさくらが困っていた。
ぽん太は窓の方を見た。
閉め忘れた窓から強い風が吹き込み、カーテンが激しくはためいていた。
そのたびにカーテンが植木鉢に当たり、植木鉢は少しずつ窓際へ動いていった。
扉には鍵がかかっている。
中へ入れない。
「先生呼んでくる!」
さくらはそう言うと、廊下を走っていった。
その時、また強い風が吹いた。
ゴロ……。
「あっ!」
植木鉢が窓際へ転がった。
ぽん太は階段を駆け下り、一階の外へ飛び出した。
理科準備室の窓の下には、ぽん太の後を追って友達も集まってきた。
ゴロ……。
植木鉢が窓際で転がった。
ぽん太は、その様子をじっと見つめた。
「近寄らないで!」
ぽん太が叫ぶと、友達はあわてて後ろへ下がった。
次の瞬間。
植木鉢が窓から落ちた。
ぽん太は思わず一歩前へ出た。
そして両手を伸ばし、落ちてきた植木鉢を受け止めた。「えっ!?」
友だちが目を丸くした。
「すごい!」
ぽん太は首をかしげた。
すぐに山口先生が駆けつけ、その後ろからさくらもやって来た。
「ぽん太! けがはないか!」
「はい?」
先生はほっと息をついた。
「無事でよかった」
「よく受け止めたな」
ぽん太は植木鉢を見た。
それから自分の手を見た。
「落ちてきたからキャッチしただけです」
「キャッチしただけ?」
「はい」
ぽん太は少し考えた。
「ドッジボールと同じです」
「いや、違うだろ」
先生が思わず笑った。
友達も笑った。
「ぽん太って、たまに変なことするよな」
「そうそう」
「でも算数は苦手なんだよな」
「うるさいなあ」
ぽん太は頬をふくらませた。
その日の夕食。
「植木鉢を受け止めたんだって?」
祐子が聞いた。
「なんで知ってるの?」
ぽん太が聞いた。
「山口先生から連絡があったの」
ぽん太は椅子にもたれた。
「先生、大げさなんだよなあ」
リョウ子が、ぽん太の前にココアを置いた。
「周りのみんなを下がらせた判断は、とても良かったですね」
「だよね!」
「でも、ご自分も気を付けてくださいね」
ぽん太はうれしそうにうなずいた。
「ドッジボールと同じだし」
惣太郎が笑う。
「……植木鉢と?」
「うん」
「飛んできたものを取るんだから同じでしょ?」
千春が苦笑した。
「全然違うと思う」
「そうかなあ」
本気で分かっていない。
ハル子が静かに言った。
「ぽん太さんらしい判断です」
「褒めてる?」
「評価しています」
ぽん太は満足そうに笑った。
学校でも家でも、みんなから少し不思議な子だと思われている。
でも、ぽん太は気にしていない。
困っている人に気づき、とっさに体が動いた、ぽん太くんでした。
ぽん太くんは、自分では「当たり前のことをしただけ」と思っています。
でも、困っている人や危ないことに気づき、とっさに体が動くことは、誰にでもできることではありません。
ぽん太くんの優しさや行動力は、これからも少しずつ育っていきます。




