表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『転生悪役令嬢、異世界ゴルフでホールインワン!』 〜マナーとスイングで世界を変える〜  作者: 南蛇井


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

24/31

第24話『謎の19番ホールへ』

コーデリアの放った“神の一打”は、まるで空そのものが祝福したかのような軌跡を描き、静かにグリーンへと落ちた。

観客席から歓声が爆発し、実況席が「入る、入るぞ――!」と声を張り上げる。


――コロン、コロン……。


白いボールは、確かな意思を持つかのようにカップへと近づく。

カップの縁に触れた、その瞬間。


芝が……揺れた。


風も吹いていないのに、グリーン全体がゆらりと波打ち、中心に黒い裂け目が走る。

裂け目の奥から、紫がかった光が漏れ、低く唸るような音が会場を包み込んだ。

観客のざわめきが一瞬で消え、代わりに息を呑む気配だけが広がる。


「な、なんだあれ……!?」

「魔法妨害か!? 反則だろ!」

実況の声もわずかに震えていた。


ボールは、その光に引き寄せられるようにゆっくりと浮き上がり――次の瞬間、吸い込まれるように裂け目の奥へ消え去った。


グリーンに残されたのは、微かな紫の残光と、理解不能な沈黙だけだった。


紫の残光がまだグリーンに漂う中、主審団は慌ただしく笛を鳴らし、試合の一時中断を宣言した。

背後ではI.G.A.本部との魔導通信が開かれ、審判長が低い声で状況を報告している。


「……カップの構造異常? いや、あれは自然現象ではない……」

「ボールは物理的に回収不能。判定……? 判定不能、だと……?」


数分後、審判長がマイクを握り、会場全体に向かって厳かに告げた。


「――本試合は、I.G.A.史上初の『決着保留』とする!」


瞬間、観客席がざわめきに包まれる。

「勝者なし?」「そんなことあり得るのか!?」

選手たちも言葉を失い、ただ茫然と立ち尽くした。


その中で、コーデリアだけが裂け目の消えたグリーンを見つめていた。

唇をきつく噛み、拳を握りしめる。


「……あのボール、まだ終わってない」


誰に向けたわけでもない、かすかな呟き。

だが、その声は隣にいた仲間の胸をも、妙な緊張で締め付けた。

控室は、さっきまでの決勝戦の熱気が嘘のように沈黙に包まれていた。

各チームの選手が口々に憶測を飛ばし、スタッフが慌ただしく動き回る中、帝国選手が低い声で切り出す。


「……あれは自然現象じゃない。意図的に作られた“別のコース”だ」


その言葉に、室内のざわめきが一瞬だけ止まる。

コーデリアは一拍の間も置かず、椅子から立ち上がった。


「――なら行くしかない」


彼女の声は、迷いの欠片もなかった。


獣人の豪腕プレイヤーとドワーフの技巧派、そして帝国選手。

さらには、ふわりと宙を舞いながら「面白そうじゃん!」と笑う精霊までもが、「同行する」と名乗りを上げる。


「待て、危険すぎる!」と仲間の一人が腕を掴む。

だがコーデリアは軽く笑って、ゆっくりとその手を外した。


「ゴルフはね――最後の一打まであきらめないんだよ」


その瞬間、誰もが彼女の背に、先ほどグリーンで放った“神の一打”の気配を感じた


フィールドスタッフの制止の声が飛ぶ。

「危ない! 何があるか分からないぞ!」

だがコーデリアたちは振り返らなかった。残留する紫がかった光の裂け目が、今にも閉じようとしている――それだけが彼女の全神経を突き動かしていた。


靴底が芝を蹴り、風を切る音が耳に刺さる。

光の縁に飛び込んだ瞬間、まるで水面を突破するような抵抗が全身を包み、次いで、耳鳴りとともに重力がふっと消える。

浮遊感に内臓がひっくり返り、視界はぐるりと反転。


――そして。


足が硬い地を捉えた瞬間、コーデリアは息を呑む。

そこは曇天の下、無音のゴルフコース。

灰色に沈んだ空は、地平線と境を失い、どこまでも続く濃淡の影だけが世界を形作っている。

湿った空気が肌に張り付き、呼吸のたびに胸の奥が重くなる。


「……ここが、“別のコース”?」

背後で精霊が、いつになく小さな声を漏らした。


帝国選手の足が止まり、鋭い視線がコースの奥へと向けられる。

「……ありえない。伝承でしか聞いたことがない、“幻の十九番ホール”だ」


その言葉に、コーデリアは瞬きも忘れる。

幻の十九番ホール――それはI.G.A.創設よりも前、古代の競技者たちが作りかけて放棄した、未完成のコース。危険すぎる構造ゆえ封印されたとされ、今まで誰も実在を確認できなかった場所だ。


だが、目の前の光景は紛れもなく現実。

フェアウェイは波のようにうねり、芝の緑は灰に染まり、カップの位置はまるで重力が迷子になったように傾いている。

旗は、風など吹いていないのに――ゆらり、と不気味に揺れていた。


「……ここ、誰かが見てる」

精霊が、いつもの快活さを失った声で囁く。


コーデリアは無意識にクラブを握り直す。

視線の先、灰色の空の奥で、確かに“何か”が待っている――そう、直感が告げていた。



――ザリッ。


曇天の下、音はひどく鮮明に響いた。

遠く、木立の影。そこから、何者かがゆっくりと歩み出てくる。


ザリ…ザリ…

砂利を踏むような足音が、湿った空気を切り裂くように近づいてくる。

一歩ごとに、胸の奥の緊張が高まり、耳鳴りすら混じる。


コーデリアは呼吸を整え、クラブを構えた。

獣人は低く唸り、ドワーフは拳を固め、帝国選手は視線を細める。

誰も言葉を発さない。ただ、その“影”を見据える。


影は止まらない。

カメラ――いや、読者の視点が、じわじわとその姿に寄っていく。

あと数歩で、相手の顔が見える。


――暗転。


黒い画面に、静かに浮かび上がる文字。


To be continued…








評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ