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神界から追放されし少女は叫ぶ。絶対目にもの見せてやるからな!!  作者: 万年亀
第七章 復讐

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水精姫と取り戻した力

 大演習場を包み込んでいた呪詛のオーラが、マリエルの放った黄金の炎によって一掃された直後。


「フーラース神人長……!」


 マリエルは上空を見上げ、その名を呼んだ。

 純白の法衣を纏い、空中に静かに佇む老神人。

 かつて神界で唯一、彼女の境遇に理解を示し庇護してくれた恩人だ。


「お久しぶりですね。マリエルくん」


 フーラースは空中に留まったまま、長く伸びた白い髭を撫でて穏やかに微笑みかけた。


「バカな! 何故貴様がこんな下界に……!?」


 ユーバフが驚愕と恐怖に顔を引きつらせて叫ぶ。

 アミアンもまた信じられないものを見るように上空を凝視し、ガチガチと歯の根を鳴らしている。

 彼らを追放した張本人が、まさか直接下界に降りてくるとは夢にも思わなかったのだろう。


「あの女の『天輪』と『光翼』が戻っているのは、貴様の仕業か!?」


 ユーバフが牙を剥いて吠える。

 神界の法で剥奪されたはずのものが、なぜマリエルの元に戻っているのか。


「ええ。元々、あなた方が仕組んだ冤罪だったのですから。彼女の生存が下界で確認できたのならば、奪ったものを返すのが筋でしょう」


 フーラースは静かに首を縦に振った。


「生存確認って……」


 マリエルが不思議そうに小首を傾げる。

 神界の人間が、どうやって自分の生存を知ったというのか。


「先ほど神界へ連絡を入れたでしょう? あなたの名だったと思いますが」


「あ……」


 マリエルは足元の石畳に転がっている『天声の雫』に視線を落とす。


 先ほど、絶望の中でなりふり構わず神界に助けを求めた、あの通信。

 無情な神人にすぐさま切って捨てられたと思っていたが、そのやり取りがフーラースの耳に入っていたのだ。


「あの時、私も通信室にいましてね。浅慮な部下が失礼な対応をして通信を切ってしまったようで、誠に申し訳ない。ただ事ではない危機が迫っているのかと思い、急いでこちらへ出向いたのですよ。権限を使って、剥奪した君の『天輪』と『光翼』の封印も解いてね」


 フーラースが困ったような笑みを浮かべて頭を下げる。


「い、いえ。とんでもないです。本当に助かりました。ありがとうございます」


 マリエルは慌てて深く一礼する。

 あの通信は決して無駄ではなかった。

 希望は途切れていなかったのだ。


「ちょうどいい! 貴様も降りてこいフーラース!」


 ユーバフが血走った目で空を睨みつけ、吠える。


「俺をこんな目に遭わせた罪、ここで清算してやる! マリエルと一緒に、お前も地獄に送ってやる!!」


 ユーバフの全身から再びどす黒い呪詛が噴き出し、周囲の空間が軋み始める。

 アミアンもまた憎悪に満ちた叫び声を上げ、呪詛の魔力を練り上げ始めた。


 だが、フーラースは涼しい顔で首を横に振った。


「……いいえ。私が出る幕はありませんよ」


 フーラースの深い瞳が、真っ直ぐにマリエルへと向けられる。

 そこにはかつて「神界と下界の架け橋になってくれると期待している」と語った時と同じ、深い信頼が宿っていた。


「マリエルくん。……できますね?」


 その短い問いかけ。

 それは彼女の実力を信じ、この下界の厄災を彼女自身の手で決着づけることを促す、彼なりの試練でありエールだった。


「はい」


 マリエルは迷うことなく、力強く頷いた。


 先ほどまでの絶望感はない。

 かつての力を取り戻し、さらに下界での経験を経て精神的に成長した今の彼女だ。

 呪詛を垂れ流すだけの見苦しい元同胞に、遅れを取るつもりは毛頭なかった。


「やってみろ『混ざりもの』!! 高位神人だった俺の、真の力を見せてやる!!」


 ユーバフとアミアンが咆哮し、再び呪詛から無数の凶悪な獣たちを泥のように作り出していく。


「『天輪』も『光翼』も無いのによく言うよ」


 マリエルは冷ややかに言い放ち、再び両手に自身の魔力を集中させる。


「『風』『闇』……『合成』」


 マリエルが神界の高度な魔力操作で二つの属性を融合させる。

 声に乗せた風の振動と、精神に干渉する闇の波長。


「『テレパス』」


 マリエルは空気を介して精神――思考を一部共有させる術式を展開し、この場にいる味方全員の脳内へと直接語りかけた。


『久々にやるから疲れるな。あー。あー。聞こえますね? マリエルです』


 彼女の声が、耳からではなく直接頭の中に響き渡る。


「これは……」


 前線で剣を構えていたビクトールが、驚きに目を見張る。


「念話……? いや、この数、この規模での思考共有だと……?」


 クラレンスもまた信じがたい魔法技術に戦慄を覚えた。

 特定の個人と念話を行う魔道具は存在するが、これほど大人数の脳内に直接干渉し、しかも淀みなく思考を繋ぐなど常人の魔力制御では不可能な芸当だ。


『私の事とか細かい説明は後で。……これから全員で、あの魔王をとっちめます』


 マリエルの凛とした声が、皆の頭の中に響く。


「ほっほ。これはこれは。何とも頼もしい」


 後方で陣頭指揮を執っていた教皇アシュトルフが、面白そうに髭を撫でて笑う。


『私の放った光る炎が、まだ皆さんの身体にまとわり付いていると思いますが。それは呪詛を弾く、強力な加護みたいなもんです。熱くないですし、気にせず思いっきり戦ってください』


 マリエルが戦闘に関する重要な情報を共有する。


「これか」


 クリストフが自身の身体を包む黄金のオーラを見つめ、納得したように頷く。


 マリエルの言葉通り、先ほど彼女が放った黄金色の『再生と浄化の焔』は、闘技場にいる味方全員の身体を薄いオーラのように包み込み、持続的な浄化効果を発揮していた。


「俺めっちゃ燃えてんだけど」


 ローランドが自分の全身から立ち上る炎を見て、少しビビっているのが思考共有越しに伝わってくる。


『あとで偉い人や各部隊の隊長さんには、私の『空間知覚』の情報を元に指示を適宜出していきます。基本は目の前の敵を連携して順に潰していく感じでお願いします』


 マリエルは司令塔としての役割をこなし、全体の作戦方針を簡潔に伝える。


「オッケー! 超わかりやすい!」


 セリアが両拳をぶつけ合わせ、元気よく応える。


「やれやれ、仕方ないなあ。後輩の指示に従うとするか」


「ま、わかりやすいのはいいことですわね。暴れさせていただきますわ」


 アランも楽しげに笑い、リーズリットも扇子を広げ、不敵な笑みを浮かべる。


『ともあれ全員で生きて帰ることが最優先で。学園祭もまだ途中ですしね。こんなところで終わらせません』


「この絶体絶命の状況で、学園祭の心配か? まったく、君というやつは」


 ルカが呆れたように、しかし口元を綻ばせる。


『ちゃっちゃと魔王倒しましょう。GO!』


「了解!」


「応!」


「やってやるぜェ!」


 味方全員の意志が一つに重なり、マリエルの合図と共に王城騎士団、魔術師団、聖堂騎士団、そして五天星たちが一斉に反撃の雄叫びを上げた。


「死ねェェェぇ!!」


「みんな消えてなくなりなさいよォォォォォ!!」


 ユーバフとアミアンが発狂したように呪詛を放ち、無数の獣たちが再び真っ黒な津波となって押し寄せてくる。


 だが、今の彼らは先ほどまでのただ蹂躙されるだけの存在ではない。


「おおっ! さっきより断然剣が通るな! この炎のおかげか!?」


 前衛で戦う王国騎士が大剣で黒い獣を両断しながら驚きの声を上げる。

 先ほどは斬ってもすぐに呪詛の泥となって再生し、剣を腐食させていた獣たちが、光の炎を纏った刃に触れた瞬間、浄化されるように消滅していくのだ。


「呪詛を受けても何ともない。防御に魔力を割かなくていい分、攻撃に集中できる。これは凄いな」


 宮廷魔術師もまた、呪詛の波を恐れることなく強力な広範囲魔法を次々と詠唱し、獣の群れを灰燼に帰していく。


「なるほど、光と火の複合で呪詛に対する特攻効果を作ったわけか。素晴らしい応用力だ」


 クリストフがマリエルの魔法理論に関心しながら、自身も光の剣を雨のように降らせて加勢する。


「ヒャッハァァァァァ!! 魔力も回復したみたいで撃ち放題だぜェェェェ!! 全部燃えカスになれやァァ!!」


 ローランドが狂ったように高笑いしながら、自身の炎とマリエルの黄金の炎を融合させ、これまでにないほど巨大な火炎を巻き起こしている。

 もはや敵か味方かわからないほどの暴れっぷりだ。


「呪詛が効かなければ、負ける気はしない!!」


 セリアが黄金のオーラを纏いながら獣の群れに単身突っ込み、その自慢の剛腕で次々と獣を空の彼方へと殴り飛ばしていく。


「でも死角はあるから注意しようね、セリアちゃん!」


「近づく敵は全部吹き飛ばして差し上げますわ!」


 アランがセリアの背後から迫る獣を的確に土の槍で串刺しにしてフォローし、リーズリットも強力な竜巻を複数展開し、騎士団の進軍ルートを確保する。


 マリエルの支援と連携の取れた反撃により、戦況は一気にこちら側へと傾いた。

 黒い獣の群れは次々と浄化され、ユーバフとアミアンは防戦一方に追い込まれていく。


「ルカ君! この闘技場を覆うように、岩の天蓋を作るよ!」


 マリエルがルカに短く伝える。


「……了解!」


 ルカはマリエルの意図を瞬時に理解し、自身の闇魔法の構築を開始する。


 マリエルが両手を天に掲げると、闘技場の周囲に散らばっていた瓦礫や土塊が魔力によって空中に巻き上げられ、闘技場の上部を覆い隠すようにして即席の巨大な『天井』が形成された。


 造りは意図的に荒く、岩と岩の隙間からは夕暮れの陽の光がまばらに差し込んでいる。


「はぁ? 何を……?」


 アミアンが突然できた岩の天井を見上げて、理解不能といったように嘲笑う。

 彼女が上空の天井に気を取られた、まさにその時。


 背後の空間が歪み、闇の渦からルカが音もなく空間転移で肉薄した。


「っ!?」


 アミアンが殺気に気づいて振り返るよりも早く。


「ハッ!!」


 ルカの鋭い裂帛の気合いと共に、闇を限界まで凝縮させた漆黒の剣が閃いた。


「ぎゃああああああ!!!」


 アミアンの左腕が、呪詛のオーラごと根元から綺麗に切断され、宙を舞って地面に転がり落ちた。

 切断面からは血ではなく、どす黒い魔力の煙が噴き出している。


「なるほど、マリエルの光の炎があれば、俺の闇魔法もお前たちの呪詛に染まることは無いというわけか」


「貴様ァァァァァ!! よくもアミアンを!!」


 ユーバフが激怒し、ルカに向けて即死の呪詛の塊を放つ。

 だがルカはすでに自身の足元の影に沈み込み、再び闇の空間転移で軽々とその場から離脱していた。


「そっか、天井を作ったら、ここは『屋内』になるんだ!」


 セリアが獣を殴り飛ばしながら、マリエルの意図に気づいてポンと手を打った。


 ルカの空間魔法は現状、周囲が壁や天井で仕切られた屋内でしか座標指定ができないという欠点があった。

 だからマリエルは、強引にこの屋外の闘技場に天井を作り、彼が自由に飛び回れる屋内環境へと整えてみせたのだ。


「ああ。元々闘技場がすり鉢状になっていたからな。天井さえ作れば巨大な密室の完成だ」


「ついでに、光がまばらに差すようにわざと荒く作ってみたよ。その方が影がたくさんできてルカ君が移動しやすいしね」


 マリエルが、してやったりという顔で笑う。

 光と影のコントラストを操作し、ルカの闇魔法のポテンシャルを最大限に引き出す環境構築だ。


「しかしマリエルも、なんかその羽と輪っかのせいで、すっかり天使っぽくなったねえ」


 セリアがマリエルの新たな姿を見て感心する。

 神々しい光を放つその姿は、下界の人間からすれば伝承に語られる天使そのものだ。


 マリエルが露骨に嫌そうな顔をして唇を尖らせる。

 神界の連中と同じ括りにされるのは、彼女にとって不本意極まりない。


「あんまり天使って言ってほしくはないんだけど……」


「あいつと君は違う。気にするな、大丈夫だ」


 ルカがマリエルの頭を軽くポンと叩き、優しくフォローする。


「もー……」


 マリエルが照れ隠しにルカを軽く睨む。


 そんな二人のやり取りをよそに、腕を斬り落とされたアミアンとユーバフの怒りは頂点に達していた。


「殺す。絶対に殺してやる……下等生物どもが……」


「許さない……私の腕を……殺してやるわ……」


 ユーバフが血走った目で周囲を睨み回し、片腕を失ったアミアンもまた残った右腕から禍々しい魔力の槍を無数に形成し、狂気の形相で睨みつけてくる。


 だが、アランが巨大な土のゴーレムを作成し、魔王二人の進路を塞ぐように立ち塞がらせる。


「おっと、僕らが相手だ。こっちを向いてくれないと困るな」


「ちょっと、そこの魔王の方? 私と遊んでいただけるかしら?」


「このまま全部燃やして倒しちまっても良いんだろォ!?」


「倒せるならね。まあ、無理しない方向で行こう。我々は彼らの足止めと援護に徹する」


 リーズリットも扇子を優雅に広げ、先ほどよりもさらに巨大で鋭い不可視の真空の刃を複数展開して牽制。


 ローランドが両手に巨大な炎の槍を生成して凶悪な笑みを浮かべ、クリストフが騎士団と魔術師団に指示を出しながら陣形を整える。


 前線の彼らが壁となり、魔王たちの猛攻をがっちりと受け止めていた。


「邪魔を……するなァァァァ!!」


 ユーバフとアミアンの絶叫と共に、再び激しい魔法の衝突音がドーム内に轟き始める。


 彼らが前線で激しい戦闘を繰り広げている間、マリエル、ルカ、セリアの三人は、少し離れた後方の安全な場所で身を寄せ合い、短い作戦会議を開いていた。


「さて、どうしようかな。あいつら意外とタフだね」


 マリエルが腕を組み、戦況を分析しながら唸る。


「近づいて分かったが、あいつらの身体、とんでもなく頑丈だぞ。腕一本斬っただけで、俺が闇を限界まで圧縮して作った剣の刃がボロボロになってダメになった」


 アミアンの腕を斬り落とした刃は、その一度の攻撃だけでボロボロに刃こぼれし、闇の魔力が霧散しそうになっていた。


「感覚としては、あいつらの肉体そのものが、超圧縮された呪詛の塊といった感じだな。生半可な物理攻撃や魔法では、表面を削るのがやっとだ。あれを完全に滅ぼすのは、相当骨が折れるぞ」


 物理的な破壊だけではいずれ再生される可能性が高い。

 かといって魔法で消滅させるには、莫大な魔力で呪詛ごと浄化し尽くす必要がある。


「それは困ったね。こっちには強力な加護があるから負ける気はしないけど、このままじゃ決定打に欠けるか……」


 マリエルも渋い顔をする。

 魔王の呪詛は防げても、あの異常な耐久力と再生力をどうにかしなければ、千日手になってしまう。

 自分の『再生と浄化の焔』も相手の呪詛を相殺するのが精一杯で、完全に焼き尽くすほどの火力は出せていない。


 何か、あの凝縮された呪詛を中和、あるいは破壊できる強力な一撃が必要だ。


 その時。

 マリエルの脳裏に直接直接響くような不気味な声が聞こえた。


『オイテイカナイデ……』


 マリエルがハッとして周囲を見回す。


「誰か何か言った?」


「え、何も? 気のせいじゃない?」


 セリアが不思議そうに首を傾げる。

 ルカもまた、何も聞こえなかったという顔をしている。


 その時。


 マリエルのすぐ近くの空間が、不自然にぐにゃりと歪んだ。

 ドス黒い闇の渦が空中にポッカリと出現する。


 そして、その闇の渦の中から。


 ゴトリ、と重く鈍い音を立てて、一本の剣が地面に転がり落ちた。


 それは、魔王研究会の部室でルカの収納空間から這い出し、厳重に封印を施して置いてきたはずの、あの禍々しい漆黒の剣。

 数十本の呪いの武器が互いを喰らい合い、蟲毒の果てに生み出された最悪の呪詛の結晶。


 漆黒の刀身には赤黒い脈絡が走り、まるで獲物を求めて生きているかのように、微かに脈打ちながら小刻みに震えている。


 そんな禍々しい『呪いの剣』が、音を立てて石の床に転がり落ちたのだった――。

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