表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神界から追放されし少女は叫ぶ。絶対目にもの見せてやるからな!!  作者: 万年亀
第五章 学園祭

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

40/59

水精姫と五天星の扱い

 王都の魔法学園、貴族棟に設けられた第一サロン。

 シャンデリアの眩い光が、床に敷き詰められた分厚い絨毯と部屋の中央に置かれた重厚な円卓を照らし出している。


 本日の五天星の集まりは目前に迫った学園祭、そしてその目玉である『闘技祭』に向けた意思統一と情報共有の場となっていた。


 円卓の上座で、序列第一位のクリストフ・フォン・ロンヴェルが香り高い紅茶のカップをソーサーに置き、ふと空気を緩めるように笑みを浮かべた。


「確かに『闘技祭』は正式な場ではあるけどね。五天星の入れ替え制には該当しないんだよ」


 その言葉に、マリエルは少し意外そうな表情を見せた。


「該当しないんですか? 学園を挙げての実力勝負の場ですから序列を争うには絶好の機会だと思っていましたが」


「普通に考えれば、そう思うだろう」


 クリストフは微笑みながら解説を続ける。


「なにしろ様々な学年、様々な実力を持った選手が入り乱れるからな。例えば2回戦で五天星の誰かが名もなき平民の生徒に負けたとする。その勝者が次の3回戦で別の生徒に負けたら、その勝者が五天星になるのか、などというややこしい問題が起こるからね。一時的な勝敗でいちいち序列を考えていたら運営側が面倒で仕方ないんだ」


「なるほど……。確かにトーナメント形式だと誰が実質的な上位なのか、正確な順位付けが難しくなりますね」


 マリエルは深く納得し、頷いた。


「知っての通り五天星は『闘技祭』に強制参加だ。学生たちの目標であり、最大の障害として立ちはだかる義務がある」


 クリストフの声音が少しだけ真面目な色を帯びた。


「だが過去には『万が一、格下に負けて入れ替えが起こるリスクがあるなら出場を拒否する』と主張して強硬に出場を辞退した五天星の連中がいてね。学園側も生徒の自主性を重んじる手前、無理やり引きずり出すわけにもいかず……」


「うわあ」


「色々面倒が多いから、いっそ『闘技祭』においては入れ替え制が適用されない措置になったんだ。在籍期間が短いローランドがそんな裏事情を知らないのも無理はない」


「……あの男、意気揚々とリベンジを宣言していましたが勝っても五天星には戻れないんですね」


 マリエルは先日の廊下でのローランドの執念に燃えた顔を思い出し、少しだけ憐れむような気持ちになった。

 ちょっと可哀そうかもしれない。


「まあ入れ替えが起こらないとはいえ、序盤で名もなき生徒にあっさりと敗退すれば、それはそれで五天星の名折れだ。学園の顔として、ある程度の威厳は保ってもらわなければ困る」


 クリストフは円卓の上で手を重ね、口元を隠しながら発言を続ける。


「その場合は実力不足と見なされて、別の者に席を譲るよう指定せざるを得なくなるだろう。まあ君なら心配ないと思うけどね、マリエル嬢」


「まあ、負けるつもりはありませんが……」


 マリエルは曖昧な返事をしつつ、ふと気になったことを尋ねた。


「そういえばクリストフ殿下も出場するんですよね? 第一位として、やはりシード枠のようなものからスタートするんですか?」


 その問いに対し、クリストフは少しだけバツが悪そうに視線を泳がせた。


「出場する、と言っていいのか……。実は私は予選や本戦のトーナメントには参加しないんだ。優勝者とのエキシビジョンマッチに回されることになっている」


「エキシビジョンマッチ? 大会の最後に行われる勝敗のつかない見世物試合みたいなあれですか?」


「そう。ほら、私ってば一応この国の王族だろう? しかも五天星の第一位だ。そんな私が、もし普通に出場して予選や本戦の途中で名もなき生徒にあっさり負けてしまったら、王家の面目が丸潰れになって面白くないからね。王室の威厳を守るための、いわば安全策さ」


「あー……」


 マリエルは思わず声に出して納得してしまった。


 その裏事情は容易に想像がつく。

 皆の規範たる王族が公衆の面前であっさり土にまみれる姿など、国家の体面として許されるはずがない。


「最後に勝ち残った勝者相手なら勝っても負けても面目は保てるという話だが……私としては、皆と一緒に泥にまみれて頂点を競い合いたいんだがね……」


 クリストフは紅茶のカップを見つめながら、少し寂しそうに息を吐き出した。


「こういう時、王族という身分は本当に窮屈なものだと思うよ。本気でのぶつかり合いを許されない立場だから」


「そういうのも王族の務めのひとつでしょう。大衆の憧れであり続けること。理不尽な制約も飲み込んでくださいな」


 同じく円卓に座る序列第四位『旋風姫』リーズリットが、羽扇子で口元を隠しながらピシャリと言い放つ。


「理解しているよ、リーズリット嬢。愚痴をこぼしてすまなかったね」


 クリストフはすぐにいつもの爽やかな笑顔を取り戻し、話題を切り替えた。


「ところで……」


 彼の視線が円卓の向かい側に座るマリエルと、その隣に座るルカへと向けられる。

 その瞳には楽しげな好奇心が見える。


「いつから、君とルカは相思相愛になったんだい?」


「なっ……!?」


「えっ!?」


 突如として放たれたストレートな質問にマリエルとルカは同時に声を上げ、顔を真っ赤に染め上げた。


 クリストフの指摘は無理もない。

 元々マリエルとルカの席は、円卓の席順で隣同士ではあった。


 しかし、以前は適度な距離を保っていたはずの二人が、今日の集まりでは制服の肩が触れ合うほどに密着して座っているのだ。


 しかもルカの視線はマリエルの横顔を熱っぽく追いかけ、事あるごとに彼女の世話を焼こうと距離を詰めようとしている。

 ここまで露骨であれば誰でもわかるだろう。


「ま、まあ……その、ごく最近、でしょうか……」


 マリエルは恥ずかしさのあまり消え入りそうな声で、視線を泳がせながら答えた。

 否定する言葉は見つからず、事実を認めるしかない。


 その言葉を聞いた瞬間。

 ルカは嬉しさを隠しきれない様子で、スッとマリエルの肩を自分の方へと引き寄せようと右手を伸ばした。


 パシッ。


 だが、マリエルは顔を赤くしたままルカの手の甲を軽く叩いて制止した。

 人前で、しかも五天星の集まりという公式な場でイチャイチャするのは流石に恥ずかしすぎる。


 ルカは、まるで飼い主に叱られた大型犬のようなしょんぼりとした顔で、すごすごと手を下ろす。


 その一連のやり取りを円卓の向こう側から見ていたリーズリットが目をキラキラと輝かせ、熱っぽい声を上げる。


「いいわあ……! 熱愛だわあ……! クールな天才魔術師が可憐な少女にメロメロになっているなんて……。まるで私の愛読しているロマンス小説から抜け出てきたみたい!」


 リーズリットは両手を頬に当て、うっとりとした表情で二人を見つめている。

 彼女のロマンス愛好家としての血が激しく騒いでいるようだ。


「リーズリットさんは……確か、ご実家で決められた婚約者がいるんでしたっけ」


「ええ。とっても素敵な彼なのよ? 頭が良くて優しくて。私、彼の婚約者でよかったと心から思っているわ」


 リーズリットは誇らしげに微笑む。


「でもね。生まれた時からの婚約者だから、あなたたちのように偶然出会って互いの才能を認め合い、困難を乗り越えて絆を深めていく……という物語のような劇的な恋愛も、やっぱり憧れるわね!」


「生まれた時から結ばれることが決まっている、というのも、それはそれで確かな絆があって素敵だと思いますけどね」


 ルカがマリエルの方をチラリと見ながら、ポツリと呟く。

 彼の言葉には「俺も、もっと早く彼女に出会って運命を確約されていたかった」というような独占欲があった。


「そうね! 本当にそう思うわ! どちらの恋愛の形も素晴らしいものよ!」


「ルカも言うようになったなあ。昔は魔法の研究以外、何も興味がなさそうだったのに」


 アランがルカの顔を覗き込みながら、からかうように言う。


「うるさい。人の心は変わるものだ」


「ところでマリエル嬢。学園祭のクラブ発表の方は順調に進んでいるかな? 『魔王研究会』の発表は、確か『闘技祭』のトーナメントの後、学園祭の終盤のスケジュールだったはずだが」


 クリストフが再びサロンの空気を引き締めるように、話題を本来の目的へと戻した。


「うーん、あまり進捗は良くないですね。新設して間もないクラブですし、魔王に関する有益な資料も充分に集まっていませんから。今回はごく普通に既存の歴史資料をまとめて発表という形になりそうです」


 彼女の最大の切り札である神界との通信機『天声の雫』。


 それを修復するために辺境の鍛冶屋のバーバラに託してあるのだが、彼女によれば「学園祭の最中に、なんとかギリギリで届くかもしれない」という際どいスケジュールになっている。


 もし通信機が間に合わなければ神界の真実に迫るような、物凄い発表など到底できそうにない。

 クリストフの期待を裏切るようで心苦しいが、こればかりは現状どうしようもないのだ。


「ふむ、無難だな。流石の才女もこの短期間で驚くべき成果は出せないか」


「ご期待に添えないようで、申し訳ないです」


 マリエルが小さく頭を下げる。


「いや、気にしないでくれ。君が極めて優秀な魔術師であり、真摯に研究に向き合っているというのはよくわかっているからね。今回はクラブの顔見せ程度に思っておけばいいさ」


 クリストフは爽やかな笑顔でマリエルを労う。


「では、皆。『闘技祭』までしっかりと英気を養ってくれたまえ。五天星といえども全員が一般の生徒に混じって予選から開始だ。五天星が予選落ちなどという不名誉な事態にはならないように、気を引き締めて臨むように」


 クリストフの言葉にサロンの空気が、ピリッと引き締まる。


 それぞれが強い闘志を胸に秘め、力強く頷いた。


 こうして学園祭に向けた五天星の集まりは静かな熱気を帯びて、解散の運びとなったのである。



 ◆◆◆◆



 木造の古い部室棟の一角、『魔王研究会』の部室にて。


 窓の外はすっかり暗くなりはじめ、魔力灯の光が長机に散乱する資料を明るく照らし出していた。


「予選かー」


 セリアが発表用の資料をまとめる手を止め、天井を仰ぎながら、大きな声で呟いた。


「どうしたの、セリア。ため息なんてついて」


 マリエルが古い歴史書のページをめくりながら、不思議そうに尋ねる。


「だってさ、闘技祭って全員が予選からスタートなんでしょ? 五天星も一般の生徒もごちゃ混ぜで。……私みたいな平民の生徒がいきなり強敵と当たったらどうしようかと思って」


 セリアの言葉にマリエルも手を止め、少し考え込む。


「私も予選で他の五天星の先輩たちとはぶつかりたくはないなあ。アランさんの土魔法やリーズリットさんの風魔法、それにクリストフ殿下……あ、殿下はエキシビジョンか。でも強敵が多いのは間違いないし」


「それは問題ないだろう」


 ルカが自身のノートに資料内容を書き込みながら、冷静な声で口を挟んだ。


「五天星同士の戦いは『闘技祭』における最大の目玉だ。観客もそれを一番楽しみにしている。運営側がその目玉を予選の段階で消化してしまうようなもったいない真似はしないと思うぞ」


「確かに……。観客を盛り上げるためには、強い奴らは最後まで残しておきたいもんね」


 マリエルが、納得したように頷く。


「おそらく五天星同士は予選ごとのブロックは明確に分かれ、トーナメントの後半、準決勝や決勝あたりまで当たらないように裏で調整されるはずだ。俺とマリエルが序盤で当たることも、まずないと考えていい」


「そっか、ちょっと安心したよ。ルカ君といきなり潰し合いになるのは流石に気が引けるしね」


 ルカとマリエルは互いに顔を見合わせて笑う。


 その和やかな二人のやり取りを見ていたセリアが、ふと嫌な予感に気づき、顔を引きつらせた。


「……あれ? ちょっと待って。五天星じゃない私はそういう裏の調整の対象外ってことだよね? ってことは私が序盤でマリエルやルカ君、アラン先輩みたいな化け物クラスといきなり当たる可能性があるってこと?」


 セリアの言葉に部室に一瞬の沈黙が落ちた。


「まあ、そうだね……。無作為の抽選なら確率的にはあり得る話だね」


「その場合は恨みっこなしだ。もし当たったとしても手加減は無しだぞ、セリア嬢。俺も全力で君を倒しにいく」


 マリエルとルカが真剣な顔でセリアの嫌な予感を肯定した。


「嫌だぁ……。そんなの絶対に嫌だぁ……」


 セリアは机の上に突っ伏し、両手で頭を抱えて情けない声で呻いた。


 机に突っ伏して泣き言を漏らすセリアの姿を見て、マリエルとルカは楽しそうに笑い合う。


 魔王の謎。

 神界との通信。

 そして目前に迫る『闘技祭』の激闘。


 それぞれの思惑と期待、そして少しの不安を胸に抱きながら。

 魔法学園の生徒たちは祭りの熱狂へと向かって着実に準備を進めていく。


 そして時は経ち。

 王都の魔法学園を熱狂の渦に巻き込む年に一度の最大のイベント。

『学園祭』が、ついにその幕を開けるのであった――。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ