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ルルは宣言通り数日おきに冷蔵庫から現れた。来る時に謎の魚の干物などを土産に来訪する時もあり、遥は時に手料理などを振る舞い、二人の関係は当初予想していたより上手くいっていた。

 この間など同僚に「遥さん、最近楽しそうですね。何かありましたか?」と聞かれてしまったくらいだ。

「さぁ、たんと食べるがいい成長期」

「いつも悪いな」

「なんのなんの〜、って君何歳よ」

「遥こそ」

「何おう。受けて立つぞ」

 ルルとの軽口の応酬は楽しく、〝間違って繋がった座標〟とやらの期間限定の関係は順調だ。

 ある日、宅配業者のイケメンと話していると、冷蔵庫からルルがひょっこり。

「あんた……今、男と何を……?」

「え? ただの宅配――」

「むう……やけに笑っていたようだが……」

 腕を組んで睨むその姿は、完全に小姑。

「ちょっと! 何よその言い方。っていうか、あんた、まさかヤキモチ……?」

「べ、別に! ただ、あいつよりもオレの方が……その……狩が上手い!」

「何それ」

 遥は思わず吹き出してしまう。その後しばらく何故かルルの機嫌は悪かった。



「あんた、好きあってる男はいるのか」

「え。なぁに、藪から棒に突然。そんなプライベートなこと、聞く奴はモテないぞー」

「!?」

「ははは。冗談、冗談。〝今は〟いないかなぁ。別れたばっかりなんだよねー」

「別れた?」

「うん。まぁ、原因はほぼほぼ私なんだけど。まだ独身を謳歌したい私と彼との意見の不一致かなぁ」

「遥は婚姻したくないのか」

「ううーん。まぁ一般女子よりは願望少ないかも。自由な一人の時間が割と好きなのよね」

「…そうなのか」

「まぁ喧嘩別れってわけじゃないから今は彼とはいい友人って奴かなー」

「!?」

「あ、向こうにはない常識って感じだった?」

「ないな。オレの集落では生涯唯一の相手と添い遂げる」

「異文化だねぇ」

「オレにとってはあんたの考えの方がそうだ」

 それきりルルは何か考え込んでいるのか黙ってしまった。




 その夜、酎ハイを飲みすぎた遥はちょっと顔が赤い。

「はは……なんであたし、冷蔵庫から出てきた異世界の少年と、こんなことしてんだろ……」

「あんた、少し酔っ払いすぎ」

「うるさいな……でもさ、なんか楽しいかも。あなたがいると」

 ルルがぎくりと固まる。遥はそのまま、ルルの肩にぽすんと寄りかかった。

「ちょ……!?」

「なんか、こういうの、悪くないなって」

「ばっ、ばかっ、あまり寄るなっ、心臓に悪い!」

「え〜、いいじゃん。かわいいな〜ルル君は」

 むぎゅっと遥に抱きつかれたルルはあたふたと動揺し、やがて静かになった。「少しは意識してくれてもいいじゃんか」少年の呟きは夜の光に滲んで消えた。




 そんな交流が続いて早数週間。

「え?15歳になった? 嘘でしょ……え、マジで? 」

「だから言っただろう。こちらとあちらでは時間の流れが違うと。もうこちらでは三年の月日が流れているんだ」

「へぇー。通りで?大きくなったはずだわ」

 確かに遥の肩くらいしか身長のなかった少年がいつの間にか、同じ目線になっている。いや、まだ遥の方が背が高いが。

「いやーおめでたいねー。えー、そっちでは15歳で成人なんだっけ?おめでとー!」

 お祝いと称してその晩は少し豪勢に料理を振る舞った。

「年寄りしか周りにいなかったから。……だから、なんかこういうの、慣れない」

「こういうの?」

「……祝ってもらったり。楽しそうに、隣で誰かが、笑ってるとか、そういうの」

 ルルは、遥の髪の近くで小さく息を吸った。

「……あんた、酔うと、ちょっと甘い匂いするな」

 遥は、真っ赤になって顔をそむけた。

「ませたこと言うようになったじゃない」と赤くなった頬を誤魔化すように遥は仰ぐ。内心は心臓がバクバクだ。遥にとっては数週間。その間に、少年だと思っていた男の子が急に大人の男になってしまったようで。

(ってー。15歳相手に何を考えているんだか!もう!)

 歳の差を考えれば、犯罪である。もちろん、遥の方が。なのに、なんでこの子は私にこんなに接近してるのーー…? 

 近くなった距離。髪の毛を耳にかけられたことまでは覚えている。

 いつの間にかいつもより多くアルコールを摂取してしまったようでそこで遥の記憶は途切れた。



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