第九話 「新たなる刺客」
ーーーーー俺の...名前は、、。
名前が思い出せない。
前まで当たり前のように言っていた名前がすべて俺の脳から消去されてしまっていた。
俺は、現実で死んだペナルティを受け入れられない。それと同時にエナが俺に「注意点」を話したことに気づく。
「お、おい...。エナ、...もしかしてその注意点って俺に言ったってことか...?」
ーー「う、うん...!」
エナが言った注意点を思い出す。
この能力をつけた瞬間から失っていた記憶は二度と戻らないこと、俺の特殊能力が弱体化されること。
ここで俺は取り返しのつかないことをしたと後悔する
「ま、まてまて...失ってた記憶が元に戻らない...?俺さ...、自分の名前を思い、、だせないんだけど...」
ーー「!?」
ーー「確かに、あなたの名前とか全然知らなかったわ...。なんで気づかなかったんだろう.....」
エナは驚いて声も出ない様子だ。タチバナは俺の名前がわからなかったことに今更気づいた。
「って、いうことは?」
ーー「名前をわすれちゃったんだぞ!?」
「え、ああ、そうか」
軽すぎる返事をエナに向けて、自分にも向けてしまった。名前を忘れたというのは論外がいうことだ。
これはもう論外という言葉で括り付けられないほどの非常事態が起きている。
なぜなら二度と思い出せないからだ。俺はこれからどうなるのか予想もできない。
「うん!切り替え!何事にも切り替えが必要なんだよ人生には!!うん!!」
ーー「えぇ!?なんでそんなこと言ってられるんだ!?頭悪いのか君は!」
「俺は元から頭悪いぞ!底辺高出身は頭悪いことが多いかもしれんがな、別の才能に輝くことがあるのだよ!」
自分でも何言ってるかわからん。いや違う。
これは俺が昔から自分に言い続けてきたことだ。
底辺高で頭が悪いならそれ以外のことで自分のできることを探せばいいと。そこで、タチバナは話す。
ーー「名前とか今決めちゃった方がいいわよね?」
「まあ、確かにそうだな。名前がないと呼び合うことすらできないしな。うん。いい提案だ。」
「さっきから上から目線ばっかりね!腹たってきたわ!」
ごめんごめんと俺は謝る。
しかし、ここは砂浜の地だ。こんな所で3人仲良く名前考えるとかやってることが意味不明すぎるし、忘れちゃいけないのは前に俺を殺した謎の白い亡霊のようなものだ。
俺はそいつを突破してこの先にある丸っこい島に行きたい。
「よし。名前をここで考えるのは時間がかかるし、俺のことは...んーそうだな。おれくんとでも呼んでくれ。」
ーー「おれくん?」
「そう。おれくん。自分のこと俺っていうしなー」
エナとタチバナが顔を合わせて笑う。
ーー「何それ変なのーー笑笑」
ーー「笑っちゃうからやめて笑笑ぶっはぁ!笑」
「え...?そんなに笑うかよ笑笑」
予想外に2人が俺の提案した「おれくん」にエナは変なのとか言って笑ってるけど、タチバナはぶっはぁ!とか吹き出しながら笑っている。
俺はこの笑顔を守りたいとそう思ってしまった。ならばやるべきことはただ一つ。
ーーーこの砂地を突破して先の島に辿り着く。
「エナ!タチバナ!てことで今日から俺のことはおれくんとよべ!わかったか!」
ーー「おっけーー!!」
そう会話が終わると、俺たちは前のように砂地を縦の列で歩き始める。
「あ、そういえば2人にいっておきたいことがある」
ーー「なに?」
俺の一つ後ろのタチバナが疑問の声ではなす。エナは静かにこの列の最後尾にいる。
「ええっと...後ろは絶対に振り向かないでくれ。これはお願いというか...、命令!」
ーー「なんで命令するのよ。まあ...あなたの命令に従う気なんてないけど仕方ないからいいわよ?」
「ああ、そうしてもらえると助かる。あとあなたじゃなくて「おれくん」な。」
単なる推測に過ぎないが、前に2人の足音がなくなってたのは最後尾にいたエナが後ろからくる謎の足音に気づいて後ろを向いたら死んだ。
おそらくタチバナも同じように殺されたというのが妥当だろう。
ただ、後ろを向かなければ死なないわけではないかもしれない。
俺がさっき死んでしまった原因は股のぞきと呼ばれるものかもしれない。その行動はやってはいけない。
ーーーそれで死んだのだから。
社会でどこかの島でそれをすると島の形が龍に見え、天に向かっているように見えるときいたことがある。日本の島だとして、なぜこの世界にその島があるかはまだ不明だ。
「それとエナは後ろから足音が聞こえても振り返っちゃダメだ。これは絶対!わかったか?」
ーー「え?ああ、うん!わかった!」
エナはききわけがよくて助かる。少し幼っぽい声が余計に守りたくなる。
エナのお母さんにでもなってみたい。と気持ちが悪いことを考えているとここであの悲劇がはじまる。
ーー「!?おれくん...足音...!」
「...わかったぁ...!」
静かな声でエナは状況を伝える。俺も静かな声で返事を返す。
間のタチバナは足音が聞こえると、しかめっ面になった。気持ち悪がっているようだ。
目の前の砂には血が大量に吸い込まれている。俺はさっきここで死んだからだ。
死体は海のはるか遠くに流されてしまっているのだろう。
「二度も殺されてたまるかよ」
ーー「...?なんか言った...?」
「...言ってないぃ...!」
声が漏れてしまった。とりあえず今はこの状況をどうすれば突破できるか。2人には血が見えていないように見える。
「!...そうだ!..タチバナ...!お前の能力で俺たちを掴んで真上に飛んでくれ...!重いかもしれないがたのむ...!」
ーー「...え?まじでいってんの...?やるけどさ...」
ーー「...おれくん..、?私重くないよ...?」
「...あ、ああ...そうだな。」
エナのことを重いって言ってるようなもんだった。
俺は上手くエナをカバーする。
ーー「じゃあいくよ!!」
「いやまだはや...」
俺が言う間もなく、タチバナは俺とエナの首根っこを掴んで真上に素早く飛ぶ。
下を見てみると視界に海に浮かんでいる魚の死骸がある。砂地には追いかけようとしても空には飛べないあの「白い亡霊」のようなものがすぐ近くから新幹線の速さの等速直線運動で俺たちがいた地面を通り過ぎ、突っ込んでいた。
静止力がないとその運動は永遠に前へ動き続けるため砂地の奥まで一瞬でどこかにいってしまった。がその先の丸い島に向かってしまっていることに気がつく。
「ま、待ってくれ!飛べとは言ったけど今とはいってねぇだろ...!」
ーー「なに?なんか文句でもあんの?」
ーー「ま、まあまあ2人とも落ち着きなよ...」
エナが仲介に入ってくれたのでなんとか気を取り直したが、これはまずいことになった。
俺たちの目的の場所に向かってしまっていては後々そいつと戦うかもしれない。
「はぁ、まあ助かったからとりあえずは大丈夫か」
俺たちは地上に降り、また砂地を歩き続ける。さらにしてもこの砂地はどこまで続いているのだろう。どれだけ歩いても目的地に辿り着かない。
「無限ループ...とかじゃないよな?」
ーー「げっ!それだったらもうこんなとこに来る必要なくない?」
「神に会いたいって言ったの誰だよ...。」
ーー「そのー、おれくんとエナよ?」
「は?」
俺はこの日になる前の2人については何も知らなかった。だがそれとは別にエナが神に会いたいなんて言うのか。
ーー「ご、ごめん...私が神に会いたいとかいったから...」
「やっぱ俺も神に会いたいかも」
ーー「...え?まあ...それなら良かった!」
そう変な会話を続けていると足場がゴタついていることに今更3人は気づく。
「なぁ...ここ砂地だよな?砂の下が妙にゴツゴツしてないか?」
ーー「ゴツゴツ...?確かに。砂地でも下の方にゴミとか落ちてるんじゃない??」
ーー「あー、!そうかも!ここに着いた時、廃家みたいなの見えたし金属類とかが落ちてるのかもね!」
「金属か...その家の住民が船を使ってたけど、壊れた破片とかが散らばって砂に埋もれてるってことか」
俺たちはそういうことにして砂地を更に奥へと歩き続ける。すると、ポツポツと矢の形をした水滴が少量空から落ちてくる。
「...ん?雨か?まだ濡れてないけど砂が雨にかかった色をしてるんだが...。」
ーー「なんか...変な匂いしない?刺激臭みたいな」
ーー「刺激臭?.....!!」
エナが何かに気がつくと手のひらを上に掲げる。
手のひらからみるみると砂が形作られていき、砂の傘が出来上がった。
「え..?エナ!?なんだその能力!」
ーー「あぁ...言い忘れてたんだけど1回目の能力は私に自動的についてたんだぁ。」
「でも記憶保存だったよな!?能力二つ持ちとかか!?」
「いや...これは1回目の特権でいつのまにか今までの敵の能力を模倣できるようになってたんだ!」
「一回目か...じゃあ俺は2回目をエナにもらったからその特権はないってことだな!?」
エナは能力は2回使えるらしい。最初の一回は気付けば自分自身に課されていたそうだ。
そして最後の2回目は特権がないが俺に授けてくれたらしい。特権があるのは最強かもしれないが、俺は記憶を保持し続けられるだけで十分だ。
砂の傘に俺たち3人が入ると、エナはタチバナにお願いをした。
ーー「タチバナ!私たちを空に飛ばせて!」
ーー「え?あぁうん!わかった!」
エナが砂の傘で俺たちを濡れないようにしつつ、タチバナの能力で真上に飛んだ。
俺は何がどうで非常事態が起きてるか全然わからなかった。
「え、えな!?一体何に気がついたんだ!?」
ーー「酸性雨よ!!」
「さん、、せいう?」
酸性雨。エナの口からその言葉が告げられると俺は、「酸」という言葉にはさすがに聞き覚えがあった。
学校での理科の授業だ。高校ではまだやらずに俺はこの世界に来てしまったが、中学校で「塩酸」を使う実験をしたことがある。
「もしかして...塩酸か!?」
ーー「そゆことよ!!砂の下に金属類があったでしょ?塩酸がそれに触れて、塩化水素を生み出したから刺激臭がするんだと思う!多分!いや絶対!!」
やけに理科のことについて詳しい。いや普通の人ならこれくらいのことは知っているのか?
この世界でもそういう授業があるのだろうか。
ここで、さらに酸性雨の勢いが強くなる。
ーー「2人とも!なるべく呼吸は抑えて!刺激臭で倒れちゃうかもしれないから!」
「む...無理無理無理!なるべくって呼吸しなかったら俺たち死んじゃうって!!」
傘から少しはみ出た俺は服に塩酸の雨が一滴ついてしまう。すると、その接触部分が解ける。
「やばいやばいやばい!!って...あいつ誰だ!?」
ーー「!?!?」
俺がこの先の砂地を見ていると砂浜から人がズルズルと這い上がってくる。2人はびっくりして何も言えないようだ。
「あいつがこの雨を降らせている根源か?」
ーー「多分そうだと思う...やるしかない!」
「やるって...どうやってやるんだ!?」
ーー「私の能力はあくまで模倣だからこの砂の魔法も近くに砂がないと使えない!けどここには砂も、しかも海があるから私に任せて!」
エナがそういうと、手を敵に向けて手のひらから次は水球を作り出し、放つ。
「水の球?そんなの放ってどうにかなんのか!?」
ーー「私が水球を相手に飛ばしてる間に相手の塩酸の雨が水球に混じるでしょ?今のこの傘は塩酸に濡れてるけど分厚いから私たちのとこまでは届かないし、傾いてるから塩酸がもう染み込まないのよ!」
「な、なるほど!頭いいなお前!!その塩酸を混ざらせた水の球を相手にぶつけて溶かすっていうことか」
ーー「そういうことよ!」
エナが思った以上に強い。多分この3人の中なら一番に強いだろう。エナの放った水の球は、相手に届く途中に塩酸の雨を含みながら敵に当たった。
ーー「や、やった!!どんどん溶けてる!」
ーー「すごいじゃないエナ!!この戦いが終わったら私はあなたと結婚するわ!!」
「おいバカ!!ここにきて死亡フラグ立てんな!!」
タチバナが余計なことを言ってしまったので死亡フラグを立ててしまった。
すると、敵が最後の足掻きで手のひらを上に掲げる。
次の瞬間、塩酸の雨が消えるが新たにこの島全体を囲う結界が創造される。
「お、おい!!なんだよこれ!」
ーー「結界!?」
「う...うわぁぁぁあ!!!」
結界が完成した途端、俺たちは空から地面に落ちた。何が起きたのだろうか。
「おい!タチバナどういうことだ!?」
ーー「分からないの...!急に飛べなくなっちゃって!」
ーー「私も!!砂の傘とか能力が使えなくなったちゃったぁ!!」
俺は瞬時に理解した。この結界に閉じ込められた人は「特殊能力」が無効化されると。敵は結界の外側から地面の砂を取り込み、体を修復している。
そして、俺たちがいる結界の内側に雷を大量に落とす
いつ俺たちに当たるか分からない。
「タチバナ!エナ!どうすんだよ!俺も能力が使えなねぇ!!てかエナ!俺の能力の弱体化って具体的にどうゆうことだ!?」
ーー「おれくんの能力を先に教えて!じゃないと分からないから!」
「俺の能力は...相手に英単語を叫ぶとその意味が強制的に発動するとかだ!多分だけどな!」
ーー「地味すぎない!?でもわかったわ!その能力の弱体化は自分が経験したこと?とかしか発動できないとかだと思う!!」
「自分の経験したことしか発動できない...?」
弱体化の内容を知る。俺的には絶望する内容だと思っていたが案外そうでもなかった。
頭が悪いだけで事の重大さに気づいていないのもしれないが今のところ大丈夫だ。
「はっはっは!!!それなら大した事ないな!」
ーー「大した事が...ない!?」
この世界は残酷で、とてもハードで、絶望を経験してきた。この世界に来る前もだ。
あの4月10日であれなら俺はこれから襲いかかる絶望を乗り越えていけるのだろうか。いや、
「今日を乗り越える」ことだけを考えるのだ。ただ、この状態で俺の能力は使えない。
英単語がわかってたとしても、弱体化により、結界を崩壊させることもできない。俺は頭が変になる。
「.....ふっははははは!!!いいぞ!俺を殺せよ!!何回でもやり直してやるからよ!!!」
ーー「何言ってるの!?....あれ、、あのひか」
タチバナが俺にそういうが、結界外のはるか頭上、空から見覚えのある「光」が差す。
そして天から聞き覚えのある、特徴的な語尾の声が聞こえる。
ーーーーー死ぬには...まだ早いのである。
いや文字数が多い!約6000文字もある八話を最後まで見てくれた方々本当にありがとうございます!最後の救世主は誰でしょうか?
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第十話もお楽しみに!!




