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『転生悪役令嬢、異世界ゴルフでホールインワン!』 〜マナーとスイングで世界を変える〜  作者: 南蛇井


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23/31

第23話『決勝戦・神の一打』

――オープニング:決勝の舞台


 朝靄を切り裂く鐘の音が、大空を震わせた。

 決勝コース《エターナル・スカイリンクス》――。雲海の上、大小無数の浮島を縫うように伸びるフェアウェイは、まるで空の迷宮だ。足を踏み外せば奈落、しかしその先には勝者だけが辿り着ける栄光が待つ。


 第一ホールの先には、嵐のような強風ゾーン。

 その向こうに待ち構えるのは、稲妻が走る雷雲ホール。

 さらに湖面反射ショットでしか攻められない水鏡の島、重力が上下逆転する狂気のエリア……。

 まさに全ラウンドの悪夢と試練を、一つのコースに詰め込んだ“総力戦仕様”だ。


「さあ、諸君! これまでの戦いすべてを制した者だけが、このコースを征する!」

 司会の絶叫は、雷鳴のように観客席を揺らす。スタンドからは魔法の閃光と旗が波のように翻り、空中の風まで震わせていた。


 コーデリアは仲間たちを集め、静かに円陣を組む。

 その瞳には嵐よりも鋭い光が宿っていた。

「――絶対、勝って終わる」

 短く、それでいて全員の胸に火を点ける言葉。


 仲間たちは頷き、拳を中央に重ねる。

 この空の上での決戦が、ついに幕を開けた――。


総力戦の幕開け

 スタートホールに足を踏み入れた瞬間、全員の頬を叩く烈風が唸りを上げた。

 雲を割るように稲妻が走り、フェアウェイの先を白く染め上げる。


(これは……嵐ラウンドと同じ。いや、それ以上だ)

 コーデリアはわずかに目を細め、耳を澄ます。風の切れ目、雷鳴の間隔――かつてリュミエールが教えてくれた“間”を、今度は自分の感覚で読み取る。


「今だ!」

 放たれた一打は、強風の渦をするりと抜け、稲光のすぐ横をかすめてフェアウェイ中央へ着地。観客席から安堵と歓声が混ざった声が湧き起こる。


 第2ホールでは、獣人とドワーフのペアが豪快すぎる連携を披露。

「見ろよ! 俺のドライバーがなきゃ届かなかっただろ!」

「はっ、俺のアプローチがなきゃ意味ねぇよ!」

 笑いながらの言い合いの直後、彼らは信じられない精度でバーディを決め、観客は総立ちに。

「これがチームの総力だ!」――実況の声が雷鳴よりも響いた。


 続く中盤、湖面反射ショットを応用したホールに挑むと、打球が水鏡を弾き、虹のような軌跡を描く。

「おおっ、芸術的だ!」

 突如、湖のほとりに浮かぶ水精霊が両手を広げ、カットインのように絶賛。ギャラリーは爆笑し、一瞬だけ張り詰めていた空気がふわりと緩んだ。


 だが――笑顔の裏で、決勝戦の本当の牙はまだ隠されたままだった。


総力戦の幕開け

 決勝の第1ホールに立った瞬間、コーデリアの髪を強烈な突風がはためかせた。

 空を裂くような稲光が、コースの奥を一瞬だけ昼のように照らす。


(この風の切れ目……雷鳴までの間隔……嵐ラウンドで覚えた感覚と同じ)

 息を整え、足場を固める。観客席のざわめきも、頭上の轟音も、今は遠くに霞んでいく。


「――今!」

 インパクトと同時に、ボールは突風を避けるような軌道を描き、雷雲の脇をすり抜けてフェアウェイ中央へ。

 ギャラリーから大きな歓声と拍手が沸き上がる。


 第2ホールでは、獣人とドワーフのペアが早くも魅せていた。

「見たか! これが俺のパワードライブだ!」

「ふん、オレの精密アプローチがなきゃ意味ねえだろ!」

 口では小競り合いをしながらも、呼吸の合った二打で見事バーディを奪取。実況が「これぞチームの総力!」と叫ぶと、スタンドは地響きのように揺れた。


 そして中盤、湖面反射ショットの応用ホール。

 コーデリアが放った一打は、水面をかすめて跳ね、虹の弧を描きながらグリーンへ。

「おおっ、芸術的だ!」

 突然、湖からひょいと顔を出した水精霊が拍手しながら絶賛。

 あまりの唐突さにギャラリーは大爆笑、張りつめていた空気が一瞬だけ和らいだ。


 だが、その笑顔の裏で――空中コースの本当の牙は、まだ潜んでいた。

敵チームの猛攻

 雲間から差し込む光が、一瞬だけ帝国主将のシルエットを際立たせた。

 次の瞬間――放たれたボールは、薄く魔力をまとい、空中の乱気流をまるで計算し尽くしたかのようにすり抜けていく。

「また入れた……っ!」

 実況の声が震え、スコアボードがじわりとこちらとの差を縮めた。


 コーデリアたちも負けじと応戦するが、どのホールも一進一退。わずかなミスが命取りになる緊張感に、背中を伝う汗が冷たい。


 そして、事件は起きた。

 第7ホール、コーデリアの番。振り抜いた瞬間、コース全体を包む風向きが突如として逆転。

「しまっ――!」

 ボールは狙いを大きく外れ、遠くの浮島のラフに沈んでしまった。観客席がざわめき、胸の奥で焦りが膨らむ。


 そのときだ。

「次は任せろ」

 すぐ横でクラブを握った帝国選手――準決勝でペアを組んだ、あの皮肉屋が静かに言った。

 視線が交わる。短い言葉の奥に、奇妙な信頼が宿っていた。


 彼の一打は、ラフからまるで糸で引いたようにボールをグリーンへと運び、観客が一斉に立ち上がる。

 チームの輪が、ほんの一瞬で固く結び直された気がした。


(……まだ勝負は終わってない)

 コーデリアは深く息を吸い、再び前を見据えた。



最終ホール突入

 決勝の最終ホール、その名も――「空と大地の狭間」。

 目の前に広がるのは、青空に漂うわずか数十メートル四方の浮遊島。その中央にぽつんと置かれたグリーンは、まるで天空の玉座のように孤高の輝きを放っている。


 周囲は底知れぬ風の断崖。吹き上げる上昇気流と、突き落とす下降気流が入り乱れ、足場に立つだけで平衡感覚を奪ってくる。さらに空からは時おり光の柱が降り注ぎ、魔力の粒子が視界を揺らす。

 ただ立っているだけで、ここが“試すための舞台”であることを思い知らされる。


「……あれが、最後の戦場」

 コーデリアはクラブを握りしめた。汗で手のひらが滑りそうになるのを、強く握って押さえ込む。


 カップまでの距離は長い。しかもフェアウェイは緩やかに波打ち、途中に小さなクレーターや魔力の渦がいくつも潜む。普通の計算では到底、軌道が読めない。


 そして、スコアは――完全に同点。

 最後の一打、それもパット一つで優勝が決まる。観客席は静まり返り、無数の視線が一点に注がれていた。


(外せば終わり……でも、入れれば――)

 コーデリアは深く息を吸い込み、視線をボールとカップの間に固定した。

 この一打が、すべてを決める。



――カラン。

 ボールがカップに沈む澄んだ音と同時に、勝利の鐘が天空に響き渡った。


 次の瞬間、観客席が爆発したかのような歓声に包まれる。仲間たちは飛びつくように抱き合い、笑顔と涙を混ぜながら勝利の喜びを分かち合った。

 準決勝で肩を並べた帝国選手は、遠くから小さく片手を挙げてみせる。それに応えるように、帝国主将も静かに帽子を取って礼をした。

 言葉はなくとも、その仕草に込められた敬意ははっきりと伝わる。


 コーデリアは一歩後ろに下がり、空を仰いだ。

 深い青の中に、さっきまで戦っていた浮遊島の影が小さく漂っている。胸の奥に熱いものが込み上げ、視界がじわりと滲んだ。


「……この空で、またゴルフができるんだ」

 ぽつりとこぼれた言葉は、風に溶けて消えた。けれど、仲間たちの笑い声と鐘の音が、確かに彼女を包み込む。







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