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神界から追放されし少女は叫ぶ。絶対目にもの見せてやるからな!!  作者: 万年亀
第六章 闘技祭

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水精姫と展望室

 大演習場の観客席は、予選の熱気と興奮に包まれている。


 色とりどりの魔法が飛び交うフィールドを見下ろす特等席に、二つの人影があった。

 周囲の観客とは一線を画す、厳格で威厳のある空気を纏った男たちだ。


「ふうむ」


 顎に蓄えた立派な髭を撫でながら、大柄な男が低く唸る。


 その体躯は歴戦の戦士であることを物語るように厚い筋肉に覆われ、着込んだ豪奢な外套の下には鍛え上げられた肉体が隠せていない。


 彼こそがこの国の軍事の要、王城騎士団長ビクトール・フォーロッドである。


「どうされました、父上」


 隣に座る若い男が、視線をフィールドから父へと移して尋ねた。


 彼もまた引き締まった体格を持ち、フォーロッド家特有の赤茶色の髪を短く切り揃えている。

 ビクトールの長男にして第二騎士団の団長を務めるクラレンスだ。


 アランの父と兄であり、王城騎士団の総括と第二騎士団を預かる実力者たちである。


「うむ。今、第十五ブロックを勝ち抜いたあの娘……。この前、騎士団に外部見学で訪れた娘だなと思ってな」


 ビクトールは闘技場の上で歓声に応えるセリアの事を覚えていた。


「ああ、魔法学園の生徒なのに、わざわざ騎士団を希望したという変わった娘ですか」


 クラレンスも思い出したように頷く。


 魔法学園の生徒といえば、大抵は宮廷魔術師団や研究機関を志望するものだ。

 泥にまみれて剣を振るう騎士団を見学に来るなど、物好きにもほどがあるとその時は思っていた。


「それであの娘の戦いぶりを見ていて、少し思ったのだが……」


 ビクトールは腕を組み、重々しい声で語り始めた。


「王家の姫君や貴族令嬢の身辺守護を目的とする、女性騎士団の設立……など、悪くないと思わんか?」


「女性騎士団、ですか」


 クラレンスは少し意外そうな声を出す。


 現在の王城騎士団は基本的に男性社会であり、女性の騎士は数えるほどしかいない。


 だが、貴族社会において女性皇族や令嬢の護衛に男性騎士を付けるのは、同性ではないため色々と不便が生じる場面も多いという問題は以前から指摘されていた。


「……その新設する騎士団の第一弾、あるいは中核として、彼女を騎士団に迎え入れると? 確かに彼女の身体能力と格闘術は目を見張るものがあります。魔法使いの枠に収めておくには惜しい逸材かもしれません。ですが……彼女は平民です。王族や高位貴族の警護となれば、身分の壁が……」


 クラレンスが現実的な問題点を指摘する。


「うむ。いくら腕が立とうとも、礼儀作法ができないのは致命的な問題だな……。本人に一から作法を習ってもらうか、あるいは統括する立場には子爵家くらいの家柄の者を据えて、彼女は実働部隊の長とするべきか……」


 ビクトールは渋い顔で思案する。

 即戦力として期待できても、貴族社会のしがらみを無視することはできないのだ。


「彼女を一旦、どこかの良識ある子爵家に養子として入れて、そこで徹底的にマナーや教養を教え込むというのもアリですね。本人がその道を望めば、の話ですが」


 クラレンスが妥協案を提示する。

 有能な平民を貴族の養子として迎え入れ、箔をつけるのはよくある手だ。


「ふむ……。いっそのこと、アランの嫁にでもしてしまうか?」


「は?」


 ビクトールの口から突拍子もない提案が飛び出し、クラレンスは思わず声を漏らす。


「いつまでもフラフラと遊び歩いているしな、あの馬鹿息子は。ここらで身を固めさせて騎士団の女性部隊の指南役でもやらせるか。そういう名目なら平民の嫁を迎え入れても体面は保てるだろう」


 ビクトールはサクサクと五男坊の将来を勝手に決定づけていく。


「いや、ちょっと待ってください父上。いくらなんでも話が急すぎます。第一、彼女にうちの嫁が務まるほどの根性はあるんですか? 我が家の家風はご存知でしょう」


「見たところ、かなりのものだな。あの動き、付け焼き刃でできるものではない。外部見学とはいえ、騎士団の厳しい鍛錬に弱音も吐かずに付いてきていたと報告も受けている」


 ビクトールはセリアのガッツを高く評価しているようだ。

 その言葉にクラレンスが納得しつつも、弟の性格を考慮して懸念を示す。


「それはまた……。しかし、あとはアラン本人が了承するかどうかと、彼女自身がそれを受け入れるかですね。アランもああ見えてプライドが高いですから、家が決めた政略結婚のような形には反発するかもしれませんよ」


「騎士団の案内をさせたのはアランであるし、顔見知りだ。全く知らん相手を無理やりあてがうよりはマシだろうという方向で説得するか。家の都合だと言えば、あいつも渋々ながらも受け入れるだろう」


 ビクトールは強引に話を進めようとする。


「これで少しはあいつも落ち着くと良いのですがね。……わかりました。いくつか説得の材料を探して、あのふらついている弟に彼女を落とすよう言いつけましょう」


 クラレンスも父の意向に逆らうことはせず、ため息交じりに了承した。


 結果として、アランはこの話を聞いた瞬間、説得など一切必要なく「本当かい!? やったあ!」と二つ返事で大喜びして受け入れ、クラレンスが用意した説得の材料は全て無駄になり盛大に拍子抜けすることになるのだが。


 彼らはその未来をまだ知らないのであった。



 ◆◆◆◆



 大演習場の熱狂を離れ、マリエルとセリアは合流を果たしていた。


「予選突破おめでとうセリア!」


 マリエルが自分のことのように嬉しそうに、駆け寄ってきた親友を労う。


「ありがとー! マリエルのおかげだよー! マリエルが騎士団の訓練を勧めてくれたから、私こんなに強くなれたんだよ!」


 セリアはマリエルの手を握り、満面の笑顔で感謝を伝える。


 かつて自分をボコボコにしたローランドを打ち倒したことで、彼女の中にしっかりと自信が根付いてきているようだ。


 マリエルはセリアの戦いぶりを振り返り、内心で小さく頷く。


 彼女はセリアと同室になった当初から、彼女の魔法適性である『身体能力強化』の真価が全く発揮されていないことに気づいていた。

 セリアに足りないものは魔力の運用方法と、実戦的な身体の動かし方だと早い段階で把握していたのだ。


 平民出であるセリアは、専門的な教育を受ける機会がなかったため、魔力をただがむしゃらに部位に流すという非効率な運用をしていた。

 それでは魔力の消耗が激しい上に、強化の度合いも中途半端になってしまう。


 マリエルは神界の高度な魔力操作理論を噛み砕き、筋繊維の一本一本に魔力を通して最適化する技術を彼女に教え込んだ。


 だが、マリエルは魔力の運用は教えられるが、格闘術や身体の鍛え方、そして実戦的な動かし方は教えられない。

 彼女は魔法理論には詳しいが、肉弾戦の技術は持ち合わせていなかったからだ。


 ゆえに、その道の専門家である王城騎士団への外部見学を強く勧めたのであった。


 まさかその結果、彼女の中に眠る恐るべき武才が花開いて元五天星を殴り飛ばすほどの戦士に成長し、さらには案内役だったアランを射止めるという特大の恋愛事故まで引き起こすとは、マリエルの優れた頭脳をもってしても全く想像していなかったわけだが。


 人生とは本当にわからないものである。


「ところでマリエルはなんでわざわざここに? 自分の予選が終わったら、またどっか行くのかなって思ってたんだけど」


 セリアが不思議そうに尋ねる。


 マリエルのことだから、目立つのを嫌って適当に目立たない場所で観戦するかと思っていたのだ。


「うん、実はね。クリストフ殿下が五天星用に大演習場の一番見晴らしのいい展望室を特別に用意してくれててね。そこに知り合いの一人や二人くらいなら連れてきてもいいって言ってくれたんだ」


「えっ! 展望室!?」


 セリアの目が輝く。


 大演習場の最上部に位置する展望室は王族や高位貴族、あるいは学園の幹部しか立ち入ることの許されないVIPルームである。


「すっごーい。流石五天星の特権……。でも本当に行っていいの? 私、ただの平民なんだけど。そんなお偉いさんばかりのところに行ったら、浮いちゃわないかな」


 セリアは少しだけ気後れしたように、自身の制服の裾をいじる。


「大丈夫だよ、私も平民だし。それに、あの部屋にはルカ君やアランさんもいるはずだから、知ってる顔もあるよ。気楽に行こう」


「マリエルは五天星じゃん……。でもそっか、アラン先輩もいるのかあ。じゃあ行ってみようかな……」


 アランの名前が出た瞬間、セリアの顔に微かな朱が差す。


 彼がいるなら気後れしている場所もいいと思えるという事は。

 あの不器用なお菓子作りと誠実なアプローチは、確実に彼女の心に響いているようだ。

 マリエルは「これはもう一歩かな?」と内心でニンマリ微笑んだ。


 その後、二人は案内に従って大演習場の階段を上り、最上部の特別区画へと足を踏み入れた。

 重厚な扉を開けると、そこには全面ガラス張りで闘技場全体を一望できる、豪華な展望室が広がっていた。


 そして展望室には、すでに数人の影があった。


「やあ、マリエル嬢。予選突破おめでとう。そちらが友人のセリア嬢だね? 初めまして」


 部屋の中央、ふかふかのソファから立ち上がり、爽やかな笑顔で声をかけてきたのは、金髪碧眼の美しい青年だった。

 五天星の序列第一位『光の御子』クリストフ・フォン・ロンヴェルである。


「ええっと、初めまして……」


 セリアが見慣れない高貴な人物に緊張で身体をこわばらせ、ぎこちなく頭を下げる。

 マリエルはセリアの背中にそっと手を添え、こっそりと耳打ちした。


「こちらが、クリストフ殿下だよ」


「うぇ!?」


 思わずセリアの口から変な声が漏れた。


 ただの貴族ではなく、本物の王族。

 平民の少女が免疫を持たないのも無理はない。


「お、お目にかかれて光栄の極みであります……!」


 セリアはガチガチに緊張し、直立不動で最敬礼のポーズをとる。

 だがその敬礼は騎士のものだ。

 王城騎士団で習ったのだろうか。


 クリストフはそんなセリアに苦笑しながら、手で制する。


「ははは。そんなに気を張らなくてもいい。学園では同じ学生だ。ここでは身分は関係ないからね」


「そういうわけにもいかないでしょう。殿下は王族なんですから。いくら学園内とはいえ、最低限の礼儀は必要ですわ」


 横から羽扇子を持った美しい令嬢がピシャリと口を挟んだ。

 五天星第四位『旋風姫』リーズリット・トレイルである。


「ははは、リズは相変わらず真面目だなあ」


 そのリーズリットの言葉に、ふわりと柔らかい声が重なった。


 マリエルは声のした方へ視線を向け、不思議そうな顔をする。


 そこにいたのは礼服を着た、見たことのない男性だった。

 丸い眼鏡をかけて少し癖のある髪をした、どこか朴訥として優しげな雰囲気を持つ青年だ。

 五天星のメンバーではない。


「そちらは……?」


 マリエルが尋ねるとリーズリットは少しだけ頬を染め、どこか誇らしげに紹介した。


「私の婚約者、エドガー・ラズベリルですわ。今日は私の応援に来てくれたの」


「あなたが……。初めまして、マリエルです」


 マリエルは会釈をする。


 以前サロンで「とっても素敵な彼」と惚気ていた、あの政略結婚の相手だろう。

 確かに、リーズリットの気の強い性格を優しく包み込んでくれそうな、温和な人柄に見える。


 エドガーは人が良さそうな笑顔を浮かべて答える。


「初めまして。君が噂の『水精姫』だね。リズから話はよく聞いているよ。君のような優秀な人材を平民にしておくのがもったいないと、家でよく熱く語っていたんだ」


「ちょっ……エドガー様! そんなこと言わないでください! 恥ずかしいからやめてくださいまし!」


 リーズリットが扇子で顔を隠しながら、エドガーの腕をバシバシと軽く叩く。

 普段の気丈な態度はどこへやら、すっかり恋する乙女の顔になっている。

 本当に仲が良いらしい。


「やー、セリアちゃんいらっしゃい。予選突破おめでとう。見事な一撃だったね!」


 部屋の奥から、アランが明るい声を上げて近づいてきた。

 彼はセリアの姿を見るなり、パッと花が咲いたような笑顔になる。


「アラン先輩。知ってる人がいて安心しました。先輩も流石の戦いぶりでしたね」


 セリアもアランの顔を見て、ホッとしたように表情を緩める。


「そうかい? それはよかった。君に褒められるのが一番嬉しいよ。せっかくだし、少し展望室を紹介しようか。あっちには美味しい飲み物や軽食も用意されてるんだぜ」


「お願いします!」


 アランは自然な手つきでセリアをエスコートし、部屋の窓際へと案内していく。

 二人の間には、すでに誰にも邪魔できないような甘い空気が漂っている。


 いつの間にか、マリエルの隣にルカが立っていた。

 彼もまた、静かな声でマリエルを労う。


「お疲れ、マリエル。セリア嬢を連れてきたんだな」


「そりゃね。私がこっちにいたらセリアが一人になっちゃうし。殿下のご厚意もあるしね。それにセリアもアラン先輩に会いたかったみたい」


 マリエルは窓際で楽しそうに話している二人を見て、ふふっと笑う。


 マリエルとセリアが来る前から、この展望室にいたのは、クリストフ、アラン、ルカ、リーズリット、婚約者のエドガー。


 そして。


「……なんで彼が部屋の隅にいるの?」


 マリエルは部屋の最も暗い隅っこに視線を向け、怪訝な顔をした。


 そこには燃えるような真紅の髪をした男子生徒。

 ローランド・ベルディアが体育座りをして膝を抱え込み、塞ぎ込んでいたのだ。


 ルカが、少しバツが悪そうに頭を掻く。


「いや、連れてきたのは俺でな……」


「なんでまた。あいつ、さっきまでセリアを丸焼きにするとか息巻いてたのに」


「まあ、その……」


 ルカが言い淀んでいると隅っこから、どんよりとした怨嗟の声のような呟きが聞こえてきた。


「……クソ雑魚ですいません……。俺は平民の女に拳一つでボコボコにされた哀れなゴミです……」


 かつての「炎帝」の威勢は見る影もない。

 プライドの塊だった男だったが完全に心が折れ、アイデンティティを喪失してしまっている。


 ルカが、哀れむような声で説明した。


「セリア嬢との戦いで思いっきり大見得を切って啖呵を切ったうえで、魔法を一発も当てられずに腹パン一撃で負けて予選敗退したのが、相当ショックだったらしいな……」


「うわあ……」


 マリエルも流石にちょっと可哀想になってきた。


 自業自得とはいえ、あれだけ復讐に燃えていたのに、かつてボコボコにして見下していたターゲットの親友に今回は逆に拳一発で沈められたのだ。

 精神的なダメージは計り知れないだろう。


「……俺はミソッカスです……生きててすいません……」


 ローランドはブツブツと自己嫌悪の呪文を唱え続けている。


「一応、腐っても五天星の元メンバーで知己だしな。廊下で灰のように真っ白になって座り込んでいたのがあまりに不憫でな……。一人にしておくと自暴自棄になって何かやらかしかねないから、ちょっとここに置かせてやってくれないか」


「私はいいけど、みんな困ってるじゃん……。さりげなく視線外してるよ」


 マリエルが指摘する通りクリストフもリーズリットも、ローランドのいる隅っこの方には極力視線を向けないようにして、見えないふりをしている。

 触らぬ竜に被害なし、である。


 そんなやり取りをしていた時、部屋に設置された魔道具から実況のロッタの元気な声が飛び込んできた。


『えー、皆様、長らくお待たせいたしました! 白熱の予選が全て終了し、ついに本戦トーナメントの組み合わせが決定いたしました! これより発表いたします!』


 スピーカーの声と共に、展望室から一望できる巨大な魔力スクリーンにトーナメント表が映し出された。


 参加者たちが固唾を呑んでスクリーンを見上げる中、マリエルとルカも自身の名前を探す。


 見れば、ルカの名前はトーナメント表の左端のAブロックにあり、マリエルの名前は真逆の右端、Dブロックの端に位置していた。


 ルカがスクリーンを見つめながら呟く。


「マリエルの名前が随分と遠いな」


「そうだね。これだけ離れていれば、序盤で当たることはないかな。お互いが順当に勝ち上がっていけば、ぶつかるのは……」


「決勝だな」


 ルカが、マリエルの言葉を引き継ぐ。


「……ちょうどいいか」


 ルカがポツリと漏らした。


 その声のトーンがいつもの穏やかなものから、研ぎ澄まされたような真剣な響きへと変わっていることにマリエルは気づいた。


「ルカ君?」


 マリエルが不思議そうに彼の横顔を見上げるとルカはスクリーンから視線を外し、マリエルを真っ直ぐに見つめ返した。

 その漆黒の瞳には一切の迷いがない。


「マリエル。俺は君に勝ちたい」


 静かな、だが熱を帯びた宣言。


「俺は君に引っ張られてここまで来た。闇魔法の新しい空間概念のアイデアに、術式構築のアドバイス。君の知識がなければ俺はまだ古い常識に囚われたままだっただろう。色々と世話になった。感謝している」


 ルカは言葉を一つ一つ確かめるように紡いでいく。


「だが、なんでも君から与えられ、君ありきで終わりたくないんだ」


「ルカ君……」


「俺は、君が好きだ」


 唐突な、そしてストレートすぎる告白。


 展望室の端で、セリアとアランがピクッと反応してこちらを見ているのがわかるが、ルカはそんな周囲の目など全く気にする様子はない。


「だからこそ対等でありたいんだ。教えを乞うだけの存在ではなく、君と並び立つ者として。勝って、少しでも君に追いつきたい」


 ルカはマリエルの手をそっと、しかし力強く握りしめた。


「俺は誇れる俺であり続けるために。君に愛してもらえるような立派な男であるために君に勝つ。……受けてくれるか」


 それは、ただの闘技祭の宣戦布告ではない。

 彼の、一人の男としての愛と誇りを懸けた挑戦状。


 マリエルは彼のそのあまりにも真っ直ぐで不器用な決意に、胸の奥が熱くなるのを感じた。

 純粋な己の実力で、好きな女に相応しい自分になろうと足掻く姿。

 それが、どれほど尊く美しいことか。


「え、あ、うん……わかった。受けて立つよ」


 マリエルは頬を赤く染めながらも、しっかりと頷き返す。


「よかった。決勝で会おう」


 ルカがパッと花が咲いたような満足げな笑顔を見せる。


 その二人の美しい決意の空気をアランが横から容赦なくぶち壊した。


「おいおいおい、ちょっと待ってくれよルカ。そりゃあ僕たち他の五天星が途中で負けるって言いたいのか?」


 アランが不満そうに口を挟む。


「素敵な愛の宣言ですけど、私も負けるつもりはなくてよ? 愛する婚約者の手前、無様な姿は見せられませんから。私が優勝させていただきます」


 リーズリットも扇子を広げて優雅に、しかし闘志を燃やして参戦する。


「私も負けるつもりはないからね! マリエルにもルカ君にも一発入れてやるんだから!」


 セリアも拳を握りしめてやる気満々だ。


「うーむ、こんなに熱い展開なのに、私が混ざれないのが本当に残念だなあ」


 クリストフがエキシビジョンマッチという自身の立場を嘆いて、悔しそうに唸る。


「混ざれない俺、本当に弱い……もう俺はダメだ……」


 部屋の隅で、ローランドがさらに深く膝を抱え込んでいじけている。


「そうか。皆も本気で来るというなら、それはそれで構わない。だが、全員倒して俺が勝つ。そしてマリエルに相応しい男になる」


 ルカは全く悪びれることなく、自信満々で言い放った。


「言ったなルカ! 僕の土魔法の真髄を見せてやる!」


「その減らず口、私の風で黙らせて差し上げますわ!」


「絶対勝つ!」


 アラン、リーズリット、セリアが一斉にルカに言い返して、展望室は一気に騒がしい闘志に包まれた。


 マリエルは、そんな賑やかな仲間たちを見て思わずクスリと笑みをこぼした。


 神界の静かで冷たい場所では決して得られなかった、この熱く騒がしくて、温かい繋がり。

 自分が何者であっても、この場所は確かに自分を受け入れてくれている。


(ルカ君に負けないように、私も本気を出さないとね)


 マリエルは決勝の舞台で彼と本気で魔法をぶつけ合う自分を想像し、静かに闘志の炎を燃やすのだった――。

ヒロインに挑むヒーローって溺愛として成立するんだろうかとも思いましたが

ルカ君は向上心と魔法使いとしての自負が高いので

対等を目指して格上のマリエルに勝負を挑むだろうなと思いながら書きました。


あと停学復帰後のローランドは地味にお気に入りです。

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